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BTS(防弾少年団)とユングの教え《ユング心理学》

「BTSとユングの教え」アイキャッチ画像

 世界的スター「BTS」(防弾少年団)のミニアルバム『MAP OF THE SOUL:Persona』があります。タイトルにユング心理学で登場する概念「ペルソナ」(Persona)が使われています。このアルバムにはBTSのリーダーRMが歌う『Intro: Persona』が収録されています。

 フルアルバム『MAP OF THE SOUL:7』では、「Interlude:Shadow」「Outro:EGO」の2曲にて、「シャドー」(Shadow)「エゴ」(Ego)というユング心理学の用語が使われています。

MAP OF THE SOUL:Persona
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 『MAP OF THE SOUL』のタイトルは、ユング派分析家マレイ・スタイン(Murray Stein)の著『Jung’s Map of the Soul: An Introduction』に由来するといわれています。BTS の公式ウェブサイトで、この本が推薦図書リストに挙げられていたのです。

 日本版は『ユング 心の地図』(青土社)として発売されています。

 「防弾少年団」を韓国語で発音するとバンタンソニョンダン(Bang Tan Sonyondang)。この頭文字を組み合わせて「BTS」と呼びます。「BTS」(防弾少年団)には「10代・20代に向けられる社会的偏見や抑圧を防ぎ、自分たちの音楽を守り抜く」というメッセージが込められています。

 ユング心理学は難しいといわれます。そこで、心理学に知識のない10代、20代の人たち(ARMYの皆さん)にもわかるように、BTSの曲とからめながら「ペルソナ」「シャドー」「エゴ」ならびに「ユング心理学」について、解説していきます。

C.G.ユングとは

フロイトユングが一緒に写っている写真
前例左がフロイト 前列右がユング

 カール・グスタフ・ユング(Carl Gustav Jung 1875〜1961)はスイスの心理学・精神医学者です。世界三大心理学者のひとりで、分析心理学(analytical psychology)を創始した歴史的偉人です。

 世界三大心理学者は、「フロイト」「アドラー」「ユング」です。

 ユングは、近代精神分析学の開祖であるフロイトの後継者として高く評価された時期がありました。でも、フロイトとは、意見のくい違いから決別してしまうんです。その後、自分なりの心理学(分析心理学)を考え出したのがユングです。

 ですので、ユング心理学とは分析心理学のこと指します。

 ユングの研究範囲をとても広く、夢や神話を研究し「こころ」の構造を理論化していきました。その業績は、心理学者だけでなく芸術家・小説家・アーティストなどに対して、今も大きな影響を与えています。

 「BTS」も、影響を受けた一例といえますね。

 僕たちが一度は聞いたことのある「コンプレックス」「性格の内向・外向」「シンクロニシティ」(共時性)という言葉は、ユングが考えを深め、世に広めた概念です。

ペルソナ・シャドー・エゴ

 さて、ユングは人の「こころ」をどう考えていたのでしょうか。その全体像が下のイメージ図です。BTSの曲名になっている「ペルソナ」・「エゴ」(自我)・「シャドー」(影)がありますね。

ユング心理学の心の全体像

 ユング心理学では、こころを意識無意識のエリアに分けます。

意識のエリア

 「意識」のエリアで行われるこころの働きは、自分で意識(自覚)できます。目が覚めている時、「自分のこと」「自分のしたこと」を、わかっていますね。「今、僕はご飯を食べている」とか、「これから私は勉強するんだ」とか…自覚できることは、意識のエリアで自我(エゴ)が働ているからです。

 ユング心理学での「自我」(エゴ)とは、意識の中心にあり、意識のエリアをまとめる責任者・支配人としての働きをしています。

ちなみに、自我(エゴ)に対するこころの働きが、自己(セルフ)です。ユングは「意識」と「無意識」を含めたこころ全体のまとめる役割を果たすのが、自己(セルフ)と考えました。

 自己(セルフ)はこころ全体の中心にあり、生まれてから死ぬまで、一生の間、人のこころを成長させようと動きつづけます。今も、この文章を読んでいるあなたのこころの中で、自己(セルフ)が働いていて、あなたを成長させようと動いています。

