2024年6/14、バレーボール女子日本代表チームのパリ五輪出場が決定した。6/12、カナダに敗北したが、他国チームの勝敗を計算したところ、日本が世界ランキングで五輪への切符を手にすることになった。監督は眞鍋政義が務め、キャプテン古賀紗理那選手を筆頭に、世界に通用する選手がそろっている。
パリ五輪での活躍に期待し、女子バレーボール日本代表チームの面々からつむぎ出される言葉を紹介していく。
目次
古賀紗理那の名言❶:結果は積み上げたものの後についてくる
「勝ち」「負け」が、はっきりするスポーツでは、勝利か敗退かによって世間からの評価はがらりと変わります。「手のひら返し」の言葉通り、予選で負けのこんでいた日本代表チームが、本戦で勝ち続けると、「批判の雨あられ」が「賞賛の嵐」へと変わります。
結果に対して常に重い責任を背負わされるのは、アスリートの宿命です。
だから、結果には、もちろんこだわるのですが、結果にあまりにとらわれてしまうと、逆に、結果がともわないこともあります。
2024年5月から始まるバレーボールの国際大会ネーションリーグを前にしてのインタビューで、古賀紗理那キャプテンは、こう語っています。
「結果、結果という頭になってしまうと、私も含めてみんなが勝手にプレッシャーを感じてしまう。結果は積み上げたものの後についてくる。」
勝負ですから、確かに勝たなければなりません。
ですが、勝ちという結果が重荷になって、選手が実力を発揮できないこともあります。であれば、古賀キャプテンがいうように「結果は積み上げたものの後についてくる」と割り切るのも大切なことですね。
古賀紗理那の名言❷:気持ちと気持ちのつながりが、苦しい状況の時ほど大切
試合の途中で、敵チームとの点差がつき、劣勢になると、選手同士でとるコミュニケーションの量が少なくなっていきます。言葉を交わさなくなり、雰囲気が暗くなって、選手ひとりひとりが孤立していきます。
その結果、選手同士でのプレーの連携がとれなくなり、チーム全体としての「力」が落ちていきます。
2023年パリ五輪出場のかかった予選で、女子日本代表は成績がふるわず五輪の切符を手にすることがができませんでした。FIVB世界ランキング(2023年9月25日時点)では、1位トルコ、2位アメリカ、3位ブラジル、4位セルビア、5位イタリア、6位 中国、7位ポーランド、8位ドミニカにつづいて、9位が日本でした。
五輪切符は持ち越しとなりましたが、世界のトップ10には入っていました。五輪切符を逃した試合をふりかえり、古賀キャプテンはこう語っています。
「一人一人が心をタフに、全員が『私がここで活躍する』『絶対点を獲ってチームに貢献する』という気持ちと気持ちのつながりが、苦しい状況の時ほど大切だと感じました。次のシーズンは今年よりも苦しい戦いになりますが、そういう時こそ一人一人にならず、チームで助け合う。」
『Number Web』男子バレーはいいが、女子は厳しい」逆境に燃えた主将・古賀紗理那はチームをどう変えた? (2023/9/25 田中夕子)
気持ちの問題ですべてが解決するわけではありません。しかし、どんなスポーツもメンタルの重要性が叫ばれています。それほど試合中の「気持ち」は、勝敗に影響するわけです。
「気持ち」は目に見えません。気持ちと気持ちがつながっているかどうかは、選手たちが感じるしかありません。選手同士の気持ちがつながった試合になると、ベンチにいる監督、コーチはもちろんのこと、観客とも気持ちがつながっていくような感じになります。
テレビで鑑賞していても、選手と会場全体との一体感が伝わってくることがあります。
たかが「気持ち」、されど「気持ち」。
いかに選手同士が自ら、互いに気持ちをつなげていくか。「気持ちのつながり」が、チームの勝利に貢献するのです。
古賀紗理那の名言❸:勝っていきながら成長したい
勝利にまさる報酬はなし。
甲子園に出場した無名の高校が、試合を重ねるごとに強くなっていく。そんな現象がよく起きます。スポーツ選手にとって勝利は何よりの「力」になるものです。
