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ネガティブな感情と上手につきあう7つのステップ

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 ネガティブな感情とつきあう7つのステップは、①承認(Acknowledge)→②対峙(Face)→③観察(Observe)→④識別(identify)→⑤受容(Accept)→⑥調和(harmonize)→⑦習慣(Habit)です。

 人生、いろいろなことが起きてきます。決して、ラッキなーことばかりではありません。よくないことが起きた時に、ネガティブ感情を抱くことは、自然なことです。「いらいら」「落ち込み」「嫉妬」「憎しみ」「自信がない」など…。ただ、否定的な感情に飲みこまれることが習慣化されると、人生に問題を抱えることになりがちです。

 ネガティブな感情とつきあう上で大切なことは、「自己距離化」(self-distancing)です。

 「自己距離化」とは、感情と自分との間に距離をとることです。感情を冷静に「観察すること」といってもいいでしょう。観察できたら、そこに理性が働き、感情に振りまされることが少なくなっていきます。それはある意味、「感情的柔軟性」(Emotional flexibility)を身につけていくことです。

 長い人生、ネガティブ感情を抱くことはどうしてもあります。ですから、このプログラムの目標は次になります。

目標

「ネガティブな感情を持たないようにする」のではなく、「ネガティブな感情がわいてきても、それにふりまわされない心の習慣をつくる」こと。

 昨今、マインドフルネス瞑想が、世界的な数々の研究によって、健康維持に大きな効果を発揮することが確認されています。瞑想は、自分の思考・感情・感覚を判断することなく、観察することです。ですから、瞑想とは、まさに「自己距離化」の「心の習慣」をつくるための最良の技法といえます。

 そこで、本稿では、マインドフルネスの思想を取り入れつつ、ネガティブ感情と上手につきあっていくための基本的な考え方とその方法を、以下の7つのステップに基づいて解説していきます。

ネガティブ感情とつきあう7つのステップ

Step1:承認(Acknowledge)ネガティブな感情の必要性を認める。
Step2:対峙(Face)日頃、自分が抱く多様な感情と向き合う。
Step3:観察(Observe)自分の感情を理性的に観察する。
Step4:識別(Identify自分の感情が何かを見分ける。
Step5:受容(Accept)ネガティブな感情を受け入れる。
Step6:調和(Harmonize偏った心のバランス(調和)を取り戻す。
Step7:習慣(Habit)Step1〜6での気づきを日々の行動に活かし「習慣化」する。

ステップ1:ネガティブ感情を承認する

 Step1は、承認(Acknowledge)です。

 怒りや憎しみも、「健全な感情」のひとつです。ネガティブ感情も否定せず、必要なものだと承認していくことが、ネガティブ感情をマネジメントする際のスタートラインです。

 ネガティブ感情は、「健全な感情」です。

まっつん
まっつん

 健全とは「身心が正常に働き、健康であること」です。健康だからといって怒りや憎しみを感じないわけではありません。むしろ、健康だからこそ、怒りや憎しみを感じられるともいえます。

 健康であれば、怒りや憎しみを感じても、数時間〜数週間もすれば、そのネガティブ感情を穏やかなものにできます。

 問題となるのは、ネガティブ感情に飲み込まれて自分を見失ってしまうことです。日々、カッとなって暴力をふるったり、憎しみから他人の足をひっぱったりしていたら、人間関係にひびが入り、人生に様々な問題が起きてきます。

職場で、怒って同僚のネクタイをつかんでいる男性とそれをとめよとしている女性ふたりの写真

 心理学の言葉に「ネガティビティ・バイアス」(negativity bias)があります。ポジティブなものよりも、ネガティブなものに「より意識が向きやすい」という人間の心理的傾向のことです。

 つまり、自分のネガティブ感情を否定すれば否定するほど、その感情に意識が向いてしまいます。その結果、余計に感情にふりまわされる傾向が強められてしまうのです。

 であれば話しはシンプルです。そもそも否定しているものを「自分にとって必要なもの」「承認」していけばいいのです。そのためには、ネガティブな感情が、私たちの人生に「役に立っている」ことを理解していきましょう。

ネガティブ感情のポジティブな側面

・不   安: 人は、未来に備えることができる。
・怒   り: 人は、自分を守ることができる。
・憎 し み: 人は、人と距離をとることができる。
・落ち込み : 人は、行動をやめて、休むことができる。
・自信のなさ: 人は失敗しないよう努力する。

