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SL理論(状況対応型リーダーシップ) Situational Leadershipをわかりやすく解説

リーダーシップ・コラム005 SL:シチュエーショナル・リーダーシップ

 SL理論とは、リーダーシップ理論のひとつである。SLは、「Situational Leadership」の頭文字を組み合わせたもの。日本語では、「状況対応(型)リーダーシップ」と訳される。SL理論の提唱者は、ポール・ハーシー(Paul Hersey)ケネス・ブランチャード(Kenneth H Blanchard )

 SL理論とは、フォロワー(リーダーについていく人)の状況によって、リーダーが、自身のリーダーシップスタイルを柔軟に変えていくことである。

 SL理論の提唱者であるふたりの代表的な著書を軸に、SL理論について、わかりやすく解説していく。

リーダーシップは状況に合わせて変化させる。

グループディスカッションの光景写真

 リーダーシップの代表的理論に「SL理論」があります。

 SLは「Situational Leadership」(シチュエーショナル・リーダーシップ)の頭文字をとったものです。「Situational 」とは、「状況の」という意味ですので「Situational Leadership」とは、「状況にあわせたリーダーシップ」のことです。ちょこっと堅く表現すると「状況対応(型)リーダーシップ」なんて言い方をします。

SL=Situational Leadership
⬇️
「状況対応(型)リーダーシップ」

SL理論の生みの親 ハーシー&ブランチャード

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SL理論の提唱者は、ポール・ハーシー(Paul Hersey)ケネス・ブランチャード(Kenneth H Blanchard )です。ケネス・ブランチャード(Kenneth H Blanchard)は、ケン・ブランチャード(Ken Blanchard)という名で知られています。

ポール・ハーシー(Paul Hersey)は、カリフォルニア・アメリカ大学大学院教授を務めた行動科学者であり、「リーダーシップ研究センター」を創設しました。2012年に故人となっています。

ケン・ブランチャード(Ken Blanchard)は、マサチューセッツ大学教授も務めた組織心理学者で、「ブランチャード研究所」の所長です。『1分間マネジャー』は、全世界で1,300万部のベストセラーとなりました。『1分間リーダーシップ』『1分間セールスマン』など、ブランチャードは『1分間シリーズ』の著作群で成功した作家としても有名です。

『1分間リーダーシップ』(K・ブランチャード、P・ジガーミ D・ジガーミ ダイヤモンド社)
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「Situational Leadership」は、訳者によって翻訳が異なりますが(「状況適応」「状況即応」)、ここでは、ブランチャードの著『1分間リーダーシップ』(訳 小林薫 ダイヤモンド社)からの訳をとって「状況対応型リーダーシップ」といたします。

それでは、その「状況対応型リーダーシップ」の具体的な内容について、見ていきましょう。


SL理論でいう状況とは、どんな状況のこと?

「Situational Leadership」は、「状況にあわせたリーダーシップ」と書きました。では、ここでいう「状況」とは、何のことでしょうか?

その主なものは、「フォロワーの状況」です。

例えば、上司がリーダーで、部下がフォロワーというケースで考えてみます。部下には、入社1年目の新入社員から、仕事をひとりで回せる中堅の部下もいます。仕事に取り組む意欲には差があり、スキルにも差があります。つまり、どんな組織でも部下個人の発達度合いには「差」があるわけです。

その発達度合いの「差」を考慮しながら、リーダーシップを変化させるのは、とても自然なことです。

SL理論のイメージ図。
SL理論のイメージ
個々の状況に応じてリーダーシップを使い分ける。

社歴の長いベテラン社員だけど、異動があって、その部署の仕事をするのは初めてで新人同様という部下もいます。営業部から人事部に異動したり、経理部から営業部にいったら、仕事に必要な専門知識がゼロに近い状態であり、異動してきた当初は、新入社員のようなものです。

ですので、リーダー(上司)はフォロワー(部下)のレベル(状況)に応じてリーダーシップ・スタイルを変えていくのを理想と考えます。そこで、SL(状況対応型リーダーシップ)は、こう定義できます。

SL理論

SL(状況対応型リーダーシップ)とは、リーダー(上司)がどんなフォロワー(部下)に対しても画一的に対応するのではなく、フォロワーの発達度(状況)によって、そのスタイルをしなやかに変化させていくリーダーシップ。 

リーダーシップに絶対の正解はない!

