自己分析「オンライン個人セッション」〜性格検査MBTI®を活用して〜

セルフ・アウェアネス(自己認識)とは。

コラム142セルフ・アウェアネス(自己認識)とは。アイキャッチ画像

 セルフ・アウェアネス(自己認識)とは、自分に意識を向けた自己理解のプロセスと結果である。「思考」「感情」「欲求」「強み・弱み」「価値観」「他者からの評価」「成育歴」など、自身を構成する多様なファクターに対する認識がセルフ・アウェアネス(自己認識)を作り上げる。

 セルフ・アウェアネス(自己認識)には2つの考え方がある。「内面的自己認識」(internal self-awareness)「外面的自己認識」(external self-awareness)だ。

 「内面的自己認識」は、「自分が自分をどのように見ているかの認識」である。「自分は性格が明るい」「自分は短期だ」と自分でする自己評価は「内面的自己認識」だ。

 一方で、「外面的自己認識」は、「他人が自分をどのように見ているかの認識」である。「周囲の人から自分は性格が明るいと思われている」と、他者からの評価を組み込んだ自己認識が「外面的自己認識」だ。

 セルフ・アウェアネスの力を高めるには、「内面的自己認識」「外面的自己認識」のバランスを取っていくことがキーになる。

 「ジョハリの窓」「カール・ロジャーズの自己理論」など、心理学の理論を交えながらセルフ・アウェアネスについて解説し、最後「セルフ・アウェアネスを高める」ポイントについて述べていく。

ジョハリの窓

 「ジョハリの窓」は、自己を理解するためのフレームワークです。「ジョハリ」とは、ふたりの心理学者の名前を組み合わせたもの。サンフランシスコ州立大学の心理学者ジョセフ・ルフト (Joseph Luft) とハリ・インガム (Harry Ingham) のふたりです。

ジョハリの窓の図

 ジョハリの窓は「4つの窓」と「4つの自己」から構成されます。

開放の窓:「公開された自己」(open self)
秘密の窓:「隠された自己」(hidden self)
盲点の窓:「自分は知らないが他人は知っている自己」(blind self)
未知の窓:「誰にも知られていない自己」(unknown self) 

①「開放の窓」(open self)

 セルフ・アウェアネス(自己認識)が正確な場合には、①「開放の窓」(open self) の領域が大きくなっています。自己認識と他者からの認識が一致しているわけです。

 例えばAさんが「自分は性格が明るい」と自己認識していたとします。周囲の人も「Aさんは性格が明るい」と認識していれば、Aさんの「明るさ」は、「開放の窓」に位置することになります。

「秘密の自己」(hidden self)

 普段から周囲の人に「自分のこと」を話さないと、②「秘密の自己」(hidden self) の領域が大きくなっていきます。すると「あの人は何を考えているのか、よくわからない」と、まわりから思われようになります。

「盲点の窓」(blind self)

 ③「盲点の窓」(blind self) の領域が広がっていくのは、他人からのアドバイスを無視したり、「自分がどう思われているか」を内省しなかったりする時です。「あの人は、自分のことをよくわかっていない」と周囲の人たちから評価されるでしょう。「あの人、最近、天狗になっている」と陰口を叩かれている時は、「盲点の自己」が拡大しているわけです。

「未知の窓」(unknown self) 

 ④「未知の窓」(unknown self) は、自分の中に眠っているであろう「自分も他人も知ることのできていない要素」です。ですので、想像力を働かせ推測していくしかありません。「今は違うが、これから〇〇な人間になりたい」「今は持っていないが、今後、〇〇の能力を開発していきたい」。そんな風に、将来的かつ希望的要素を認識することはできます。希望的要素であっても、「どんな希望をもっているか」を認識することも自己認識です。

 セルフ・アウェアネスの質を高めようとする時、ジョハリの窓で整理することができます。内省しながら、次の問いを自分自身に投げかけてみましょう。

開放の窓:「自分と他人からの評価が一致している自分とは何だろう?」(open self)
秘密の窓:「周りの人に秘密にしている自分とは何だろう?」(hidden self)
盲点の窓:「他人が気づいていて自分で気づけていない自分とは何だろう?」(blind self)
未知の窓:「今はそうではないが、これからなりたい自分とは何だろう?」(blind self)

 ポイントとなるのは、盲点の窓です。盲点の窓が当たっているのか当たっていないのかは、他人に聞くしかありません。セルフ・アウェアネスの質を高めることは、自分の力だけでは限界があります。

他人からの視点を取り入れることで、セルフ・アウェアネス(自己認識)の精度は高まるものです。

 他人からの評価を聞くことも忘れないでいましょう。

カール・ロジャーズの自己理論

カール・ロジャーズ(Carl Rogers)の自画像
カール・ロジャーズ
(Carl Rogers)