無意識のエリア

 「無意識」のエリアで起きていることを、知ることはとても難しいです。無意識にどんな情報があり、何が起こっているのかを、自分でわかることは、かなり困難なのです。

 自分で知ることの難しい「こころ」のエリアを持っている。ということは、「自分の知らない自分」を誰もが持っているということです。

 でも、無意識がどうなっているのかを知るヒントはあります。ヒントは、寝ている間に見る「夢」です。「夢」は無意識から送れらてくるメッセージです。そのメッセージを読み解くことで無意識が「どんな状態なのか」を知ることができます。

 ですから、ユング心理学では、「夢分析」を大切にするのです。

こころの3のエリア

 ユングは「無意識」をさらに2つに分けて、全部でこころに3つのエリアを設定しました。「意識」と「個人的無意識」と「集合的無意識」です。

心の全体像

意識(conscious):意識ができる心。ペルソナ、エゴ(自我)があるエリア。

個人的無意識(personal unconscious):忘れた記憶などの存在する、その人独自の情報があるエリア。

集合的無意識(collective unconscious):人類に共通するこころの動き方のパターンを生み出すエリア。「影」(シャドー)と関係するエリアである。

 『MAP OF THE SOUL:7』に収録されている曲「Interlude:Shadow」にある「Shadow」(シャドー)は、ユング心理学では、集合的無意識と深く関係します。

 上に書いた通り、集合的無意識は「人類に共通するこころの動き方のパターンを生み出すエリア」です。

 例えば、こんな質問を全世界の人に聞いてみましょう。

〝お母さん〟という言葉から、どんなことをイメージしますか?」

 ここでの「お母さん」とは、自分の母親ではありません。もし、自分の母親が、短気でお酒を飲んでは怒鳴り散らすような人だったら、「お母さん」に対するイメージは、とても悪いものになりますね。

 ですので、ここで質問している「お母さん」は、あくまで一般的にイメージされる「お母さん」を意味します。

 すると、アメリカ人もドイツ人もフランス人もオーストラリ人も南米の人もアフリカの国の人々も、「あたたかさ」「ぬくもり」「優しさ」という共通する言葉が出てきます。

まっつん
まっつん

 こうした心の動きは、人間が本来もっている「人類に共通するこころのパターン」だと、ユングは考えたのです。集合的無意識は、そのパターンを生み出すエリアです。ですから、自分の考える自分(セルフ・イメージ)とは反対に思える心の動き・自分自身=「影」(シャドー)とは、誰もが持ちうるものなのです。

 では、簡単に「ペルソナ」「エゴ」「シャドー」の考え方をおさえて、次から、BTSの曲と一緒に、考えていきましょう。

  • ペルソナ(Persona):外の世界に向けている自分の顔。自分でつくったキャラ。
  • エゴ(Ego):意識のエリアをまとめているこころの働き。「私は私だ」と自覚できる自分の意識。
  • シャドー(Shadow):セルフ・イメージとは反対の自分自身。

『Intro: Persona』by RM

 ユング心理学でいう「ペルソナ」(Persona)とは、外の世界に向けて意識的につくる自分自身の顔です。よく「キャラをつくる」といいますね。「陰キャラ・陽キャラ」なんて言葉もあります。

 ここでいう自分の「キャラ」とは、大きく2つあります。

  •  自分の本来の自然なキャラ
  •  自分で努力してつくっているキャラ→ペルソナ(Persona)

 僕たちが自分の「ペルソナ」を実感するのは、「自分で努力してつくっているキャラ」のことです。

 自然にしていて明るい性格の「陽キャラ」であればいいのですが、学校で、友達の前で、陽キャラを無理にしてつくっているとなると、疲れてしまいますね。

 「本当の俺(わたし)は、違うんだよな」…なんて家に帰って落ち込むことになります。

ペルソナの語源は「仮面」

 ペルソナは、学校や職場という外の世界(外界)で、うまくやっていく上で必要なものです。必ずしも悪いものではありません。ペルソナを上手に使い分けしながら、僕たちは日々を上手に過ごしていきます。こころの全体図では、ペルソナが一番上にあり、外界と接しているのがわかりますね。

