ユングのタイプ論(心理学的類型論)は、2つの「一般的態度」(外向・内向)と4つの「心理機能」(感覚・直観・思考・感情)から構成される。
ユングは4つの「心理機能」のうちのいずれかが、他に比べて優先的に使われる傾向があるとした。最も優先される機能を「優越機能」(主機能)という。ユングは20年にわたる臨床経験と研究からタイプ論を生み出した。
1921年、スイスで刊行された『心理学的類型(Psychplogical Types)』に詳細が述べられている。日本での訳本は、『タイプ論』(訳 林義道 みすず書房)と『心理学的類型』(訳 高橋義孝/森川俊夫 人文書院)の2つがある。
タイプ論がどんな経緯で生まれてきたのかは、『タイプ論の目的と経緯』で述べた。本稿では、ユングの考え出した「一般的態度」と「心理機能」について「心のメカニズム」という観点を軸に解説していく。
まず、タイプ論が「心のメカニズム」であることを述べ、次に「一般的態度」(外向↔︎内向)について解説し、「そもそもタイプとは何か」に関して考察を深め、最後に「心理機能」(感覚・直観・思考・感情)について説明していく。
目次
タイプ論は「心のメカニズム」のこと
「性格タイプ」と聞くと、ついつい私たちは、「〇〇タイプはこんな人」「◯◯タイプでは、こうする」と、ある性格タイプから表に現れてくる「性格の特徴」に、とらわれがちです。
ですが、ユングのタイプ論を理解しようとする時、「性格タイプの特徴」ではなく、「どんなパターンで心が働いているのか」という「心のメカニズム」の観点からから考えていくと理解が深まります。「心のメカニズム」という視点をキープして説明を進めていきます。
ユングも「内向と外向はけっして性格ではなくメカニズムなのであり、そのメカニズムはいわば任意のスイッチを入れたり切ったりできるものである」と『タイプ論』(みすず書房p549)で書いています。
もちろん、ユングは『タイプ論』(みすず書房)の中で、「性格の特徴」を説明しています。その具体例もあげています。では「性格の特徴」にとらわれることの何がいけないでしょう。2つ理由があります。
ひとつ目の理由は、タイプに関する「性格の特徴」を読んで分かったつもりになると、人間への理解が浅いままに終わってしまうからです。人の性格はとても複雑で奥深いものであり、1冊の本で説明しきれるようなものではありません。
ふたつ目の理由は、性格タイプの知識で人を決めつけ、人の可能性を奪う危険があるからです。「あの人は◯◯タイプだから、できないんだよ」といった「決めつけ」は、人の心を傷つけ、未来の可能性を小さなものにしてしまいます。
それでは、ひとつ目の理由から、もう少し詳しく説明していきます。
あるタイプの人がどんな態度をとり、どんな行動を実際にとるのかは、個人よってかなり差があります。
例えば、同じ「◯◯タイプ」の人が、10人集まっている場面を想像してみてください。
まず顔や体格が違うでしょう。声の高さ低さも、どんな風に話すかも、きっと違います。性格的に明るそうな人もいれば、暗そうな人もいるでしょう。「優しそうだな」と思える人もいれば、「この人、きつそうだな」と感じられる人もいるでしょう。よくしゃべる人も、あまりしゃべらない人も…。
人の性格は複雑です。「〇〇タイプは、〜な特徴をもっている」という記述は、あくまでも「ある傾向」をいっている過ぎません。「必ずそうだ」というわけではないのです。
ですので、「タイプの特徴」の説明は、あくまでその性格タイプの一側面を表しているだけに過ぎません。そのまま「そのタイプの人は誰もがそうだ」と断定的に受け取ってしまうと、複雑な人間の性格をあまりにも単純化してとらえてしうことになり、人間理解が浅いものになります。
タイプ論とは、その人の性格に関する「ある傾向」ことですので、「タイプの特徴」に関する説明には、過度にとらわれないようにしましょう。
