心が変われば行動が変わる 行動が変われば習慣が変わる
習慣が変われば人格が変わる 人格が変われば運命が変わる
『不動心』(松井秀喜 新潮社)
元大リーガーの松井秀喜さんの座右の銘ですね。この言葉は、松井さんの母校星陵高校の野球部監督山下智茂さんから教えてもらったものです。
心と行動。行動と習慣。それらの変化によって運命が変わっていく。「心」「行動」「習慣」の大切さを思い出させてくれる名言です。
「人間は習慣の生き物である」
これは、アメリカの哲学者ジョン・デューイ(1859〜 1952)が言ったとされる言葉です。ジョン・デューイといえば「プラグマティズム」(機能主義)を提唱し「大正」「昭和」を通して「心理学」に大きな影響を与えた人物です。
「習慣」の重大さを、今に伝える名言ですね。
❶長い間繰り返し行われていて、そうすることが決まりのようになっている事柄。また、繰り返し行うこと。
❷(心理学) 学習により後天的に獲得され、繰り返し行われた結果、比較的固定化するに至った反応様式。
(三省堂「大辞林」第三版)より
朝起きてすぐ歯みがきをするのが「習慣」になっている人もいれば、朝食後に歯を磨くのが「習慣」になっている人もいます。卵の目玉焼きには「しょうゆ」をかけるのが「習慣」の人もいれば、「ソース」をかけるのが習慣の人もいます。
「習慣」は、繰り返しの結果、身につく行動です。それは「慣れている行動」ともいえます。
慣れていることは、とても楽です。楽なことは心地よく、心理的な負担が少なく済みます。人は心に負担のかかることより、かからないほうを選択する傾向にあります。だから「慣れていて楽なコト」=「習慣」は、なかなか変えられないのです。
「習慣は第二の天性なり」
そんな言葉もある通り、「習慣」は「生まれ持った性格・才能」(天性)の次にあるものとして、人間の心身に深く染みつくものです。
朝の歯磨きのように、仕事や人生にさほど影響のない習慣であればいいですが、「習慣」を優先し、「慣れている楽なコト」ばかりを続ける「習慣」が身につくと、「慣れの罠」に陥って、自己成長がおぼつかなくなります。
いわゆる「マンネリ人間」になって、「つまらない人間」になってしまいます。野球選手のようなスポーツ選手であれば、スキルを伸ばすことができず、選手として停滞してしまうわけですね。これは困りものです。
ですので、松井秀喜さんの「座右の銘」にあるように、「心」を変え、「行動」を変え、「習慣」を変えていく必要があるのです。
「自分を変えよう」「もっと成長しよう」とするならば、変えることを強く意識し、それを実践していくに限ります。
そこで、習慣を変えるためのヒントとして、「習慣・技能を変える4段階」についてお話ししたいと思います。
「4段階」については、『サーバント・リーダー』(ジェームズ・ハンター 海と月社)にあった記述(p183〜p186)を参考にします。
『サーバント・リーダー』(海と月社)に掲載されていた「4段階」は、次のものです。
🔸第1段階:無意識で未熟
🔸第2段階:意識していて未熟
🔸第3段階:意識していて熟練
🔸第4段階:無意識で熟練
ここでは、部下に「ありがとう」と感謝できないリーダーが、感謝できるようになるプロセスを例に、説明していきます。感謝することは、メンバーのモチベーションを高めチームを活性化させる、リーダーにとって重要なスキルです。
「第1段階:無意識で未熟」は、「習慣」を変えたり、「技能」を高めようとする前の段階です。自分の「習慣」に気づいていない、あるいは「習慣を変えることの必要性」に気づけていない状態です。もちろん、それに伴うスキルは未熟です。
気づけずにそうしているとは、「無意識の内にそうしている」ということです。ですので、「無意識で未熟」といいます。
・部下に感謝していない自分に気づいていない。
・感謝の必要性を認識できていない。
・感謝しない自分がチームの士気を落としていることに気づけていない。
心理的抵抗感の最高を「10」とした時に、この段階は「0」です。まだ取り組くむ前ですので、「嫌だな〜」「なんでだよ」といったネガティブな感情はわいてきません。
「第2段階:意識的していて未熟」は、「習慣」を変えたり「技能」を高めることの必要性に気づき、取り組み始める段階です。でも、実践し始めたばかりなので、心理的苦痛が伴い、スキルは未熟です。「初心者の段階」ともいえます。
・部下に感謝する必要性を本や研修で知った。気づいた。
・「ありがとう」を言いたいが、うまく言えない。
・「ありがとう」を言ってみたが、とてもぎこちなく、恥ずかしさを感じる。
心理的抵抗感は「10〜7」と極めて高い段階です。
実践には苦しみ・辛さが伴うのが常です。「もうやだ」「やめたい」「なんでこんことしてんだ」とネガティブな感情に支配され、挫折感を味わうこともあります。
この段階が「心の成長痛」を味わう段階であり、この痛みに耐えられず逃げ出すと、次のステージに進めません。元の習慣に戻ってしまい、技能は高まりません。
「第3段階:意識的していて熟練」は、「習慣」を変えたり「技能」を高める行動を実際にとり、強い心理的抵抗を味わいながらも、スキルが高まっていく段階です。成長感を味わう段階です。
