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安西先生の名言に学ぶリーダーシップfrom『SLAM DUNK』(スラムダンク)

コラム141『SLAM DUNK』安西先生の名言に学ぶアドラー流リーダーシップのアイキャッチ画像

安西監督の名言に学ぶ

『スラムダンク 25巻』(井上雅彦 集英社)の表紙画像
『SLAM DUNK』 25巻
(集英社)
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『SLAM DUNK』(スラムダンク)の主人公は、札付きの悪だった桜木花道です。

 彼は湘北高校バスケ部に入部し、キャプテン赤木剛憲、流川楓、三井寿、宮城リョータなど様々な登場人物との激しいぶつかりあいを通じ、バスケットマンとして、ひとりの人間として成長していきます。

 湘北バスケ部を率いる安西先生(監督)は、ケンタッキー・フライドチキンのカーネル・サンダースをさらにふくよかにさせた好好爺といったイメージです。登場する時には「ほっほっほっ」といつも笑っていて、沈黙していることの多いセリフの少ない監督です。

 湘北は神奈川県予選を勝ち抜き全国大会に出場すると、2回戦目で高校バスケ界の頂点に君臨する秋田県代表「山王工業」と対戦します。「山王工業」は優勝候補です。強豪チームに無名校が挑む勝利の確率は極めて低い戦いです。

 試合前、桜木たち湘北高校の選手は極度に緊張し、自信を失いかけています。そんな中、安西先生は会場に散るメンバーを探し、ひとりひとりに声をかけていきます。

 気を紛らわそうと廊下でひとり走るPG(ポイントガード)の宮城リョータには、こうです。

安西先生の名言①

 「PGのマッチアップではウチに分があると私は見てるんだが…」

 「スピードとクイックネスなら絶対に負けないと思っていたんだが…」

『スラムダンク 25巻』(井上雅彦 集英社)

 緊張からトイレに何度も行く三井寿には、トイレで偶然会った風を装い話しかけます。三井がマークする山王工業の先発メンバーがいつもと違い、全国でも有名なディフェンスのスペシャリストになったと告げ、そしてこう言います。

安西先生の名言②

 「いくら山王といえど三井寿は怖いと見える……」

『スラムダンク 25巻』(井上雅彦 集英社)

 桜木は試合前の練習でダンクシュートを決めようとして、派手に失敗しています。廊下でひとり練習する桜木に声をかけると、「あの満員の観客の前で大ハジをかちまったからな…もう怖いものなどねえ」と言葉が返ってきました。監督は言います。

安西先生の名言③

 「おや」「もともと君に怖いものなどあったかね?」

『スラムダンク 25巻』(井上雅彦 集英社)

 安西監督の言葉のかけかたは、アドラー心理学でいう「勇気づけ」に通じるものであります。

 アドラー心理学の「勇気づけ」とは、「自分自身で困難を克服できる「心の力」を与えること」です。自分の力で問題を解決できるように「自立」をサポートすることです。

 安西監督の「勇気づけ」によって、3人の選手は、失いかけていた自信を取り戻すのです。

 


安西先生の名言に学ぶリーダーシップ

 安西先生は、「緊張してどうすんだ」「それでは戦う前から負けだ」などと選手を否定しません。「私がついているから大丈夫だ」「私を信じろ」とも言いません。

 それでは先生(リーダー)に「依存する心」をつくるからです。

 監督(リーダー)に依存するようになると、選手(フォロワー)たちは、監督(リーダー)の判断を求め、監督の顔色を伺うようになり、プレー中に「自分で考え自分で判断」できなくなります。

 それは、自分自身で困難を克服できる「心の力」から程遠いものです。

 宮城に対しては、「私は〜」とアイ・メッセージ(主観伝達)の形をとり、「だが…」と語尾をあいまいして自分で考える余白を与えています。

 桜木の時も質問形にし、自らの「強み」に自分で気づくように促しています。

 三井の時には、第三者の視点(敵チームから見て)を導入しています。「(自分には)自信がない」。そんな心のベクトルが過度に内面に向く心の視野狭窄状態から、視点を引き上げ、解放することに成功しています。

