目次
「くどくど言わずとも、一言で人の心を動かす指導法があることを初めて知った。」
日本経済新聞社「私の履歴書」(2013.4.9付け朝刊)
言葉が言霊になる。
普段、何気なく使っている「言葉」。そんな言葉に思わぬ力の宿ることがあります。
渡相談役が、まだ20代の頃の話しです。会議で、ある課員から提案がありました。ですが、幹部たちが難色を示し、その提案は受け入れられませんでした。
渡さんは納得がいきません。しつこくくいさがりした。すると、当時の上司である松浦次長から一喝されます。
「うるさい、担当課長が不要と言うのに、しつこいぞ、課長に失礼だ。黙れ」
その案件は再度、会議にかけられて、結局、決裁がおりたのです。次長とは、なんとなく気まずくなりました。ある日、次長に講演会に行かないかと誘われました。講演会が終わり別れ際、
「君、頑張れよ」
と、次長は励ましてくれました。この小さな一言で、渡相談役のわだかまりは消えてしまったそうです。松浦次長は、西郷隆盛のような深沈厚重タイプでした。次長の大きさを知る経験となりました。
説教は時間の長さに比例して効果が落ちる。
そんなことがよく言われます。その人の境地によって、「小さな言葉」「短い言葉」でも、人の胸に響くものです。人の心に届くものです。
「「三日の手伝い」という言葉があります。たとえ三日間の手伝い仕事でも、その仕事に一生の仕事のような心構えで真剣に立ち向かうならば、そこから必ず大きなものを得ることができる、ということです。」
一所懸命と一生懸命。
今、目の前にある仕事に懸命になる。「今、ここ」という「一所」に集中できることが、心に最高のごちそうになります。昨今、日本でも広まる「マインドフルネス」の精神とは、まさに今ここに集中することですね。
経営の神様松下幸之助さんは、こうも書いています。
「私のこれまでの体験から言うと、現在与えられた、いまの仕事に打ち込めないような心構えでは、どこの職場に変わっても、決していい仕事はできない」
数多くの社員を見てきた松下さんです。その言葉に真実味があります。
一生の仕事のかのように、今、与えられた仕事に一所懸命になる。そうした「生きる姿勢」を持っていれば、自然と「一生懸命」な人となれて、人から信頼もされるのですね。
一所懸命を一所懸命へ。
「失敗するのは悪いことではない。むしろ、後から振り返れば、以前に失敗したからこそ、そこで得られた経験を活かして大きな成功を収められたという構造になっていることが大半なのだ」」
失敗は成功への近道
仕事をしていて「失敗」をしない人はいません。大なり小なり、誰だって何かしら失敗をするものです。ですので、失敗があった時に「失敗したから、もうダメだ」ではなくて、澤田社長のように
「失敗は失敗ではなくて、成功への踏み台」
と、「失敗の意味を再定義」できると、長く落ち込まないですみます。立ち直りが早くなります。
失敗など何らかの逆境から立ち直っていく「精神的回復力」のことをレジリエンス(resilience)と言いますね。レジリエンスのある人は、現実を前向きにとらえるのが特徴です。
雨が降った時に、「いつまで降るんだ」と否定的に考えれば、気持ちも沈みます。でも、「止まない雨はない」と考えれば、希望が持てます。
失敗するからわかることがあります。失敗とは成功への近道です。
そんな風に現実の見方をちょっと工夫するだけ、人は強くなれるものです。澤田社長の言葉もまたレジリエンスを高めてくれる意味の再定義をしている言葉です。
「学問や仕事がいくらできようと、人間的に評価が悪かったらダメですよ。だからぼくはすべて人間評価からはじまり、人間評価において終わると思うな」
リーダーシップとマネジメントの違い。
リーダーは、もちろん、「頭がいい」に越したことはありません。ただ、「頭がいい」だけでは務まらないのがリーダーという仕事です。「頭がいい」以上に、部下たちがついていきたくなるような「人間としての魅力」も大事ですね。
頭がよくいて、仕事の「できる人」なんですが、その優秀さゆえに「人を見下す」「バカにする」ような言葉を、
ついつい口にしてしまうリーダーがいます。本人は悪気はないわけですが、言われた方はたまったものではありません。
