2023年9月〜10月、フランスにおいて「ラグビーワールドカップ2023フランス大会」が開催される。
2019年大会(日本開催)の各プールの上位3チーム(合計12チーム)は、2023年大会(フランス開催)にてシード権が与えられ、予選を戦わずとも出場できることになった。日本代表は、2019年大会、予選プールで全勝しているためシード権を獲得してのW杯出場となる。
ヘッド・コーチ(HC)は、2019年大会と同じくジェイミー・ジョセフ氏。主将は姫野和樹(トヨタヴェルブリッツ)。登録メンバーは33名。ワールドカップ初選出のメンバーは19名となった。
2015年大会(イングランド)で南アフリカを撃破した奇跡の勝利を知るリーチ・マイケルや稲垣啓太などのベテラン勢に、キャップ数(日本代表戦出場回数)の少ない若手選手が融合して、いかにチーム力を発揮できるか、W杯での活躍に多くの人が期待を寄せている。
9/10に行われたチリ戦では、先制トライを許しものの、その後6トライを重ね、42対12のスコアで白星スタートとなった。9/18イングランド戦は、前半、五分五分の戦いを見せたものの、格上のイングランドを相手にトライを奪われ、惜敗。9/29サモア戦は、先取点をとった後は、終始リードを続けた。サモア選手のレッドカード退場があり、敵が14人になったものの、後半は6点差まで詰め寄られ、28-22で、何とか逃げ切る形となった。
予選プールの最終戦(10/8)はアルゼンチンが相手で、格上との勝負になった。前半は1点差(14-15)で終えるものの、後半は、フォワードのパワーで上回るアルゼンチンに優位に試合を運ばれ、日本代表は黒星となった。決勝トーナメント進出とはならなかった。
・9/10 ⚪️🇯🇵日本42 V.S チリ12
・9/18 ⚫️🇯🇵日本12 V.S イングランド34
・9/29 ⚪️🇯🇵日本28 V.S サモア22
・10/8 ⚫️🇯🇵日本27 V.S アルゼンチン39
フランス大会(2023年)で多くの人を感動させた、ジョセフ監督をはじめ、ラグビー日本代表選手(姫野和樹主将、リーチ・マイケル、稲垣啓太、堀江翔太)の記憶に残る名言を紹介していく。
目次
ジェイミー・ジョセフHCの名言:人間として成長して欲しい。
ジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)は、ニュージランド出身の元ラグビー選手です。ニュージランド代表チーム「オールブラックス」にも選出されています。
1995年南アフリカで第3回W杯が開催されました。この時、「オールブラックス」は準優勝しています。ジョセフ監督は、この時のメンバーでした。
その後、日本に来て、西日本社会人リーグの「サニックス」(現・宗像サニックスブルース)に所属し、2000年までプレーをしました。1999年には、平尾誠二監督(元日本代表選手)のもと、ウェールズで開催された第4回W杯に日本代表として出場しています。日本代表には9回選出されています。
ジョセフ監督は、日本代表選手でもあったので、日本と深い縁のある人といえます。
南アフリカに奇跡の勝利をおさめたエディー・ジョーンズ監督の後任が誰かになるのかと注目が集まる中、2016年にラグビー日本代表監督に就任しまたのがジョセフ監督です。
日本で開催された第19回ラグビーW杯(2019)では、「ONE TEAM」のスローガンを掲げ、世界の強豪アイルランド、スコットランドにも勝利し、予選プールを全勝で通過し、決勝トーナメントへ進出しました。決勝トーナメントでは、1回戦で南アフリカに負けたもののベスト8進出は初のことです。
第19回W杯が終わった後、契約を更新し、W杯2大会連続でラグビー男子日本代表ヘッドコーチ(HC)を務めています。
そのジェミーHCは、2022年に『Number』でのインタビューでこう語っています。
自分が代表の一員としてプレーするということは、先祖や家族、そして自分が育った山や川、そうした要素を代表していることになります。自分のルーツ、故郷を知ることは、ひとりではなく、いろいろな人の思いを背負って戦っていることになり、それは人間としての強さにつながります