 「不安」があるからこそ、私たちは、未来のことを考え、用意周到になることができます。「怒り」を覚えるから、私たちは、不条理な要求に「ノー」をいい、自分を守ることができます。「憎しみ」を感じるから、私たちは人と距離をとって、不必要な人間関係を捨てることができます。

 「落ち込み」があるから、私たちは、行動することをやめて、しっかりと休息をとることができます。「自信がない」と感じるからこそ、人は、取り組むことに対して失敗しないように、さらに努力をします。

ネガティブ感情と承認するワーク

 それでは、ここでネガティブ感情を承認するワークをご紹介します。

 どんなことでも結構ですので、これまでの人生経験で、辛く苦しかったネガティブな体験を思い出し、その事実を書き出してください。次に、その時の辛さ苦しさについて、どんな感情だったかを書きます。最後に、その体験が、現在、どのような形で役に立っているかを書いてみてください。

【ネガティブ感情の承認ワーク】
Step1:過去の辛く苦しいネガティブ体験の事実を書く。
Step2:その時の感情を「感じるがまま」に本音で書く。
Step3:ネガティブな経験(感情)が今、どう役に立っているかを書く。 

 ネガティブ感情は、決して「100%悪者」ではありません。山あり谷ありの人生を乗り越えてゆくために、必要なものです。そんな風に、自分のネガティブ感情を認めてあげましょう。否定をやめれば、これまでとは違った変化が起きてきます。

ステップ2:自分の感情と向き合う(対峙)

 Step2は、対峙(Face)です。ここでの「対峙」とは、自分の感情に向き合うことです。

 日頃、人は感情を無意識のうちに抱いています。感情は、自然の流れに任せているようなもので、出ては消え、出ては消えていきます。また、ネガティブ感情は、向き合うとストレスになるので、無視していることも多いものです。

 もちろん、人によっては、かなり意識的に感情をコントロールしている人もいますが、コントロールしている人でも、感情と正面から向き合うことを習慣にしている人は、思ったより少ないものです。

 ですから、感情をマネジメントするためには、そもそもそれと向き合わなければ始まりませんので、意識的に「対峙」することが大切になります。

感情と向き合っている人のイメージ画像

 例えば、あなたの悩みを解決できる人がそばにいるとします。その人はあなたの知りたい「答え」を知っています。どうしますか。

まっつん
まっつん

「答え」を手にしたければ、あなたは、その人と向き合い、話し合いをするでしょう。そうすれば、あなたの悩みは解決します。もし、向き合うことをしなければ、いつまでたっても「答え」を手にすることはできません。

 それと同じように、感情と向き合う時間を作り、向き合う方法を知り、それに取り組むことで、「感情マネジメント」の扉が開かれます。

感情と向き合うワーク

 では、ここで感情と向き合うワークをご紹介します。

 下記の図は、感情の分類として有名な「ジェームズ=ラッセル説」に、ポールエクマン博士の基本的感情6分類(「幸福」「驚き」「悲しみ」「恐れ」「嫌悪」「怒り」)を追加して、作成したものです。元図は『感情の正体』 (渡辺弥生 ちくま新書p36)に掲載されていたものです。

 【感情と向き合うワーク】
 以下の図から「日頃、あなたがよく抱く感情」の上位7つを選び、書き出してみてください。

感情分類図「ジェームズ・ラッセル説」
『感情の正体』 (渡辺弥生 ちくま新書)p36掲載図を参考に作成 

 いかがでしょうか。7つを選ぶのに、さっと選べた人もいれば、かなり迷った人もいるでしょう。ここで大切なことは、「どの感情を選んだのか」「選ぶのにどれぐらい時間がかかったのか」ではなく、自分の感情と向き合い、考える時間をとったことです。

 もしかすると、4つのエリアのどこかに集中している人もいるかもしれません。すると、大まかでも「日頃、どんな感情を抱きやすいのか」、その傾向もつかめるはずです。

 こうして、まずは、意識的に自分の感情と向き合うことが、ステップ2「対峙」のフェーズとなります。

ステップ3:感情を落ち着いて観察する

 Step2は、観察(Observe)です。客観的に自分の感情を「観察」することで、感情のコントロールがしやすくなります。

 「自分の感情を観察している」という心理状態になっていれば、感情と自分に距離がとれている状態を意味します。それは、「自己距離化」(self-distancing)が図られている状態です。