ある朝、会社にいったら社員(部下)が誰もいなかった。笑えない話しですが、実際にある話しなのです。だから、本田宗一郎さんが言うような「人間評価」が大事なんですね。
ちなみに、リーダーシップとマネジメントを区分けする考え方があります
リーダーシップは、人間的魅力で人を動かすこと。
マネジメントは、地位や権限で人を動かすこと。
この違いで考えると、リーダー(上司)のマネジメントが行きすぎると、やはり、チームの雰囲気は悪くなりがちです。そこでリーダーシップの登場です。
人間的魅力をつくるのは一生の仕事であり、とても難しいことですが、まずは「リーダーシップを発揮する時に、人間的魅力が大事だ」と思うことが始まりです。
人は生涯をかけて成長していきます。人間的魅力もまた自己成長につれて高まっていきます。
「人は正直に全力を尽くして、一生懸命に働いて、天に貸してさえおけば、天は正直で決して勘違いはありません。人ばかりを当てにして、人から礼を言われようとか、褒められようとか、そんなケチな考えで仕事をしているようでは、決して大きなものにはなりません。」
『致知』(2013年4月号)
天は正直。
森村グループには、TOTO、日本ガイシ、ノリタケなど日本を代表する企業があります。その創業者が森村市左衛門です。
確かに、仕事の成果は、すぐに出る時もあれば、時間がかなりかかることもあります。時間がたって、めぐりめぐって、ある日突然、結果がもたらされることもあります。
結果が出ない期間は、辛いものです。「下積み」という言葉がある通り、その間は、食べるのに困るような状態にもなります。そんな厳しい時に、森村市左衛門の言葉は支えになります。こんな言葉もあります。
「天に預けるのだと思い、今日まで働いてきたが、天はいかにも正直。30年貸し続けたのが、今日現にどんどん返ってくるようになりました」
この言葉が、明治46年の雑誌に書かれているとのことです。
30年とは長いです。長いですけど、30年続けたからこそ、天からの払い戻しがあったのですね。
「継続は力なり」
この言葉を改めてかみしめたくなる森村市左衛門の生き方です。
「やはり「どういう哲学を持って、仕事や人生にのぞむか」ということが一番大事だと思います。正しい考え方を持ち、誰よりも努力を払うということしかないのです」
人生の結果、仕事の結果=考え方×熱意×能力
上の言葉は、稲盛さんが、様々な本で書いている「人生の方程式」ですね。
能力は高ければ高いほど、いいと思われがちです。でも、能力というのは、料理をつくるための包丁みたいものです。
包丁の切れ味は、切れれば切れるほどいい。けれど包丁を使う人が、とんでもない考え方をもっていた人だったら、世間を騒がせる事件が発生します。それが問題を起こす企業です。
だから、「考え方」が左に来るのです。
JAL再生で、稲盛さんが会長に就任し、JALの役員・部長クラスを対象した「リーダー研修」が行われました。「フィロソフィー教育」もそのプログラムにありました。「フィロソフィー」(philosophy )とは、「生きる哲学」「人生観」「世界観」のことです。
稲盛さんは、「嘘をつくな」「人を騙すな」「他人のために」などなど、小学生の道徳の授業のような話しを自分の経営体験と結びつけながら、話したといいます。
「考え方」がよければ、必ずしも成功するとは限りませんが、「考え方」が曲がっていたら、やはり人生の結果、仕事の結果は寂しいものになります。
よき考えを持ち、よい熱意をもって、仕事と人生にいい結果を残していきましょう。
「人々は、リーダーを実によく見ているものです」
弱者は感覚を研ぎ澄ます
上司(リーダー)になると、不思議なもので、「視点取得」が鈍る傾向があります。
「視点取得」とは、心理学の用語で「相手の立場から考えること」です。
自分が上司になると、部下の感覚で、自分のことを見られなくなります。そのひとつが、「部下は上司のことをよく見ている」という感覚です。
自分が部下の立場だった時には「今日の機嫌はどうか」とか、「今の様子なら決済が通りそうだな」とか、よく観察しています。でも、自分がいざ上司(リーダー)の立場に立つと、そう観察されていることを、すっかり忘れてしまうのです。
