「あまりに能率よくすらすら生きてしまうより、生命をひとこまずつ、手づくりでつくりあげて行くような骨折りを重ねて生きて行くときのほうが、こころのゆたかさというものも現れやすいだろう」
『こころの旅』(神谷美恵子 日本評論社)
さて、神谷医師の言葉をもう一度見ると、最後にメリットが提示されています。「こころのゆたかさというものも現れやすい」と「よいこと」が書かれています。
骨折りを重ね苦しみを味わうことは、それで終わりではないのです。苦しみを味わった結果として、「こころのゆたかさ」という「メリット」が現れてくる可能性があるのです。
スポーツや武道に限りませんが、仕事でも芸事でも「技能を高める」というメリット受け取ろうとしたら、厳しく苦しい練習や稽古を積まねばなりません。オリンピック選手やプロスポーツのトップアスリートたちが、よくこういいますね。
「練習は裏切らない」
厳しく苦しい練習は誰もが嫌なものです。でも、練習には、それをする意味や価値があるため、アスリートたちは真剣に取り組みます。練習の意味や価値とは、苦しむことで「勝利」という結果を手にする可能性が高まることです。だから、アスリートたちは、「練習は裏切らない」と自分に言葉をかけ、苦しみにも意味や価値があることを信じ切るのです。
これを心理学で「ベネフィット・ファインディング」(benefit finding)といいます。
「ベネフィット・ファインディング」(benefit finding)とは、辛く苦しい逆境のなかに意味や価値を発見していくこと。
ナチスの強制収容所を生き延びた心理学者フランクルは「どんな時にも生きる意味がある」といいました。苦しい逆境をくぐり抜けた人が、よくいいます。
「あの苦しい体験にも意味があった」
「あの逆境があったから今がある」
辛く苦しい逆境の真っ只中にあって、「この状況にも意味がある」「この経験も決して無駄にならない」と言われても、なかなかピンとこないものです。「そんな誰にでも言える、月並みな理想論なんか聞きたくない」と、怒りの感情が湧いてくることもあります。
ただ、何かしら考え方を変える心理戦略をとらないと、苦しみに飲み込まれ、現状を悲観するばかりになってしまいます。悲観が強くなると、行動する力がどんどん落ちていき、逆境を打開することができなくなります。
ですから、「今、置かれた苦しい状況に《意味》や《価値》がある」と、現実の見方を変える「ベネフィット・ファインディング」(benefit finding)が大切になるのです。
あのイチロー選手も、「ベネフィット・ファインディング」(benefit finding)の考え方をもっていました。
「少しずつの積み重ねでしか、自分を超えていけないと思っているんですよね。一気に高みにいるとすると、今の自分とギャップがありすぎて、それを続けられない。地道に進むしかない。ある時は後退しかしない時もあるので、自分がやると決めたことを信じてやっていく。でも、それは正解とは限らない。間違ったことを続けているかもしれない。遠回りをすることで、本当の自分に出会えると思っている。」
【イチロー節全開84分深夜の引退会見/全文一気読み】『日刊スポーツ』(2019年3月22日)
あの天才イチロー選手ですら苦しい時期がありました。スランプから抜け出せず、ベンチを温めつづける時がありました。でも、そんな苦しい「遠回り」の時があってこそ、「本当の自分に出会える」という 、自分なりの「価値」を見い出そうとしていたわけです。
遠回りにも価値がある。
イチロー選手の思考プロセスが、まさに「ベネフィット・ファインディング」(benefit finding)です。
冷静に落ち着いて、今の状況に「意味」や「価値」を発見していきましょう。その考え方が、苦しい状況を乗り越えていく時の「心の力」になります。
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