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スマホとSNSの普及によって「いつでも・どこでも・誰とでもつながれる社会」となっています。便利な反面、それらは、上手につきあわないと「ストレス」の原因になり、体に悪影響を及ぼします。
なぜなら、スマホを通して「誰かからメッセージが来るのではないか」という常時接続の意識では、脳が休まらないからです。
私たちの体にダメージを与えるストレスは、「コルチゾール」「アドレナリン」「ノルアドレナリン」などの「ストレス・ホルモン」によって引き起こされます。これらの「ストレスホルモン」は、脳が指令を出して副腎から分泌され、血管の中を流れ、全身に行き渡ります。
「ストレスホルモン」が「過剰に」まはた「常時」出ている状態だと、心臓や脳にダメージを与えます。心臓病やうつ病の発症に、ストレスホルモンが関わっているのです。
携帯電話・スマホの無い時代は、1日の仕事を終えて職場を離れれば、それは「仕事の終わり」を意味していました。でも、今は、電車の中だろうが、寝ていてだろうが、電話は鳴る可能性があり、仕事のメールは24時間、届き続けます。
嫌いな上司から「緊急」と件名に書かれたメールが来たら、それを見ただけでストレスです。そうなると脳が「緊急事態だ」と認識して「ストレスホルモン」を分泌させます。実際に、緊急事態が発生しなくても、「そうなるのでは」と頭の中で考えただけでも「ストレスホルモン」は出るのです。
私たちは携帯電話・スマホを持つことで、精神的な常時接続状態を強いられ、心と脳を休ませることが難しくなっています。だからこそ、ストレスと上手につきあっていかなければなりません。
ストレス対処のポイントは、ストレスを感じた時に、
①「何をするか」
②「どう考えるか」
この2つを「ストレス対処法」としてリスト化しておき、そのリストに書かれてあることを着実に実行することです。
ポイントは「リスト化」です。「リスト化」して常に準備しておくことです。なぜなら、ストレス状態では、脳が疲れていて「ストレス解消法」を「考える」こと自体が難しくなり、その結果、ストレスに対処できなくなってしまうからです。
①「何をするか」では、「映画・テレビを観る」「音楽を聴く」「漫画を読む」「ストレッチをする」「散歩する」「瞑想する」「仲間と会って話す」「とにかく笑う」などなど、自分にとって「効き目がある」と感じるものであれば、何でもいいです。何でもいいので、「ストレスで疲れているな」と感じたら、リストを取り出して、「これだ!」と思うものを実行します。
そして、本コラムでお話しする「ストレス対処の3C」は、②「どう考えるか」の部類に入ります。「どう考えるか」は、ストレス状態になった時の「基本指針」「心構え」となるものですね。
「3C」は、『仕事ストレスで伸びる人の心理学』(サルバトール・R・マッディほか ダイヤモンド社)にあったコンセプトです。
3つの「C」は次のものです。
- コミットメント(Commitment):関わり合い
- コントロール(Control):制御
- チャレンジ(Challenge):挑戦
『仕事ストレスで伸びる人の心理学』の著者サルバトール・R・マッディは、1960年に、ハーバード大学で臨床心理学博士号を取得した後、主にレジリエンス(精神的回復力)をテーマとして、困難な状況に強い人の特性(ハーディネス)について研究した人物です。「ハーディネス」とは、つまり「ストレスに強い」ことです。
それでは、ストレス研究の大家でもあるマッディ教授が示した「ストレス対処の3C」について、ひとつひとつ簡単に説明していきます。
「コミットメント(関わり合い)”とは、たとえ困難な状況になろうとも、一人その場を離れるのではなく、その場にとどまり周囲の人々や出来事と関わりを持ち続けることを意味します。」
『仕事ストレスで伸びる人の心理学』(ダイヤモンド社)
マッディ博士が「コミットメント」(関わり合い)で伝えようとしているのは、次のコトです。
問題から逃げると、余計に問題が大きくなる。
「問題の発生」とは、つまり「ストレス」なる状況の発生です。これを放置しおけば、常に「ストレス状態」に置かれることになります。ですので、問題を無視したり、問題から逃げたりするのではなく、問題にコミット(関わり)し、解決に向けて動くことが、結果的に、ストレスを減らすことになります。
例えば、あなたが上司で、新入社員の部下にクレームの電話が入った場面を想像してみてください。
新入社員が電話をとり、頭を何度も下げて一所懸命に対応していますが、埒(らち)が明きません。「お前じゃ話にならない、上の人間を出せ!」。電話口から怒った顧客の声がもれて聞こえてきます。職場に緊張が走ります。
新人教育のために「修羅場体験」をさせようと、そのまま対応させるのも選択肢のひとつですが、あまりに長引けば、やはり、上司が電話を代わってあげるのが上策です。
ここでまずいのは、ストレスから逃れようと、上司がトイレに消えたり、外出してしまったりすることです。逃げると、問題は先送りとなり、ストレスの発生源は、維持されたままになります。
