自己分析「オンライン個人セッション」〜性格検査MBTI®を活用して〜

夢分析の事例〈河合隼雄〉

夢分析の事例(河合隼雄)アイキャッチ画像

 夢は無意識からのメッセージである。ユング派の心理療法家河合隼雄氏の著書には、夢の事例が多く掲載されている。ユングの文献では夢を見た人が西洋人となるが、河合氏の本では日本人が基本となる。西洋人と日本人では心のつくりが違うことを河合氏は指摘している。私たち日本人が夢を考える時に、日本人の事例は大いに参考になる。

 ユングの理論をベースにしつつ、河合氏の文献にある夢の事例をあげながら、夢分析について考えていく。

❶夢の事例:「影」(自分の半面を統合する)

 ユングが提唱した「影」(シャドー)とは、「自分の生きられなかった半面」のことです。真面目な人は、不真面目な人として生きていません。他人に「優しく」してきた人は、他人に「冷たい」人としては生きてきませんでした。

 ユングは「影」(シャドー)について、こう書いています。 

 影ということで、私は人格の「否定的」側面を意味している。それは十分に開発されてこなかった個人的無意識の内容・機能を含めて、私たちが表出したがらない不快な性質をもったもののの集合である。

『エッセンシャル・ユング』(アンソニー・ストー 創元社)p101

 例えば、自他ともに認める「優しい人」の夢の中に、「冷たい人」が出てくることがあります。夢の中で、その「冷たい人」と喧嘩をしたり、逆に、何かを一緒にやっていたりするのです。「生きられなかった半面」が、無意識で「生きている」ことを知ります。

 なぜ、生きられなかった半面が夢に出てくるのでしょう。その理由の多くは、次のメッセージを伝えるためです。

「あなたの今の生き方はかたよっているので、今の自分とは異なる「反対の要素」を自分の中に取り入れて、バランスをとりなさい」

 河合隼雄先生の著『無意識の構造』(中公新書)に、「影」(シャドー)に関する夢の事例があります。

『無意識の構造』(中公新書)
クリックするとAmazonへ!
夢NO.1

 私はなにか商売をしている。店員はA(男性)で、会計はB(女性)がやっている。私は自分が商売をしていること、しかもAと一緒にやっていることを不思議に思っているが、なかなかよく繁盛している。しかし、Bが私のところへ来て、Aと一緒に仕事はしたくないと言いだしたので、私は困ってしまう。

『無意識の構造』(河合隼雄 中公新書)p101

 この夢を見た人(Cさん)は、30歳近くの研究者であり真面目な人です。夢に出てくるA(男性)さんは、同じ研究者ですが、Aさんと生き方が違います。「攻撃的で、出しゃばりで、知ったかぶりをする」人で、Cさんは、Aさんのことを、あまり好きではありません。

 Aさんは、Cさんにとって「生きてこなかった半面」であり、「影」(シャドー)です。

 この夢は現実とは反対の世界を描き出しています。好きでないAさんと一緒に商売をして、繁盛している、成功しているのです。

「影」からのメッセージ

 河合先生は、この夢のメッセージは明瞭だと書いています。

 「あなたは影のAの協力を得て、思いがけない仕事できる」

 真面目な研究者Cさんの中にも、Aさんの要素はあるのです。「攻撃的で、出しゃばり」という否定的な表現は、肯定的にとらえれば「勢力的で、積極的」だということです。

 Cさんは、自分が真面目で控え目な性格だから、自分に比べて積極的なAさんを「攻撃的で、出しゃばり」と否定することで、自分を正当化しようとしてきました。

まっつん
まっつん

 しかし、30歳近くになって、この先、研究者として「真面目」「控え目」だけでは通用しないのではないか。そのことをCさんの無意識はわかっていて、「Aさんと一緒に仕事をして成功している」という夢を見せて、気づかせようとしているのです。

 CさんがAさんの生き方(勢力的で、積極的)から学び、自分の中に取り入れようと努力すれば、その道は決して平坦ではありませんが、Cさんは、次のステージへと飛躍することでしょう。

❷夢の事例:アニマ(こころ「魂」の再生)

