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行動力を高める考え方〈森田療法の目的本位〉

森田療法の目的本位で行動力を高める!

行動力を高める「目的本位」とは?

 「森田療法」の講演に足を運んだことがあります。

  森田療法とは、精神科医「森田正馬」(もりたまさたけ)(1874~1938)によって創始された日本を代表する心理療法です。講演では、某病院に勤務する精神科医の先生が、患者の汚物を嫌がる看護師について話をしていました。

患者の汚物を嫌がる看護師へのアドバイス

森田療法の講演

「看護師というのは、非常に大変です。病などで寝たきりになった人の汚物も処理しなくてはなりません。以前ですと、汚物の処理を嫌がるナースに対しては、『嫌がってはいけませんよ、それも立派な仕事の内なんですから』と、そんな指導がなされがちでした。

 ですが、『嫌だな〜』と思う気持ちは、なかなか消せるものではありません。すると、そう思うことがいけないと罪悪感を感じてしまい、心が疲れてしまうのです。

 そこで、最近は、少し変わってきていまして、汚物を嫌がるという気持ちは、普通の人間であれば誰もが感じることです。だから、『嫌だなという気持ちはそのままにしていいんです、と。

 『嫌だな』よりも「大事なことには何か?」。そこに意識を向けましょうと…。大事なことは、一日も早く病気で苦しんでいる人を助けることですね。

 そんな風に自分の気持ち、つまりは、汚物が「嫌だな〜」と思う気持ち、それは自然な心なので、受け入れて、仕事に励みましょう。行動を優先させましょう。そんな指導に変わってきているのです。」

 先生のお話は、森田療法の「目的本位の行動」に関することです。

目的本位の行動とは

 何かの行動をする時に、「気分」「感情」は「あるがまま」にしておいて、「気分」「感情」ではなく「目的」に焦点をあて行動していくこと。

 「目的本位の行動」のポイントは2つあり、黄色い線を引いた箇所がそれです。

行動力を高める目的本位 2つのポイント

  1. 気分はあるがままに:「嫌だな〜」という「感情」「気分」を否定せず、自然のまま「あるがまま」に任せておく。
  2. 「目的/目標」を意識して行動:自分が取り組むことの「目的/目標」に焦点をあて、行動することをより意識する

❶ .気分は「あるがまま」でOK

 看護師が患者さんの汚物を「嫌だな〜」と思うことは、人として普通の感情です。看護師だから「嫌だな〜」と思っていけないわけではありません。だから、他の人と比べることもありません。

看護師Aさん
看護師Aさん

他の看護師さんは「嫌だな〜」という素振りひとつ見せずにやっているんです。でも、私はできないんです。だから、私は、ダメな看護師なんです。

 看護師Aさんの言っていることは、一見、正しいようです。でも、論理的に考えると、短絡的だとがわかります。なぜなら、看護師としてダメか否かは、汚物を処理する時の感情だけで判断するものではないからです。

 看護師Aさんは論理療法でいう「過度の一般化」(Overgeneralization)をしています。

「過度の一般化」(Overgeneralization)

 「過度の一般化」とは、「部分」を根拠にして「全体」を否定するような「歪んだ思考」のこと。

「友達が朝、挨拶してくれなかった。僕は絶対に嫌われているんだ。」

 このように些細な事実を取り上げて、否定的な結論を出し、それを思い込む。これが「過度の一般化」です。「過度の一般化」は、人間なら誰だってあることです。でも、嫌われているかどうかは、友達本人に確認してみないとわかりませんね。

まっつん
まっつん

 挨拶しなかったのは、友達にも何か理由があったのかもしれません。「朝からお腹が痛くて具合が悪かった」とか、「家庭のことで悩み事を抱えていて落ち込んでいたと」とか、もしかしたら「ただ気づかなかっただけ」かもしれません。そうした可能性を考えず、「嫌われているんだ」と、すぐに思い込んでしまうことは、よく考えると論理的ではない考え方です。ですので、「過度の一般化」は、「認知のゆがみ」になるのです。

「汚物処理の時、嫌だなと感じてしまう。私は看護師、失格だ」

 これも「認知のゆがみ」です。この「認知のゆがみ」を強めてしまうのが、「気分」や「感情」です。「嫌だな〜」という否定的な感情にとらわれていることが、論理的な思考の足かせになるのです。

「汚物処理の時、嫌だなと感じてしまうけど、私は看護師として、もっと成長していきたい」

 そう考えることもできますよね。この考え方は、「気分」「感情」を「あるがまま」にしています。

 「あるがまま」とは、「嫌だな〜」と感じることを否定しません。また、「もっと、よい感情を持ったほうがいい」と諭しもしません。 「汚物処理の時もポジティブ思考でいこう!」なんていったら、なんか無理があります。

 「嫌だな〜」という気持ちを、そのまま、あるがまま。それでいいのです。

 そして、自分の「やるべきこと」「すべきこと」に意識を集中していくのです。これが、ふたつ目のポイント「目的/目標を意識する」であり、行動力を身につけていく考え方でもあります。

