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 C.G.ユングの著『東洋的瞑想の心理学』(創元社)がある。東洋思想・宗教に関するユングの論文をまとめた本だ。ユング心理学(分析心理学)を確立していくプロセスにおいて、ユングにとって、東洋思想との出会いはターニングポイン ... ]]>

 C.G.ユングの著『東洋的瞑想の心理学』(創元社)がある。東洋思想・宗教に関するユングの論文をまとめた本だ。ユング心理学(分析心理学)を確立していくプロセスにおいて、ユングにとって、東洋思想との出会いはターニングポイントとなっている。

C.G.ユングの著『東洋的瞑想の心理学』(創元社)の表紙画像
『東洋的瞑想の心理学』(創元社)
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 無意識に関する意見の相違から、ユングは「師」といえたフロイトと訣別することになる。その後ユングは、方向喪失の状態になり精神的危機に陥る。この時期、ユングは「曼荼羅(マンダラ)のような絵」を描いていた。また、患者の中にも「曼荼羅のような絵」を描いて持ってくる人がいた。

 ユングは東洋思想の「曼荼羅」を知っていて「曼荼羅のような絵」を描いていたわけではない。不安定になっている自分の心をおさめようとして、自然と、「曼荼羅のような絵」を描いていたのだ。その絵が、東洋の曼荼羅に似ているとわかったのは、『黄金の華の秘密』と題する道教の錬金術に関する論文をみてであった。この論文は、中国在住のドイツ人宣教師リヒアルト・ヴィルヘルムが送ってきたものである。

ユング画像
心理学者C.Gユング
(Carl Gustav Jung)

 フロイトという「拠り所」を失い、「新たな拠り所」として期待したグノーシス主義の研究も納得できるレベルではなかった。仕事に行きづまっていたユングは、『黄金の華の秘密』との出会いについて、「これは私の孤独を破った最初のことがらであった。私は類似性に気づき始めた。私は何ものかと、そして誰かと関係を打ち立てることがきでるはずだ」(『ユング自伝1』みすず書房 p280)と自伝に書いている。

 「孤独を破った最初のことがら」という言葉から 、ユングにとってどれほどインパクトがあったのかがわかる。

 ユングはヴィルヘルムの論文をきっかけに、錬金術の研究に没頭していく。ユング独自の心理学理論を支える「新たな拠り所」を『黄金の華の秘密』の中に見い出したのである。

 それ以前に、「ヨガ」や「易」にも興味を持っていたユングは、『黄金の華の秘密』との出会いをきっかけに、西洋思想だけでなく東洋思想の考え方も取り入れながらユング心理学(分析心理学)を打ち立てていく。

 そのため「西洋」と「東洋」の出会いは、ユング派の日本人心理療法家にとっても課題といえる。次の3冊は、東洋思想とユング心理学を融合させたユング派の日本人心理療法家による代表的な著作である。

  • 『ユング心理学と仏教』(河合隼雄 岩波書店)
  • 『悟りの分析』(秋山さと子 PHP研究所)
  • 『仏教とユング心理学』(目幸黙僊 J.マーヴィン スピーゲルマン  春秋社)

 この3人の著者の中で特に興味を引くのが、目幸黙僊(ミユキ モクセン)氏の存在である。なぜなら、目幸氏は僧侶(禅宗の臨済宗)でありつつ、米国の大学で教えていた宗教学者であり、かつスイスのユング研究所で国際資格をとった心理療法家でもあるからだ。「東洋」と「西洋」の出会いの体現者が、目幸氏である。ちなみに、秋山さと子氏も禅寺の育ちである。

 目幸氏は、『仏教とユング心理学』(春秋社)において、「悟りの本質的な特徴は、自我の超越や自我の否定にあるのではなく、むしろ、自我が無意識の内容を統合するための絶え間ない努力を行うことを求める一生を賭けたプロセスにあるのである」(p75)と書いている。

『仏教とユング心理学』(目幸黙僊 J.マーヴィン スピーゲルマン  春秋社)の表紙画像
『仏教とユング心理学』(春秋社)
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 「悟り」を「一生を賭けたプロセス」とらえ、「自我が無意識の内容を統合する」こと、つまりユング心理学のキーコンセプトである「個性化の過程」と重ね合わせている。「個性化」(individuation)とは、『その人がなりうる〝本来の自分になっていくこと』だ。

 「悟り」といえば、「宗教的な何らかの修行を重ねた末に得られる特殊な覚醒体験」を想像する。神秘的、超常的、急激的な「覚醒体験」が「悟り」だ。すると、宗教を信仰せず、修行に取り組まない人々にとって、「悟り」は縁遠いものだ。しかし「個性化の過程」というユング心理学の視点から眺めていくと、その縁遠さが、やや身近なものとなってくる。

 目幸黙僊氏の考え方を軸に、ユング心理学の知識もおりまぜながら「悟りのこころ」について考えていく。

「悟り」とは何か?