同じ労力でも、勝った試合と負けた試合では、試合後の疲労感がまるで違います。勝った後は、どれだけ疲れていても、心地よさや充足感があります。反対に負けた後は、後悔の念からひどい疲労感におそわれます。
勝つことは何よりの「心の報酬」となり、選手を成長させていきます。
「今自分たちができることや課題をクリアにしたり、自分たちの勝ちパターンを見つけることが大切だと思う。チームとして1試合ずつ勝っていきながら成長したい」
古賀選手が「チームとして1試合ずつ勝っていきながら成長したい」というように、勝つことで、チームが抱えている様々な課題が解決していくことがあります。
特に、チーム間に漂うも暗い雰囲気や緊張感は、勝利が吹き飛ばしてくれるものです。
スポーツは勝つことだけが全てではありませんが、勝つことで成長し、チームは前に進むことができます。
石川真佑の名言❶:周りに流されちゃいけない。
古賀紗理那キャプテンにならぶ日本のエースといえば、石川真佑選手です。日本代表としてデビューしたのは2019年のことで、東京五輪(2021)にも代表選手として出場しています。
次の言葉は、2023年4月のインタビューです。
「勝ちたい気持ちがあるからこそ、周りに流されちゃいけない。自分の思いはしっかり持ってやりたいなと思っています。」
石川選手は、この言葉の前に、『もちろん周りから「こうしたらいい」というふうに言われることもあるので、しっかり受け入れるところは受け入れますけど、やっぱり、決め切るために上げてもらいたいとか、自分が思ったことは伝えていかなきゃいけないなと。』といっています。
石川選手は、かつて「自分の思い」をあまり言わない選手だったそうです。
しかし、様々な世界大会で経験を積んで、他の選手からの影響もあって、「自分の思い」を伝えるようになりました。そのベースに「勝ちたい気持ち」のあることが大切ですね。
勝ちたいからこそ、「自分の思い」を伝える。
勝利への思いが、選手たちの心を開いていくのですね。
石川真佑の名言❷:自分だけじゃなくてバレーボール界を盛り上げていくためにも
『動機善なりや、私心なかりしか』
経営の神様と呼ばれた京セラ創業者稲盛和夫氏の言葉です。稲盛氏は、この言葉で自問自答をくりかえしていたといいます。
自分のしようとしていることの動機は、本当に「善」であるのか。また、「自分だけよければいい」という私心だけになっていないか。
それが『動機善なりや、私心なかりしか』の意味です。
この言葉をひっくり返せば、「善の心にもとづき、みんなのことを思ってする行い」が大事だということです。
石川選手は日本のリーグを離れ、2023年、イタリアのチーム「フィレンツェ」に所属しプレーを続けました。そして、自分のことをSNSで積極的に発信するようになりました。その理由が次の言葉です。
「日本からすごくたくさんの方が応援してくれているので、SNSを通してでも、イタリアからいろいろと生活も発信していければいいなと思って。(中略)自分だけじゃなくてバレーボール界を盛り上げていくためにも」
『Number Web』「イタリアに来てよかった?」渡欧から4カ月、初の海外生活で奮闘する女子バレー石川真佑(23歳)に期待したい“巻き込む力”とは
この言葉で注目するのは、「自分だけじゃなくてバレーボール界を盛り上げていくためにも」とう思いです。石川選手の心には、「自分のためだけ」ではなく、バレーボール界という「みんなのため」があります。
人は「自分のため」だけでなく「みんなの思い」を背負った時に、強くなれます。
石川選手の視点は、アスリートだけなく、誰もが大事にしたい「思い」といえます。
岩崎こよみの名言❶:弱みも見せられるようなチームになれば、もっと強くなる
岩崎こよみ(埼玉上尾メディックス)は、A代表に5年ぶりに復帰した選手です。20代の選手が多いなか、ベテランとしてチームに落ち着きと安定感をもたらしています。
岩崎選手は、「弱みを見せる」ことについて語っています。