「あの人には無理よ、だって〇〇タイプだもん」
そんな風に、「性格タイプの特徴」に関する知識が増えてくると、ついつい「決めつけ」をしがちです。能力と性格タイプを結びつけた「決めつけ」は、タイプ論の誤った理解のしかたです。「できないかもしれないし、できるかもしれない」。それが人というものです。
「このタイプの人は、確かによくこうするけど、いつでもそうするとは限らない」
そんな「断定しない姿勢」が、タイプ論を理解する時には求められます。「決めつけない」ということです。「決めつけない」ことがタイプ論への理解を深めますし、人の可能性を尊重することになります。
ユングも『タイプ論』(みすず書房)の「序論」で、性格の複雑さと難しさについて述べています。
「ある人がどのタイプに入っているのかを明らかにすることはしばしばきわめてむずかしく、それが自分自身のことになるととくにむずかしいのである」
「人間の心理反応はきわめて複雑であるから、私の説明能力をもってしては、それを見事に描ききることなどとうてい及びつかないことであろう。やむえず私は、観察されたたくさんの事例から抽出したいくつかの原理を説明するにとどめざるをえない」
タイプ論を作り上げたユングでも、「人の性格は複雑で、タイプを明らかにすることは難しい」といっています。この観点は、人間の性格タイプを理解していく時に、決して忘れたくないものですね。
さて、上のユングの文章に「原理」とあります。「原理」は「 事物・事象が依拠する根本法則。基本法則」(デジタル大辞泉小学館)のことです。
ユングは「人の性格はあまりに複雑なので、その基本法則の説明にとどめて」いました。世界三大心理学者のひとりユングでも、「性格の特徴」に関する説明に、謙虚な姿勢を見せていたのです。
それほど人の性格とは奥深く、なかなかわからないものです。このユングの謙虚さを知っておくことで、「性格タイプの特徴」に過度にとらわれず、「あの人には無理よ、だって〇〇タイプだもん」といった、性格タイプの知識で簡単に人を「決めつける過ち」から遠ざかることができます。
さて、話を最初に戻しましょう。いいたかったことは、「性格タイプの特徴」ばかりに目を奪われることなく、「どんなパターンで心が働いているのか」という「心のメカニズム」の視点を忘れないでおくことでした。
それでは、ユングの考えた「心のメカニズム」である、2つの「一般的態度」と4つの「心理機能」へと話を進めていきましょう。
ユングのタイプ論〈全体像〉
まずユングのタイプ論でいわれる「一般的態度」「心の機能」と、その組み合わせから考え出された「8つのタイプ」について、全体像を把握しておきます。下の表がそれです。
一般的態度 | |||||
外向 | 内向 | ||||
心理 機能 | 非合理 機能 | 知覚 機能 | 感覚 | 外向 感覚 | 内向 感覚 |
直観 | 外向 直観 | 内向 直観 | |||
合理 機能 | 判断 機能 | 思考 | 外向 思考 | 内向 思考 | |
感情 | 外向 感情 | 内向 感情 |
「一般的態度」として「外向↔︎内向」の2つがあります。
「心理機能」として「感覚↔︎直観」「思考↔︎感情」の4つがあります。
「感覚↔︎直観」は知覚機能であり非合理機能となります。
「思考↔︎感情」は、判断機能であり合理機能となります。
〈一般的態度〉:内向↔︎外向
〈心理機能〉
:感覚↔︎直観(知覚機能/非合理機能)
:思考↔︎感情(判断機能/合理機能)
それでは、まず「一般的態度」である「内向・外向」から説明してきます。
〈一般的態度〉外向↔︎内向について
「外向・内向」の考え方は、「一般的態度」という言葉でくくられています。この「一般的態度」について、ユングは次のように書いています。『心理学的類型Ⅱ』(人文書院)の翻訳がわかりやすいので、そちらから引用します。