感情を観察している人のイメージ・イラスト

 心理学者フランクルが提唱したロゴセラピーでは、「自己距離化」の大切さを説きます。自分を客観的に見ることが「自己距離化」です。もし、客観的に見ることができたら、そこに「理性」が働いています。

 「理性」とは、「感情に走らず、道理に基づいて考えたり判断したりする能力」(精選版 日本国語大辞典 小学館)です。

 「感情」の反対語が「理性」です。「感情的に〜する」の反対が「理性的に〜する」です。つまり、感情的になって自分を見失っている時に、「自分を取り戻す」のは、私たちの心に宿る「理性」の働きです。

 ついカッとなって言わないでいいことを言ってしまい、後悔したことがないでしょうか。理性が働けば、「これを言ってはいけない」と、ストップをかけられます。言わないでいいことを言わずに済みます。

 ですから、「理性」をいかに働かせるかが、感情マネジメントの成否を握ります。では、「理性」を働かせるには、どうすればいいのでしょうか。

 その答えが「自己距離化」です。「自分を客観的に見る心の習慣」を育むことができれば、そこには「理性」が働き、感情に振りまされることが、少なくなっていきます。

自己距離化を体験するワーク

 下の図は、ある人が自分の感情をイメージ化したものです。左は「イライラ」で、右は「楽しさ」です。このようにして、自分の感情を、外に出し、イメージ化することで、自分の感情を客観的に見てみます。

感情を観察するワークの図
(左)イライラ (右)楽しさ

 【感情を客観的に見るワーク】
 上の図を参考にして、自分の「ネガティブ感情」を絵に描いてみましょう。

 自分の感情を絵に描くだけでも、何か違った感じがするものです。さらにできたら、その絵(感情)に語りかけてみましょう。「あなたがいるから、私も今日までやってこれたのね」。そんな風にネガティブ感情を認めて、そこから対話してみるのもいいでしょう。

 対話をしてみると、思わぬ「気づき」があるかもしれません。

ステップ4:自分の感情が何かを識別する

 ステップ4は、識別(identifyです。自分の中で動く感情を、「見分け」ていきます。

 例えば、ちょっとしたことで「イライラ」してしまうAさんがいるとします。ある日、Aさんの「イライラ」が始まりました。そこで、感情マネジメント講座で教わった通りに、「自己距離化」を図ろうと、椅子に座って目を閉じて、自分の「イライラ」を観察してみました。

 すると、胸のあたりでイライラが激しく動いています。Aさんは「イライラだね」と心の中でつぶやきます。しばらく観察していると、イライラの奥に「情けなさ」が感じられてきました。Aさんは「情けなさだね」とまたつぶやきます。さらに、じ〜っと観察していると、今度は「寂しさ」が現れてきました。Aさんは「これは寂しさね…」と、いったとたん、目に涙があふれてきました。

涙を流す女性の画像

 Aさんは、涙を流しながら思います。「私はイライラしているというより、本当は寂しかったんだ」。

 私たちの「心」は、さまざまな感情が現れては消え、現れては消えてゆく「舞台」のようなものです。心理学で、「心」は「層構造」になっていると考えられています。Aさんのケースでは、浅い層で「イライラ」が動いていて、それより深い層に「情けなさ」「寂しさ」が隠れていたといえます。

 「イライラ」「情けなさ」「寂しさ」は、それぞれが独立して動いているわけではなく、Aさんの心の中では、つながって手をとりあって動いています。ですが、層構造になっていますので、浅いところにある感情は気づきやすく、深いところにある感情は、なかなか気づきにくいのです。

まっつん
まっつん

 Aさんが「情けなさ」「寂しさ」を感じたら、「情けない自分」「寂しい自分」になってしまいます。「情けない自分」「寂しい自分」を認めることができないので、「情けなさ」「寂しさ」を感じないように「イライラ」していたとも考えることができます。

 こんな風に、自分の中にある感情を観察して、感じて、「それが何であるか?」見分け(識別し)ていくと、隠されていた感情に気づき、心がホッとしたり、軽くなったりすることがあります。

 隠されていた感情からすると、「よく気づいてくれたね。ありがとう」といいたいところでしょう。

ネガティブ感情を識別できれば、問題なし

  さて、ポジティブ心理学者のふたり(ロバート・ビスワス=ディーナー 、トッド・カシュダン)が「ネガティブ感情」について研究し、まとめた本があります。『ネガティブな感情が成功を呼ぶ』(草思社)です。