状況に合わせたリーダーシップが生まれる背景として、「リーダーシップに唯一絶対の正解はない」という、ハーシーとブランチャードの考えがあります。

まっつん
まっつん

SL理論は、1960年代後半に生まれたとされています。それ以前のリーダーシップの研究家の中には、「最善のリーダーシップ・スタイルはある」と主張する者たちがいました。つまり、「リーダーシップには唯一の正解がある」という理論です。でも、SL理論は、「そうではない」と主張したわけです。

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ハーシーとブランチャードの共著で「SL理論」を詳述した『行動科学の展開』(生産性出版)には、こんな記述が見られます。

その後の数十年の研究は、最善のリーダーシップ・スタイルなど存在しないという主張をハッキリ支持している。成功し、効果的であるリーダーは、自分のスタイルを状況の必要に適応させているのである。

『行動科学の展開』(P・ハシィ K・H・ブランチャードほか 生産性出版)p115

SL理論の4つの基本的リーダーシップ・スタイル

 あなたが上司であれば、「部下の状況」にあわせてリーダーシップを変化させていくのが、SL(状況対応型リーダーシップ)です。

では、どんな風に・・・?

 ブランチャードは『1分間リーダーシップ』(ダイヤモンド社)の中で、4つの状況と4つの基本的なリーダーシップ・スタイルについて説明しています。

 まず、リーダーの行動に「指示的行動」と「援助的行動」を設定します。双方の行動についてキーワードが3つあります。

SL理論の2つの行動
  1. 指示的行動
    何をするのか、どのような方法でするのか、どこで行うのか、いつするのかをはっきりと部下に告げ、その遂行行動を細かく監督することである。
    『構造化する』(仕事の仕組みづくりをする)『コントロールする』『監督する』
  2. 援助的行動
    部下の話をよく聞き、その努力に対して援助や支持や励ましを与え、問題解決や意思決定への参加を促すようにすることである。
    『賞賛する』『傾聴する』『促進する』

『1分間リーダーシップ』(K・ブランチャード、P・ジガーミ D・ジガーミ ダイヤモンド社)p63

 そして、「部下の発達度」を組み合わせて4つのマトリクスを作ります。ここで4つの状況が生まれます。

4つの基本的なリーダーシップ・スタイル「指示型」「コーチ型」「援助型」「委任型」。

 例えば新入社員への対応は、S(スタイル)1「指示型」が理想となるでしょう。会社のことも、仕事のこともまだよくわかっていません。社会人マナーから始まり、配属された部署に必要な専門知識などを教えながら、「こうしてください」と、接するスタイルはより「指示的」になります。

 それに対して、仕事をひとりで回せる入社5年目〜10年目の社員であれば、指示の度合いは減っていき、任せる度合いが高くなっていきます。実績があり信頼できる部下であれば、完全に「任せきる」というS4「委任型」が基本となるでしょう。

 部下の状況に応じて「指示的行動」と「援助的行動」を交えながら、S1「指示型」・S2「コーチ型」・S3「援助型」・S4「委任型」というリーダーシップ・スタイルを使い分けていくわけです。

ブランチャードは、4つのリーダーシップ・スタイルを以下の通り説明しています。

  • S1「指示型」
    リーダーは具体的な指示命令を与え、仕事の達成をきめ細かく監視する。
  • S2「コーチ型」
    リーダーは引き続き指示命令を与え、仕事の達成をきめ細かくはするが、決定されたことも説明し、提案を出させ、前進するように援助する。
  • S3「援助型」
    リーダーは仕事の達成に向かって部下の努力を促し、援助し、意思決定に関する責任を部下と分かち合う。
  • S4「委任型」
    リーダーは意思決定と問題解決の責任を部下に任せる。
  • ※『1分間リーダーシップ』(K・ブランチャード、P・ジガーミ D・ジガーミ ダイヤモンド社)p38

部下の成長あわせてリーダーシップ・スタイルも変化する。

 リーダー(上司)の指導のもとフォロワー(部下)は成長を遂げていきます。

 例えば、経理から営業に異動してきた若手の部下A君がいたとします。A君は営業の知識・スキルを持ち合わせていないので、上司は、『指示型』をとることになるでしょう。でも、時間がたちA君が営業の仕事を覚えていけば、任せる度合いも高くなっていきます。すると、部下の状況に合わせて『コーチ型』からさらに『援助型』へとリーダーシップ・スタイルを変えていくことになります。