「私は関心の方向、すなわちリビドー運動の方向によって区別される前者を一般的態度類型と呼び、後者をそれに対して機能類型と呼びたい。」
上の文にある通り、ユングのいう「一般的態度」とは、「関心の方向」であり「リビドー運動の方向」を意味します。「リビドー」とは、「心のエネルギー」のことです。
「機能類型」とは、4つの心理機能(感覚↔︎直観、思考↔︎感情)のことです。
つまり「一般的態度」とは「関心の方向」「心のエネルギーの方向」についての考え方となります。
例えば、あなたが仕事(勉強)をしていて、机の上にあるスマホに、ふと「関心が向いた」とします。あなたのリビドー(心のエネルギー)は、スマホに向けられたのです。スマホは、自分の「外の世界」にありますので、その時あなたは「外向」したことになります。
スマホを手にしたあなたは、アルバムのアプリを開き、写真をながめ始めました。ある1枚の写真を目にした瞬間に、昔のことが鮮明に思い出されてきました。目を閉じ、思い出にひたります。あなたは思い出の世界で、昔の仲間と語りあい楽しく笑っています。次から次に、昔の様々な場面が思い出されてきました。
あなたの「関心」は、「思い出」という自分の「内の世界」に向いています。次から次に思い出が展開されるのは、「心のエネルギー」が「思い出の世界」に向けて流れ続けるからです。この時「関心」が「内の世界」に向いているので、これが「内向」です。
ユングは『タイプ論』(みすず書房)のなかで、タイプ論に関連する概念を「定義」する章を設けて、多くのページを割いています。その「定義」の章にある「外向↔︎内向」の説明を引用します。
【外向】
「外向とはリビドーが外へ向かうことを意味する。私はこの概念によって主体が公然と客体に関係していること・すなわち主体の関心が積極的に客体に向けられている状態・を表す」(p461)
【内向】
「内向とはリビドーが内へ向かうことである。これは主体が客体に対して消極的な関係を持っていること表わしている。関心が客体に向かわずに、客体から主体に引き戻されるのである」(p475)
「主体」「客体」というと、なんだかわかりにくくなりますね。「主体」とは、私(自分)のことです。「客体」とは、自分の「外の世界」にあるヒト・モノ・コト(他人・物・出来事など)と考えてみてください。
先ほどの例でいえば、スマホが「客体」です。ふとスマホ(客体)に関心が向いたのですから、リビドー(心のエネルギー )が「外へ向かう」ことになったので、これが「外向」です。
そして、スマホの「写真」(客体)を見て、「思い出」という「内の世界」にひたり始めました。「客体」(写真)から「主体」(私/自分)に引き戻されて、リビドー(心のエネルギー)が「内へ向かう」ことになったので、これが「内向」です。
ユングと30年以上、共に研究を重ねた女性にマリー=ルイズ・フォン・フランツ(Marie-Louise von Franz 1915-1998)がいます。フランツはユングのタイプ論に関する論を発表していて、日本では『ユングのタイプ論―フォン・フランツによる劣等機能/ヒルマンによる感情機能』(創元社)で読むことができます。
この著でフランツは図を使い、「外向↔︎内向」の態度の違いを次のように表現しています。
上の図の矢印が、ユングのいう「関心」「リビドー」(心のエネルギー)の方向です。外向タイプは、主体よりも外の世界に存在する「客体」に関心が向く傾向があります。反対に、内向タイプは、客体より主体(自我=私)に関心が向く傾向があります。
「内向↔︎外向」とは、「関心」「リビドー」(心のエネルギー)の方向性の違いであることを、ここでおさえておきましょう。
そもそも「タイプ」とは何か?
