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エイミー・C・エドモンドソンに学ぶ「心理的安全性」

コラム110エイミー・C・エドモンドソンに学ぶ「心理的安全性」

 「心理的安全性」(psychological safety)の第一人者であるハーバード・ビジネススクール教授エイミー・C・エドモンドソン(Amy Claire Edmondson)は、「心理的安全性」について「だれかに助けを求めたり、ミスを認めたりしたからといって、罰が科されることはないと保証することである」と言及する。

 彼女は、コロンビア号爆発事故を2年以上に渡って調査。その後、キャリアを重ね、効果的なチームづくりを研究するようになり、「人と人がチームになって仕事を通しての学習を繰り返し、成果をあげる」ことを「チーミング」(teaming)と名付けた。「心理的安全性」の概念は、「チーミング」の必要条件のひとつであった。

 本コラムでは「コロビア号爆発事故」についてまず述べ、その事故と関連付けながらエドモンドソン教授の考える「心理的安全性」について論を進める。

「NASA」の組織風土に問題あり

 2003年1月、7人の宇宙飛行士の命が空に散りました。スペース・シャトル「コロンビア号」の爆発事故です。地球に帰還しようと大気圏に再突入する際の悲劇でした。原因は、発射時に外部燃料タンクの断熱材が剥落して、機体にダメージを与えていたからです。

コロンビア号
NASA http://grin.hq.nasa.gov/ABSTRACTS/GPN-2003-00080.html

 打ち上げした段階で、トラブルが発生していたのです。

 打上げ後、NASA(アメリカ航空宇宙局)のエンジア「ロドニー・ローシャ」は、機体が損傷している事実を知ります。すぐにエンジアに中心に「剥片調査チーム」が結成されます。そして、リンダ・ハムが議長を務める「マネジメント・チーム」で、話し合いが行われました。

 ですが、解決に向けた特別なアクションはとらない、という結論に至ります。大きな問題になると考えた「剥片調査チーム」は、エンジニア部門の上司に願い出ました。国防省に依頼し「飛行中のコロンビア号を撮影してもらいたい」と…。この時、ハム議長には直接、伝えませんでした。

エンジニアが上層部に意見できない風土

 ロドニー・ローシャは、その後の会議でも、ハム議長が機体の安全性を強調したため、疑問がありながら発言を控えました。そして爆発という最悪の事態が起きたのです。

『決断の本質 』(マイケル・A・ロベル 英治出版)の表紙画像
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 「コロンビア号爆発事故」での意思決定を検証した『決断の本質 プロセス志向の意思決定マネジメント』マイケル・A・ロベル 英治出版)に、ロドニー・ローシャの発言がありました。

 ローシャは事故後の調査で、「〈エンジニアは自分よりずっと高いレベルの人にメールを送ってはいけない〉と常々言われていた」と説明しています。

 また、会議の発言については「僕にはそんなこと(強硬に主張すること)はできない。…僕は下っ端だ。…ハム議長は雲の上の人だ」とふりかえっていました。

太字箇所『決断の本質 』マイケル・A・ロベル 英治出版)より引用

 「NASA」が国の機関だったからでしょうか。2000年代でも、上下関係の厳しい官僚的な組織風土が維持されたままだったようです。

まっつん
まっつん

組織が大きくなるにつれて、上層部の人間は、「雲の上の人」になりがちです。大手企業になると「社長を生で見たのは入社式の時だけ」というのも珍しくありません。「雲の上の人」になったら、ボトム層から重要な情報が届かないことも発生します。そうした風土にならないために、後述する「心理的安全性」(psychological safety)が大切になってくるのですね。

 コロンビア号事故調査委員会は、爆発の直接的な原因は「断熱材の剥落」であったが、上の人間にものを言いにくいNASAが育んできた組織風土の問題点を指摘しています。


エイミー・C・エドモンドソンの経歴。

 さて、本コラムの主役ハーバード・ビジネススクール教授エイミー・C・エドモンドソン(Amy Claire Edmondson)も、コロンビア号爆発事故を2年以上に渡って調査しています。