 「カウンセリングの神様」と呼ばれる人物にカール・ロジャーズがいます。

 来談者中心療法を創始した心理学者として歴史に名を刻まれる人物です。ロジャーズは、人間が「あるがままの自分でいること」を重視しました。

ロジャーズの実現傾向(acutualizing tendency)とは

 人間には、「あるがままの自分」になろうとする根源的な心の働きがあり、「あるがままの自分」を目指し成長し近づいていこうとする傾向があるとしました。この傾向をロジャーズは、「実現傾向」(acutualizing tendency)と名付けました。

 「実現傾向」(acutualizing tendency)とは、いのちある存在が、生命活動を通して自らの可能性をできる限り実現しようとする傾向のことです。「よりよく変化していこう」「今より成長していこう」とする「命のはたらき」とも言えます。「実現傾向」は、人間に限った話しではなく、植物、動物など、あらゆる生命体が対象となります。

 人間であれば、「本来の自分自身になろうとする」「真の自己に近づいていこうとする」揺るぎない傾向がある、ということです。

『ロジャーズが語る自己実現の道』(岩崎学術出版社)の表紙画像
『ロジャーズが語る自己実現の道』
(岩崎学術出版社)

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 『ロジャーズが語る自己実現の道』(岩崎学術出版社)の中で、ロジャーズはこう書いています。

「個人は成熟の方向へ向かって変化していく力と傾向を自らのうちに持っており、そしてそれらが明らかに現れていない場合でも、その力と傾向は個人の中に潜在している。」

『ロジャーズが語る自己実現の道』(岩崎学術出版社)p37

 「セルフ・アウェアネス」を意識して、その力を高めようとすることは、ロージャーズの言う「実現傾向」(acutualizing tendency)の流れにそった心の働きです。

 人間に「あるがままの自分」になろうとする「実現傾向」を前提条件とすれば、自己を正確に認識するセルフ・アウェエアネスを意識することは自然なことといえます。「セルフ・アウェアネス」の精度を高めようとしている人は、その時点ですでに、心理的成長のプロセスに自ら追い風を吹かせているわけです。

人生がうまくいっている自己一致と不一致

 「あるがままの自分」が何かを理解し、現実が「あるがままの自分」を活かせる経験に満ちていれば、その人は、セルフイメージと現実との経験が一致しています。ロジャーズは、これを「自己一致」と呼びました。

 「自己一致」している時は、「人生、なかなかうまくいってるよ」と思える現実適応の状態です。

 「あるがままの自分」を理解できたからといって、必ずしも「自己一致」(適応状態)になれるわけではありませんね。「理想の自分」と「現実の経験」のはざまで苦悩すること(不適応状態)は、誰もが体験することです。

 ロジャーズは、「私は性格が明るい」「私は短気だ」などの自分に対する評価のことを「自己概念」(self-cocept)と呼びました。自己概念には、「私は明るい性格の人間になりたい」という「理想の自己」(Ideal-self)を含みます。

 ロジャーズは、苦悩(不適応状態)とは、「自己概念」と現実の「経験」との間に距離があればあるほど大きくなると考えました。逆に、2つの距離が近ければ、「自己一致」の領域が大きくなり、この時、「人生、なかなかうまくいっている」と思える心理的に健康な状態です。

カール・ロジャーズの自己一致理論(自己概念と経験)のフレームワーク図

 例えば、IQが高く幼い頃から学業が優秀で、一流大学を卒業し一流企業で働くAさんがいたします。Aさんの自己概念は「私は優秀な人間である」です。会社の中で成果をあげ人事評価も高ければAさんは、「自己概念」と現実での「経験」とが一致していますので、いわゆる「人生、うまくいっている」自己一致できている状態です。

 でも、Aさんが昇進し部下を持ち、うまくリダーシップを発揮できず、チーム(部署)として優れた業績をあげられなかったとします。「プレイヤーとしては一流だったが、リーダーとしては二流」。よくあるパターンです。

 すると、Aさんの自己一致の領域は小さくなり、反対に、苦悩は大きくなります。

 「なんで優秀な私が、こんな成果しか出せないんだ」。いつもイライラし、「部下が悪いんだ」と、部下に当たり散らすかもしれません。リーダーとしてに最もしてはいけないことですね。

 この時、現実の経験を変えること、つまり、成果を出すことで、自己一致は元の状態に戻ります。苦悩は小さくなります。

 ただ、自己一致させるのに、もうひとつ方法があります。それは「自己概念を変えること」です。

 「私は優秀だ」は、「私は優秀でなければならない」という強固な信念となっています。さらに自己洞察を深めると、「人間は常に優秀でなければ価値がない」という、やや「歪んだ価値観」が浮きぼりになるかもしれません。

