男子バレーボール日本代表主将の石川祐希選手。バレーボール世界最高峰のプロリーグ「セリエA」でも活躍し、日本バレーボール界を牽引する選手として確かな功績を残しつづけている。2023年、予選を勝ち抜き、パリ五輪の切符を手にした。自力での五輪出場は16年ぶりの快挙となった。
キャプテンとしてリーダーシップを発揮したことによって石川選手には、確かな変化が見れられる。石川選手がどんな考えを持っていて、何を大切にしているのか。インタビューに答えた言葉を頼りに、石川選手の名言を紹介していく。
目次
石川祐希の名言❶:仲の良さが結果に繋がっている
2024パリオリンピックの公式サイトに石川祐希選手のインタビュー記事があります。その中で、石川選手が日本代表チームが強くなった理由を話しています。
最も時間を割いて話しているのは、海外チームを経験した選手が増えてきたことです。石川選手を筆頭に髙橋藍選手や西田 有志選手など海外を経験している選手が増えています。
かつてサッカー男子日本代表はW杯に出ることができませんでした。しかし、海外チームに所属する選手が増え、W杯に出場できるようになり、2022年11月には、カタールW杯の予選リーグで強豪ドイツとスペインに勝利しました。
バレーボール男子日本代表も同じ奇跡をだどっているといえます。2024年6月時点で世界ランキングは4位(1位ボーランド、2位イタリア、3位アメリカ)です。
さて、バレーボール男子日本代表の躍進理由として、石川選手はチームメンバーの「仲のよさ」も指摘していて、こう述べています。
「日本チームの仲の良さが結果に繋がっているというのは間違いなくあると僕は思っていて、普段からいい意味で気を使わない選手たちばかりなので、思ったことも話せるし、そういった仲の良さが勝負どころで、みんなで頑張っていくぞっていうときにひとつになれる」
上の言葉で注目すべきは、「仲がいいから、思ったことも話せ、ひとつになれて、それが結果につながっている」という点です。
グーグルが生産性の高いチームを研究した結果、チーム内の「心理的安全性」(psychological safety)の高いチームほど高い成果をあげていた、と発表しました。その後、「心理的安全性」は日本においても、チーム(組織)づくりの重要なキーワードになっています。
「心理的安全性」とは、チームメンバーが、恐れを抱くことなく自分の言いたいことを言えるかどうかのことです。
例えば、何かをいうと、まず否定から入り他者を攻撃するメンバーが多いと、自分の意見を言うことに恐れが生まれ、言いたいことが言えなくなってしまいます。これは「心理的安全性」が低いチームです。こんなチームでは、勝利につながるアイデアが埋もれてしまうことになります。
反対に、石川選手のいっていることが、「心理的安全性」の高いチームです。
「仲がいい」→「思ったことも話せる」→「ひとつになれる」→「結果につながる」
上のループの回っていることが、チームには欠かせません。
「仲がいい」
「仲がいい」などというと、あまりに単純で、チームづくりする上で軽視されがちですけど、チームビルディングにおいて「仲のよさ」は、私たちが考えている以上に大切なことなのです。
石川祐希の名言❷:ここから上がっていく自信
パリオリンピックの出場をかけたFIVAW杯が、2023年9/30〜10/8日に行われました。対戦国は、フィンランド、エジプト、チュニジア、トルコ、セルビア、スロベニア、アメリカでした。
石川選手はキャプテンとしてチームをひっぱりました。ただ、大会前半は、腰の痛みもありパフォーマンスは100%ではありませんでした。絶対的エースの存在である石川選手が、その不調から試合の途中で、交代させられる場面もありました。
初戦のフィンランド戦では、2セットを先取したものの、その後2セットをとられ、第5セットまでもつれんこんでの勝利でした。そして、次の試合で格下のエジプトに負けてしまうのです。その後は、エジプトより強いチームとの試合が続きます。パリ五輪出場に赤ランプがともりました。
この時の心境を石川選手は、『Number Web』のインタビューで、こうふりかえっています。
「もう負けられない、ヤバい、という感情はなかったです。むしろ自分に目を向けても、ここから上がっていく自信しかありませんでした」
石川選手のメンタルの強さを象徴する言葉です。
キャプテンとして100%のパフォーマンスを発揮できず、格下を相手にして負けてしまったら、その罪悪感から、自信を失ってもおかしくありません。
しかし、石川選手は「ここから上がっていく自信しかありませんでした」といっています。
不運という海に落ちたら、底までいって、地を蹴ってあがってくればいい。
昔から、よくそういいます。「落ちるところまで落ちたら、後はあがるだけ」。そんな言葉もあります。この言葉通りに、石川選手は、試合を重ねるごとに調子をあげていき、パリ五輪の切符を手にします。
「自信」のあることは確かに大事ですが、もっと大切なことは、「勝利を目指す情熱」です。自信はなくても、情熱は持ち続けることはできます。
「自信があるかないか」ではなく「どれだけ勝利を望んでいるか」。
自信のあるないを気にすることはやめて、勝利への情熱に意識を向けていきましょう。
石川祐希の名言❸:そういった舞台に立つことしかない
「立場が人を育てる」
