『AI分析でわかったトップ5%リーダーの習慣』(越川慎司 Discover)は、27社の管理職を対象に集めたデータをAI分析した結果を元に書かれています。
・行動履歴の合計時間:1400時間以上
・トップ5%管理職:1,841名
・一般的な管理職 :1,715名
データー取得では、「過去5年間の人事評価」に始まり「メールの送受信履歴」、インタビューでの言語分析(どのような言葉を使っているか)、感情分析など多岐に渡っています。こうした膨大なデータを分析できるのもAIがあってこそですね。
さて、トップ5%リーダーの特徴は数多くあるわけですが、「手っ取り早く、どんな人たちなの?」という率直な疑問に対して、その人物のイメージをわかりやすく言葉にしている一文がありますので、まず、その箇所を引用いたします。
5%リーダーは世の中の変化や組織のメンバーに対して関心を傾け、その状況を把握しようとしています。眉間にしわを寄せる鬼軍曹などの怖いイメージではなく、懐の深い優しい先輩という印象です。ただ外見は穏やかですが、頭の中では緻密かつ情熱的に物事を考えていることもわかりました。
『AI分析でわかった トップ5%リーダーの習慣』(越川慎司 Discover)p65
トップ5%リーダーは、「鬼軍曹」ではなく「懐の深い優しい先輩」です。
いかがでしょうか。
「ちょっと意外」という感じもしますが、よく考えると「やはりそうなのか」と納得できます。
日本企業でも、ここ10年ほど、メンバーを主役にして、上司が部下を支えようとする「サーバント・リーダーシップ」(支援型リーダーシップ )に注目が集まってきました。
サーバント・リーダーシップ(Servant Leadership)とは、リーダーがフォロワーに奉仕することで「信頼」を獲得し、その「信頼」を源泉として発揮されるリーダーシップ。
鬼軍曹のように部下を地位・権力で支配し動かそうとするリーダーシップは、従来型の組織に多いスタイルです。鬼軍曹型のリーダーは、「上司は部下より偉くて力がある」という固定観念を持っています。
反対に、サーバント・リーダーたちは、従来型の組織図をひっくり返して考えます。経営陣(トップ・リーダー)が下位のボトム層にあり、組織図のトップに位置するのは、顧客にダイレクトに接する最前線の社員たちです。そして、経営陣をはじめとしたリーダーたちは、「奉仕の精神」をもって、最前線で働く人たちを支援(サポート)するのが役割だと認識しているのです。
サーバント・リーダーシップの提唱者ロバート・K・グリーンリーフ(1904-1990)は、著書『サーバント・リーダーシップ』(英知出版)に、こう書いています。
私の経験からすると、真に優れた組織のまさにトップはサーバント・リーダーだ。こうした人々は、謙虚で腰が低く、オープンで人の話を素直に聞き、丁寧で面倒見がよく、その上、決断力がある。
『サーバント・リーダーシップ』(英知出版)p31
『AI分析でわかったトップ5%リーダーの習慣』(越川慎司 Discover)に書かれたトップ5%の優れたリーダーたちの特徴は、グリーンリーフのこの言葉と一致することが多いのです。
「謙虚で腰が低く、オープンで人の話を素直に聞き、丁寧で面倒見がよく」という言葉から想像できるのは、やっぱり鬼軍曹ではなくて、「懐の深い優しい先輩」ですよね。
では、次から、トップ5%リーダーの意外な特徴について3つふれていきます。
データー収集では、会社にカメラを置いて、どんな様子で働いているのかまで録画し、分析しています。すると、トップ5%リーダーは、忙しくセカセカ歩き回っているのではなく、むしろその反対で、その他95%の管理職よりも、ゆっくりと社内を歩いていました。
歩くスピードについて、本人も気づいていないケースもありました。
ただ、トップ5%リーダーの中で58%の人が、他のアンケートで「意図的に時間と気持ちの余裕を作るようにしている」と、答えていました。
著者の越川さんは、この心理的要素が歩く速度に反映されているのではないかと分析していました。
また、トップ5%リーダーは、メンバーから気軽に声をかけられることを「よし」としています。雑談を大切にしているのです。なぜなら、メンバーとのよりよい人間関係が、チームとしての成果に結びつくことを熟知しているからです。
眉間にシワを寄せて、職場をいつもセカセカ歩いていたら、話しかけにくいですね。
いつも怒鳴っているような、また、すぐ否定から入るようなリーダーだったら、そもそも部下から「話しかけよう」と思いません。雑談も、こちらから遠慮したくなります。
リーダーが、ゆっくりと歩くことは、チームのよりよい雰囲気をつくる思わぬ効果があるわけです。
リーダーは、メンバーの力を引き出し、結集し、チームとして成果をあげます。リーダー1人の力で、それは不可能です。
「名選手、名監督ならず」
そんな言葉がある通り、プレイヤーとして求められる能力とリーダーとして求められる能力には違いがあります。