さて、「内向タイプ」と「外向タイプ」という「タイプの違い」が出てきました。ここで「4機能」(感覚・直観・思考・感情」の説明に入る前に、ちょっと寄り道をして、「そもそもタイプとは何なのか?」について考えていきます。
まず、「内向↔︎外向」に関して、前段であげたユングの言葉に文章を追加して紹介します。
ユングのタイプ論を理解しようとする時、「素質はいつも絶対に決定的なものとは限らない」のですから、なおさら「心のメカニズム」という視点が大切になりますね。
さて、上の文章で大切なのは、「メカニズムが習慣的に支配することによってのみ、それに対応した性格が発達する」です。ここでいう「習慣的に支配され発達している性格」が、ユングのいう「心理学的タイプ(類型)」を意味します。
「習慣」とは、「長い間繰り返し行ううちに、そうするのがきまりのようになったこと」(デジタル大辞泉 小学館)ですね。
ですので、ユングのいう「心理学的タイプ(類型)」とは、「内向↔︎外向 / 感覚↔︎直観 / 思考↔︎感情」の対となる「心のメカニズム」のうち、どちらかを優先して繰り返し使っていて「そうするのがきまりのようになっている心のパターン」のことです。
そこで、「外向タイプ」「内向タイプ」の説明を次のようにできます。
「内向」よりも「外向」を「きまりのように」(習慣的に)使っている人は、「外向タイプ」。
「外向」よりも「内向」を「きまりのように」(習慣的に)使っている人は、「内向タイプ」。
「心理学的タイプ(類型)」とは、その人の慣れている「心のパターン」のことであり、「心の習慣」といういい方もできますね。
ここで忘れてならないのは、「内向↔︎外向」という対になっている「心の態度」を、人は両方とも使っているという点です。
浅い理解になってしまうと、外向タイプの人は「いつでも外向」していて、内向タイプの人は「いつでも内向」していると、誤ってとらえてしまうことがあります。
そんなことはありませんね。外向タイプの人も「内向」することはありますし、反対に、内向タイプの人も「外向」することはあります。ユングは、「対となる心のメカニズムを人は両方とも使う」ことついて、こう述べています。
「自然のなりゆきとして、一方のメカニズムが優位に立つことになる。そして何らかの事情でこの状態が慢性化すると、そこからタイプが、すなわち習慣となった構え(態度)が生まれるのである。そうなると一方のメカニズムが持続的に支配することになるが、そうかといって他方のメカニズムを完全に押さえつけることはできない。(中略)あるタイプの構え(態度)とはつねに一方のメカニズムの相対的な優位を意味しているにすぎない」
『タイプ論』(訳 林義道 みすず書房)p13
※上の文で構え(態度)としています。『タイプ論』(みすず書房)では「一般的態度」の「態度」の部分の訳が「構え」となっています。本稿では「態度」の訳を選んでいるので、(態度)を追記しています。
「外向」が他方のメカニズムである「内向」を押さえつけて、100%外向するだけのタイプ(人)になることはありません。「内向」が「外向」のメカニズムを完全に押さえつけることもありえません。
「あるタイプの構え(態度)とはつねに一方のメカニズムの相対的な優位を意味しているにすぎない」。
上の文は、この後の「心理機能」(感覚↔︎直観 / 思考↔︎感情)の説明にも当てはまってきます。「相対的に優位」とは、2つを比較した時に、どちらかが優位になっているということです。
「内向↔︎外向 / 感覚↔︎直観 / 思考↔︎感情」の対になっている「態度/機能」のどちらかを、人はより優位に使っています。優位になることが「心の習慣」になっていて、それが、その人の「性格」をつくりあげていきます。
そこで、自分のタイプはどれなんだろうと考えていく時には、「対」となっている「態度/機能」の「いつも、どちらを優位に使っているかな?」「日常生活の中で、どちらを習慣のように優先的に使っているだろう?」と、自問自答してみるとよいでしょう。
ユングの共同研究者であるフランツ博士は、さらにわかりやすく、こうアドバイスしてくれています。
自分のタイプが何かを知りたければ、何が最も重大であるかと考えるよりもむしろ、「私がいつも当たり前のようにしているのはどのようなことだろうか」と自分に問うてみることである。