「決してガードを下げてはいけない」ラグビー日本代表はオールブラックスに付け込む隙はある? ジェイミー・ジョセフが語る“4年ぶりの決戦”」(Number Web 2022/10/28)
現在の日本代表には多くの外国籍の選手がいます。日本国籍を取得していなくても日本代表になれるのがラグビーです。
2019年7月、宮崎合宿の時には、「ダイバーシティ」(人材の多様性)を大切にするため、「グローカル」が合言葉になっていました。「グローカル」とは「グローバル」と「ローカル」を組み合わせた言葉です。
日本という「国」を理解するために、日本国歌の歌詞に登場する「さざれ石」をチームメンバーで見学しに行きました。代表となる「国」(ローカル)のルーツを確認することで、ジョセフ監督は、チームとして、そして、人間としての「強さ」を選手たちにもたらそうと考えていました。
その根底には、ジョセフHCの指導哲学があります。ジョセフHCは、こんな言葉を残しています。
ラグビー選手としてだけではなく、人間として成長して欲しい。
『文春オンライン』「ラグビー日本代表「“名将”ジェイミー・ジョセフってどんな人?」 指揮官を知る“3つのキーワード”」
(ラグビージャーナリスト村上 晃一)
人としての成長なくして、技術の成長なし。
スポーツ界に限らず、武道の世界でもよく言われることです。
ジョセフHCの指導のもと、2023フランスW杯でも、数多くの日本代表選手たちが人間として成長していくことでしょう。
姫野和樹の名言:本当の自分を知っていれば、ブレない
2023年フランスW杯での主将(キャプテン)は、姫野和樹選手(29歳)です。姫野選手は、愛知県名古屋市の生まれです。幼い頃、その家庭環境は、経済的にとても厳しいものでした。
中学生の時にラグビーを始めました。高校時代は、高校日本代表にあわせ、U20セブンズ日本代表にも選出されています。大学は、ラグビーの強豪帝京大学です。帝京大学は全国大学選手権9連覇をしています。V5からV8に貢献したのが姫野選手です。
9/8の時点で発表されたチリ戦の登録メンバー23人の内、6人が帝京大学出身の選手でした。姫野選手を含め、中村亮土(32)、流大(30)、坂手淳史(30)、松田力也(29)、堀江翔太(37)です。姫野選手は、ケガのためチリ戦の直前で、登録は抹消されていました。
余談ですが、姫野選手は帝京大学時代は、主将でありませんでした。帝京大学の卒業後、リーグワン・トヨタヴェルブリッツに入り、主将に就任したのです。2019年W杯(日本開催)では、「ジャッカル」(ラック時に立ったまま敵チームのボールを奪おうとするプレー)を知らしめる活躍をみせ、強いインパクを残しました。
その姫野選手は、ノートをつけることを習慣にしています。そのノート習慣をまとめたのが、『姫野ノート 「弱さ」と闘う53の言葉』(飛鳥新社)です。
ノートをつけている理由について、姫野選手は「自分という人間を知るため、より深く理解するためだ」といいます。
そして、『姫野ノート』(飛鳥新社)の「はじめに」では、こんな言葉を記しています。
本当の自分を知っていれば、「僕はこういう考え方だから、じゃあ次はこうしよう」「ちょっと嫌だけど、こうすべきだよな」と自分の行動の精度を上げることができるし、迷ったり壁にぶつかったりした時でもブレずに進むことができる。
中国の古典「孫子の兵法」にも、「彼を知り、己を知れば百戦殆からず」とあります。敵のことを知るのはもちろん、自分のこともよく理解すること、その大切さを伝える言葉です。
書くことを通して人は、通常の意識では気づくことのできない「思い」「感情」に気づくことができます。立派なことを書こうとするのではなく、思うことをどんどん書いていけばいいのです。これには、ストレスを解消する効果もあります。
姫野選手も「僕はこのノートに、悩みや苦しみ、泣き言や欲望まで書いてしまう。(中略)すると書きなぐった言葉の中から、「弱い自分」が見えてくる。「本当の自分」が見えてくる」(『姫野ノート』)と記しています。
思うことをとにかく何でもいいから書く。
この手法は、書く瞑想とも呼ばれる「ジャーナリング」という名で知られています。
自分と向き合うこと、自分を知ることの大切さは、アスリートも、学生も、社会人も、男性も、女性も、一切変わらないものだ。