『ネガティブな感情が成功を呼ぶ』(草思社)の表紙画像
 『ネガティブな感情が成功を呼ぶ』(草思社)
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 この本に、ネガティブ感情について研究した結果、「感情の識別」について、次の通り、書かれてあります。

 いつもいい気分でいなければという思い込みから抜け出し、さまざまな感情と向き合ってそれを識別することが大事だ。(中略)「いい」とか「悪い」以上の表現ができない人はストレスに負けやすく、それは多くの場合、健康上の問題になって表れる。ある状況で自分の感情がどういうものかを正確に識別できるようになると、それがネガティブ感情であっても特に問題ない。(中略)

 研究でわかったことは、ネガティブな感情は、それを理解し識別することによって心身に無害なものに転換できるということだ。従って、感情をなだめるための不健全な行為ー大酒、過食、他者への攻撃、自傷などーに走ることもなくなる。

 『ネガティブな感情が成功を呼ぶ』(草思社)p282-283

 「感情」を「識別」していくこと、つまり、自分の中にどんな感情が動いているのか見分けていくことが、いかに大切かがわかりますね。

感情を識別するワーク

 それでは、ここで感情を識別するワークをご紹介します。イライラしがちなAさんの例がまさにそれです。

 【感情を識別するワーク】(5分)
 ステップ1:椅子に座り、深呼吸しながら、自分の感情を観察する(見つめる)。
 ステップ2:その感情をしっかりと味わう。感じる。
 ステップ3:その感情が何かを言葉にする。(「不安」「さびしさ」「悲しさ」など)
 ステップ4:言葉にしたら、他の感情が出てこないか、しばらく観察を続ける。
 ステップ5:他の感情が出てきたら、また言葉にする。そのプロセスを繰り返す。

 このワークを繰り返していくと、「感情の識別力」が高まってゆくでしょう。その結果、「自己距離化」を図ることもできるようになり、感情にふりまわされない「感情的柔軟性」(Emotional flexibility)を育んでいくことができます。

ステップ5:ネガティブ感情を受け入れる

 ステップ5は、受容(Accept)です。ネガティブな感情をコントロールするのはやめて、「あっていいもの」と受け入れていきます。

まっつん
まっつん

 冒頭、「ネガティブな感情を持たないようにする」のではなく、「ネガティブな感情がわいてきても、それにふりまわされない心の習慣をつくる」ことが大切です、と書きました。

 繰り返しになりますが、長い人生、生きている限り、いろいろなことがありますから、ネガティブ感情はどうしても抱くものです。ですから、ステップ1で、ネガティブ感情をもつのは、人として健全なことであり、ネガティブ感情を否定せずに、それも必要だと承認(Acknowledge)しました。

 これは知的に行う「頭の理解」です。「頭ではわかるけど、心がついていかない」といいますね。その表現でいう「頭での理解」が、承認(Acknowledge)の段階です。

Aさん
Aさん

「ネガティブ感情が必要だと頭では理解したけど、心は全然、ついていかない。私はなんてダメなんだと、すぐに自己否定してしまい、何も変わらない。この感情を何とかしてほしい」

 まさにそうですね。こうした心理的なプログラムは、頭でわかっても、心がついていかないのです。すると、ネガティブ感情は、「やっぱりよくないものだ」と考え、否定し、「感じてはいけないものだ」と思い、拒絶してしまいます。

コントロールを手放し「あるがまま」

 否定や拒絶することは、ネガティブ感情を自分の思う通りにコントロールすることです。

 ですが、コントロールしようとすればするほど、「ネガティビティ・バイアス」(negativity bias)が働き、余計に、ネガティブ感情へエネルギーが注がれることになります。すると、心理的に「自分と感情の距離」が近づいて、ネガティブ感情に飲み込まれてしまいます。

 これは「自己距離化」とは、反対の方向性です。

 そこで、コントロールの手放しを推奨している心理療法にACT(Acceptance and Commitment Therapy:アクセプタンス&コミットメント・セラピー)があります。ACTのバイブルといわれる『アクセプタンス&コミットメント・セラピーACT第2版』(星和書店)に、こう書かれてあります。