職場に戻ってみたら、「電話してください」と、メモが残されているかもしれません。すると「電話をかけるか、かけないか」で憂鬱になります。かけないでいたら、「かかってくるかのではないか」と心配するはめになります。「逃げた」という自覚があれば、自分に対する罪悪感もストレスになるでしょう。
ストレスの少ない時間をつくり出ためには、問題から「逃避」するのではなく、「コミット(関わり合う)」する姿勢が大切だということです。
“コントロール(制御)”とは、今の状況を何も変えることはできないとあきらめるのではなく、自分が関わっている状況に影響を与え続けようとすることを意味します。
『仕事ストレスで伸びる人の心理学』(ダイヤモンド社)
マッディ博士が「コントロール」(制御)で伝えようとしているのは、次のコトです。
ストレス状態を改善するために自分にできる行動をとる。
問題を、すぐに解決できることもあれば、すぐに解決できないこともあります。解決できることでも、成功するか失敗するかはわかりません。
先ほどのクレーム対応の例であれば、「電話をいつでも代われるように、新人のそばに立って安心させてあげる」こともできれば、実際に「電話を代わって、怒る顧客と話す」こともできます。
電話を変わらなくても、冷や汗をかいている新人の「そばに立つ」ことは、解決に向けたアクションであり、それは、影響を与え続ける行動です。
行動を起こした結果、どうなるかはわかりません。でも、ストレスの発生源を「コントロール(制御)」しようとする行動をとらなければ、いつまでたっても状況は変わりません。
行動を起こせば、例え、失敗しても、何もせずに傍観していた時より、「やることはやった」と思えれば、「後悔の念」は、確実に少なくなります。後悔の念もストレスの原因ですので、失敗しても、行動によってストレスを減らすことができるのです。
“チャレンジ(挑戦)”とは、自分の運命を嘆くのではなく、ストレス状況の中に成長を見出そうと努力し続けることを意味します。
『仕事ストレスで伸びる人の心理学』(ダイヤモンド社)
マッディ博士が「チャレンジ」(挑戦)で伝えようとしているのは、次のコトです。
ストレスをバネに成長していこう!
「チャレンジ(挑戦)」は、ストレス状況を「どうポジティブにとらえていくか」という「認知」に関わることです。
「ストレス」と聞くと、体によくないネガティブなイメージがあります。でも、「ストレス」には、生産性を高め、能力を引き出し、私たちを成長させてくれるポジティブな側面があります。
例えば、プレゼンの場で緊張するのはストレスですが、そのストレスに打ち勝とうとして、人は、事前に準備をしっかりしたり、プレゼンの技術を磨こうと努力したりします。そう考えると、適度なストレスはむしろ「あったほうがいい」といえます。
ストレスは、100%悪玉ではなく、プラスの面があるのです。
先ほどの新人の電話対応の例で考えみましょう。上司だってひとりの人間です。例え、お客様とはいえ怒り狂った人間と話しなどしたくありません。新人から電話を代わったら、その対応は、胃が痛くなる重度のストレスとなってしまいました。
「なんて今日は嫌な日なんだ、運がないな」
そう嘆くことになったとしても、「修羅場体験」をすると、その経験がプラスとなって、次には余裕をもって「怒った顧客」に対応できるかもしれません。ストレスを感じる状況には、長い目で見るとポジティブな面があるものです。
優れたリーダーほど多くの「修羅場体験」をしています。ですので、ストレスのかかった状態を、自分を成長させてくれるチャンスだと、ポジティブな側面に目をむけてチャレンジしていきたいものです。
- コミットメント(Commitment):関わり合い
- コントロール(Control):制御
- チャレンジ(Challenge):挑戦
「ストレス対処の3C」についてお話ししてきました。冒頭でお話しした通り、これはストレス対処における「基本方針」「心構え」のひとつです。
これは性格タイプが深く関わるのですが、人には「どう考えるか」より「どう何をするかに」に重きを置く人がいます。その反対もあります。私は性格検査MBTI®の資格をもって性格分析の研修やセッションをしていますので、ふたつの違いがあることを、目の当たりにしています。
つまり、「何をするか」に重きを置く人にとって、「どう考えるか」は、「それはどうでもいいでしょ」「そんなことより何するかでしょ」となりがちで、「基本方針」「心構え」の話しは、腹落ち感がなく効果が薄くなるということです。
でも、「どう考えるか」という「認知の変容」によって、ストレスに上手に対処できる人がいるのも事実なのです。
ですから、自分にあったストレス対処法を一度、じっくりと考えて、リスト化していくことが大事です。リストはまず「50」が目標です。「100」出せたら十分でしょう。
人生、山あり谷ありです。現代人にとってストレスはゼロになりません。でも、それを少なくしたり上手につきあったりすることはできます。
そのためにストレス対処法の様々な知恵を活用していきましょう。
「ストレス対処の3C」もそんな知恵のひとつであり、もし役に立ちそうであれば、リストのひとつに加えていただき、健やかな日々となることをお祈りいたします。
(文:松山淳)