 ペルソナの語源は「仮面」です。

ユング心理学の心の全体像

 誰だって、親の前と友達の前と先生の前では、微妙にとる態度が違うものです。その時々で、違う自分を使い分けているのです。それはちょうど、いつくか持っている仮面をつけたり外したりしているようなものです。

 つけたり外したりする責任者が、「自我」(エゴ)です。

ペルソナの自分と本当の自分

『Intro: Persona』by RM
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 『Intro: Persona』は、学校の教室でRMが躍動するシーンから始まります。10代にとって学校は外の世界です。自分でつくるペルソナが最も活躍する場であり、最も傷つく場でもあります。

 つくったペルソナがハーモニーを奏で調和をもたらすこともあれば、時に衝突し対立を生み出すこともあります。その対立は、他人との関係の場合もあれば、自分自身のこともあります。

 「つくった自分」(ペルソナ)「本来の自分」(自己:セルフが対立し、せめぎあい「どれが本当の自分なんだ!」と、悩んでしまう。

 そんな対立を象徴していると思われるのが、RMを見つめる「巨人」が登場するシーンです。

RMを見つめる巨人
『Intro: Persona』by RM
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 この巨人は、無意識の存在であり、ユング心理学でいう自己(セルフ)であると考えられます。僕たちは自分で無意識を知ることはできません。でも、無意識は意識の「俺、わたし、僕」を常に見ていて、何を考え、何をしているのかを理解しています。

 だから、人の道から外れていることをしていると、夢でうなされるのです。

 この巨人は歌っている「今のRM」をさらに「超越した存在」のように感じられます。

 ユングは、心の成長の到達点として自己(セルフ)を設定しています。自己(セルフ)は心の中心にあり、統括する役割を果たし、またひとつのゴールでもあるのです。

つまり、ユング心理学でいう自己(セルフ)とは、「究極の本来の自分自身」のことです

 人は、一生を通して様々な経験をしながら、自己(セルフ)=究極の本来の自分になっていくのです。その心の動きをユングは、個性化(Individuation)と名づけました。最高の自己を実現しようとするので、「自己実現」(Self realization)ともいいます。

『Intro: Persona』歌詞の一部です。

So I’m askin once again yeah(もう一度自分に問うんだ )
Who the hell am I?(俺は誰なんだ?)
Tell me all your names baby(お前の名を言ってみろ)
Do you wanna die?(お前は死にたいのか?)
Oh Do you wanna go?(進みたいのか?)
Do you wanna fly?(飛び立ちたいのか?)
Where’s your soul?(お前の魂はどこだ?)
Where’s your dream?(お前の夢はどこにある?)

Do you think you’re alive?(お前は「生きている」と思うか?)

『Intro: Persona』from『MAP OF THE SOUL:Persona』byBTS(Bighit)

 最後のDo you think you’re alive?(お前は「生きている」と思うか?は、BTS が僕たちに送る強いメッセージであり、と同時に、ユングが伝えたかった教えでもあります。

 ペルソナが大きく強くなると、「つくられた自分」で生きるようになり、「生きている」実感が薄くなります。

 『Intro: Persona』は、「勇気を出して本当の自分を生きろ!」という僕たちに贈られた応援歌です。

「Interlude:Shadow」by SUGA 

『エッセンシャル・ユング』(アンソニー・ストー 創元社)の表紙画像
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 ユングは影(シャドー)について、次のように書いています。

 影ということで、私は人格の「否定的」側面を意味している。それは十分に開発されてこなかった個人的無意識の内容・機能を含めて、私たちが表出したがらない不快な性質をもったものの集合である。