リーダー論として、古くから言われている言葉です。リーダーという立場になってみて、実際に行動し苦悩も味わい、その経験が自信となり、リーダーとして成長していく、ということです。
リーダーシップ理論を本でどれだけ読んでも、リーダーとして成長はしません。泳げるようにはなるには、実際に、海やプールに飛び込ばなければならないように、リーダーとして成長するには、実際に、リーダーの立場となって、経験を積むに限ります。
石川選手の次の言葉も、経験することの大切さをいっています。『バレーボール ネーションズリーグ2024』を前にして「U-NEXT」のインタビューで出た言葉です。
「あのレベルに行ったら1点を取って、それを経験にするとか自信をつけるしかないので、まずはああいう準決勝とかそういった舞台に立つことしかないなって風に思います。結果を出して成長するだけだなって思っています」
あのレベルとは、石川選手自身のイタリアでのレギュラーシーズンのことです。石川選手は、世界のトップレベル「セリエA」に所属するクラブチーム「ミラノ」でプレーをしています。
経験は無駄にならない。
そうよく言いますが、経験にまさる「自己成長の妙薬」はありません。自らを磨き成長させるために、そういった舞台に飛び込んでいきたいものです。
石川祐希の名言❹:よく耐えたなぁ、って思いますよ(笑)
石川選手は2014年の時に、イタリアに渡たりました。2024年4月で、9度目のシーズンを終え、所属する「ミラノ」の選手として、バレーボール世界最高峰のプロリーグ「セリエA」で第3位となりました。
9年間の海外プロリーグでの感想を記者に尋ねられて、答えた言葉が次のものです。
「よく耐えたなぁ、って思いますよ(笑)。耐えた、というとめっちゃ苦しい、みたいな感じだから、違うかな。よくやったな、よくやってるな、のほうが正しいですね」
「耐える」というと、石川選手のように、「めっちゃ苦しい」という意味合いが含まれて、つい否定したくなります。耐えるなんて古臭くて役に立たない精神論だ、とも考ええられがちです。
ですが、「耐える力」も、人間にとって大切な資質です。
「ネガティブ・ケイパビリティ」(Negative Capability)
コロナ渦を通して、この言葉を耳にするようになりました。日本語では、「否定的能力」「負の能力」などと訳されます。精神科医帚木(ハハキギ ホウセイ)先生は、『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力』(朝日選書)の中で、こう定義しています。
「どうにも答えの出ない、どうにも対処しようのない事態に耐える能力」
「性急に証明や理由を求めずに、不確実さや不思議さ、懐疑の中にいることができる能力」
耐えることは決して、古臭い役に立たない精神論ではありません。耐えることで得られる答えがあり、耐えることで見えてくる新たな世界があります。
石川選手は、「よく耐えたなぁ」と「よくやったな、よくやってるな」に言い直しています。ただ、感想として、真っ先に出てきた言葉のほうが、石川選手の9年間に対する率直な気持ちだとも考えられます。
石川選手はクラブチーム「ミラノ」を離れ、世界の強豪「ペルージャ」への移籍が発表されました。(2024年5月時点)。9年間、耐えた経験を踏み台にして、新たな世界へと羽ばたくことになったのです。
耐えることも、人生において、大切なことです。
石川祐希の名言❺:ちゃんとやるときはちゃんとやる
やるときはやる。やらないときはやらない。
できるビジネスマンたちがよく口にする言葉です。オンとオフの切り替えをしっかりして、セルフマネジメント能力の高い人ほど、仕事ができるものです。
石川選手は、日本代表チームが強くなった理由として「オン・オフの使い分け」についてもふれていました。
「遊ぶときは遊ぶし、ちゃんとやるときはちゃんとやるといったオンオフがきっちりしているので、そこが今の日本チームの強さというか、良さかなと思います」
仕事でもスポーツでも成果を高める鍵は、「集中力」です。試合の時に、集中力の欠けた選手が、高いパフォーマンスを発揮できないことは火を見るよりも明らかです。
反対に、極度の集中状態になると、アスリートたちは「ゾーンに入る」といった心理状態となり、その選手の能力を越える力を発揮します。スポーツ心理学で「ゾーン」は研究対象にもなっています。
集中力を発揮するには、「体調のよさ」が求められます。疲れていは集中力はとぎれとぎれになります。パフォーマンスもさがりがちです。では、「体調のよさ」をキープするにはどうすればいいのかといえば、オンとオフをしっかりと切り分けて、休む時にはしかっりと休むことです。
「ちゃんとやるときはちゃんとやって、ちゃんと休む時にはちゃんと休む」
石川選手のいうように、オンとオフをきっちりと切り替えていくことが、アスリートだけでなく、ビジネスマンにとっても大切です。
石川祐希の名言❻:プレー以外でチームを勝利に導く
石川選手は、所属するミラノではプレーオフ準々決勝に駒を進めました。そこで、強豪ペルージャに勝利します。ペルージャはレギュラーシーズンに無敗のチームです。しかし、石川選手は準決勝で敗れ、3位決定戦に回ることになりました。
準決勝での敗戦の後、石川選手は、チームプレイヤーとして大切なことを言葉にしています。