「バレーボールであれ、プライベートであれ、みんなそれぞれ悩みもあるし、大変なことも抱えている。私もそうですけど、そういうことを含めて支え合えるような、弱みも見せられるようなチームになれば、もっと強くなるんじゃないかなと思う。」
「弱みを見せる」というと、それこそ「弱い人間のすること」と、人は「弱み」を否定的にとらえがちです。しかし、岩崎選手は、「弱みを見せる」ことで、「もっと強くなる」と、ポジティブにとらえています。
ハーバード大学教育学大学院教授ロバート・キーガンの著に『なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか』(英治出版)があります。タイトルの通り、「弱さを見せあえる」ことが「組織の強さ」につながることを解説している本です。
キーガン氏は、本の冒頭で、次のように述べています。
本書で紹介する組織は、組織のタイプこそまちまちだが、ある際立った共通点がある。人々の能力をはぐくむのに最も適した環境をもっているのだ。そうした環境は、みんなが自分の弱さをさらけ出せる、安全であると同時に要求の厳しい組織文化によって生み出される。
『なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか』(ロバート・キーガンほか 英治出版)p17
上の文章でいいたいことは、岩崎選手が言葉にした「弱みも見せられるようなチームになれば、もっと強くなるんじゃないかなと思う。」と同じです。
弱みがあることが問題なのではなく、弱みを隠すことに心のパワーをとられることが問題なのです。
人は誰だって「弱さ」「弱み」をもっています。「弱さ」「弱み」もあって、その人らしさです。
「弱さ」を隠そうとすると、「その人らしさ」を発揮できなくなくなります。「自分らしさの発揮」は、実力を発揮できるかどうかに関わってきます。
自分らしさを発揮できれば、自然体でいられて実力を出せます。そうしてチームは強くなるのです。
また、「弱さ」を「見せ合えるチーム」とは、メンバーがお互いの本質を理解しあっているチームであり、より深いレベルで相互理解が進んでいるチームです。
メンバー同士の相互理解が深まれば、古賀キャプテンのいっている「気持ちと気持ちのつながり」も生まれやすくもなります。
「弱さ」「弱み」を認め、見せ合うことで、チームは強くなっていきます。
真鍋政義監督の名言❶:試合ぐらい楽しめよ。
2024年、女子バレーボール日本代表を率いているのが真鍋政義監督です。試合後のインタビューの姿を見ると、静かで落ち着いた感じですが、内面はポジティブの塊(かたまり)です。
ミドルブロッカーの山田二千華が、監督に「例えば24-24の場面で自分にサーブが回ってきたら、どういうサーブを打つ?」と聞かれ、「ミスをしないように、アンパイなサーブを打っちゃいます」と答えると、監督は、
「オレだったら、そんなチャンスで回ってきたら、『ここでもしサービスエースを取ったら、オレはスーパーヒーローになれる』って考える。」(『Number Web』2022/10/14 )
と、言葉が返ってきました。
スーパーヒーローになれるとは、ものすごい積極思考です。
また、日本代表チームが5連敗となったネーションリーグでは、選手に向けて、こういいました。
「試合ぐらい楽しめよ。何十時間も練習して、この日のためにずっと積み重ねてきて、試合はその発表会みたいなもんなんだから。楽しむぐらいの気持ちで行けばいい」
『Number Web』「24-24でどういうサーブを打つ?」女子バレー眞鍋政義監督が若手に植え付ける“プラス思考” 世界4強逃すも「選手は自信を持っていい」
これは選手を勇気づける言葉ですね。
連敗中ともなれば、選手たちは責任を感じて、モチベーションが落ちて、楽しむことができなくなっています。次も負けるのではないかと恐れに支配されてもいるでしょう。
そんな時に、リーダーが「試合ぐらい楽しめよ」といってくれると、心を軽くすることができます。
真剣だけど深刻にならず。
真鍋監督ならではなのポジティブ思考なリーダーシップの好例といえますね。
(文:まっつん)