 こうした自己を縛る歪んだ価値観を誰もが持っているものです。そして、その「歪んだ価値観」に人は突き動かされ生きているものです。ですので、自己理解を深めるセルフ・アウェアネスが求められるのです。

 「人間は常に優秀でなければ価値がない」。この信条の一点張りではAさんの苦悩は深まるばかりです。でも、それを柔軟に変えていくことができれば、自己不一致の状態から脱出することができます。

 「人生、いつでもうまくいくわけじゃないし、たまには失敗してもいい。そんなしなやかな考え方こそ価値のあること」

 そんな風にAさんが自分の価値観を変えれば、現実が「凡庸な成果」でも、自己一致できている「人生、うまくいっている」と思えるようになります。

 「私は優秀な人間だ」と考えている上司(リーダー)より、「失敗もたまにはあるよ」と、しなやかに考えられるリーダーに部下はついていくものです。それは本来の優秀さ、ですね。

 プレイヤーとして優秀だった人材が、上司となり二流リーダーになってしまうのは、成果をあげられない部下の気持ちをくみとることができず、コミュニケーション量が落ちて、チームビルディングに失敗するからです。

 Aさんが自己の歪んだ価値観に気づき、それを変えることで、結果的に、チームビルディングに成功し、部署の業績を高めることに成功するかもしれません。

 もし成功すれば、「自己概念」の変化が、現実を変えたということになります。ですので、「セルフ・アウェアネス」(自己認識)は思った以上に大切なのです。 

 この経験を通してAさんは、自分のもつ「歪んだ価値観」に気づくことができましたので、「セルフ・アウェアネス」(自己認識)の力を高めたことになります。

 また、歪んだ価値観をもつ自分を卒業できたわけですから、ひとつ「あるがままの自分」「本来の自分自身」に近くことができたと言えます。そのプロセスを前に進めたのは、ロジャーズの自己理論で考えれば、人間に「実現傾向」があるから、です。

 よりよい自分になろう。自己成長しよう。心を成熟させよう。

 そうした人間の「ポジティブさ」を志向する「いのちの働き」が、私の心の奥底で動き続けているのです。

 数多くの人を苦悩から救い続けたロジャーズは、『ロジャーズが語る自己実現の道』(岩崎学術出版社)の中で、こうも書いています。

「人が最も強く望み達成しようとしている目標、すなわち、人が意識的にも無意識のうちにも追求している目標、それは自分自身になることだ」

『ロジャーズが語る自己実現の道』(岩崎学術出版社)p37

 「自己概念」と「経験」(現実の出来事)とのギャップが、どの程度あるのかを内省し検討していくことで、セルフ・アウェアネスの精度を高めることができます。

内面的自己認識と外面的自己認識

 ロジャーズの「自己一致理論(自己概念と経験)の枠組み」を使うことで、セルフ・アウェアネス(自己認識)を構成する2つの要素「内面的自己認識」(internal self-awareness)「外面的自己認識」(external self-awareness)の理解を深めることができます。

 2つの定義については、『セルフ・アウェアネス』(ハーバード・ビジネス・レビュー [EIシリーズ] ダイヤモンド社)に収録の論文『自己認識を高める3つの視点』から引用します。著者は、組織心理学者のターシャ・ユーリック(Tasha Eurich)です。

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「内面的自己認識」(internal self-awareness)とは

「自分の価値観、情熱、願望、環境への適合、反応(思考、感情、態度、強み、弱みなど)、他者への影響力について、自身がいかに明確にとらえているかを表す。内面的自己認識は、仕事や人間関係への満足度、自己および社会的コントロール、幸福に相関する。不安、ストレス、憂うつとは負の関係にある。」

 『セルフ・アウェアネス』(ハーバード・ビジネス・レビュー [EIシリーズ] ダイヤモンド社)p24

「外面的自己認識」(external self-awareness)とは

「他者が自分をどのように見ているかに関する理解である。我々の研究によれば、自分が他者にどう見られているかがわかっている人は、共感力と、他者の視点に立つ能力に長けている。リーダーの自己認識と、リーダーに対する部下の認識が近いほど両者の関係は良好で、部下はリーダーに満足を感じ、リーダーを有能視する傾向にある。」

 『セルフ・アウェアネス』(ハーバード・ビジネス・レビュー [EIシリーズ] ダイヤモンド社 ダイヤモンド社)p24

 シンプルに言ってしまえば、次の通りです。

「内面的自己認識」(internal self-awareness)とは、自分による自分に関する認識。
「外面的自己認識」(external self-awareness)とは、他者による自分に関する認識