 「悟り」とは本来、仏教の言葉です。でも、現在の日本においては、仏教だけに限らず、ヨガや精神世界やスピリチュアルの領域においても、「悟り」という言葉は使われます。いずれにしても、通常の意識を超越する「覚醒体験」ととらえることは、共通しています。

 では「悟り」とは、いったいどんな体験なのでしょうか。。「悟る」ことで、どんな変化が起きるのでしょうか。それを知るためには、実際に「悟り体験」をした人から話を聞くか、「悟り体験」をした人の記録にあたるに限ります。

 大乗仏教における「悟り体験」をまとめた本に『「悟り体験」を読む』(大竹晋 新潮社)があります。大竹先生は仏教研究者です。「悟り体験」の記された中国古典から近現代までの書を網羅して「悟り」の本質に迫っています。

書籍『悟り体験を読む』の画像
『「悟り体験」を読む』(新潮社)
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悟りの「頓悟」と「漸悟」

 仏教の悟り体験には、「頓悟」(とんご)と「漸悟」(ぜんご)があります。「頓悟」は、ある日、ある時、突然、「悟りの境地」に達することです。急激な変化を伴う覚醒体験が「頓悟」です。これに対して「漸悟」は、時間をかけて、だんだんと「悟りの境地」に至ることです。

まっつん
まっつん

 一般的に私たちが抱く「悟り」に対するイメージは、「頓悟」のほうでしょう。突然、「わからなかったものが、わかる」「明らかでなかったものが、明らかにされる」。そんな覚醒体験です。

 「頓悟」があっても、もちろん終わりではなく、宗教家たちの修行は「悟った」後も続きます。

 「頓悟」がいくつか起きて、さらに深い「悟り」に至る例もあります。「小悟」(小さな悟り)と「大悟」(大きな悟り)という言葉があります。「頓悟」が「小悟」の時もあり、「小悟」を積み重ねて段階的に「大悟」を得たとしたら、そのプロセス全体は「漸悟」だったといえます。

 目幸氏が「悟り」を「一生を賭けたプロセス」と書いているのは、「頓悟」と「漸悟」でいえば「漸悟」のほうだといえます。

悟り体験の5つの枠組み

 『「悟り体験」を読む』(新潮社)には、「頓悟」と「漸悟」のいずれもの例が掲載されています。大竹先生は、数多くの悟りに関する文献を読み漁り、「悟り体験」を5つの共通の枠組みに整理しています。それが次の5つです。

自他忘失体験

 自他忘失体験とは、自分と他者との隔たりがなくなり、「ただ心」だけになる状態です。「精神世界」の概念ですと、「非二元」(ノンディアリティ)「一元」(ワンネス)の体験といえるものです。人に強いインパクトを与える体験ですが、禅宗の臨済宗では「悟り」(見性:けんしょう)とはされない段階です。

 以下、個人名は、『「悟り体験」を読む』(新潮社)に登場する悟り体験をした「覚者」たちの名前です。

  • 倉田百三「宇宙と自己がとが一つになつているのを覚証した。其処(そこ)には天地と彼我とは端的に一枚であった」(p218)
  • 抜隊得勝「みだりな想いが尽きて胸中に一つの物もなく、内側〔である自己〕と外側〔である他者〕との隔てがなくなることは、晴れわたった大空のようであって、全方向にわたってすっきりしている」(p219)

真如顕現体験

 真如顕現体験とは、「自我の殻」が破られ「真如」を知る体験です。「真如」とは、この世界の様々な枠組みに「我(確かな自分)がない」ことです。つまり、「真如」を知るとは、仏教が重視する「空性」(からっぼさ)を知ることです。禅宗の臨済宗では、真如顕現体験をもって「悟り」(見性)とされます。

  • 山田無文「わたくしの心は忽然として開けた。無は爆発して、妙有の世界が現前したではないか」(p222)
  • 江部鴨村「そのとき俄然、私は、無限と有限と一体の実感を得た」(p222)

自我解消体験

 自我解消体験とは、私たちが日常で「自分」と考える「いつもの意識(自分)」=「自我の殻」が解消される体験のことです。「いつもの意識(自分)」が解消されて、「自我の殻」にあったものが外に飛び出し拡散される経験もあります。

  • 今北洪川「ただ、自分の体内にあった一つの気が、全方向の世界に満ち溢れ、光り輝くこと無量であるのを、知覚するのみだった」(p223)
  • 白水敬山「自己の心気力が宇宙に遍満して心身を忘失してしまった」(p223)
  • 朝比奈宗源「見るもの聞くもの何もかもきらきら輝いた感じ、そこに生も死もあったものではない」(p224)

基層転換体験

 基層転換体験とは、「いつもの意識(自分)」が解消されることで、生きている感覚の基礎となっている「心と体」の仕組み(感じ方・認識の仕方)に、パラダイムシフトが起きる体験です。「心の外側にあった全世界がその後は心の内側にあるかのように」(p226)感じられることも起きてきます。

  • 菩提逹磨「悟ってからは心が景色を包んでいるが、迷っているうちは心が景色に包まれている」(p226)
  • 原青民「心の外側に実在すると思っていたものは、まったく思いがけないことに、心の内側に顕現された対象であったのだ」(p176)

叡智獲得体験

 叡智獲得体験とは、悟り体験の前では知り得なかった「叡智」を獲得する体験のことです。解けなかった「公案」(師から与えられた悟りを開くための問題)が、たちどころにわかってしまいます。また、理解不能だった宗教的な問題が、わかってしまうこともあります。

  • 梶浦逸外「ひとたび見性いたしますと、あとにつづく公案がどんどん解決していきました」(p228)
  • 平塚らいてう「神とは何か、自我とは何か、神と人間との関係、個と全体との関係などと、女子大時代に頭の中だけでの、概念の世界で模索していた諸問題が、みんないっしょに解決され、」(p228)

 以上、5つの枠組みでの「悟り体験」の例は、あくまで一例であり、各時代を生きた覚者が「悟り体験」に関して、さまざまな表現をしています。あくまで大乗仏教での「悟り」体験です。