『ユングのタイプ論―フォン・フランツによる劣等機能/ヒルマンによる感情機能』(フォン・フランツ、J・ヒルマン 創元社)p34
「当たり前のようにしている」とは、その「心のメカニズム」(態度/機能)が、相対的に優位に働き、習慣的になっていることです。
外向と内向で、どっちが今の自分にとって「重大か?」「必要か?」と考えるのではなくて、日頃から「当たり前のようにしている」のが「内向なのか?」「外向なのか?」と考えてみるのです。
フランツの言葉をかりれば、「当たり前のようにしている」ことの中に、その人の「タイプが現れている」といえます。つまり、そもそもユングのいう「心理学的タイプ」とは、あなたが「当たり前のようにしている心のメカニズム」ともいえますね。
それでは、「そもそもタイプとは何か?」の寄り道を終えまして、本線に戻り、次から、ユングの考えた「心理機能」(感覚↔︎直観 / 思考↔︎感情)について述べていきます。
〈心理機能〉 感覚↔︎直観 / 思考↔︎感情について
4つの心理機能(感覚↔︎直観 / 思考↔︎感情)の説明を始めるにあたって、まず、ユングが、4つの心理機能をコンパクトに述べている文が『タイプ論』(みすず書房)にあるので、ご紹介します。わかりやすくするため、部分的に箇条書きのかたちをとります。
基本機能として、感覚・思考・感情・直観を挙げることができる。私は
感覚という概念の中に感覚器官にするすべての知覚を含めたい。また、
思考は知的認識と論理的推論の機能、
感情は主観的な価値判断の機能、
直観は無意識的過程の知覚ないし無意識内容の知覚を指すもの
と理解する。
以上が「心理機能」についてのユングの説明です。
〈心理機能〉
:感覚↔︎直観(知覚機能/非合理機能)
:思考↔︎感情(判断機能/合理機能)
さて、ユングは上にある通り、感覚↔︎直観を「知覚機能」かつ「非合理機能」としました。思考↔︎感情を「判断機能」でかつ「合理機能」としました。ところで、この「知覚」「判断」「合理」「非合理」とは何を意味しているのでしょう。
「知覚機能」とは、「知覚する心の機能」ですから、「情報を取り入れる心の働き」です。人は五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)を使ったり、ある可能性がふとひらめいたり・イメージが浮かんだりして、情報を取り入れることができます。
五感による情報を取り入れは「感覚機能」の主な働きです。ある可能性に関しての「ひらめき・イメージ」による情報の取り入れは「直観機能」の役割です。
この知覚機能をユングは「非合理機能」としました。では、ユングは何をもってして「非合理」と「合理」とを分けているのでしょかうか。
その答えは「理性」です。合理的か非合理的かの判断基準を、ユングは「理性」を軸にしています。
『心理学的類型Ⅱ』(人文書院)にて、ユングはこう述べています。
「合理的なものとは理性的なものであり、理性にかなっているものである」(p220)
「理性の法則とは、平均的で「正しい」態度、適応した態度を特徴づけるとともにこれを規制する法則である。これらの法則と合致するすべては合理的であり、これらの法則と一致しないすべては非合理的である」(p221)
判断機能とは、まさに漢字の通りで、知覚機能を使って取り入れた情報をもとにして「判断する心の働き」です。この判断は、その人の「理性の法則」に基づいて行われて、その人にとっての「平均的で正しい、ふさわしい態度」をもたらします。
感情機能は、自分の価値に基づく主観的な判断であり、思考機能は、論理的で客観的な判断です。「思考↔︎感情」機能を使って何かを判断する際に、人は「熟慮」することがあるので、ユングは「思考↔︎感情」を「合理機能」だとします。
「熟慮」とは、よく考えをめぐらせることですね。「よく考えること」は理性的な行いです。理性的とは合理的なのことです。ゆえにユングは「思考↔︎感情」機能を「合理機能」とするのです。
これに対して、情報を取り入れる「感覚↔︎直観」機能に「理性」は求められません。
目で何かを見たり(感覚)、何かがパッと突然ひらめたり(直観)するのに、「よく考える」必要はありません。「五感」「ひらめき」による情報の取り入れは、「理性の法則」という枠組みの外側で行われる心の働き(機能)です。そこでユングは、「感覚↔︎直観」を「非合理機能」としたわけです。
