時は、はるか昔の中国でのお話し。紀元前221年、中国全土を初めて統一したとされるのが秦の始皇帝です。しかし、秦の統一期間は、わずか15年足らずでした。
秦を滅亡においやったのが「劉邦」と「項羽」です。
「劉邦」が天下をとり、彼がつくりあげた漢王朝は、その後、前漢後漢あわせて、なんと400年余りつづくことになります。
これからお話しすることは、漢王朝を興した「劉邦」のお話しです。
ある日、「劉邦」が、家来にこう尋ねました。
「どうして、俺が天下をとれたかわかるか?」
すると、「王綾」というものが、こう答えました。
「おまえは、一を知って、まだ二を知らぬ」
劉邦は王陵を戒めると、3つのことを論じました。
- 「張良」は優秀な戦略参謀
謀(はかりごと)を陣営の中でめぐらして勝利を千里の外で決するのでは、俺は「子房」(張良)には及ばない。 - 「韓信」は戦場にてその力を発揮する大将軍
大軍を自在に指揮して、戦えば必ず勝つというのでは、俺は「韓信」には及ばない。 - 「簫何」は食糧を送りつづけた名補佐役
内政を充実させて、人心をまとめ、食糧を戦地に運ぶ道を確保することでは、俺は「簫何」(しょうか)に及ばない。
劉邦は家来の「張良」「韓信」「簫何」の独自の能力を賞賛し、それぞれの力は「自分より優れている」ことを素直に認めました。そして、こう喝破します。
「この三人はいずれも、傑物だ。けれども、俺が天下をとったのは、この三人を使いこなすことができたからだ」
劉邦は、潔く負けを認めているのですね。「部下たちは自分より優秀だ」と…。でも、「部下にはできなくて自分にはできることがある」と、リーダーに求められる重要な資質である「統率力」について語っているわけです。
大人気アニメである『ONE PIECE』(尾田栄一郎 集英社)に、この劉邦のエピソードに似た場面があります。
『ONE PIECE』では、主人公ルフィがリーダーです。その仲間として、「剣豪ゾロ」「航海士ナミ」「料理人サンジ」「嘘つきウソップ」がいます。
アーロンという怪物との激闘中に、ルフィーは闘いながら、こう叫んでいるのです。
「おれは剣術を使えねェんだ」
「航海術も持ってねぇし!!!」
「料理も作れねェし!!」
「ウソもつけねェ!!」
「おれは助けてもらわねェと生きていけねェ自信がある!!!」
『ONE PIECE』11巻
ルフィは、剣術や航海や料理など、仲間が持っている技量に負けていることを認めています。部下の方が上だと潔く受け入れています。これは劉邦と同じですね。
リーダーにとって大切なことは、「部下より優れていること」ではありません。求められている目標を達成したり、ビジョンを実現したりすることですね。そのためにメンバーの力を引き出し統率することです。
劉邦の語った「天下をとれた理由」は、現代のリーダーたちも心がけたい大切な教えですね。
(文:松山 淳)