オリンピック選手や世界レベルで活躍するスポーツ選手。彼ら彼女らが、こころがけていることのひとつに「ミラーイメージの法則」があります。
私が初めて「ミラーイメージの法則」という言葉にふれた書は、スポーツドクター辻秀一先生の『ほんとうの社会力』(日経BP社)です。この本を参考にして、「ミラーイメージの法則」について、お話ししていきます。
オリンピックでは、選手たちが競技を問わず自分の国の選手の応援にかけつけているところをよく見かけます。
同じ競技ならなおさらです。柔道なら柔道で、水泳なら水泳で、自分の試合や競技が終わっても、他の選手を応援しています。自分が期待する結果を出せなくても、笑顔で応援していることがあります。
オリンピックで5つの金メダルを獲得した水泳界のスーパースターといえば、「イアン・ジェームズ・ソープ」選手(オーストラリア)です。
2000年、地元オーストラリアで行われたシドニー・オリンピックでソープ選手は、3つの金メダルと2つの銀メダルを獲得します。一躍、水泳界で時の人となりました。そして翌年の2001年、福岡で世界水泳選手権が開催されます。ソープ選手は、100m(自由形)では、金メダル確実といわれていました。
ところが100M(自由形)で、まさかの4位に終わってしまうのです。メダルを取ることができませんでした。
メンタルの弱い選手であれば、「俺がこんな結果で終わったんだから、他の選手も負ければいいんだ!」などと考えて、落ち込んだりふてくされたりして、競技場を後にすることもあるでしょう。
しかし、不本意な結果に終わった競技の後、ソープ選手は、観客席に座り笑顔で仲間のオーストラリア選手を応援していたいのです。
もし「ミラーイメージの法則」が働くなら、こういえます。
「自分がするいい応援は、いい結果を自分にもたらす」
そして、イアン・ソープ選手は、その後行われた6種目の競技全てで金メダルに輝くのです。「ソープ選手6冠達成」と、当時、大きなニュースになりました。
日本でも大ブームとなったサッカー選手といえば、デビット・ベッカム選手です。そのベッカム選手が所属していたレアルマドリードが、2003年、日本で試合をしました。レアルマドリード対FC東京です。
大人気だったベッカム選手を観ようと私もテレビで、この試合を観戦していました。その時、「ミラーイメージの法則」に関する、とても印象的シーンを見ました。
あるレアルの選手が、味方の選手に大きなパスを出しました。明らかなパスミスとなり、ボールがラインを割り、外に出てしまいました。その時、パスを受けようとした選手が、ミスをした選手に向けて、手を高くあげ、拍手を送っていたのです。
「何やってんだよ!バカヤロー」という気持ちをぐっと抑えてなのかどうかは、わかりませんが、相手がミスした時でも賞賛しようとする姿勢は、まさに「ミラーイメージの法則」にかなった行動です。
味方の選手が犯すミスを責めるのではなく、許すことで、チームの雰囲気をよくする。サッカーに限らず、あらゆるスポーツに見られるものですね。
自分のこころを汚すような、ネガティブな感情をもつと自分のプレーを乱すことになる。決して自分のためにならない。
この事を、世界レベルの死闘をくぐり抜けてきたトップ選手たちは、「経験則」として理解しているでしょう。
そう考えると「ミラーイメージの法則」とは、「必ずそうなる」という心理学的な法則ではなく、よい結果を導くための「知恵」のひとつと考えられます。
よい結果を求めているのは、スポーツ界だけでなく、ビジネス界も同じです。「ミラーイメージの法則」は、ビジネスにも通用するお話しです。
そこで次に、私がサラリーマン時代に経験したことをお話しいたします。実話です。
私がサラリーマン時代(20代)に勤めていた会社で、プロジェクト・チームが結成されました。プロジェクト・リーダーは私の上司である「Aさん」でした。
ところが、他部署の「Bさん」が、「自分もそのプロジェクトに関わるべき」との思いがあったようで、経営陣から指示されていないのに、理由をつけては会議に参加し、横やりを入れてくるのです。
Aさんより、Bさんの方が役職が上なので、Aさんはやりにくくて仕方ありません。私も、チームが混乱するように感じられ、Bさんに対してよい感情を持てませんでした。「いい加減にしてくれよ!」というのが正直なところです。その他のメンバーも私に似たよりよったりで、Bさんを煙たがり、最後までBさんは中途半端な立場でした。
Bさんの参加で混乱しながらも、時は流れ、プロジェクトは無事に終了します。役員クラスも参加し、プロジェクトの結果について報告会が開かれました。
役職が上ですから、AさんよりBさんが先に話します。Bさんは、さも自分の手柄のように話しをしています。まだ20代だった私は、「人間とはこうも醜くいものか。こんな人間にはなりたくないな」と、眉をひそめていたのを、よく覚えています。
プロジェクトの詳細を知っているのは、Aさんです。Aさんが話し出すと、出席した人たちは聞き耳を立て、会議室は静まり返りました。報告の最後、Aさんはこう言いました。
「今回のプロジェクトがうまくいったのは、Bさんのおかげです。Bさん、どうもありがとうございました。」
そういうとAさんは、Bさんに対して深く頭を下げたのです。
会議室が異様な雰囲気に包まれました。その場にいた人たちは、プロジェクトの成功はAさんのお陰であり、Bさんは口だけ出していたのだと知っています。Bさんの横やりに、一番苦労していたのが、Aさんであることも…。
私は驚き、「どうしてそんなことを言うのか?」「言えるのか?」、不思議で仕方ありませんでした。
役職はBさんの方が上かもしれませんが、人間としての格の違いを感じました。
「ひとりの人間としてどちらに魅力を感じたか?」もちろん、そこにいた多くの人は、Aさんに魅せられました。
Bさんは人間としての評価を落とし、Aさんは人望を高めました。
リーダーの人望とは、こうして創られていくのですね。
改めて上の文を読むと、「ミラーイメージの法則」とは、東洋思想に古くからある「因果応報」の思想だとわかります。
京セラの創業者稲盛和夫氏に、「因果応報」に関する、こんな素晴らしい言葉があります。
「善き思いを抱き、善きことを実行すれば人生はよい方向に変わっていくし、悪い思いを抱き、悪いことをすれば人生は悪い方向に変わっていく。もともと持っていた運命がどうであれ、それは変わっていくものであり、運命は決して宿命ではないのだ」
『成功の要諦』(稲盛和夫 致知出版社)p184
「因果応報」とは、つまり、善いも悪いも「自分に返ってくる」ということですね。
「投げたものが自分のもとに返ってくる」
この考え方の代表的なことわざは、「天に向かって唾(つば)を吐く」ですね。「デジタル大辞泉」で、その意味は「人に害を与えようとして、かえって自分に災いを招くことのたとえ。」とあります。
これを反対に考えて、「害」を「益」とし「災い」を「幸せ」とすれば、こうなりますね。
⭐️「人に益を与えようとして、自分に幸せを招くこと」
そういえば、いろいろな本に、こう書かれています。
人生、うまくいく人は、人を応援できる人である。
「ミラーイメージの法則」は、心理学の話しだけではなく、広くとらえれば、人生を上手に生きる「知恵」といえるものです。
いいものを人生に投げる。悪いものは投げない。なぜなら、自分のもとに返ってくるから…。
「ミラーイメージの法則」を心がけ、いい人生を送りましょう!
(文:松山 淳)
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