 「悟り」に近い超越的な「覚醒体験」は、仏教だけでなく、キリスト教(神秘主義)を始めとした西洋の宗教でもいろいろな体験が記録され、報告されています。ヨガや精神世界での「覚者」による「悟り体験」もあります。

 ただ、その中核にある「悟り体験」に関する要素は共通する要素が多く、それを『「悟り体験」を読む』(新潮社)では5つに整理しているわけです。

平塚らいていの悟り体験

 『「悟り体験」を読む』(新潮社)によると、多くの「悟り体験」をした人(覚者)が、古い時代から伝えられてきた「悟り」に関する叡智は「本当だった」と、驚いています。

 「自分と他者との隔たりがなくなり、「ただ心」だけになる」と書かれたのを読んだ時に、「そうなのか」と、頭では理解できます。「頭だけの理解」を真に理解するためには、やはり、実際に自分で体験するしかありません。半信半疑だった知識をリアルな体験を通して理解できた時、そこに自分自身の根幹を変化させる「驚き」が生まれます。

 また、多くの覚者が、「悟り」を得られたことに、強い喜びを感じています。大正から昭和にかけて女性解放運動を展開した思想家「平塚らいてい」は、「悟り体験」の喜びを、こう記しています。

平塚らいてうの自画像
平塚らいてう 出典:Wikipedia

「わたくしの場合は半年あまりかかって、徐々に心境が展開し、ついには百八十度の心的革命というか、一大転回を遂げたのでした。これはわたくしにとっては、まさしく第二の誕生でした。(中略)第二のこの誕生は、わたくし自身の努力による、内観を通して、意識の最下層の深みから生まれ出た真実の自分、本当の自分なのでした。

求め、求めていた真の人生の大道の入口が開かれたのです。さすがにうれしさのやり場がなく、わたしはその日、すぐに家に帰る気になれず、足にまかせてどこまでも歩きました」

『「悟り体験」を読む』(大竹晋 新潮社)p128

 「悟り」の強く深い喜びを「手の舞ひ、足の踏む所を知らず」と表現することがあります。「平塚らいてい」は、うれしさのあまり1日中歩いたと書いています。まさに「手の舞ひ、足の踏む所を知らず」状態だったのでしょう。

 どれほどの喜びなのか。ぜひ、体験してみたいものです。悟りを得た「覚者」たちは、誰もが日々、修行を重ねています。文献を読むだけでは「悟りの体験」はできないので、頭で理解しようとせず、「修行」に励むしかないですね。

「悟り」とは「意識の変容」のこと

 「平塚らいてい」の文章に「百八十度の心的革命」とあります。「心的革命」を心理学で考えれば、それは「心が変わる」ことであり「意識の変容」を意味します。「悟り体験」を「百八十度の心的革命」とするなら、「悟り」とは「意識の変容」の特殊なパターンといえます。

 「意識の変容」なら、誰もが経験しています。

まっつん
まっつん

 30代の人が10代の自分をふりかえった時、50代の人が30代の自分を思い浮かべ内省する時、「過去の自分」と「今の自分」を比べて、何らかの「変化」を感じとることができます。その「変化」こそが、長い時間をかけてなされた「意識の変容」です。

人生とは悟りの旅

 人は、「幸せ」を求めながらも、家族のことや、仕事のことや、お金のことや、病気のことや、いろいろなことで「人生の課題」を抱えます。それら「人生の課題」に取り組み、時に喜び、時に苦しみ、悲喜こもごもありながら、長い時間をかけて、人は意識を変容させていきます。

 自分で意図して心を「変容させる」のではなく、気づいたら自然と「変容していた」というのが、一般の人にとっての「意識変容」の姿です。宗教家たちの体験する「悟り」=「宗教的な何らかの修行を重ねた末に得られる特殊な覚醒体験」と、普通の人の「意識の変容」とは別ものです。

 ただ、日々の生活で苦悩することが、その人にとっての精神的な「修行」となっていて、「悟り」の本質を「心が変わること」=「意識の変容」ととらえるならば、宗教家と一般の人の「悟り」には、重なっている面があります。

 「百八十度の心的革命」とまではいかなくても、60度とか90度ほどのゆるやかで段階的な「心的革命」=「意識の変容」を、誰もが、年齢を重ねつつ経験しているものです。

 人生は、「わからなかったことがわかるようになる」、その連続です。

 子どもの頃にはわからなかったことが、大人になって初めてわかります。親になり苦労して初めて、自分の親の喜び苦しみが深く理解できます。お世話になってきた上司の苦労は、自分が上司になって経験を重ねて初めて、本当の意味でわかるものです。その「わからなかったことがわかるようになる」という経験が、「意識の変容」であり、広い意味での「悟りの体験」といえます。

 人生とは、長い時間をかけてなされる「悟りの旅」なのです。

悟りは無意識の内容を統合すること

『仏教とユング心理学』(春秋社)
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 そう考えてくると、「悟り」を「一生の賭けたプロセス」とらえた、ユング派の目幸先生の言葉が腑に落ちてきます。

「悟りの本質的な特徴は、自我の超越や自我の否定にあるのではなく、むしろ、自我が無意識の内容を統合するための絶え間ない努力を行うことを求める一生を賭けたプロセスにあるのである」『仏教とユング心理学』(春秋社)p75