心理機能は、「理性」を基準にして、合理機能と非合理機能にわけられます。
さて、最初にあげた心理機能に関する説明は、やや言葉がかたくて、わかりにくさがあります。もう少し、やさしく説明しているのが、次の2つの文です。
感覚は現実に存在するものを確認する。
思考は存在するものが意味することを認識できるようにしてくれるし、
感情はそれがいかなる価値をもっているかを、そして最後に
直観は今そこに存在するものに潜んでいる、どこから来て今後どなるのかという可能性を示してくれる(p576)
感覚活動は基本的に何かが存在することを、
思考はそれが何を意味するか、
感情はそれにいかなる価値があるかを確認し、そして、
直観はそれがどこから来てどこへ行くのかを予想し予感する。(p588)
いかがでしょう。4つの心理機能について3つのユングの文章を紹介しました。
次に、4つの心理機能をひとつひとつ整理していきます。具体例があるとわかりやすいので、具体例をあげて説明していきます。
感覚↔︎直観 / 思考↔︎感情の具体例
ユングの側近と呼ばれ、ユングがとても信頼していた存在にC.Aマイヤー(Carl Alfred Meier 1905 – 1995)がいます。マイヤーの著『ユング心理学概説-3 意識』(創元社)に、心理機能の具体例をみつけました。
マイヤーいわく、4つの心理機能について「ユングはこれを、時折とても楽しんで、次のように説明していた」(p139)そうです。
現前の対象について、
⑴感覚は、たとえば次ようなデータを伝える。それは赤い、輝いている、キラキラ光る、匂う、決まった形がある。
⑵思考は、この対象を、赤ワインを満たしたグラスだ、と認識させる
⑶感情は、この組み合わせを喜ばしいものとし、あるいは禁酒家の場合は嫌まわしい「毒」とする。
⑷直観は、それに、それが1967年物のポンマールで主人役の友人XYのクリスマスプレゼントかもしれぬ、と思わせる。
ここから4つの心理機能にについて、ユングとマイヤーの言葉を参考にしながら、まとめていきます。
読み進むにあたって、ここから書いてあることは、「ユングが説明したことの『全て』ではなく、あくまで『一部』を取り上げているに過ぎない」という点を、ぜひ、心にとめておいてください。
それでは、マイヤーの具体例にそって感覚→思考→感情→直観の順番で説明していきます。
ユングは感覚機能について「感覚とは何よりもまず五感による感覚、すなわち感覚器官や「身体感覚」(運動感覚や脈拍感覚など)による知覚である」(『タイプ論』創元社 p458)と書いています。
グラスに赤ワインが注がれていて「赤い、輝いている、キラキラ光る」は目で見た視覚情報であり、赤ワインのかぐわしい「匂い」がしたら嗅覚情報です。この赤ワインを実際に飲んでみて、どんな味かを感じるのは味覚ですね。
どっしりとした重めのワインか、さらっとしたライトな味わないなのか、舌でワインを味わい、その時、「どんな味か?」に関する情報をえたら、これが五感による感覚機能の働きです。
感覚機能とは、五感や身体感覚を使って情報を取り入れる心の働き(機能)です。
さて、つづいて思考機能です。
ユングは思考を「知的認識と論理的推論の機能」(p551)とし「存在するものが意味することを認識できるようにしてくれる」(p576)と書いていました。
「意味」は、「沈黙は賛成を意味する」のように、「表現・行為が、ある内容を示すこと」(デジタル大辞泉 小学館)となり、「内容」を表す言葉にもなります。つまり、「それがどんな内容なのか」「それがそもそも何であるか」の問いに、知的・論理的な推論を通して筋道の通った判断をもたらすのが思考機能です。
赤ワインの満たされたグラスを見て、その人のもっている知識を基準にして、確かに「赤ワインを満たしたグラスだ」と認識をしたら、「それがそもそも何であるか」を分析し、論理的に正しい結論を出したことになります。
『タイプ論』(みすず書房)を翻訳した、林義道は『心のしくみを探るユング心理学入門II』(PHP)の中で、思考機能をシンプルに、こう定義しています。
「このことは論理的に見て正しいか正しくないか」という判断をする機能である。合理的に見て首尾一貫しているかどうかということを判断する」
『心のしくみを探るユング心理学入門II』(PHP)
この説明はわかりすいですね。では、つづいて感情機能です。