概念図にある「赤い線の矢印」は、そうした流れを、意味しています。

スキルの習得度合いによってリーダーシップを使い分ける。

 個人によって発達度合いに差があり、ひとりの人間には「強み」「弱み」があります。例えば、若手社員のBさんは、数字に強く書類作成は得意(強み)だけど、対人関係が苦手で人とコミュニケーションをとるのが苦手(弱み)です。

 この様に、部下のスキルを分解して、「強み」「弱み」を把握できていれば、ひとりの部下のスキルの発達度合いを考慮して、スキル別に対応を変えることも可能ですね。

 Bさんの数字や書類をまとめる「強み」に対しては、S4「委任型」にして、できるだけ任せるようにして、お客さんとの折衝という「弱み」には、S2「コーチ型」にして、よく話し合いをしながら一緒になって仕事を進めていきます。

「俺のリーダーシップ・スタイルこうだ」と決めつけて、ひとつのスタイルを全ての状況に当てはめるのではなく、状況にあわせて自身のリーダーシップ・スタイルをしなやかにに変化させていく。

これがSL(状況対応型リーダーシップ)です。

リーダーシップを使い分けることに驚く上司のイメージ図
イラスト:なのなのな

SL理論は、公平さを目指す!

 部下の状況に応じて接した方を変えていくと、ひとつ気になることが出てきます。例えば、こんなケースを考えてみましょう。

 部下が3人います。3人とも同期入社です。性格はバラバラで、仕事の発達度合に差があります。そこで、入社して成長著しいA君には『援助型』で、まあまあのB君には『コーチ型』で、飲み込みが遅いC君には『指示型』をとっていました。

 成長のスピードには個人差があります。当たり前の話ですね。すると、C君に不満が出てきました。

 「みんな同期なのに、なんで俺には仕事を任せてくれないんだ」。

 本人の性格にもよりますが、リーダーの対応が異なると「平等じゃない」と不満を募らせ始める部下が出てきます。

 この課題に対して、SL理論は「平等じゃなくていい」と考えます。『1分間リーダーシップ』では、こんな言葉が紹介されています。

「平等でないものを平等に扱うことほど不平等なことはない」

『1分間リーダーシップ』(K・ブランチャードほか ダイヤモンド社)p42

 この言葉は、もちろん、「部下の不満なんかどうでもいい!」と言っているわけではありませんね。部下の不満はモチベーション・ダウンにつながりますし、組織の雰囲気を悪くします。

 ですので、リーダーはあらかじめ、SL(状況対応型リーダーシップ)でいくことを、部下に対して説明し納得しておいてもらうことがポイントになります。

「平等」は、組織にマイナスの影響。

 それに、C君に対して優秀なA君と同じのようなリーダーシップ・スタイルをとったら、仕事のスキルが未熟なためC君は、大きな失敗を犯して、社会人として生涯消すことのできない「心の傷」を負うかもしれません。

 また、他のメンバーから「C君に、あれはないよ!」などと、チームの雰囲気を悪くする、より大きな不満が生まれてくるかもしれません。

まっつん
まっつん

「悪平等」という言葉がある通り、平等さに固執することは組織にマイナスの影響を及ぼします。ですので、状況に応じてリーダーシップ・スタイルを変えることが「公平」だと言えるのです。 

 部下の発達度合いに応じてリーダーシップを使い分けることは、「目的」ではなく「手段」です。リーダーの本来の「目的」は、部下の成長、組織の成果です。C君とA君へのスタイルが異なるのは、「目的」を達成するために必要なことです。

SL(状況対応型リーダーシップ)を発揮しようとする時に、「平等であろうとすること」が、つまづき石となりがちです。でも、目的を忘れず、時には、厳しく事にあたるのがリーダーシップの本質です。

「平等ではなく、公平に」。

 「平等」でなくなることを恐れずに、「公平さ」を大切にして、SL(状況対応型リーダーシップ)を発揮しましょう!

リーダーシップは平等でないことを喜ぶ女性の画像
イラスト:なのなのな

(文:松山 淳)(イラスト:なのなのな)


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