『エッセンシャル・ユング』(アンソニー・ストー 創元社)p101

 つまり「影」(シャドー)とは、「自分が否定した自分」であり、それにふれると不快だと感じる無意識の中に住む「自分自身」です。

 好きな自分と嫌いな自分。嫌いな自分を「俺、わたし、僕」(自我)は受け入れられないので、無意識に閉じ込めます。これが「影」(シャドー)となるのです。

 「いけている」と思う自分(セルフイメージ)と、ちょうど反対の自分が、「影」(シャドー)といえます。

 BTSのアルバム『MAP OF THE SOUL』の元になったといわれる『ユング 心の地図』(青土社)(原題『Jung’s Map of the Soul: An Introduction』)では、「影」(シャドー)について、こう書かれています。

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 自我意識が拒否したものはになり、自我意識が肯定的に受け入れ、協調し、吸収したものは自我の一部、またペルソナの一部となる。影を特徴づけるのは、意識的自我やペルソナとは相容れない特徴や特質である。影とペルソナはともに、自我ではない「人物」であって、私たちが自分だと思っている意識的人格とともに心の内部に存在している。

『ユング 心の地図』(マリー・スタイン 青土社)p150

 つまり、ペルソナと対立するものが影(シャドー)です。

 ペルソナ(persona) v.s 影(shadow)

 ペルソナとは学校や職場でうまくやろうと「つくられた自分」です。つくって自分が受け入れている外(人)に向けた「顔」がペルソナです。

 ペルソナに対して、影(シャドー)は、受け入れられない自分です。嫌いで、見たくない自分です。なので、影は無意識に追いやられ、それを知ること、コントロールすることが難しくなります。

自覚できない影(シャドー)の動き

「Interlude:Shadow」by SUGA 
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 「Interlude:Shadow」の始まりでは、歌い手のSUGAの前方に7体の黒い存在が立っています。「7」は、BTSのメンバー数を意味し、また、影(シャドー)は決して「ひとり」ではありませんので、SUGAの「影」(シャドー)が、たくさんいるともとれます。

 SUGAは黒い服を着ています。これは、SUGA自身が、影(シャドー)に支配されかかっていることの象徴ともいえます。

 「Interlude:Shadow」は、人なら誰もがもつ欲望をストレートに訴える歌詞からスタートします。

I wanna be a rap star(俺はラップスターになりたい)
I wanna be the top(俺はトップになりたい)
I wanna be a rockstar(俺はロックスターになりたい)
I want it all mine(俺は全てを手に入れてみたい)

・・・・

『Intro: Persona』from『MAP OF THE SOUL:7』by BTS(Bighit)

 「欲望」は、生きるエネルギーを生み出します。「何かになりたい」「何かを実現したい」。そうした欲望が行動する力の源となり、自分自身をつくっていきます。

 大なり小なり、ひとつひとつの「欲望」を実現していくことで、「自分の好きな自分」が形づくられていきます。「自分の好きな自分」がつくられるプロセスとは、「自分の嫌いな自分」を捨てていくプロセスです。

 「なりたい自分」がはっきりしてくればくるほど、「なりたくない自分」が無意識のエリアと沈んでいきます。その様子をイメージしているのではと思わせるのが次のシーンです。

「Interlude:Shadow」by SUGA 
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 写真の中央に歌い手のSUGAが立っています。透明の床があり、その下に、いくつもの「影の存在」が見えます。映像では、影の存在が下へ下へと落ちていくのです。

 床から上を「意識のエリア」と考え、床から下を「無意識」としたら、このシーは、SUGAが「自分の嫌いな自分」「なりたくな自分」を無意識のエリアへと追いやっているイメージです。

 無意識に沈んでしまうと、それが何なのかを意識するが難しくなります。でも、影(シャドー)は無意識の中で生きていて、時に反逆をしてくるのです。その様子が「Interlude:Shadow」の映像で描かれています。

「Interlude:Shadow」by SUGA 
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 上の写真は映像の後半に出てきます。冒頭と同じセットですが、黒い姿をした「影の存在」はいません。開かれた扉はひとつひとつ閉まっていきます。黒い洋服を着ていたSUGAは、クリーム色の明るい洋服に変化しています。