トップ5%リーダーの48%は、「自分がメンバー全員の能力を上回っている必要はない」と答えていました。
一方で95%の一般的な管理職は、「メンバーにかなわないと思いますか」と質問すると、75%の人が「いいえ」と答えたのです。
リーダーとして大切なことは、自分がメンバー(部下)より優れているか否かではなく、チームとして成果を出せるか否かですね。
『AI分析でわかったトップ5%リーダーの習慣』(越川慎司 Discover)には、こんな一文があります。
5%リーダーは、自らの業務遂行能力を高めることを諦めています。自分の業務処理能力を高めることより、メンバーの能力を高めるために、チーム全体を調整することが自分の責務だと思っています。
(中略)
5%リーダーは、全メンバーに何らかのタレント(才能)があると信じているので、他のメンバーとは違う才能を見つけ出し、それをチーム内で際立たせます。
『AI分析でわかった トップ5%リーダーの習慣』(越川慎司 Discover)p57
「部下より優れているかどうか?」に心のエネルギーを使うのは、もったいないことです。
トップ5%のリーダたちは、メンバーに意識が向いていて、メンバーの力を引き出すこと、さらにチームの成果を高めることに心のエネルギーを使うのです。
私も意外だったのは、この時代ですので、人付き合いはある程度ドライなのかと思ったら、トップ5%のリーダーたちは、「人付き合いはウェットで、宴会や会社行事では率先して盛り上げ役を演じている方が多かった」というのです。
前段で「トップ5%のリーダたちは、メンバーに意識が向いていて」と書きました。人付き合いがウェットで、メンバーに意識が向くというのは、つまり、「人間好き」ということですね。
「人間好き」ですから、メンバー(部下)たちの「心の機微がわかる人」なのでしょう。
チーム全体で成果を出し続けるためには、心理的要因も重要であることを5%リーダーは理解しています。匿名のWebアンケートで、5%リーダーの67%が、
・「情報」よりも「感情」の共有を重視する
と答えてしました。これは一般的な管理職の21倍です。
『AI分析でわかった トップ5%リーダーの習慣』(越川慎司 Discover)p66
感情を共有するために、何をすればよいのでしょうか?
それは、話し合いの場で、相手の言うことに「共感」することですね。
今、「1on1」という上司と部下が定期的に1対1で話すことを義務づける会社が増えています。
「1on1」の場はもちろんのこと、誰かと1対1で話す場で、いきなり否定されたり、こちらが話しているのに、言葉をかぶせられたりしたら、話す気を失います。「共感」とはほど遠い行いです。
トップ5%リーダーは、「いきなり否定」したり「言葉をかぶせない」のが特徴でした。「共感」は、「サーバント・リーダーシップ 」の10の特性で、トップに出てきます。
「共感」とは、相手の言うことに「同意」「賛成」することではありませんね。
「給料が上げてくれ」とか、「人をすぐに増やしてくれ」とか、「希望の部署に早く異動させてほしい」とか、
メンバー(部下)の言うことに何でかんでも「同意」することは、実際には不可能です。
そう話す相手の気持ち(感情)に、寄り添うのが「共感」です。
寄り添っていくには、どうすればいいのでしょう。そうですね、「まず聴く」ことです。「まず聴き、ひたすら聴く」ことが、「共感」することにつながります。
トップ5%リーダーは、「ホウレンソウ」(報告。相談・連絡)より、「ザッソウ」を大切にしているそうです。「ザッソウ」とは「雑談と相談」です。
いつも雑談をしつつ、人間関係・信頼関係を築けているので、仕事での困ったこと、悩んでいることをメンバーの方から相談できるのです。
そうした地道な【懐の深い優しい先輩】としてのリーダーシップが、メンバー( 部下)からの信頼を生み出し、
チームの成果につながっているのですね。
『AI分析わかったトップ5%リーダーの習慣』は、文章もわかりやすく、とても参考になると思います。
AIが登場し、科学技術が、どんどん進化しています。そのスピードには、とても追いつけませんが、私たち人間の「意識・心」も進化をし続けています。
世代によって「価値観や考え方が違う」ことの根底には、人類の「意識・心の進化」もあることを忘れていけませんね。「意識・心の進化」も、心理学では研究され続けています。ついつい忘れがちですが、私たち現代人も、進化の過程にいます。
その進化の大きな流れがあるからこそ、時代とともに、求められるリーダーシップ、リーダー像も変化をしていきます。
世界的なパンデミックが意味することを、「意識・心の進化」から考えると、今、大きな転換点にあることは、間違いのないことです。
【懐の深い優しい先輩】
そんなリーダーが、ひとりでも増えることで、会社だけでなく、この世界全体が、よりよく進化していくことでしょう。
(文:松山 淳)