第7章-1 多くの上司が孤独を抱えている
IT企業に勤めるKさんは、20人の部下を従え、奮闘する毎日です。部下がまだ5人、10人の頃は、皆の意見がよくまとまり苦労を感じることはなかったそうです。
ここ数年の景気回復で部下が急に増えてからは、だんだんと会議が混乱することが多くなり、強いストレスを感じるようになりました。そして、多くの部下に囲まれているにも関わらず、ときどき、なんともいえない「孤独感」に襲われると言います。
『人生論ノート』(三木清 新潮社)
ひとりで生まれひとりで死んでいく私たちは、そもそも「孤独」な存在です。上司が孤独なのではなく、多くの人に囲まれるような存在になったからこそ、孤独感が明瞭になるのです。
たとえば、主任、課長、マネジャーなど肩書きがついてくると、部下たちとは一線を画した独立した存在になります。
独立した人間には、孤独を背負う責務があります。
なぜなら、上司は、多くの人の反対を押し切って独断することをときに強いられるからです。
それは、部下の意見に耳を傾けないということではなく、部下を大切にしていないということでもなく、厳しいビジネスの現場で仕事を遂行し目標を達成するために要請される決断力です。
当初は鋭利な企画だったのに、船頭の数が増えていくにつれ、削られ、丸められ、ひきちぎられ、その結果、何ら面白みのないどこにでもあるようなプランに朽ち果てる悲劇あるいは喜劇を経験している人も多いと思います。
企画とは「企(くわだ)てを画く」ことであり、誰からも拍手される企ては、企画ではなく「計画」です。「企」とは「企(たくら)み」とも読みますが、その言葉にはどこか秘密めいた、多くの人には知らせるべきではない「微量の悪」が含まれていることを感じさせます。
だから、上司であるあなたが「これでいこう」と決断したのならば、その内なる声に従い、独善と言われようとも独歩していく意志力が求められます。
それは、孤立ではなく孤高の精神を貫く尊い行いです。
孤立からは、「寂しさ」が生まれますが、孤独からは「独創」が生まれます。独創的な決断をしているからこそ孤独感が生まれ、独創を求められている時期だからこそ孤独感が募るのです。
部下の数が増えれば、それだけ多くの視線があなたに降り注がれます。あなたは舞台にたち、日々、部下から照明をあてられているような状態になっています。
舞台にあがった経験があればおわかりのように、照明の光で目が眩み、客席はほとんど見えなくなります。演劇役者であれば、それで構いません。ただ、あなたが客席にいる人たち、つまり部下の存在が見えなくなっているようでは、マネジメントはできなくなります。
光が強ければ、闇を必要とします。その精神的な闇が孤独感であり、それは悪いものどころかむしろ健全な感覚といえます。
人々に囲まれているからこそ感じる孤独感への処方箋は、「自ら進んで孤独になること」というパラドックスが存在します。
忙しさで鈍くなった感受性をリフレッシュし、他人が支えてくれていることの「ありがたさ」をもう一度鋭く感じることができれば、孤独感は、自然とやわらいでいきます。
これこそが、孤独の力であり、孤独の効用です。
『論語』(金谷 治訳注 岩波書店)
「鄰」とは「親しい仲間」のこと。
孤独を通して身につけた「徳」は、決してあなたを孤立させることはなく、あなたを慕う仲間をひき寄せてくることになります。
(著:松山 淳)
2. 私は、孤独とうまくつきあっているだろうか。
3. 私は、上司に孤独はつきものであるという覚悟ができているだろうか。