❷.「目的/目標」を意識して行動

 看護師さんの目の前に患者さんがいます。汚物処理をするのが仕事の「目標」で、患者さんの身体を清潔にすることが「目的」です。どんな感情を抱くにせよ、汚物処理という仕事にとりかかり、終えるのです。

 だから、大切なことは、次のことです。

 「どんな感情を抱くか」ではなく「どんな行動をとる」か。

「目的本位」と「感情本位」

 自分が取り組む仕事の「目的」「目標」に焦点を合わせて、「行動するコト」に意識の重点を置くのが「目的本位の行動」です。

 反対に、自分の「気分」「感情」にとらわれて、行動の「量」と「質」に悪影響を及ぼすのが「感情本位の行動」です。

 「感情本位」だと、「感情」を無意識に重視し過ぎてしまいます。自分が「どう感じているか」にとらわれ、それを行動する時の判断軸にしてしまうのです。

看護師Aさん
看護師Aさん

 どうしても「嫌だな〜」と感じてしまうんです。だから、汚物処理もうまくできないし、看護師失格なんです。

 これが「感情本位」です。 「うまくできない」ことを感情のせいにしています。「嫌だな〜」と思っていても、手を動かすことはできます。スキルは、繰り返し取り組むことで高まるものであり、ある線までは「行動量」が決めるものです。上手にできるかできないかは、やってみなければわかりません。

 上手にできない理由を「感情」のせいにすると、よりよい感情をもつまで、できないことになってしまいます。これでは「感情」にとらわれ続けることになり、行動力は高まりません。

 だから、「感情本位」から「目的本位」に意識を切りかえるのです。自分が取り組む仕事の「目的」「目標」に焦点をあてて、感情にとらわれずに、どんな感情をもってもいいと、「あるがまま」に行動していくのです。


「目的本位」になれば「行動力」は高まる。

 「感情本位」になって、感情にとらわれ、行動力が落ちるのは、誰にでもあることです。看護師だけでなく、社長にも、部長にも、課長にも、営業マンにも、エンジアにも学校の先生にも…、ありとあらゆる人に起きうることです。

 リーダーだと、「部下をどうしても好きになれない」「あの部下のことを考えるだけで気分が悪くなる」と、悩んでいる人は多くいます。どんな一流企業で働いているリーダーでも、部下のことで悩みはつきないものです。

 この悩みを森田療法の考え方で対処しようとするなら、そのネガティブな気持ちも「そのまま、あるがまま」で行動しようと考えるのです。

 「部下をどうしても好きになれない」
 「あの部下のことを考えるだけで気分が悪くなる」

 これは、誰にでも起きることです。だから、「そのまま、あるがまま」でいいのです。リーダーだからといって、相性の合わない部下を好きになる必要はありません。「好きになれない自分」「気分が悪くなる自分」を否定しないのです。

まっつん
まっつん

 私が相談を受けてお話しすると、「私は上司ですから、部下にネガティブな感情をもってはいけないんです」「リーダーは人格が高くないと…だから、人を嫌ってはいけないんです」と、そんな風に強く思い込んでいることが、とても多いんですね。もちろん、そうできればいいです。でも、上司だって人間なんですから、部下を嫌いになることはありますし、それは、日本全国、至るところの会社で起きている日常茶飯事です。

 だから、「嫌い」「気分が悪くなる」という感情は「そのまま、あるがまま」にしておいて、「感情本位」ではなく、感情にとらわれず、今、自分の取り組むべき仕事の「目的」「目標」に焦点をあて「行動するコト」を、日々、意識していくのです。そうすることで「行動力」が磨かれていくのです。

 森田療法の実践家として著名な精神科医大原健士郎先生は、著書『心が強くなるクスリ―自信を生む「森田式健康法」』(三笠書房)の中で、こう書いています。

精神科医大原健士郎の言葉

『気分(症状)を「あるがまま」に受け入れ、逃げずに、抗わずに、目的本位、行動本位の人生を送るように心掛けねばならない。頭だけで理解するのはなく、行動を通して身体全体で理解する姿勢が大切である。治すのは自分である。そして、やるしかないのである。」

『心が強くなるクスリ―自信を生む「森田式健康法」』(大原健士郎 三笠書房)

 人の感情はとても大切です。感情は人間の「生きる力」です。

 ですから、ここまでお話ししてきたことは、「感情」を否定するお話しではありません。感情にとらわれること(感情本位)で「悩み」が生まれているなら、「感情よりも行動することにより意識を向けていくといい」というお話しです。

 感情本位ではなく目的本位になれば、自然と行動力も高まっていきます。

 「目的本位」になろうとする時、自分にかけるとよい言葉があります。、皆さんがよく知っているナイキの企業スローガンです。大原先生が、最後に「やるしかないのである」と書いていましたね。それを意味する言葉です。

 Just do it.(行動あるのみ)

 感情にとらわれ、気分が落ち込んだり、気持ちががさついて、やるべきことがうまくいかない時、Just do it.(行動あるのみ)と、自分に声をかけてみましょう。

 未来を変えるのは、行動です。
 行動によって行動力は高まり、理想の未来が実現化されるのです。

 Just do it.

 行動あるのみ、です!

(文:松山 淳)


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