 目幸先生は、「自我の超越や自我の否定にあるのではなく」と書いています。

 「悟り」というと、「無我」「没我」という言葉がある通り、「自我」を「無くす」というイメージがあります。それが「自我の超越」「自我の否定」です。ですが、人が生きている限り、「自我」は決して「無くなる」ことはありません。

まっつん
まっつん

 もし「自我」(ego)が無くなってしまったら、「私(自分)という意識」が無くなり、思考や感情が働くなり、日常生活を送ることが困難になってしまいます。宗教家の人たちでさえ、「悟り体験」をした後も、自我意識を中心として人生は続いていくのです。

 そう考えると、悟りのプロセスとは、ユング心理学の観点からみると、「自我が無意識の内容を統合するための絶え間ない努力」といえるのです。

 上の一文の前に目幸先生は「我々は、ユングの概念と方法論を用いる研究によって、禅の悟りを自己実現つまり自己(Self)が自分自身を実現しようとする衝動という用語で心理学的に理解した」と書いています。

 ユング心理学で「自己実現」(self-realization)といえば、「個性化」(individuation)のことです。「個性化」(individuation)とは、「その人がなりうる〝本来の自分になっていくこと」です。

 では、「個性化」(individuation)はどのようにしてなされるのでしょう。その答えが、「自我が無意識の内容を統合するための絶え間ない努力」です。

 著書『自我と無意識』(第三文明社)の中で、ユングはこう書いています。

『自我と無意識』(C.G.ユング 第三文明社)
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「自らの無意識的な自己を実現する道を歩む者は、必然的に個人的無意識の内容を意識にとりいれ、それによって、人格は大きさを増すのである」

『自我と無意識』(C.G.ユング 第三文明社)p34

 上にある「無意識的な自己を実現する道」が、「自己実現」(self-realization)のことであり、「個性化」(individuation)のことといえます。

「悟り」とユング心理学

 「自我」や「自己」や「意識」や「無意識」という言葉が出てきて、初めてユング心理学にふれる人だと混乱します。ここで、ユング心理学の基本的な心の全体像についておさえておきましょう。

ユング心理学の「意識」と「無意識」

意識と無識の補償作用のイメージ図

 ユングは、心を「意識」「無意識」にわけて考えました。

 「意識」の中心には、「自我」(ego)があります。「自我」(ego)は、意識の領域を統括している「心の働き」です。

 「自我」が働くことで、「私(自分)」という意識が生まれ、何かを考えたり、何かを感じたり、何かを記憶したりできます。「自分が何を考えているか」「自分がどんな感情をもっているか(嬉しいのか、悲しいのか、怒っているのか)」「昨日、何かを食べたのか」を記憶し自覚できるのは、「自我」(ego)があるからです。

 「無意識」を、ユングは「個人的無意識」(personal unconscious)と「集合的無意識」(collective unconscious)に分けました。「個人的無意識」には、「意識」の領域から取りり払われ、忘れ去られた「心の要素」が蓄積しています。「集合的無意識」では、「人類に共通する心のパターン」(元型)が、動いています。

まっつん
まっつん

「意識」を統括するのが「自我」(ego)ならば、無意識を含めた心全体を統括している「心の働き」を、ユングは「自己」(self)としました。

 「自己実現」「個性化」において、心全体の中心にある「自己」(self)の働きがキーになってきます。

こころの補償作用

 「意識」と「無意識」は、相互に作用していて、補償しあう関係にあります。「意識」が偏っていく時、「無意識」が「意識」に働きかけて、心全体のバランスを保とうとします。

ユングは、『ユング 夢分析論』(みすず書房)で、こう書いています。

『ユング 夢分析論』(みすず書房)
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「こころとは自己調整を行うシステムであり、体という生がそうするのと同じようにしてバランスをとっています。行き過ぎた過程に対しては、それが何であれ直ちに、そして確実に補償が始まります。この補償を抜きにしては、正常な新陳代謝も正常な心もありえません。」

『ユング 夢分析論』(C.G.ユング みすず書房)P6

 「心の補償作用」であり「自己調整を行うシステム」の具体例が、夜に見る「夢」です。「夢」は「無意識」から「意識」へ向けたメッセージです。何かに追いかけられる夢を見たり、歯が全部抜けたりする夢を見るのにも、何らかのメッセージがあります。

 夢のメッセージをクライエントと共に考え味わっていくのが「夢分析」であり、その結果、人に「意識の変容」が起きてきます。心全体は、「意識」と「無意識」がエネルギーを交換し、お互いに補い合いながら、日々、変化していくのです。

 「悟り」を「意識の変容」の特殊なパターンととらえるなら、ユング心理学では、「悟り体験」を、「意識」と「無意識」の相互作用の観点から考えていくことができます。

「悟り」に対するユングの考え

 『「悟り体験」を読む』(大竹晋 新潮社)では、「悟りの体験」が5つの観点で整理されていました。「自他忘失体験」「真如顕現体験」「自我解消体験」「基層転換体験」「叡智獲得体験」でした。

まっつん
まっつん

「宇宙と自己がとが一つになつているのを覚証した」という「自他忘失体験」だけを考えても、「悟りの体験」とは、通常の意識では想像しにくい、神秘的かつ特殊な「意識の変容」といえます。

ユングの考えた「悟り」の仕組み

 ユングの著『東洋的瞑想の心理学』(創元社)に、『禅の瞑想という論がおさめられています。仏教学者「鈴木大拙」が英文で書いた著書に『禅仏教入門』があります。この著書がドイツ語に翻訳され出版されました。その時、ユングの書いた「序文」が『禅の瞑想です。「鈴木大拙」といえば、1897年(明治30年)に渡米し、「禅」を世界に広めた人物です。