習慣を変えることを日々、強く意識し努力を重ねています。そして、習慣の変化が目に見えた形で現れてきます。技能開発でいえば、スポーツ選手が辛く苦しい練習を重ねていき、痛みを伴いながらも、技能が上達していく段階です。
・恥ずかしさ、苦しさに耐えて、感謝を続ける。
・「ありがとう」の言葉が、段々と板についてくる。
・周囲の人たちの反応がよりよくなってくる。
心理的抵抗感は「6〜4」と中程度になる段階です。まだ「ぎこちなさ」はあるものの「習慣の変化」「技能開発」に対する「手ごたえ」を感じて、感情的な「苦しさ」「辛さ」は弱くなっていきます。
「第4段階:無意識で熟練」は、変えることができた「習慣」や高められた「技能」が、無意識の内に自然とできる段階です。心の成長痛を乗り越えて抵抗感なく、それができてしまいます。スポーツ選手でいえば、練習で身につけたスキルが、自然と試合で発揮される段階です。
・意識しなくても自然と、部下に「ありがとう」を言える。
・職場だけでなく、家庭でも「ありがとう」が口をつく。
・店員さんや駅員さんに対してなど、日常的な様々な場面で意識せずとも「ありがとう」を言っている。
心理的抵抗感は「3〜0」と低レベルに落ち着く段階です。習慣を変えることに成功し、変えたことが板につきます。やろうと思うことが、無意識の内に自然とできるので抵抗感は、ほぼ無い状態です。
「習慣」を変えようとするなら、一度、それを「習慣」でない状態にしなくてはなりません。その状態は「慣れていない苦しいコト」を経験することです。それを継続することは困難ですが、「慣れていない苦しいコト」をくぐり抜けていかなければ、変化はありません。技能の開発・上達もありません。
私たちは、自分や他人にとって、それをすることが、「とてもよいコト」だと知りながら、それをすることに抵抗します。「よいコト」でも、「慣れていない苦しいコト」は、やっぱり嫌なのです。これは誰もが持つ感情です。
その苦しみの発生源を探っていくと、次の心理にぶつかります。
未熟な自分に遭遇することへの恐れ
人は「自分の生き方」が習慣化されています。
すると「未熟な自分」を体験することに、強い抵抗感を覚えます。心理的な痛み・恐れが伴うため、「未熟な自分」「できない自分」「みっともない自分」には、できれば出会いたくないのです。
年齢を重ねると、その傾向はさらに強まります。なぜなら、「習慣」とは繰り返しの結果であり、歳月を重ねるとは、繰り返しの強化につながるからです。
「この年になって、今更、そんなことに取り組みたくない」
この抵抗心理の裏には、「できない自分」との遭遇に対する「恐れ」があるのです。「できれば今までの自分でいい」という痛みを避けようとする欲求があるのです。
こうした心の動きは、無意識に働くものなので、それに気づくことが大切です。
習慣化されている自分の生き方に「気づき」、自分の恐れに「気づき」、自己成長の必要性に「気づき」、「気づきの体験」によって、人は、変化の道程を歩み始めます。それは第1段階から第2段階に進むことです。
「気づく」ことが、何より大事なのです。
人は、自分では気づけない「無意識」という大きな「心の領域」を持っています。多種多様な感情を「無意識」に抱えてこん生きています。
「無意識」にはネガティブな要素も存在しますが、自分を成長させる有益な要素もつまっています。
無意識の領域にある有益な要素を意識化することが「気づき」です。
人は無意識のある要素は、コントロールできません。でも、意識にある要素はコントロールが可能です。
「習慣」とは、無意識の内にしている行動であり、意識せずともできてしまう行為です。ありがとうを言わないことが習慣化されている人は、その習慣がいつまでも続きます。でも、「自分は『ありがとう』を言わない人間である」「感謝をしなことで部下のモチベーションを落としている」と気づけば、習慣を変えるスタートラインにつくことができます。
そうしてスタートしても、第2段階〜第3段階にかけては、どうしても「恥ずかしさ」「苦しさ」「辛さ」などの「心の痛み」を覚えることになります。
その痛みは、成長期の少年少女たちにフィジカルな面での「成長痛」があるように、習慣を変え技能を高めようとする時に伴う「心の成長痛」なのです。それから逃げることはできません。
自己成長を放棄した人間は、心理的に停滞してしまいます。心のしなやかさを失い、頑固になり、周りの人から「つきあいにくに人間」と思われるようになります。
でも、「情けない自分と出会う」恐れに打ち勝ち、「心の成長痛」をくぐり抜けていけば、心の柔軟性は失われず、自己成長が約束されています。
『サーバント・リーダー』には、こんな言葉がありました。
「リーダーシップは個性や持ち物、カリスマ性とは関係ない。問題は、あなたがどういう人間であるかなのです」
『サーバント・リーダー』(J・ハンター 海と月社)
恐れから逃げる人間なのか、そうでないのか。
痛みから目を背ける人間なのか、否か。
心を変え、行動を変え、習慣を変え、人格を変え、運命を変えようとする人間なのか。
人間の心は生涯を通して成長し続けます。
「心の成長痛」を乗り越えて、まだまだ人として成長していきましょう。
心が変われば行動が変わる 行動が変われば習慣が変わる
習慣が変われば人格が変わる 人格が変われば運命が変わる
『不動心』(松井秀喜 新潮社)
(文:松山淳)