 ユング心理学の概念に「アニマ」「アニムス」があります。

 アニマは、男性の「こころ」(魂)をイメージ化したもので、夢の中で女性の姿で現れることが多いとされます。
 アニムスは、女性の「こころ」(魂)をイメージ化したもので、夢の中で男性の姿で現れることが多いとされます。

 次の夢は、ある男性が見た「アニマ」に関する夢です。

『ユング心理学入門』(河合隼雄 培風館)の表紙画像
『ユング心理学入門』(河合隼雄 培風館)
クリックするとAmazonへ!
夢NO.2

 私は誰かと海水浴にゆくところであった。行きたくはなかったが、私はどうしても行かねばならないことを知っていた。海岸では中学時代の先生が水泳を教えてくれた。ほかのひとたちが皆泳いでいるとき、私は一人離れて海岸にいた。
 すると突然、海底から裸の少女の体が浮き上がってきた。私があわてて助け上げ人工呼吸をする。私は彼女のかすかな息を感じてほっとする。彼女のために暖かい着物を探すため帰宅するが、たくさんの衣類はどれも小さすぎてだめ、衣類を探しまわっているうちに目が覚める。

『ユング心理学入門』(河合隼雄 培風館)p201

 河合先生いわく、この夢は、夢分析をしようと決めてすぐに見た「初回夢」といえる夢であり、「危機状態にあった見知らぬ少女、アニマを救い出す典型的な夢」(p201)です。

 つまり、男性のアニマが、「裸の少女」としてイメージ化されている夢です。

ペルソナとは

 男性は外に向けた顔=「ペルソナ」を「男らしく」を基本につくろうとしますので、内側の世界である「こころ」(魂)は、女性としてイメージ化されると、ユングは考えました。

 「ペルソナ」とは、社会や組織など外の世界から求められてつくる自分の「顔」です。男は男らしく、女は女らしく、親は親らしく、先生は先生らしく、上司は上司らしく…「〜らしく」いようと「自分をつくる」時、そこに「ペルソナ」があります。

 周囲の人からの評価を求め「ペルソナづくり」に励むことは自然なことです。学校や会社で、友達や同僚から高い評価を受けるように努力をすることは、普通のことです。

 しかし、周りからの評価を求め過ぎて、そればかりに気をとられて、例えば、周囲の人から好かれよう好かれようと他人にばかり気をつかっていると、自分の内面=「こころ」(魂)がお留守になって、いつの間にか、危機に陥っている可能性があるわけです。

 会社を創業して、規模を大きくして社員を増やし、何十億という売上を上げて、社会から「成功者」として高い評価を受けている社長が、実は「人生が虚しくてしかたない」と、家でうなだれていることがあります。

 社長としての「ペルソナ」はうまくできたわけですが、「こころ」(魂)がお粗末になっているケースです。その成功者の内面=「こころ」(魂)は、「海底に沈んでいる少女」のように危機にあります。

アニマの危機

 上記の海水浴の夢を見た人が、どんな人柄でどんな人生を歩んでいるかについて、本に詳しく書かれてありません。ただ、アニマが危機に瀕していることは、はっきりしています。

 「海」は無意識の象徴です。冒頭の「行きたくはなかったが、私はどうしても行かねばならないことを知っていた」は、「無意識とコンタクトを取らなくてはいけない」状態になっていたということです。

 無意識にひそむアニマと向き合うことは、時として、劣等な自分に直面することを意味します。ですので、「行きたくなかった」となりますが、そのままでは「こころ」(魂)が、おぼれてしまいますので、「行かねばらない」わけです。

まっつん
まっつん

  目が覚めている通常の意識では、「行きたくない」で終わりであり、「行かねばならないことを知らない」となります。でも、夢は無意識からメッセージですので、「行かねばならないことを知っていた」となります。彼の意識レベルではわかっていなくても、こころ全体では、わかっているのです。

 さて、「海底から裸の少女の体が浮き上がってきた」場面で、この男性は、「人工呼吸」をしています。アニマの語源には「たましい」「息」「動く空気」があります。まさに「息」を通して、アニマの蘇生に取り組んだわけで、夢によくある「手のこんだ表現」です。