 『禅の瞑想に、「悟り」について解説している箇所があります。それが次の一文です。

『東洋的瞑想の心理学』(創元社)
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 意識がその内容についてできるだけ空っぽになった場合、その内容は、一種の(少なくとも一時的な)無意識の状態になる。禅の瞑想の場合、この転換状態はたいてい、意識のエネルギーがその内容から抜きとられて、「空」の観念か、あるいは公案へと向かうときに生じる。(中略)こうして蓄積されたエネルギーは無意識領域へと向かい、自然にそこに充電されるエネルギー量を極限まで増大させる。

『東洋的瞑想の心理学』(C.G .ユング 創元社)旧版p195

 上の文からわかる通り、ユングは、「悟り」を、「意識」と「無意識」、「心のエネルギー」の観点から解説しています。

 日々の宗教的修行(坐禅/瞑想など)を通して、「意識」を「空っぽ」にする体験を積み重ねていくと、「無意識」の領域にエネルギーが充電されていきます。その極限まで増大したエネルギーが、何かをきっかけに、「無意識の内容」を伴って、「意識」の領域に、一気に流入していきます。

 その状態が、「特殊な覚醒体験」=「悟りの体験」を引き起こすと、ユングは考えました。

「悟り」とは意識と無意識の相互作用

 ユングは「長い年月にわたる禅の瞑想ときびしい修行によって、悟性の合理的なはたらきを消滅させる努力を重ねるとき、本性そのものがひとつの ── 唯一の正しい ── 答えを出すのである」(p197)とも書いています。

 「悟性の合理的なはたらき」は、「自我」(ego)による心の働きです。これを「消滅させる努力」が、坐禅や瞑想などの宗教的修行になります。その時、意識の領域が「空っぽ」になります。この状態を「無我」や「没我」といいます。

 そして、「本性そのもの」が、ある日、ある時、突然「唯一の正しい答え」を出すわけで、「本性そのもの」とは、ユング心理学でいう「自己」(Self)と考えられます。

 ユング心理学で考えた時、「悟りの体験」とは、「意識」(自我:ego)「無意識」(自己:self)を流れる「心のエネルギー」の相互作用によって、引き起こされる特殊な「覚醒体験」といえます。

 『禅の瞑想の中でも、ユングは「意識」と「無意識」の「相互作用」「補償作用」についてふれています。

 (※意識と無意識の)その関係は、本質的に言って、ひとつの補償的関係である。無意識の諸内容は、広い意味において補充するために、言いかえれば心の全体を意識的に方向づけるために必要な一切のものを、意識の表面にもたらすのである。無意識がさし出した、あるいは押しつけた断片を、意識的な生活の中に有意義に組み込むことができれば、そこから、個人の人格の全体によく対応した心の存在形態が生まれてくる。

それは、意識的な人格無意識的な人格の間に起る無益な葛藤をなくした状態である。

『東洋的瞑想の心理学』(C.G .ユング 創元社)旧版p196
(※意識と無意識の)は筆者追記

 ある人が、「個人の人格の全体によく対応した心の存在形態」になっていく時、その人は「個性化」(individuation)の道を歩んでいるといえます。

 「個性化」(individuation)をユングは「自己実現」(self-realization)とも呼びました。「自己実現」といった時の「自己」とは、心全体を統括している「自己」(self)の働きを、意味します。

まっつん
まっつん

 ユング派の目幸先生は、『仏教とユング心理学』(春秋社)において、「悟りの本質的な特徴」「自我が無意識の内容を統合するための絶え間ない努力を行うことを求める一生を賭けたプロセスにあるのである」(p75)としていました。

 上の文にある「意識的な人格」「自我」(ego)とし、「無意識的な人格」「自己」(self)とした時、「無益な葛藤のない状態」になるとは、意識と無意識の統合が進み、心全体のバランスがとれて、「その人がなりうる〝本来の自分〟」に近づいている状態といえます。

 つまり、「意識的な人格無意識的な人格の間に起る無益な葛藤をなくした状態」とは、「個性化」(individuation)が進んでいることを意味しているのです。

「悟り」は「自己」(self)の導き

 「その人がなりうる〝本来の自分〟」になるには、「自己」(self)が鍵を握っています。「悟り体験」に導かれていくこととは、ユング心理学の観点から考えると、「自己」(self)の働きに身を委ねていくことです。

 普段の私の意識=「自我」(エゴ)において、「悟れ、悟れ」とどれだけ必死に願っても、「悟りの体験」は起きてきません。「自我」(エゴ)を手放し、「自己」(self)に任せていくことで、「悟り」は近づいてきます。

 「悟り」の主導権は、「自我」(ego)ではなく、無意識の「自己」(self)にあるのです。

 目幸先生は『危機の世紀とユング心理学:目幸黙僊論考集』(創元社)で、「自我」(ego)「自己」(self)の関係を、こう説明しています。

目幸先生の危機の世紀とユング心理学:目幸黙僊論考集』(創元社)の表紙画像
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 エゴとセルフの関係は、ユングによると、ちょうど動かすものと動かされるものということです。(中略)自我はいつもセルフによって動かされているもので、セルフはいつも自我を動かしているものである。そして自我はセルフによって動かされている対象であり、セルフはいつも主体性をもっているというわけです。