ユングは感情機能を「その内容に対して受け容れるか拒むか(「快」か「不快」か)という意味で、一定の価値を付与する活動である。」(『タイプ論』創元社 p462)と書いています。
「感情機能」は、その人に価値を与える心の活動(働き)であり、「それにいかなる価値があるか」「それは私にとってどうであるか」を判断する心の働きです。
よく誤解されているのが、「感情的に判断することが、ユングのタイプ論でいう感情機能だ」という見方です。これは違います。
感情機能とは、喜怒哀楽などの「情緒」を使って感情的になって判断する「心の働き」ではありません。
ですので「感情タイプは、すぐ感情的になる人」でもありませんので、注意していきましょう。
受け入れるのか、受け入れないのか。「快」か「不快」か。人の価値観・思いに基づいて判断する「心のメカニズム」を、ユングは「感情機能」としたのです。
「酒は百薬の長である」「酒は人生を華やかにする」と、お酒を肯定的に「受け入れる」価値観を持っている人であれば、ワインは「喜ばしいもの」として「受け入れる」判断になるでしょう。
しかし、「酒は人生を狂わす」「酒は百害あって一利なし」と、お酒を頭から否定し、まったく「受け入れない」価値観の禁酒家であれば、グラスに注がれた赤ワインは「嫌まわしい毒」と判断されてしまうでしょう。
価値観に基づく判断は、本人にとって「理性」の枠組みで行われるので、ユングは感情機能を合理機能としたのです。
ユング研究所で主任を務めたこともあるユング派J・ヒルマン(James Hillman 1926-2011)は、『ユングのタイプ論』(創元社)の中で、感情機能について、次のように書いています。
原始的な水準の感情機能は、主にイエスとノー、好きか嫌いか、受容か拒否かの反応をする。(中略)こうした価値体系とそれによる判断は、論理的ではないが、合理的ではある。
『ユングのタイプ論―フォン・フランツによる劣等機能/ヒルマンによる感情機能』(フォン・フランツ、J・ヒルマン 創元社)p155
感情機能が合理機能と呼ばれることに、どうしても違和感がある場合、ヒルマンの「論理的ではないが、合理的ではある」の言葉で、腹落ちするかもしれません。
思考機能は、論理的な「心のメカニズム」です。感情機能は、価値・思いに基づく「判断」の「心のメカニズム」です。喜怒哀楽に任せて感情的に判断する機能ではないので、その点を誤解しないようにしましょう。
それでは最後に、直観機能です。
ユングは「直観は主として無意識的な過程である」(『タイプ論』p394)とし「直観はより大きな可能性を捉えようとする、なぜなら予感が最もうまく働くのは、まさに可能性の直覚によるからである」(p395)と書いています。
直感機能は、知覚機能です。情報を取り入れる心の働きです。
「それはどうありうるか」「それはどうなりうるのか」。さまざまな可能性を洞察して、情報を取りれてくるのが、直感機能の働きのひとつです。
ここでポイントとなるのが、「直観」という漢字です。「直感」(inspiration)ではなく「直観」(intuition)です。
「直感」(inspiration)は、いわゆる「ひらめき」「勘」と呼ばれるもので、感覚的に瞬時に結論に至ることです。
「直観」(intuition)は、考える過程をはぶいて、ものごとの本質を見抜いたり、見通したりすることです。「洞察」が類似語です。
つまり、ユングの定義する「直観機能」は、「単なる直感(inspiration)だけではない」と…、それがここで言いたいことです。
ただ、「直観」が働き、何かを見抜いたり見通したりして「わかったー!」と答えが出る時の感じ、あるいは、「きっとこうなるに違いない」と、未来の可能性を「予感」する時の感じは、私たちが一般的にいう「ひらめき」「勘」と重なるものがあります。
ですので、ユングの「直観機能」は、「直感」を含めての「心のメカニズム」だと理解するとわかりやすいでしょう。
マイヤーズの「直観」の例では、「それが1967年物のポンマールで主人役の友人XYのクリスマスプレゼントかもしれぬ、と思わせる」と、ありました。
本に「ポンマール」と確かに書かれてあるのですが、これは「ポマール」のことでしょう。「ポマール」は、フランスにあるワインの産地として有名な地域です。
赤ワインの注がれたグラスを見て、これは「1967年物のポマール」で「友人XYのクリスマスプレゼントかもしれぬ」と「思わせる」のが直観機能の働きです。