『アクセプタンス&コミットメント・セラピー』
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 コントロールと回避の方略は、実際にはむしろ、事態をさらに悪くするのである。それは、感情・思考・記憶・イメージ・感覚といったものを意図的に抑制またはコントロールしようとする試みは、その意図とは逆の効果をもたらすからである。(中略)本質的に、望まない私的思考を締め出そうとクライエントが努力すればするほど、そうしたものは、一層強力で、支配的になってくる。

『アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT) 第2版 』(星和書店)p292-293

 では、どうしたらいいのでしょう。コントロールしようとすればするほど、うまくいかないのであれば、コントロールを手放せばいいのです。

 コントロールをやめて、「もう、それはあっていいよ」と、「あるがまま」に、自分の中にネガティブ感情を受け入れていくのです。それが「受容」(Accept)の段階です。

 「不安」を否定しません。「不安」は「不安」のまま「あっていいよ」と受け入れます。「イライラ」を拒絶しません。「イライラ」は「イライラ」のまま「あっていいよ」と受容します。

 つい自己否定してしまうなら、自己否定する自分も「それも自分だよね」と受け入れて、「今、自分が今すべきこと」に意識を向けて、行動することに心のエネルギーを注ぎます。それを「あるがままの姿」ということができます。

ネガティブ感情を受容するワーク

 それでは、ここでネガティブ感情を受け入れていく(受容)するワークをご紹介します。

 【感情を受容するワーク】(3分)
 ステップ1:過去の不快な出来事や短所(自信のなさなど)を思い出す。
 ステップ2:ネガティブ感情が、体のどこにあるか探す。
 ステップ3:その感情をしっかりと味わう。感じる。
 ステップ4:その感情に「そこにいていいよ」と声をかける。
 ステップ5:その感情がどう変化するか、観察し続ける。

 マインドフルネス瞑想がそうであるように、こうした心理的ワークも、すぐに効果の実感できないことのほうが多いものです。ですので、繰り返し行ってみてください。私たちが目指しているのは「感情にふりまされない心の習慣」でした。

 「習慣」は、「繰り返し」によってつくられます。ワークも繰り返すことで、「ネガティブな感情がわいてきても、それにふりまわされない心の習慣をつくる」ことになります。

ステップ6:偏った心のバランス(調和)を取り戻す

 ステップ6は、調和(Harmonizeです。調和とはバランスがとれていることです。ステップ1〜6のプロセスをふまえてさらに「心のバランス」をとることを目指します。

 ステップ6では、「書く」ことを中心に行なっていきます。「書くコト」が心身によりよい影響を与えることは、研究者の間でも、認められていることです。

「ペンを持ってノートに書いている人」のイメージ画像

 心理学者J・W・ペネベーカーは、1983年、サザン・メシスト大学の学生44名を対象に研究を行いました。学生たちに、人生で経験したトラウマティックな出来事について、1日15分、4日間連続で書いてもらいました。

 その結果、実験の前と後では、学生たちの保健センターへ訪問する回数が激減しました。その後の追跡調査でも、気分は改善され、肯定的な見通しがたち、身体的健康は増進したという報告がなされました。

 ペネベーカーは、その後も「書くことが心身によりよい影響を与える」ことに関する研究を続け、「筆記開示」(expressive writing)という概念を提唱し、数々の論文を発表しました。

『オープニングアップ』
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 ペネベーカーは、自著『オープニングアップ: 秘密の告白と心身の健康』(北大路書房)で、こう書いています。

 今日では、世界中の実験室で、数十もの筆記実験が研究者たちの手によって行われています。感情的動揺について筆記することで、小学生や老人ホームたちの入居者、関節炎患者、医学生、極刑の囚人、子どもを出産した母親、レイプの被害者たちの身体的健康と精神的健康を改善に導くことが確認されています。感情について筆記することは、健康に対してより効果が現れるだけでなく、不安や抑うつを低減させたり、大学の学業成績を上昇させたり、新しい就職先の獲得を手助けしたりすることが確認されています。

『オープニングアップ: 秘密の告白と心身の健康』(北大路書房)p55

 こう考えると、小学生の頃、「日記」に自分の感情を思うがままに書いていたことは、思っている以上に、効果があったのではないかと考えられます。

心に調和をもたらす書くワーク

 「書く」ワークとして、ここでは次の3つをご紹介します。

 以下のワークでは、着眼点が違うものの、共通して心がけてもらいたいことが2つあります。

 ひとつ目は、時間を決めることです。5分とか10分とか、自分なりに時間を決めて、時間が来たら、そこで必ず終えることが大切です。「まだ途中だよ」「書き切れてないよ」。そんな感じが残っていいのです。その中途半端な感じが、「じゃあゃ、次(明日)、書くか」と、継続していくモチベーションとなります。