『危機の世紀とユング心理学』(創元社)p73

 人は、自分で考え、自分で選択・決定し、主体性をもって行動しています。

 この主体性のある「自分」を考える「自分」が、上の文でいう「自我」(エゴ)です。ところが、この自我(エゴ)は、自己(セルフ)によって動かされていて、「主体は自己(セルフ)にある」と、目幸先生はいいます。 

 「自我」(エゴ)で考える「自分/私」とは、「意識」という狭い領域だけの「自分/私」です。

 その「自分/私」は、心全体から考えたら「部分の自分/私」に過ぎません。「自分/私のかけら」を見て、「自分/私の全て」と錯覚しているのが、「自我」(エゴ)の働きであり、普段の私たちの意識です。

意識と無識の補償作用のイメージ図

 その「錯覚」が強くなっていくと、「意識」と「無意識」が離れていき、「相互作用」「補償作用」が働きにくくなり、心全体のバランスが崩れていきます。その結果、心身に何らかの悪影響が及びます。

 心には「無意識」という、とても広くて豊かな領域があります。「無意識」を含めて初めて「自分/私の全体」といえます。

まっつん
まっつん

つまり、「私」という存在、その全体のバランスをとるためには、自己(セルフ)の主体性を受け入れ、「無意識」からの声にも耳を傾け、その声を「意識的な生活の中に有意義に組み込」んでいく「心の習慣」をもつことが求められます。

 その「心の習慣」が、目幸先生のいう「自我が無意識の内容を統合するための絶え間ない努力」であり、この努力が継続的に行われていけば、ユングのいう「個人の人格の全体によく対応した心の存在形態」が生まれてくる確率が高まります。

 宗教家たちは、「今より、よりよい人間になろう」として、宗教的な修行に励み「悟りの体験」を求めていきます。

「悟り」によって人の豊かさを知る

 禅では坐禅を組み、厳格なヨガ行者たちは、山にこもり瞑想を続けます。「悟りの境地」に達して「今より、よりよい人間になろう」とすることは、「個人の人格の全体によく対応した心の存在形態」を生み出していくことであり、それは「自分/私の全体」を知ろうとする体験にほかなりません。

悟りのこころのイメージ画像

 「自分/私の全体」を知るとは、無意識を含めた自分の心、その全体を知ろうとすることです。

 「無意識」は、宇宙のように広大です。その全体を人は、一生をかけても知り尽くすことはできないでしょう。しかし、宇宙に可能性を感じて人類が宇宙開発を続けるように、「無意識」という「心の宇宙」を開発し続けることによって、「心の広大さ」を知ることはできます。そのプロセスが「悟りへの道」です。

 ユング心理学で考えた時、「悟りの体験」とは、自己(セルフ)が導く「心全体の開発」といえます。

 現代において宇宙に実際に行ける人がひと握りの人間に限られています。それと同じように、悟りの境地に達する人は、ごくわずかの人間です。

 宗教家ではない私たちが、「悟りの体験」を求めて時間を費やすことは、日常生活を困難にします。

まっつん
まっつん

 ただ、「小さな私」(自我:エゴ)の背後に、大きな可能性をもった自己(セルフ)を知ること、つまり、「もっと大きな私」が確かに存在していると知ることは、日常生活において、私たちの「心を支える杖」になります。

 人は、「普段の自分」(小さな私)で考えているより、もっと大きく豊かな可能性をもった存在です。

 「悟りの体験」が確かにあると知ることは、人の可能性の豊かさを知ることであり、私たちを勇気づけてくれます。

(文:松山 淳


【参考文献】

『東洋的瞑想の心理学』(C.G.ユング 創元社)
『「悟り体験」を読む』(大竹晋 新潮社)
『ユング 夢分析論』(C.G.ユング みすず書房)
『自我と無意識』(C.G.ユング 訳:松代 洋一ほか 第三文明社)
『危機の世紀とユング心理学』(目幸黙僊 創元社)


ユングのタイプ論をベースに開発された性格検査MBTI®を活用した自己分析セッション

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 国際的性格検査MBTI®を使用しての自己分析セッションです。MBTI®は、世界三大心理学者のひとりC.Gユングの心理学的類型論(タイプ論)がベースになっており、世界の企業が人材育成のために導入しています。その人の「生まれ持った性格」を浮きぼりにするのが特徴です。自分本来の「強み」を知ることができ、心理学の理論をもとに自己理解を深めることができます。

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稲盛和夫の教え「六つの精進」 https://www.earthship-c.com/nice-word/kazuo-inamori-six-diligences/ Sun, 14 Jan 2024 23:55:00 +0000 https://www.earthship-c.com/?p=15801

「六つの精進」とは、すばらしい人生・経営を実現するために守るべき哲学だ。「経営の神様」と呼ばれた京セラ創業者稲盛和夫氏が唱えた。「六つの精進」は、次の6か条である。 ❶ 誰にも負けない努力をする❷ 謙虚にして驕らず❸ 反 ... ]]>

「六つの精進」とは、すばらしい人生・経営を実現するために守るべき哲学だ。「経営の神様」と呼ばれた京セラ創業者稲盛和夫氏が唱えた。「六つの精進」は、次の6か条である。

❶ 誰にも負けない努力をする
❷ 謙虚にして驕らず
❸ 反省のある毎日を送る
❹ 生きていることに感謝する
❺ 善行、利他行を積む
❻ 感性的な悩みをしない

 稲盛氏は「盛和塾全国大会」(2008.7/17)にて、「六つの精進」をテーマに講演を行なっている。その模様をまとめた著書が『六つの精進』(サンマーク出版)である。