 映像の冒頭では、黒い影の存在たちが、扉を開けて飛び出して行きました。

 ここではその開かれた扉が閉じていくのです。

 扉が閉じていくのは何を意味しているのでしょう。おそらく、無意識に閉じ込めた「影」(シャドー)と格闘し、人間的な成長をともなう「こころの作業」が行われ、ひと区切りしたことを意味していると考えられます。

 ユング心理学では自己成長するために、「影」(シャドー)と「自我」(エゴ)が混ざり合い、ひとつにまとまっていくことを大切にします。これを「こころの統合」といいます。

影(シャドー)が生きる力になる。

 ユング心理学では、意識と無意識の「統合」によって、こころが成長すると考えます。一生を通して「こころの統合」を繰り返すことで、個性化(Individuation)が行われていくのです。

 「影」(シャドー)もまた、「こころの統合」をしていく無意識の素材です。

 「嫌っていた自分」が、これからの人生を「生きる力」になりうるのです。

 では、「影」(シャドー)を統合するためには何が必要でしょう。そうです、自分の中に「影」(シャドー)がいることに気づき、「影」(シャドー)の存在もまた「自分自身である」と自覚することです。

 「Interlude:Shadow」には、日本語訳で次の言葉があります。

俺はお前で お前は俺だ 分かるだろ」
俺達はひとつでもぶつかるだろ

この歌詞での「お前」とは、無意識に沈めた嫌ってきた自分=「影」(シャドー)ともとれます。

SUGAは、俺(自分)と影は「一つ」だといい、「ぶつかるだろう」といいます。この「ぶつかりあい」が大切なのです。

 『ユング 心の地図』(青土社)には、こう書かれています。

『ユング 心の地図』(青土社)
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 自我を成長させるのは、「衝突」である。葛藤、困惑、苦悩、悲しみ、苦痛といったものだ。それらが自我の発達を促す。

『ユング 心の地図』(マレイ・スタイン 青土社)p44

 どれだけ統合しても、自分の中に住む影(シャドー)が、完全に消えることはないでしょう。

 映像で7つの影が描かれていたように、ひとつだと思っても、また別の影(シャドー)が、心の中にはあるものです。それをいい意味でとらえれば、僕たちを成長させる心の素材が、無意識にはそれだけ「豊富にある」ということです。

 「Interlude:Shadow」のメッセージに耳を傾けばがら、「自分の嫌いな自分」を認め・受け入れ、自己成長をとげていきましょう。

「Outro:EGO」by J-HOPE

 ユング心理学いう「エゴ」とは「自我」のことです。「自我」とは意識のエリアをまとめている責任者であり支配人です。「俺は俺だ」「わたしはわたし」と考えられるのは、意識のエリアに「自我」(エゴ)があるからです。

ユング心理学の心の全体像

 自我(エゴ)が未熟なのが、赤ちゃんです。赤ちゃんは「俺は生きてる」とか「わたしはお腹が空いている」とは考えません。「欲求」「考え」「思い」と「自分」という存在が結びついていないのです。

 そう考えると、「自我」意識があるとは、こころが成長している証といえます。

 ユング心理学では「こころの統合」を大切にする、と書きました。意識と無意識の素材を融合(フュージョン)させていくようなイメージです。

自我(エゴ)が自分をリードする

 「こころの統合」では無意識を重視しますが、「自我」(エゴ)なくして「こころの統合」はありえません。

 なぜなら、自分自身の意識(自我:エゴ)が、「夢をつかもう」「なりたい自分になろう」「もっと成長しよう」と、自分をリードしていくことで「こころの統合」は実現できるからです。意識(自我)と無意識がタッグを組んでこそ、自分らしい成長の道は広がっていくのです。

 そう考えると、自我(エゴ)とは、自分をリードするこころの働きといえます。

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 『BTS、ユング、こころの地図: 『MAP OF THE SOUL:7』の心理学 』(マレー・スタインほか 創元社)では、自我(エゴ)について、こう解説されれています。