 ふたつ目は、書く時に、文章のうまい下手は、一切、気にすることなく書くことです。誰にも見られないのです。言葉が汚くなってもいいです。思うこと、感じることを、「あるがまま」に書いていきましょう。

 ❶【ネガティブな出来事を書き出す】(10分)
 これまでの人生経験で、「辛かったこと」「苦しかったこと」「嫌だったこと」などネガティブな感情を抱くことを、事実と感情をまじえながら赤裸々に書いていきます。書いていて、その場で考え方こと、感じたことも、書いていきます。

 ❷【ジャーナリング(書く瞑想)】(5分)
 マインドフルネスのムーブメントから「書く瞑想」といわれる「ジャーナリング」を行う人が増えています。❶では、テーマを「ネガティブな出来事」に設定しまたが、「ジャーナリング」は、その時に頭に浮かんだこと、出てきたことを、どんどん書いていきます。ちょうど瞑想している時に、雑念が湧いてきていて、その雑念を、ひろいあげて書くようなものです。雑念を処理していきますので、瞑想と似た効果が得られると考えられています。

 ❸【シャドー・ワーク】(5分)
 「シャドー」(影)とはユング心理学の概念です。「シャドー」(影)とは、「そう生きられなかった自分」です。自分と反対の性格で、あなたをイライラさせる相性の合わない人を思い出すと「シャドー」(影)のイメージがつきやすいでしょう。あなたが「他人に優しい人」だったら「他人に厳しい人」を、あなたが「せっかちな人」だったら「のんびり屋」の人を…。反対の性格の要素が、あなたの中にもあって、無意識で息づいています。

 そこで、あなたを不快にさせる人について書いていきます。「この人から自分は何を学べるだろう」「この人の何を今、自分は取り入れたらいいだろう」と考えて、思うこと、感じることを自由に書きます。

ステップ7:行動し習慣化していく

 ステップ7は、習慣(Habit)です。ステップ1〜6まで体験してきたワークで、いずれかを習慣化していきます。そして、「ネガティブ感情にふりまされない心の習慣」を、実際につくっていきます。

 このプログラムの目標は、「ネガティブな感情を持たないようにする」のではなく、「ネガティブな感情がわいてきても、それにふりまわされない心の習慣をつくる」ことでした。

 そこで、習慣化するためのポイントは、3つあります。

習慣化する3つのポイント

❶ストレスがかからない:ストレスがかかると長続きしません。継続することで習慣化されます。
❷毎日できる:毎日、続けることで習慣となります。「これなら毎日できる」と思うことに取り組もう。
❸短時間でできる:忙しい日々で、必ず毎日するためには、短時間できることが必要条件となります。

 この世界には、様々なセラピー技法があります。カウンセリングひとつとっても、基本的な考え方が違い、その技法も異なります。それぞれのセラピー技法が効果をあげていますが、残念ながら、100%ではありません。

 クライアントの話しを徹底的に聴く「非指示型のカウンセリング」がどうしても合わず、具体的に「こうしなさい」と指示をくれるカウンセラーのところでよくなった、という例は数多くあります。

 つまり、何が効果的かは、人それぞれなのです。

 マインドフルネス瞑想が、健康を増進するのに確かな科学的根拠があるとされています。でも、「じっと座っているなんて、耐えられない、そんなのストレスだ!」という人には逆効果でしょう。

 ですから、ここまで読んできて、「ピンとくるものがないな」「毎日、続けるなんて面倒くさいくて、できない」と思うなら、他の技法を試したほうがいいです。世界にはもっと他にもたくさんのセラピー技法があります。

まっつん
まっつん

 ただ、ここまで書いてきたことで、何か「ピンときて、しっくりとくる」ものがあれば、ぜひ、取り組んでみてください。もし、継続できたら、「ネガティブ感情と上手につきあっていく」ことができるようになるでしょう。

 継続は力なりです。

 ネガティブ感情にふりまされない「心の習慣」づくりの成功を、心からお祈りしています。