 この「言葉がけ」こそ、まさにアドラー流の「勇気づけ」といえるものです。

 安西先生は、「上から目線の賞賛」「厳しい叱咤の言葉」によってリーダー(監督)に依存する心理を選手につくり出したりしません。「気づき」を促し、自分たちの力で困難を乗り越える「心の力」を与えているのです。

 安西先生のリーダーシップ・スタイルが、このコミュニケーションのとり方から、理解することができますね。


安西先生の名言から学ぶ「勇気づけ」

「スラムダンク27巻」表紙画像
『SLAM DUNK 27巻』
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 山王工業との試合が始まります。安西監督が考え出した奇襲が功を奏し、前半は2点差のリードで折り返します。しかし、後半となり実力差が現れ始めると、58対36と点差が開きます。

 ここで監督は、スタメン出場していた桜木をベンチに下げます。ベンチから試合を見させて、勝つための秘策を授けるためでした。どうするかを伝え終わると、安西監督は桜木を「勇気づけ」ます。

安西先生の名言④

 「それが出来れば君が追い上げの切り札になる…‼︎」

『スラムダンク 27巻』(井上雅彦 集英社)

 ベンチの補欠メンバーが思いを託すため、次から次へと桜木に握手していきます。

 監督の言葉と補欠メンバーの行動が、桜木の心を強く揺り動かし、後半戦の活躍につながります。桜木の心理状態がこう解説されていました。

 「こんな風に 誰かに必要とされ 期待されるのは始めてだったから…」

『スラムダンク 27巻』(井上雅彦 集英社)

 アドラー心理学の重要な概念に「共同体感覚」(social interest)があります。

「共同体感覚」とは、自分を受容し、他者を信頼し、家族や職場、社会など「共同体」の中で「自分は必要とされている」「自分の居場所はここだ」と思える肯定的な感覚です。

 アドラーは、「共同体感覚」の育成と保持を人生の大きな目的としています。

 桜木花道は、問題児でした。

 バスケ部に入ってからも次から次へと問題を起こしています。その問題行動が、ギャグと相まって漫画の面白さを格別のものにしています。ですが、「こんな風に 誰かに必要とされ 期待されるのは始めてだったから…」という言葉から、「共同体感覚」の欠落を理解でき、これは物悲しい事実です。

 桜木はバスケ部に所属し数多くの人々と関わっていくことで、そして安西監督の数々の「勇気づけ」があり、物語の終盤27巻目(全31巻)でやっと、「自分は必要とされている」という感覚を抱くことができたのです。

「お父さんお母さんは僕のことを大切にしてくれる」
「僕はこの学校にいていいんだ」
「私はこの職場で必要とされている」

 そんな「共同体感覚」を育むことで、人は「生きる力」を育むことができます。

 アドラーは『生きる意味』(興陽館)の中で、こう書いています。

『生きる意味』の表紙画像
『生きる意味』(興陽館)
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「人間は共同体感覚を発達させつづけて進化するのですから、人間の存在は「善である」ことに強く結びついていることと推定できます。「悪である」ように見えるものは、進化の過程のしくじりととらえるべきですし、そもそもの認識が間違っています」

『生きる意味』(アルフレッド・アドラー 興陽館)p48

 リーダーシップを発揮しようとする時、人間の存在を「善である」ととらえることは、リーダーに力を与えます。なぜなら「悪である」という認識は、人間への不要な「恐れ」を生み出し、「善である」は、勇気をもたらすからです。

 リーダーにとって、誰かを「勇気づけ」をすることが、もちろん大事です。それと同じくらいに、自分で自分を「勇気づけ」できることが大切です。

 リーダーもひとりの人間。善なるひとりの人間です。

(文:松山 淳)


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