 ここでエドモンソン教授のキャリアをさっとふりかえってみましょう。

 エドモンソン教授は、ハーバード大学でエンジアリングと建築デザインを学び、バックミンスター・フラー研究所で働いた経験をもっています。キャリアのスタートは、組織やチームの研究ではなかったのです。

まっつん
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バックミンスター・フラーといえば「宇宙船地球号」の思想を提唱した人物として世界的に有名です。フラーは、思想家としてだけでなく、デザイナー、建築家としても世界に名を知られています。。

 エドモンドソン教授はフラーと共に働き、その後、組織コンサルティング、人材開発を手がけるウィルソン・ラーニングへ転職します。この経験が出発点となり、効果的なチームの作り方を研究するようになります。

 「人と人がチームになって仕事を通しての学習を繰り返し、成果をあげる」。

 これをエドモンドソンは「チーミング」(teaming)と呼びました。彼女は20年以上にわたり病院を、また、その他多様な組織を舞台に「チーミング」を研究し続け、今も優れた論考を発表し続けています。

 「経営思想界のアカデミー賞」といわれる「最も影響力のある経営思想家」を選出する「Thinkers50」にも選ばれています。2015年は16位にランクインしました。


「心理的安全性」(psychological safety)とは。

 「チーミング」のポイントは、「組織学習」です。チームが、いかに学習できるがキーになります。学びのないチームは、「同じこと」や「同じ失敗」を繰り返し、時代の変化に対応できず、成果は乏しいものになりがちです。

 エドモンドソン教授は、「チーミング」が有効に機能する条件のひとつに「心理的安全性」(psychological safety)をあげました。

 「心理的安全性」は、グーグルの調査発表によって、日本でも多くの人が知る概念となっています。グーグル社内で、生産性の高いチームには「心理的安全性」が培われていたのです。

 これはエドモンドソンの主張と一致します。グーグルの発表は2012年ですが、エドモンドソンは、1990年代から「チーム」と「心理的安全性」に着目し、その関係性を説いてきました。

 グーグルは「心理的安全性」について、サイトで次のように記しています。

 『「無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だ」と信じられるかどうか』

Googleサイト『re:Work「効果的なチームとは何か」を知る』より

 エドモンドソン教授は、論文のなかでこう書いています。

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『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー 2008年10月号』
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心理的安全性とは byエドモンドソン教授

「だれかに助けを求めたり、ミスを認めたりしたからといって、罰が科されることはないと保証することである」

論文「心理的安全とアカウンタビリティは両立する 「恐怖」は学習意欲を阻害する」(DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー 2008年10月号)

 ここでコロンビア号爆発事故でのエンジニア「ロドニー・ローシャ」の発言をふりかえってみましょう。

 「〈エンジニアは自分よりずっと高いレベルの人にメールを送ってはいけない〉と常々言われていた」

 「僕にはそんなこと(強硬に主張すること)はできない。…僕は下っ端だ。…ハム議長は雲の上の人だ」

『決断の本質 』マイケル・A・ロベル 英治出版)より引用

 彼の発言が真実だとすると、「NASA」には「心理的安全性」は確保されていなかったといえます。

まっつん
まっつん

 ハム議長は、会議の場面で高圧的にものをいう人物だったそうです。「雲の上の人」と言いたくなるポジションの高さに加え、近寄りがたい高圧的な態度であれば、それは「権威」となり部下の心に「服従の心理」をつくり出します。「服従の心理」が働くと、正しいことが捻じ曲げられてしまうのです

 だからこそチームには、言いたいことを気兼ねなくいえる「心理的安全性」が求めらるわけですね。では、「心理的安全性」は、どうすれば育まれるのでしょう。その鍵となるのが、リーダーの行動、つまり「リーダーシップ」にあると、エドモンドソン教授は主張しています。


「心理的安全性」を育むためには?