姫野選手が発揮するリーダーシップの裏には、「ノートに書き自己を深く知る」という手法が存在してたのです。そして、姫野選手は自身のリーダーシップについて、こう表現しています。
僕が思っているリーダーシップは情熱と愛情。これが自分のリーダーシップだと思うし、それはチームに伝染する。チームに火が付けば、それは大きな炎になる。僕は火付け役として、情熱をグラウンドの中で表現し続けることができたと思う
『「これが自分のリーダーシップ」 ラグビー日本代表の気になるキャプテン人事…姫野和樹をHCが絶賛した理由「姫野はその素質を持っている」』(Number)
フランスW杯にて、姫野選手の「火付け役」となるリーダーシップを存分に見たいものです。
リーチ・マイケルの名言:絆やチームの愛情がないと
リーチ・マイケル(Michael LEITCH)選手は、1988年、ニュージーランド・クライストチャーチで生まれました。2004年、ニュージランドから日本の高校(札幌山の手高等学校)に留学します。
卒業後、東海大へ進学して、大学時代に日本代表に選出されています。2011年に現在の東芝ブレイブルーパス東京に入団し、W杯は2011年から2023年までの4大会で、連続出場を果たしています。南アフリカを撃破したイギリスW杯(2015)と初のベスト8進出を果たした日本W杯(2019)では、主将を務めました。
2023年1月、フランスW杯に向けてのインタビューで、リーチ選手こう語っていました。
「戦術をいくら磨いても本気の強さは出せない。絆やチームの愛情がないと。言うのは簡単だけど難しい。19年はよくできた。何をやっても勝てる自信があった。日本はクールな人が多くてパッション(情熱)をあまり表に出すのが苦手。引き出す努力をしないと」
リーチ・マイケル、自身4度目の大舞台へ「最強の日本代表を作りたい」…ラグビーW杯9月開幕(スポーツ報知 2023/1/2)
戦術をどれだけ磨いても、それを実際にするのは人間です。人間はパッション(情熱)によって、想像以上の力を出せるものです。そのためには、選手の自主性を重んじるチームづくりが欠かせません。
日本代表のキャプテン時代に、リーチ選手は、その自主性に関することで、こんな言葉を残しています。
「理想はコーチのいないチーム。コーチに何も言われなくても自分たちで決められるチームです。試合ではHCの指示をいちいち待っていられない。自分たちで考えて解決しないといけない。」
2015年イギリスW杯で、「スポーツ史上最大の番狂わせ」と言われた南アフリカ戦の勝利は、エディー・ジョーンズHCの指示とは違い、グラウンド上で、選手たちが自分たちで決めてボールを回した結果、生まれたトライであり、大逆転劇でした。
エディー・ジョーンズHCからジェイミー・ジョセフHCの体制になってから日本代表の雰囲気は、より選手の自主性を重んじる雰囲気に変化したと、リーチ選手もいっています。
その成果が、フランス大会でも実を結ぶことでしょう。
稲垣啓太の名言:“自分中心主義”でありながらも“チームファースト”
「笑わない男」。
日本W杯(2019)の活躍で、この異名とともに、数多くのメディアに登場し、ラグビーファン以外の人々にも知られる存在となりました。
稲垣選手は、1990年、新潟県生まれです。中学時代までは野球部に所属していましたが、兄の影響で、地元のクラブチーム(新潟市ジュニアラグビースクール)でラグビーを始めました。
新潟工業高校卒業した後、関東学院大学ラグビー部に入ります。大学4年の時に主将を務めましたが、1部リーグから2部に降格するという挫折を味わいました。
稲垣選手が、リーダー論を語っている言葉が『Esquire』のインタビュー記事にあります。
稲垣選手は、若い頃は、とても「自分中心主義」な人間だったそうです。ですが、「ラグビーというチームスポーツに身を置いている以上、“チームファースト”というマインドは常に抱いています」と、チームのことを最優先に考えるマインドセットについてもふれています。
そこでリーダー論です。
リーダーシップ理論でも、矛盾する人格を統合することの大切が、よくいわれます。
