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エドワード・L・デシのモチベーション理論

エドワード・L・デシのモチベーション理論Edward L. Deciのアイキャッチ画像

 エドワード・L. デシ(Edward L. Deci)、1942年生まれ、1970年カーネーギー大学で学位を取得。米国ローチェスター大学の心理学教授。動機付け理論の大家。「外発的動機付け」と「内発的動機付け」の関係性を理論化した。自律的決定が動機付けに影響を与える「自己決定理論」を提唱。著書:『人を伸ばす力―内発と自律のすすめ』(エドワード・L. デシ , リチャード フラスト , 桜井 茂男  新曜社)

議論を巻き起こしたモチベーション理論

 心理学者エドワード・L・デシは、モチベーション理論における「内発的動機づけ」の研究で有名な人です。1942年に生まれ、1970年にアメリカのカーネギメロン大学で学位を取って、ロチェスータ大学で、長年、学生を指導しながら研究を重ねました。

『人を伸ばす力』(新曜社)の表紙画像
『人を伸ばす力』(新曜社)
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 デシの名を世に知らしめたのは、次の考え方です。

 外から与られる報酬(外的報酬)が、内発的なモチベーションを低下させる。

 この考え方が発表されたのは、1970年代初頭のことです。その頃のモチベーション理論では、「報酬」と「罰」を軸に考えるのが常識でした。

 報酬(アメ)と罰(ムチ)を与えることによって、人間のやる気は高まったり下がったりする。

 給料をあげれば、人はやる気を出す。給料を下げれば、やる気を失う。
 罰を厳しくすれば、人は動き、罰をゆるめれば、人は怠ける。

 そんな風に「ある条件を与えれば、ある反応を示す」と「行動主義心理学」のアプローチで考えるのが、当時のモチベーション理論の定説でした。

 デシは、「行動主義心理学」の定説に一石を投じたのです。

 「報酬を与えると、やる気がなくなるなんて、そんなバカな話しはない」

 行動主義の心理学者は批判しデシの意見に反対しました。当時の心理学会で議論を巻き起こし、波紋を広げることになりました。

2つの心理的報酬:「外的報酬」「内的報酬」

 モチベーション理論では、人間を心理的に動かす「報酬」として、次の2種類があります。

❶「外的報酬」:給与、地位、評価など
❷「内的報酬」:充実感、達成感、自己成長感など

  

外的報酬〜外から与えられる

 「外的報酬」は、給与や地位や他人からの評価など、外から与えられる報酬です。「外的報酬」によって発生したりしなかったり、上がったり下がったりするモチベーションを「外発的動機づけ」(外発的モチベーション)といいます。

イルカの曲芸 イメージ写真

 

 動物園や水族館の動物ショーをイメージしてみてください。猿やイルカが芸をこなすと、調教師がエサをあげていますね。調教師は、外的報酬(エサ)を与えることで、猿やイルカを自分の思う通りに動かそうとします。

 猿やイルカからすれば、外的報酬(エサ)で、動かされていることになります。

 人間も同じ動物ですので、似ているところがあります。

 給料がぐっと高くなれば、気分はあがります。もし、高級車が1台買えるくらいのボーナスが出たら、「明日もがんばろう」と思えます。会社から、つまり「自分の外」から与えられる報酬が、人のモチベーションに影響を与えるわけです。

内的報酬〜心の内からわき出てくる〜

「内的報酬」は、人の内面(心)からわき出てくる「報酬」です。

  •  仕事で大きな成果をあげた時の「達成感」
  •  お客様から「君のおかげでうまくいったよ」と深く感謝された時の「充実感」
  •  しどろもどろだったプレゼンが、うまくできるようになった時の「自己成長感」
達成感のイメージ画像

 人間の内面からわき出る、なんともいえないポジティブな感覚を味わった時、「よし、もっとがんばるぞ」と、モチベーションが高まります。

 内からわき出るものが「内的報酬」であり、「内的報酬」よって影響されるモチベーションを「内発的動機づけ」(内発的モチベーション)といます。

 モチベーション・マネジメントでは、「外的報酬」と「内的報酬」とのバランスを取ることがポイントですが、長続きする「モチベーション」は「内的報酬」によるものだとされ、「内発的モチベーション」に働きかけることが重視されています。 

 では、次からデシが行ったソマ・パズルの心理実験についてお話していきます。

ソマ・パズルによる内的報酬の心理実験

 1969年、デシは、当時人気のあった「ソマ・パズル」(立体パズル)を使い、「外的・内的報酬」に関する心理実験を行いました。「ソマ・パズル」は、デシ自身が実際にやってみて、とても達成感があり、やめられなくなったというパズルです。