 この夢は初回夢でした。初回夢には、この先どうなるのかの「見通し」「方向性」が多く含まれます。よって、この夢は、アニマの復活を意味していません。

 アニマを生き返らせるために、彼は「海底から浮き上がってきた裸の少女をあわてて助け上げ人工呼吸をする」ような、「多くの努力を、今後、必要とする」ということです。

 本には、「このひとは長い分析を通じて、そのアニマを獲得するために勇気のある努力を続け」(p202)とあります。

 夢は、その人の生き方がかたよっていて、「このままでは危ない」となると、時にとても「厳しいメッセージ」を送ってきます。でも、その厳しさも、危機を回避することにつながるのですから、「本当の優しさ」と考えられるのです。

❸夢の事例:親子関係(子どもの独立と二重身)

 次の夢の事例は、河合先生の著『コンプレックス』(岩波書店)に書かれてある内容です。

 クラアントは女性です。結婚適齢期でありつつ独身です。母親との関係が悪く、それを改善しようとして相談に来ました。母親は娘の欠点を指摘し、言い争いが絶えません。親子関係が悪いのですから、仲良く「一体感」を持てるようすることがゴールでしょうか。

一体だから争いあう

 しかし、河合先生はこう書いています。

『コンプレックス』(河合隼雄 岩波書店)の表紙画像
『コンプレックス』(河合隼雄 岩波書店)
クリックするとAmazonへ!

 争いの絶えない親子関係は、実のところ両者の無意識的な結合を背景としている。
 母と子は一体であり、母親はそれを基にして、いくら娘を攻撃しても娘が自分から離れていかないことを前提として、叱責したり、避難したりを繰り返している。 『コンプレックス』(岩波書店)p172

 つまり、「一体」だから「争い」が繰り返されていて、「一体」だから「甘え」がどこかにあって、互いの関係を改善をするための真剣な努力が生まれてこないわけです。

 こうも先生は書いています。

 無意識的な結合を土台としての口論は、破壊も建設ももたらすことなく、同じことを永久にくり返しているにすぎない。それは真の対決ではない。 『コンプレックス』(岩波書店)p173

 となると、課題は、互いに精神的に自立をして、離れていくこと(分離)、となります。

 クライアントが、以上のような河合先生の考えをだんだんと理解し始めた頃に、次の夢を見ました。

夢NO.3

 母が棚の上の荷物を整理している。自分はそのそばにいる。(自分の家だが、現実の自分の家とは異なっている。)母が突然に倒れて死ぬ。私はとりすがって泣くが、不思議なことに、隣の部屋で、もう一人の私が箒(ほおき)をもって掃除をしている。

『コンプレックス』(河合隼雄 岩波書店)p172

 「死」の夢は「再生」であり「旅立ち」を意味します。子どもが真の意味で、精神的に親から離れ独立していく時に、「親が死ぬ夢」は、よく登場します。

 この夢で特徴的なのが、母の死で、「とりすがって泣く」のですが、「もう一人の私が箒(ほおき)をもって掃除をしている」点です。一つの空間にふたりの自分が存在する「二重身」の夢ですね。

まっつん
まっつん

 掃除ですから、掃いて捨てるのです。ひとりの自分は、泣いて親の死を悲しみ「一体感」を維持しようとしますが、もうひとりの自分は、母の存在を掃いて捨て「離れること(分離)」を選択しようとしていたのです。

 この女性の無意識は、「そろそろ母親から離れる時期が来ましたよ、その準備が出きていますよ」と、夢を通してメッセージを送ってきたわけです。

 その後、この女性は、「母親との意味深い戦いをなし遂げて、自立の方向へと進んでいった」と書かれてあります。「一人暮らしを始めたのか」「何か新しい仕事を始めたのか」、詳しくは書かれてありませんが、生き方を変えていったことは確かです。

 夢は、自分で気づいていないこと、気づくことが難しいことに、気づかせてくれます。

 喧嘩ばかりなのに、実は「一体」だから争いばかりの日々になっているとは、なかかな気づけませんね。でも、夢を通して、メッセージを読み解いていくと、気づけない気づくべきことに気づけるようになるのです。

 夢は自分で書いた自分への手紙なのです。   

(文:松山 淳


アイキャッチ画像肖像画:出典:ウィキメディア・コモンズ (Wikimedia Commons) File:Hayao Kawai.jpg 文化庁長官 河合 隼雄(かわい はやお)原典:日本政府


夢分析個人セッションのアイキャッチ画像
夢分析セッション