どんな人も、稲垣選手のように、自分の中に矛盾する人格を持っているものです。「自分のため」と「みんなのため」。その2つのバランスをとることで、効果的なリーダーシップが発揮されるのです。
その稲垣選手が、『Number』のインタビューで語っている「モチベーション論」も参考になります。
結果的に試合で負けることもありますけど、そしたら自分の準備が足りなかったんだな、と。次の機会に相手を打ちのめすまで、また準備して、鍛えて、蓄えて、を繰り返すだけです。もう、負けたらクソみたいな気分ですけどね。でもそれは落ち込むとかじゃなくて、腹が立つって感じなんです。そこからすぐに、いったい何が足りなかったのか? と冷静に考え始めるんです。
つまり、いいことがあっても大喜びせず、結果が出なかった時でも落ち込まず、そうやってひたすら成長を繰り返してきたわけですよね。
「パリ五輪出場決定」でも河村勇輝が感情を爆発させないワケは?…バスケW杯で世界が注目“身長172cmの司令塔”の見据える先(Number Web 2023/9/3)
稲垣選手は、この後に、「モチベーションなんて関係ない、来たるべきその時に向けて今やっている行動だけがすべてなんだ」といっています。
モチベーションがあるからできる。モチベーションがないからできない。
そんな風に、自分の行動を「モチベーション」に結びつけていると、「やるべきこと」をやらない自分になっていってしまいます。自信も同じです。
モチベーションがあることより、自信があることより、やるべきことやることが、何より大事です。
堀江翔太の名言:良い練習をしなければ良い試合もできない。
フランス大会での日本代表におけるベテラン勢といえばリーチ・マイケルの顔がすぐ浮かびますが、次に浮かぶのが、堀江翔太選手です。トレードマークといえるドレッドヘアは、強い印象を与えます。堀江選手もリーチ選手と同じく、4大会連続でのW杯出場となりました。
堀江選手は、1986年大阪府生まれで、 大阪府立島本高等学校のラグビー部で名を知られるようになります。『高校日本代表になるよりもオール大阪になる方が難しい』といわれた当時、堀江選手はオール大阪に選ばれました。
大学は帝京大学に進学し4年生の時に、主将を務めています。大学卒業後、三洋電機ワイルドナイツ(現:埼玉パナソニックワイルドナイツ)に入団し、2014年は、主将としてチームを率いて、ジャパンラグビートップリーグと日本選手権で優勝をはたしています。
2022年「ジャパンラグビー リーグワン」(JAPAN RUGBY LEAGUE ONE)が始まりました。2022年、初代王者となったのが、堀江選手が所属する埼玉パナソニックワイルドナイツでした。堀江選手は、MVPを受賞しています。
2023年シーズンに向けてのインタビューで、堀江選手は、こう語っています。
一戦一戦、目の前の試合に勝って、勝利を積み重ねていきたいです。その先に連覇が見えてくると思うので。チームに対しては、謙虚と感謝を忘れずにラグビーをすること、天狗にならないことを態度で示したい
堀江翔太「謙虚と感謝を忘れず、天狗にならない」――「ジャパンラグビー リーグワン2022-23」(TVガイドweb 2022/11/20)
謙虚と感謝を忘れることで、練習がおろそかになり、結果の出なくなることがあります。トップアスリートちが、スランプに陥る要因は様々ですが、謙虚と感謝を失うことは、そのひとつです。
「謙虚さ」と「感謝の心」があることで、「選手として、今プレーできているのは、自分のひとりの力ではない、本当にありがたい」と思え、練習にもより一層、力が入るものです。
堀江選手は、「練習」に関する、こんな印象深い言葉も残しています。
良い練習をしなければ良い試合もできない。日々成長していきたいです。そして、日本代表もチームとして成長しなければいけない。
「連覇は考えず、日々成長を続けたい」 リーグワン初代MVP・堀江翔太選手インタビュー(J SPORT 2022/12/14)
フランス大会に向けて、堀江選手を含めて、日本代表の選手たちは、良い練習を積み重ねてきたことでしょう。
フランスW杯では、決勝トーナメント進出とはなりませんでしたが、チリとサモアには勝利し、負けた試合でも、多くの人を感動させる「良い試合」を見せてくれました。