ソマ・パズル(イメージ写真)
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実験では、ソマ・パズルをとく被験者(学生)を2つのグループにわけました。

  1. パズルをとくと金銭的報酬(1ドル)を受け取れる
  2. バズルをといても金銭的報酬(1ドル)は受け取れない

ソマ・パズル実験の流れ

STEP.1
パズルに挑戦
学生は30分間パズルに取り組む
STEP.2
監督官退出
実験する側の人(監督官)は、30分経過すると「データ入力作業があるため」といって部屋を出ていきます。
STEP.3
自由時間
監督官がいなくなり、 学生たちは残され、不意に自由時間が訪れる。机の上には『タイム』などの雑誌が置かれている。今やっていたパズルもある。雑誌を読むことも、ぼーっとすることも、パズルをすることもできる。

 ポイントは「最後の自由時間で学生たちが何をするか」です。

 お金を受け取ることと受け取らないことの差が、どんな行動になってあらわれるのか?

 2つのグループで、明らかに差が出ました。

ドル(外的報酬)を受けとらないグループは、パズルに取り組む時間が多かった。
1ドル(外的報酬)を受けとったグループは、パズルに取り組む時間が少なかった。

 1ドルを受け取らなかったグループは、パズルに取り組むことの「面白さ」「楽しさ」が「内的報酬」になっていたと考えられます。

「このパズルをやっていると、面白くて楽しい」

 そんな「内的報酬」から、「もっとやってみたい」というモチベーションの高い心理状態を生みだしていたのです。

 スマホやTVでのゲームをよくやる人たちなら、その気持ちがわかるでしょう。別にお金が欲しくてやっているわけではなく、「ただ単純に面白くて楽しいからやっている」のですよね。

アンダーマイニング効果

 でも、お金(外的報酬)がからむと、「ただ単純に面白いし楽しい」(内的報酬)というピュアなモチベーションに傷がつきます。学生は意識的、無意識的に「お金のためにやっている」と「不純な動機」を感じたのです。

 この事実からデシは、次のように結論づけました。

 お金(1ドル)という外的報酬が、パズルをする「楽しさ」(内的報酬)に悪影響を及ぼし、内発的動機づけを弱めたのだ。

 この結論が「報酬を与えると、やる気がなくなるなんて、そんなバカな話しはない」と、波紋を広げたのです。

 外的報酬が、モチベーションを悪影響を与える(やる気を削ぐ)ことを「アンダーマイニング効果」(undermining effect)と呼びます。

 「undermine」には「害する」「傷つける」という意味があります。 

アンダーマイニング効果の例

 例えば、あなたが小学生の低学年で、庭の掃除をしたらお駄賃として毎回50円もらえたとします。それで毎月、1,000円ぐらいなっていて、お菓子を自由に買うことができました。1,000円(外的報酬)欲しさに、せっせと庭掃除に励んでいました。

 数年後のある日、親から言われました。

 「もう高学年になったんだから、今日からお駄賃は無しよ」

 「そんなバカな…」。庭掃除をするモチベーションが急低下することは想像つくと思います。これが「外的報酬の悪影響」です。

 デシが行った実験はもちろん1回だけはありません。1回だけだったら「たまたま、そうなっただけだよ」と笑われてしまいます。デシは、心理実験を何度も繰り返し、データを積み上げ、その結果「外的報酬の悪影響」(アンダーマイング効果)を指摘したのです。

 デシは『人を伸ばす力』(新曜社)でこう書いています。

「外から動機づけられるよりも自分で自分を動機づけるほうが、創造性、責任感、健康な行動、変化の持続性といった点で優れていたのである」

『人を伸ばす力―内発と自律のすすめ』(新曜社)

 つまり、デシは「外発的動機付け」よりも、自分の内から生まれる「楽しさ」「達成感」「充実感」などの「内的報酬」によるモチベーションのほうが、「やる気」を持続するうえで有効だと考えたわけです。

 では、次から「内発的動機づけ」(内発的モチベーション)を生み出す3つのポイントについてお話していきます。

「内発的動機づけ」を高める3つのポイント

 では、「内発的動機づけ」はどうすれば生み出すことができるのでしょうか。デシはその源泉として「3つの欲求」を指摘しています。

  1. 「自律性への欲求」
  2. 「有能感への欲求」
  3. 「関係性への欲求」

ここから、上の「3つの欲求」について、順番に説明していきます。

自律性への欲求

 新人のA君は、マイクロ・マネジメント型の上司から「あれをやれ、これをやれ」「あれは、どうなった、これはどうなった」と、日々、事細かに管理されながら働いています。命令された仕事だけをこなして、1日が終わるような毎日です。