 組織心理学者のターシャ・ユーリックの研究によると、セルフ・アウェアネス(自己認識)の精度が高い人は、2つの自己認識のバランスをとっている人たちでした。

 つまり、自分で内省するだけでなく、他人からも「自分をどう思うか」と、フィードバックをもらうようにしていたのです。

 なぜ、自分ひとりで内省するだけではダメなのでしょうか。なぜなら、個人の認識には、何らかのバイアス(認知の歪み)があり、「内面的自己認識」と「外面的自己認識」の間いにはズレが発生しやすいからです。そのズレを正すために、他人からの視点が欠かせないのです。

 人事評価で「360度多面評価」(上司だけでなく部下や同僚などからも評価を受ける)を受けている人であれば、「他者による評価」と「自分による評価」に「ズレ」のあることを多くの人が経験しています。

 自分では「できている」と思っていることが、他人からは「できていない」と評価されることが多いのです。

 さて、ロジャーズ「自己一致理論(自己概念と経験)の枠組み」を使うと、次のような図ができます。

内面的自己認識と外面的自己認識のフレームワーク

 「私は優秀なリーダーだ」と自己認識しているAさんが、周囲の人からは「Aさんは凡庸なリーダーです」と思われていたら、認識にズレがあるので、直していかなければなりません。でなければ、いつまでも「Aさんは、ただの勘違いしているリーダー」と思われ続け、その認識のズレがAさんのリーダーシップに悪影響を及ぼします。

 組織心理学者ターシャ・ユーリックは、論文『自己認識を高める3つの視点』の最後を、次のように締めくくっています。

 リーダーが自己をより明確にとらえるスキルを身につけるには、内面と外面両方の自己認識を高めることを意識し、愛のある批評家からの率直な意見を求め、「なぜ」ではなく「何」を自問すればよい。自分についてより多くを知れば、そこから得られる恩恵も増える。

 そして、人はどれほど進歩しようとも、もっと学ぶべきことが常にある。これこそ、自己認識への旅が大いに心躍る理由の1つであろう。

 『セルフ・アウェアネス』(ハーバード・ビジネス・レビュー [EIシリーズ] ダイヤモンド社)p35

セルフ・アウェアネスを高めるには

 セルフ・アウェアネス(自己認識)というと、とかく「自分による自分の評価」(内面的自己認識)だけで終わってしまうことが多いですね。

 そこで、「他人による自分の評価」がセルフ・アウェアネスの力を高めるポイントなります。

 ❶内省すること
 ❷他人からフィードバックをもらうこと

 この2つの両輪を回し続けることで、セルフ・アウェアネスの精度は高まっていきます。

 ただ、「愛のある批評家からの率直な意見」を求めることには、心理的抵抗(恐れ)が強くなります。どれだけ他人から意見が正しくても、心が傷つくこともあるからです。

 率直な意見を聞くことに抵抗(恐れ)がある方は、ロジャーズの「実現傾向」の考え方を思い出し、「あるがままの自分」を信頼してください。

 否定的な意見を聞いたとしても、「それもあるがままの自分の一部」であると、肯定的要素として受け入れるのです。そして、心の動き(感情)に焦点を合わせるのではなく、自分をよりよく変えていく実際の行動に着目していくのです。

 「感情」ではなく実際の「行動」です。

 この時、「なぜ、自分はこんなことを言われてしまったのか?」と「なぜ」(Why)を使うのではなく、「何を」(Whart)を使い、自分に問いかけ続けてください。

セルフ・アウェアネスを高める問い

 「この状況をよりよくするために、今、自分は何をできるだろう?」

 これが、感情的な問題から距離をとるセルフ・アウェアネスを高める「問い」です。

 「なぜ」を使うと、どうしても感情的にネガティブ(不快、落ち込み)な方向へ行きがちです。その結果、自分を変える「行動」につながらなくなります。「なぜ」による自問自答の効果が低いことは、ターシャ・ユーリックの論文『自己認識を高める3つの視点』にも書かれてあります。

 ですので、「なぜ」(Why)ではなく、「何をするか」(What)を常に問いましょう。

 自己認識の旅は、生涯つづくものです。

 わかっているようで、わからないのが自分という存在。

 それは、人間という存在の「奥深さ」「大いなる可能性」を意味しています。

 世界三大心理学者のひとりC.Gユングは、こう言っています。

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 自己認識こそ何にもまして、人間を謙虚にし、人間らしくするものだ

『自我と無意識』(C.G.ユング 第三文明社)p34

 自己の「奥深さ」「大いなる可能性」を信じて、セルフ・アウェアネスの旅を続けていきましょう。

 (文:松山 淳)


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