「プレー以外の面でも、言葉などを使ってもっともっとチームを助けられるような行動をしていかなければいけないと思っています。今季、課題にしていた『プレー以外でチームを勝利に導くこと、助けること』をもう一度意識してやっていきたいです」
試合中に試合以外の場面でも選手同士のコミュニケーションは大切です。
特に試合中は、選手同士が言葉を交わすことが求められます。話すことによって戦術を確認する意味あいもありますが、コミュニケーションの重要性は、士気を高める効果を左右する点にあります。
バレーボールを見ていると、セットによってまったく別チームになってしまうことがあります。第1セットを10点差をつけて楽々とったチームが、第2セットで敵チームにまったく歯が立たないなんてことがあります。
その要因はさまざまなです。ただ、ひとついえることは、負けているチームは士気が低く、勝っているチームは士気が高いことです。勝っているチームはよく声が出ていて、選手同士が互いに声をかけあっています。
「声を出せ!」
チームスポーツを率いる監督やコーチたちは、試合中、くりかえし選手たちに向かって叫んでいます。選手だってわかってはいるのですが、負けていると声が出なくなるのです。
石川選手も、トップレベルでの経験を通して、「声を出すこと」「コミュニケーションをとること」、その重要性を痛いほど理解しているはずです。だから自身の課題として、次のことを設定していたわけですね。
『プレー以外でチームを勝利に導くこと、助けること』
その時、「言葉」が大きな力になります。
トップレベルのアスリートたちは皆、「言葉の力」を深く理解しているものですね。
石川祐希の名言❼:高いパフォーマンスを発揮しつづけるためには、
2020年の『バレーボールマガジン』でのインタビューで、石川選手は「コミュニケーション」の重要性を言葉にしています。
「外国人枠で来ているので、即戦力としてのパフォーマンスの高さが問われる立場にいます。高いパフォーマンスを発揮しつづけるためには、コミュニケーションをしっかりとることが必要です。」
『バレーボールマガジン』石川祐希選手インタビュー前編「いい締めくくりと、いいスタートになった試合でした」(2020-01-17 )
イタリアでプレーをする日本人の石川選手は、イタリア人にとって「異人」です。「異人」が「異国」にとけこむには、いかに信頼してもらうかです。
プレーで信頼してもらうのは最も確かな方法です。ただ、チームプレーとなると、個人の能力がどれだけ高くても勝利につながらず、信頼を得るのには十分ではありません。
そうなると残された道は、常にコミュニケーションをとって、「人となり」、つまり、自身の「人間性」を理解してもらうことで、信頼を獲得することです。
信頼は、コミュニケーションによってつくられます。
試合の場面でコミュニケーションは大事ですが、試合の以外の場面で、選手同士はより多くの時間を過ごします。試合以外の場でとられるコミュニケーションの質が信頼につながり、チームの絆を深め、結果的に高いパフォーマンスにつながるものと考えられます。
プレーの能力を高めることに意識が向き、「言葉をかわすこと」を軽視しがちです。トップアスリートほど、コミュニケーションの質が高いパフォーマンスにつながることを理解しています。
チームにおいて、コミュニケーションの大切さを忘れないでいたいものです。
石川祐希の名言❽:キャプテンになってからのほうが圧倒的に記憶は濃い
『日本男子バレー勇者たちの軌跡』(文藝春秋)の著者であるスポーツライター田中夕子氏は、石川選手を古くから取材してきた人です。
その田中氏はいわく、石川選手は、試合中の自分のプレーについては細いところまで覚えていて、語ることができたそうです。ただ、試合全体の流れなど、自分のプレー以外になると、その正確さに劣る面があったそうです。
それが日本代表のキャプテンになってから変化したといいます。田中氏が石川選手にそのことを指摘して、返ってきた言葉が次のものです。
「キャプテンになってからのことはよく覚えているけれど、キャプテンになる前のことはあんまり覚えていないかもしれない、というぐらい。キャプテンになってからのほうが圧倒的に記憶は濃いですね。」
この点も「立場が人をつくる」といえるエピソードですね。
キャプテンとなれば自分のことばかりでなく、チームの勝利に向けてメンバー全体のこと、試合の流れを常に意識しつづけなければなりません。これは「心の視野」が広がったことを意味します。
人として成長していくことは、心の視野が広がることです。
それまで見えなかったものが見えるようになり、感じ取れなかったものが感じ取れるようになる。
それが心の成長であり、人格の発達です。
意識発達のアインシュタインとも呼ばれる心理学者ケンウィルバーの本『INTEGRAL LIFE PRACTICE』(日本能率協会マネジメントセンターp13)の中に、次の言葉を見つけます。
「人間の発達とは自己中心性(self-centrocity)が減少していくプロセス」
かつての石川選手は、自分に焦点があってしましたが、キャプテンとして「心の視野」が広がり、より全体に対して意識を向けるようになり、その結果、「キャプテンになってからのほうが圧倒的に記憶は濃い」ことになっているのでしょう。
成長をつづける石川選手の活躍に期待です。
(文:まっつん)