 こんな風に、他人に管理され、コントロールされる状態が長びくと、内発的なモチベーションは下がっていきます。デシはこう言っています。

「人は自らの行動を外的な要因によって強制されるのではなく自分自身で選んだと感じる必要があるし、行動を始める原因が外部にあるのではなく自分の内部にあると思う必要がある」

『人を伸ばす力―内発と自律のすすめ』(新曜社)

 

つまり、他人(外側)からコントロールされるのではなく、「自分のすることは自分で決めて動きたい」という「自律性への欲求」(内側)を満たすことで内発的動機づけは高まるわけです。

よって、会社では「権限の委譲」が行われ、部下が自由に「自己決定」できるように、上司は部下に仕事を「任せる」スタンスをとるマネジメント・スタイルが求められるわけです。

まっつん
まっつん

 私も様々な企業の方々と打合を行います。上司と部下の方が同席するケースがほとんどです。部下がメインの担当者として私と話をしていると、横に座る上司が口を出してきて、話の主導権を奪ってしまい、ずっとしゃべりつづけて、担当者(部下)が決めたことを、ひっくり返してしまうことがあります。

 苦笑いする方(部下)もいれば、露骨に嫌な顔をする方(部下)もいます。もしそれが日常的になっているなら、任せ切ることのできない上司によって、部下の「自律性への欲求」は害されて、モチベーションは下がることになりますね。部下ではなく、上司のモチベーションは高まっていますが…(笑)

有能感への欲求

「有能感」とは、自分で自分の仕事を「こなすことができる」「やりとげることができる」という感覚です。自分が何をするかを「自己決定」できたとしても、仕事のレベルが、本人の力量をはるかに超えている場合には、「有能感」をもつことができませんね。これでは、内発的動機づけは、下がってしまいます。

そこでデシは、こう言っています。

「有能感は、自分自身の考えで活動できるとき、それが最適の挑戦になるときにもたらされる」

『人を伸ばす力―内発と自律のすすめ』(新曜社)

 ポイントとなるのは「最適な挑戦」ですね。

 仕事が簡単すぎても難しすぎてもいけません。「ストレッチ目標」という言葉がある通り、努力次第で目標達成は可能だと実感できている時に、「有能感」は生まれてきます。そして、その「有能感」が内的報酬となって、モチベーションを維持できるようになるです。

関係性への欲求

 「関係性の欲求」とは、「他者と関わっていたい」「他人とよい関係を築きたい」「他者に貢献したい」という欲求のことです。デシは、「関係性の欲求」との関係で、こんなことを言っています。

「自律性を主張することは、自分だけの世界に浸ることを求めているわけではない。なぜなら、真に自分らしくあるということには、他者の幸福に対する責任を受け入れることを伴うからである」

『人を伸ばす力―内発と自律のすすめ』(新曜社)

 デシがこう言うのは、「自律性」が、自己中心的な「わがまま」につながる危険性を認識しているからですね。

 自分で決めて、自分で動く。

 そう言うと「自律性」という言葉は、響きのいいものです。ですが、他人の意見に耳をかさなくなったり、「自分のためだけ」に動くようになったりしたら、それは「関係性の欲求」を失った自己中心的な心理状態であり、単なる「わがまま」になってしまいます。

 自分ひとりだけでは、生きているわけではありません。私たちは、支え支えられ、助け助けられ、人との関係の中で生きています。心が成長した人たちは、「生かされている」という認識をもっているものです。

 「自律性」は、成長した人間にともなう特性です。「自己中心性」は人として心が未熟な状態です。心が成熟してゆけば、自然と、他人の幸福や社会の発展に貢献しようと、責任感を抱くようになります。

「関係性の欲求」を源泉としたモチベーションは、持続性と強度があります。

 会社で働いているならば、「関係性への欲求」を満たす原点は、職場の人間関係ですね。人間関係の良好な職場では、社員がイキイキと働いているものです。

 社員が「自律性」をもって、ひとりの人間として成長し、「有能感」をもてるように支え合い、互いを尊重する「関係性」が組織風土として根付けば、「明日もがんばろう」と思えるモチベーションの高い社員が増加するでしょう。

 デシの提唱した「内発的動機づけ」は、今も、モチベーションを語るうえで、忘れてはいけない大切なことを示唆してくれています。

(文:松山 淳


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