 自我とは人間としての経験について、私たちが意識的に理解するものである。私たちが意識的に「自分自を知る」ことのもととなる特性や性格のすべてを含みながら、自我は行動し、計画を進めていく。

『BTS、ユング、こころの地図: 『MAP OF THE SOUL:7』の心理学 』(マレー・スタインほか 創元社)p74

 ユングは、自我(エゴ)について、『ユング 分析心理学』(みすず書房)の中で、こう書いています。

『ユング 分析心理学』(みすず書房)
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 意識に関して重要なことは、自我なくしては何事も意識になりえないということです。もし、あることが自我と関係をもたないならば、意識として存在しないのです。

『ユング 分析心理学』(C.G.ユング みすず書房)p25

 ユング心理学では、集合的無識に代表される無意識の働きを強調しますが、上の言葉から、ユングが自我(エゴ)の存在をかなり重視していたことがわかります。

 自我(エゴ)があってこそ「こころ」は理解されるのであり、自我(エゴ)があってこその「俺、わたし、僕」であり、自我(エゴ)あってこその人生です。

俺は俺、わたしはわたし、僕は僕

 「Outro:EGO」の映像では、歌い手のJ-HOPEが病院に担ぎ込まれるシーンがあります。これは人生の苦みや悲しみの「辛い体験」「挫折」を象徴をしているかのようです。アルバム全体として、最後の曲「Outro:EGO」に至るまで様々な曲の中で描かれてきた、いくつかのネガティブな経験を一つにまとめたような印象を受けます。

「Outro:EGO」by J-HOPE
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 『ユング 心の地図』(青土社)でユング派分析家マレイ・スタインは『 自我を成長させるのは、「衝突」である。葛藤、困惑、苦悩、悲しみ、苦痛といったものだ』と書いていましたが、まさに、その象徴といえるシーンです。

 そして、映像の途中でとても印象的なのが、J-HOPEの子供時代の写真です。

「Outro:EGO」by J-HOPE
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 ユングは「自我なくしては何事も意識になりえない」といいました。過去にいた自分。現在の自分。未来を生きる自分。過去・現在・未来をつなぎ、過去の自分と今の自分と未来の自分が、「同じ自分である」と意識できるのは、自我(エゴ)が働くからです。

 この自分が同じ自分であると信じられるから、僕たちは「自分らしい自分」という個性を自覚することができるのです。

 子供時代の写真をいくつか登場し、J-HOPEは、過去を回想するポーズをとります。過去から今を振り返りるのも自我(エゴ)が、その役割をになうからです。

 この自我(エゴ)の働きは、「過去の自分も今の自分も未来の自分も、自分は自分なんだから、それでいいじゃないか」という、いい意味での開き直りの感覚を生み出します。この自分に対する「開き直り」の感覚こそが、こころの強さを生み出すのです。

 そして最後は、都会の夜景にJ-HOPEがたたずむシーンです。

 「Outro:EGO」には、「Wherever my way」(どこまでも自分が赴くままに)Just trust myself(ただ自分を信じて)​という歌詞がありました。

「Outro:EGO」by J-HOPE
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 ネオンには「ARMY」(BTSのファンのこと)「EGO」「HOPE」「MY WAY」「TRUST MYSELF」の文字が見られます。

 この英語を組み合わせると、「ARMY」へ、そして10代、20代の若者たちへの『MAP OF THE SOUL:7』全体を通してのメッセージでもあることがわかります。

 「EGO」あるがままの自分を大切にして、
 「HOPE」希望を持って
 「MY WAY」自分の道を進め!
 「TRUST MYSELF」自分を信じて!

 ユングは「全体の悪の改善は個人から、それも彼が他人にではなく自分に責任を負うときにのみ始まるのである」(『個性化とマンダラ』みすず書房p142)という名言を残しています。

 自分に責任を負うとは、自分を信じることです。

 コロナにウクライナの戦争と、難しい時代になっています。

 そんな難しい時代からこそBTSの発信するメッセージをしっかりと受けとめて、「自分を信じて」( trust myself)、よりよい自分を、よりよい人生を創りあげていきましょう。