 では、どのようなリーダーシップが「心理的安全性」を育むのでしょう。

『チームが機能するとはどういうことか』(エイミー・C・エドモンドソン 英治出版)の表紙画像
『チームが機能するとはどういうことか』
(エイミー・C・エドモンドソン 英治出版)

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 エドモンドソン教授は、著書『チームが機能するとはどういうことか』(エイミー・C・エドモンドソン 英治出版)の中で「心理的安全性」について、多角的に記述していますので、詳細はぜひ、この著を参考にされてください。ここでは、わかりやさを優先して、3つの観点を記します。


❶.直接話のできる、親しみやすい人になる

 ハム議長の高圧的なリーダーシップが、メンバーの心理的安全性を低下させていました。エドモンドソンは、外科手術チームを比較研究したことがあります。

 優れたチームを率いるドクター(リーダー)について、メンバーの看護師はこう表現していました。

看護師
看護師

「何かを説明するときはいつも五分ほど時間をかけてくれますし、相手をばかにされたような気分にさせることは決してありません」

『チームが機能するとはどういうことか』(エイミー・C・エドモンドソン 英治出版)より

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 心理的安全性の高さがうかがえる発言ですね。反対に、優秀ではないチームのドクター(リーダー)は非常に権威的で、コミュニケーションをとるのが難しい点で共通していました。

まっつん
まっつん

 人の話しを「しっかり聴く」という行動は、それだけでも優れたリーダーシップにつながる好例です。リーダーの傾聴力が、チームに「心理的安全性」をもたらすといえます。

 

❷.リーダー自身もよく間違うことを積極的に示す

 人は誰もが失敗をし、過ちを犯すものです。失敗がオープンになることでチーム(組織)は学習し、改善点を発見し、次の失敗を防止できるばかりでなく、高い成果をあげるようになります。

 リーダー自らが、日頃から失敗をオープンにすれば、メンバーはリーダー行動を「モデリング」し、失敗について気兼ねなく話すことができます。失敗に寛容であることが、心理的安全性を高めるのです。

❸.失敗は学習の機会であることを強調する

 「挑戦した失敗は讃えよ」

 リーダー訓としてよくいわれることです。失敗には本人の怠慢や不注意による「ただの失敗」があります。これは叱るべき対象となる「失敗」です。

 一方で、新規事業を立ち上げようと果敢に挑み、もてる力をふり絞って懸命に努力したものの残念な結果となる「意味ある失敗」もあります。「意味のある失敗」は、財務的コストを考えればマイナスですが、組織学習の観点からはプラスとなります。

 IBM創業者トム・ワトソンはこういっています。

トム・ワトソンの名言

 「成功する最速の道は、失敗率を二倍にすること」

 失敗が学びのチャンスであることをリーダーが認識し、それをメンバーに日々、語りかけ続けることで心理的安全性は高くなるのです。


まとめ 〜「隗より始めよ」〜

 「心理的安全性」は一朝一夕には育まれない。そうエドモンドソンは強調しています。いいチームになるには、不断の努力がともなって成し遂げられるものですね。

まっつん
まっつん

 組織に「心理的安全性」を生み出そうと考える時、「それは経営陣の問題だし、経営企画部とか人事部が考えて、やってくれるだろう」という依頼心が強くなると、いつまでたっても「心理的安全性」は組織で育まれません。

 「隗より始めよ」。

 まず自分のチームから「心理的安全性」の高いチームになるに限ります。そうすれば、他部署がそれを真似しようと「モデリング」します。そうして組織に広まっていくのです。

 上司にものを言いにくい雰囲気になっていないか。チーム・メンバー全員で、話し合ってみるといいですね。

(文:松山淳

※本コラムは『人事マネジメント』(2020年5月号)に寄稿した記事に加筆修正を加えたものです。


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