「精進」とは、「一つのことに精神を集中して励むこと。一生懸命に努力すること」(デジタル大辞泉 小学館)である。稲盛氏は「六つの精進」を通して、人生はすばらしいものになるという。

「六つの精進」とは、どのような教えか。著書『六つの精進』を軸に、稲盛氏の哲学を学んでいく。

精進一:誰にも負けない努力をする

 「経営の神様」と呼ばれる稲盛和夫さんですが、大学を卒業して就職した会社をすぐに辞めようとしています。というのも、就職した松風工業が、優良企業とは程遠い状態だったからです。同期が次から次へと辞めていくので、稲盛さんも辞めようとしました。しかし、それが叶わずひとり「松風工業」に残ることになるのです。

書籍『六つの精進』(稲盛和夫 サンマーク出版)の表紙画像
『六つの精進』(サンマーク出版)
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 「3年で辞める若者」ではありませんが、かの「経営の神様」も会社を辞めようとした経験をもっています。ただ、この後が違いました。稲盛さんは、「自分の人生をうらんでみても、天に唾するようなものだ。たった一度しかない貴重な人生を、決して無駄に過ごしてはならない」(『人生と経営』 致知出版社p24) と心を改め、覚悟を定めます。

 そして、「誰にも負けない努力」を始めました。すると研究成果が次から次にあがるようになり、幼い頃から不運つづきの稲盛さんの人生は、この時から好転していくことになるのです。

 「誰にも負けない努力」を続けた稲盛さんは、『六つの精進』の講演で、こう語っています。

稲盛和夫 精進の言葉

 すばらしい人生を生きるにせよ、すばらしい企業経営をするにせよ、誰にも負けない努力をすること、一生懸命に働くことが必要です。このことを除いては、企業経営の成功も人生の成功もありえないのです。

『六つの精進』(稲盛和夫 サンマーク出版)p14-15

 努力の大切さは誰もがわかっています。

ポイントは「人並みの努力」ではなく「誰にも負けない」といっているところですね。では、「誰にも負けない努力をする」ためには、どうすればいいのでしょうか。そのためには「仕事を好きになることだ」と稲盛さんはいいます。

稲盛和夫
稲盛和夫

「一生懸命に働くというのは苦しいことです。その苦しいことを毎日続けていくためには、いま自分でやっている仕事を好きになることが必要です。好きなことであれば、いくらでもがんばることができます。

『六つの精進』(稲盛和夫 サンマーク出版) p24

 楽しい仕事はありますが、楽な仕事はありません。仕事をする限り、いつかどこかで辛く苦しい経験をするものです。ただ、その苦しい経験のなかで「誰にも負けない努力」を続けた時、たとえ成果が出なかったとしても、仕事の醍醐味を深く知り、仕事を好きになることが人にはあります。

 仕事を好きになるコツとは、「誰にも負けない努力をする」ことでもあるわけです。

 稲盛さんは「惚れて通えば千里も一里」という言葉をあげています。「好きになった人であれば、会いにいくのが千里であっても一里のように感じ、遠い道のりでも、疲れもしないし辛いとも思わない」という意味ですね。

 仕事に惚れて「誰にも負けない努力」をしたら、辛く苦しい仕事のなかにも「楽しさ」を見つけることができます。そうして人格は磨かれていきます。人格が磨かれていけば、他の人を思いやる慈悲心が生まれ「利他の心」が育まれていきます。

 世のため人のためにと、さらに「誰にも負けない努力」を重ねていけば、きっと人生を良き方向へと導いていくことができるでしょう。

精進二:謙虚にして驕らず

 「ただ謙のみ福を受く」

 稲盛さんは若い頃に、この言葉に出会い「謙虚でなければ幸福を受けることはできない、幸福を得られる人はみな謙虚でなければならないのだ」(p39)と思い、生きていくうえで、経営を行なっていくうえで「謙虚さ」を大切にしてきたそうです。

稲盛和夫
稲盛和夫

「謙虚であるということは、人間の人格を形成する資質の中でもっとも大切なものではないかと思います。「あの人は立派な人格者だ」ということを我々はよくいいますが、人間性の中に謙虚さを備えている人を、我々はそいうふうに表現しているわけです」

『六つの精進』(稲盛和夫 サンマーク出版) p24

 中国文学者の守谷洋氏の著書『中国古典一日一言 』(PHP文庫)に、「謙のみ益を受く」という言葉があります。中国古典「書経」にある言葉です。「書経」は、儒教の重要経典とされる五経(易経・書経・詩経・礼記・春秋)のひとつです。恐らく稲盛さんは、「謙のみ益を受く」のことをいっているのでしょう。

『中国古典一日一言 』(PHP文庫)
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 「満は損を招き、謙は益を受く」(書経)

 ここでの満は慢心のことです。守谷氏は慢心が損を招く2つの理由をあげています。

  1. 自分自身、それ以上の進歩向上が望めない。
  2. 必ずや周囲の反発を招き、まとまる話もまとらなくなる。

 慢心を抱いた組織が、その行いによって世間から退場を余儀なくされることは歴史が証明しています。大手企業のリーダーたちが「満」によって倫理観を欠き、その結果不祥事が発覚して、記者会見で頭を下げるシーンは現代において珍しくない光景となっています。

稲盛和夫 精進の言葉

世の中では、他人を押しのけてでも、という強引な人が成功するようにみえますが、けっしてそうではありません。成功する人とは、内に燃えるような情熱や闘争心、闘魂をもっていても、実は謙虚な控えめな人なのです。

