第3章-1 部下に教えることは、上司が教えられること
「部下に育てられている」
人として尊敬できる、ベテラン上司の方々にお会いすると、よく耳にする言葉です。
上司になりたての頃は、なんとか部下を「指導」しなければならいと力が入り、つい「説教」や「説得」を繰り返してしまいます。職場で、ノミュニケーションの場で、言葉を費やし語気を強め仕事をするうえでの大切なことを伝えようとします。
ところが、部下の心がついてきていないような、自分だけが空回りしているような感覚に陥るときがあります。
「自分はひとりよがりになっているのではないか」
疑念が、頭をよぎります。
そのとき「部下のためだ」と自分を正当化し、心の声を無視すると、部下の口数が少なくなってきたり、明らかに反発してくるようになったりします。
「部下を育ててやっている」
という勘違いから目を覚ますときですね。
上司もまた上司として成長していかなければなりません。
たとえば、リーダーの条件に統率力がありますが、統率すべき部下と仕事をしてこそ統率力は身につきます。問題解決力も、あがってくる案件について部下と一緒になって額に汗をかいて意思決定を下してこそ、その力を高めていくことができます。
「教える力」も同様で、教える相手、つまり部下の存在が欠かせないのです。
ただ、「教える」ことは、ときにとても苦しいものですね。
なぜなら、自分自身のもつ知識のあやふやさが、露呈してしまうからです。だから、つい教えることから逃げてしまう。ですが、あやふやな知識をそのままにしておくほうが後々、さらに大きな恥をかくことになります。
あなたが苦労して身につけてきたスキルやノウハウを、部下にしっかりと教えることで、教える力が強化されます。
また、教えるときに大切なことは、教えすぎないことです。
教えすぎると部下はとても楽です。楽だと、部下は教えたことが身につきません。教えすぎないと、部下は苦労します。苦労すると、教えがしっかりと身につき自分のものになります。
これこそ、部下にとって本当に役に立つ教えです。
苦労すると部下は不満を持ちますが、その不満に負けて教えすぎると、また教えなければならないので、苦労するのは上司です。
教えるとは我慢することです。
あなたが伝えた知識を、部下が体得するまで待つことです。「体得」とは、体を使って知識を修得することですね。そう仕向けることが、上司の教える力なのです。
これまでいろいろな苦労を積み重ね体得してきた知識、スキル、ノウハウがきっとあると思います。それらを次の世代にしっかりと手渡していくことで、上司は磨かれます。
部下の前で赤っ恥かきながら上司はみな、自分の力を高めてきたのです。
それが上司と部下の関係です。
(著:松山 淳)
2. 私は、部下と共に成長するという意識があるだろうか。
3. 私は、部下の成長を心から望み、喜べているだろうか。