部下たちが、上司をよく観察する理由を、福原さんは、こう書いています。
「人は、間違ったリーダーについていくと、戦いに負けたり、会社が解散に追い込まれたりすることを、本能的に察知しているからです」
小動物ほど感覚が鋭いと聞きます。なぜなら、腕力では他の動物に勝てないので、感覚で危険を察知する能力を高めるからです。一般的には、上司より部下の方が弱い立場にあります。
だから、リーダーはよく見られているのです。見られていると知ることは、自分に「適度なプレッシャー」を与えることになります。
最近、緊張感が足りてないな、と感じた時には、思った以上に、見られていることを思い出しましょう。
「努力というのはおおっぴらにするものではないという考えもあります。けれど名誉会長には、そうではないと諭されました。全身全霊で打ち込んでいる、その姿をしっかりと社員に見せなさいと」
『致知』(2013年4月号)
全身全霊の泥臭さがクール。
全身全霊で打ち込んでいる人をせせら笑う職場は、やがて停滞します。
クールにさらりと物事を成し遂げることが、「かっこいい」という評価される社風の会社では、「全身全霊」の人が暑苦しいと敬遠されます。
以前の日本航空が、まさにそうした社風だったそうです。
でも、全身全霊の人がいなくなったら、会社は立ち行かなくなります。
上の言葉にある、名誉会長とは、京セラ創業者で日航再建のため会長に就任した稲盛和夫さんのことです。稲盛さんと日本航空の再生に全身全霊をかけて取り組んだ植木社長は、ある日、部下から言われたそうです。
「石にかじりついてもやり脱けと。いままでこんな泥臭い言葉を使われたことはありませんでしたね」
全身全霊で仕事をすると、周りの人からは「泥臭い」と思われるかもしれません。でも、その「泥臭さ」が、厳しい状況の時には必要です。
全身全霊の人を、泥臭い人を、「クール!」(かっこいい)と称えられる人の多い会社が、やっぱり強いのです。
「挑戦し、失敗するから原理原則がわかる。傷を負い、痛い思いをして、自分の血肉になったものだけが、次のチャンスで威力を発揮する」
原理原則は失敗から生まれる。
赤ちゃんが立って歩けるようになるには、失敗を繰り返します。転んでは泣いて、泣いては転び、何度も立ち上がり、歩けるようになっていきます。私も子育て経験者なので、その姿を間近に見た経験があります。
どれだけ痛くてても、どれだけ泣いても、決して、立ち上がること、歩けるようになる努力をやめませんね。それは、人間の本能だからです。
私たちの本能には、痛い思いをしても、トライ&エラーをくりかえし「成功」へ向かっていく強い欲求が埋め込まれているのです。
「もう痛い思いはしたくない」と、行動することをやめてしまうのか。
「この痛い思いが次のチャンスをつかむ力になる」と、行動の原理原則を打ち立て、さらに先へ進むか。
この選択によって、1年先、2年先、3年先の未来が、大きく変わっていきます。
「若い世代に継承してほしいのは技術だけではない。ものづくりに対する「思い」も受け継いでもらいたい」
日本経済新聞「経営塾」(2013.3.13付朝刊)より
哲学ある技術。
科学技術は暴走します。使い方によって、人に「不幸」をもたらします。例えば、昭和の高度成長期。日本が物質的に豊かにることは、ある意味で、いいことでしたが、その引き換えに、数多くの公害問題を引き起こし、多数の人が苦しみました。
だから、技術には「思い」「哲学」が必要です。「哲学なき技術」。その愚かさをホンダ創業者本田宗一郎さんは、数々の著で戒めていました。
「技術は礼儀である」
技術に礼節が伴うことで、生活者に差し出される製品は、より洗練されていき、その「思い」が届きます。「今だけよければいい」という近視眼的な思考から解放された優れた「思い」が、未来へと語り継がれていきます。
どれだけ優れているかを語る技術ではなく、その技術にどんな「思い」「哲学」が込まれてあるのか。
AIが登場し、ますます技術が進化していく時代。
技術の背景にある「思い」を大切にし、その「思い」を語れるリーダーが、今、何より必要です。
(文:松山 淳)
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