でもよく考えたら、実際には「ポマール産のワイン」でも「クリスマスプレゼント」ではないかもしれません。他の人は、「1970年物のボルドーで、誕生日プレゼント」と、思いつくかもするかもしれません。
直感機能は、このワインは「どうありうるか」という「可能性」を知覚していきます。ユングは、「直観はつねに外的生活からの出口と新しい可能性を追い求めている」(『タイプ論』p396)と書いています。
さまざまな可能性をとらえていこうとするのがユングのいう「直観」という「心のメカニズム」です。
また、直観機能の働きについて、ユングはこうもいいます。
「直観は主として無意識的な過程であるため、その本質を意識的に理解することはきわめてむずかしい」(『タイプ論』p394)
「そうか!これは、そういうことだったのか!」
そんな風に、何かを見抜いた時、何かがわかった時…、「どうしてそう思うの?」と質問されて、「だって、そう思うから、そう思うんだよ」と、言葉を返したことがないでしょうか。「そう思うから、そう思うんだよ」としか答えようがない…。これが非合理的ということです。
知覚機能は非合理機能でしたね。非合理的な直観による知覚プロセスを、意識的に理解することは、とてもむずかしいのです。直観の働きは、「なぜそうひらめくのか」について説明しようがありません。説明しようとすると、無理に後から言葉を付け加えている感じがします。
「なぜか、わからないんだけど、わかった!」
空から降ってくるかのように、内なる世界から湧き出てくるかのように、非合理的に情報の取り入れられてくるのが、「直観機能」というものです。
基本機能として、感覚・思考・感情・直観を挙げることができる。私は
感覚という概念の中に感覚器官にするすべての知覚を含めたい。また、
思考は知的認識と論理的推論の機能、
感情は主観的な価値判断の機能、
直観は無意識的過程の知覚ないし無意識内容の知覚を指すもの
と理解する。
さて、4つの心理機能について説明してきました。説明に入る前に書いた通り、以上は、ユングの説明の「一部」であることを忘れないでくださいね。
では、最後に、ユング派河合隼雄の4つの心理機能の例がありますので、そちらを紹介して本稿を終えます。
ひとつの灰皿を見ても、
これが瀬戸物という部類に属すること、そして、その属性のわれやすさなどについて考える思考機能、
その灰皿が感じがいいとか悪いとかを決める感情機能
その灰皿の形や色などを適確に把握する感覚機能、
あるいは灰皿を見たとたん、幾何の縁に関する問題の解答を思いつくような、そのものの属性を超えた可能性をもたらす直観機能、これらはおのおの独立の機能であって、ある個人が、これらのうちのどれかに頼ることが多い場合、それぞれ、思考型とか感情型とかであると考える。
『ユング心理学入門』(河合隼雄 培風館)p47-48
最後に…。
本稿では、2つの「一般的態度」(外向・内向)と4つの「心理機能」(感覚・直観・思考・感情)について説明してきました。「◯◯タイプの人の特徴」に関することは控えて、「心のメカニズム」に焦点をあわせて書いてきました。これら「心のメカニズム」から生まれる「8つのタイプ」については、次のコラムで述べています。
ユング心理学の基本的な知識なしに、原書『タイプ論』(みすず書房)をいきなり読むと、挫折する可能性が高いです。専門家でなければ、『ユング心理学入門』(河合隼雄 培風館)にある知識で十分だと思います。
河合先生は、とてもわかりやすい文章を書く人として有名です。日本人の読者を前提に書いていますので、原書に比べたら、圧倒的にわかりやすいです。
ユングが書いた『心理学的類型(Psychplogical Types)』は抽象度が高く、具体例が少なく理解するのに、とても骨が折れます。また、ユングは医師(精神科医)として「病」と関連させながら論を進めていくので、「性格タイプ」の話題ではありますが、やはり専門家向けです。
最後に…、「あの人は◯◯タイプだから、無理だよ」といった、タイプの知識を使っての「決めつけ」は、くれぐれもしないようにしましょう。人の可能性はとても豊かなものなのですから…。
(文:松山 淳)
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