『六つの精進』(稲盛和夫 サンマーク出版)p14-15

 稲盛さんの上の言葉を聞き、経営学者ジェームズ・C・コリンズが提唱した『第五水準のリーダー』という概念が思い出されます。経営学書の名著『ビジョナリーカンパニー② 飛躍の法則』(日経BP)で提唱されたリーダー論です。

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 ある企業が飛躍した要因をコリンズ博士たちは調査していました。その中で、飛躍を導いたリーダーに共通する資質を発見したのです。その資質を『第五水準のリーダーシップ』と名付けました。

 『第五水準のリーダーシップ』について、コリンズ博士は、こう書いています。

良い企業を偉大な企業に変えるために必要なリーダーシップの型を発見したとき、われわれはおどろき、ショックすら受けた。派手なリーダーが強烈な個性をもち、マスコミで大きく取り上げられて有名人になっているのと比較すると、飛躍を指導したリーダーは火星から来たのではないかと思えるほどである。

万事に控えめで、物静かで、内気で、恥ずかしがり屋ですらある。個人としての謙虚さと、職業人としての意思の強さという一見矛盾した組み合わせを特徴としている。

『ビジョナリーカンパニー2』(日経BP)

 経営学者がチームとなって丹念な研究を重ねた結果、優れたリーダーの資質に「謙虚さ」をクローズアップしている点は、注目に値します。しかも「万事に控えめで、物静かで、内気で、恥ずかしがり屋」は、米国人のリーダーシップ・スタイルをイメージすると、とても意外です。

 稲盛さんも長い人生を通して、数多くのリーダー・経営者と会っています。その経験から導き出された教訓が、経営学者の研究結果と重なっています。なおさらのこと「謙虚にして驕らず」を忘れたくありません。

精進三:反省のある毎日を送る

「原因」と「結果」の法則 (サンマーク出版)表紙画像
『原因と結果の法則』(サンマーク出版)
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 稲盛さんは、「反省のある毎日を送る」の章で、20世紀初頭の哲学者ジェームズ・アレンの『原因と「結果」の法則』(サンマーク出版)から、いくつかの言葉を引用しています。そのひとつが次のものです。

 「心の中に蒔かれた(あるいは、そこに落下して根づくことを許された)思いという種のすべてが、それ自身と同種類のものを生み出します。それは遅かれ早かれ、行いとして花開き、やがては環境という実を結ぶことになります。良い思いは良い実を結び、悪い思いは悪い実を結びます。」『六つの精進』(稲盛和夫 サンマーク出版)p50

 もし、「良い思いは良い実を結び、悪い思いは悪い実を結ぶ」のならば、日頃、「良い思い」を抱くことがとても大切になっています。

 稲盛さんは、その「良い思い」を抱くために、「反省のある毎日を送る」と、私たちを諭すのです。

 「反省だけなら、誰でもできる」。そんな言い方がありますが、稲盛さんのいう「反省」は、そう簡単に誰でもできるものではありません。稲盛さんは、「反省」をこう定義しています。

稲盛和夫 精進の言葉

自分の悪い心、自我を抑え、自分がもっているよい心を心の中に芽生えさせていく作業が、「反省をする」ということなのです。よい心とは、心の中心にある「真我」、つまり「利他の心」です。他を慈しみ、他によかれかしと思う、やさしい思いやりの心です。それに対して、「自我」とは、自分だけよければいいという「利己的な心」、厚かましい強欲な心のことです。

 今日一日を振り返り、今日はどのぐらい自我が顔を出したのかを考えて、それを抑え、真我、つまり利他の心が出るようにしていく作業が「反省」というものです。

『六つの精進』(稲盛和夫 サンマーク出版)p14-15

 「反省」は辞書に「 1.自分のしてきた言動をかえりみて、その可否を改めて考えること。2. 自分のよくなかった点を認めて、改めようと考えること。」(デジタル大辞泉 小学館)とあります。

まっつん
まっつん

確かに、この辞書にある意味合いでの「反省」は、「考えること」ですから、誰にでもできるのかもしれません。稲盛さんのいう「真我、つまり利他の心が出るようにしていく作業」となると、なかなか難しいものです。

 とはいえ、稲盛さんの教えが心に残るのは、反省に「目標」がある点です。自らを省みるだけではなく、「利他の心」が養われるように、日々、反省をしていくわけです。すると、漠然と反省するよりも、「自分の悪い心、自我を抑え、自分がもっているよい心を心の中に芽生えさせていく」という目標があれば、目的意識が生まれ「反省」することに意味を感じられるようになります。

 人は、意味のないことに力が入りませんが、意味があるとわかれば継続する力が生まれます。

稲盛和夫
稲盛和夫

反省をして、邪で貪欲な、卑しい私に対して、「少しは静かにしなさい」「少しは足ることを知りなさい」と言い聞かせ、自我を抑えつけていく作業がいるのです。そうすることによって自分の魂を、自分の心を磨いていくことができるのです。

『六つの精進』(稲盛和夫 サンマーク出版) p56

 日々、「反省」をして、「良い思い」をたくさん抱き、「良い実」を結ばせたいものですね。

まっつん
まっつん

 小学校で習うような道徳・倫理観をベースにして、稲盛さんは経営判断を行なっていったのです。経営学の知識ではなくて、「人間として正しいかどうか」を基準にした判断が、後の成功につながったと、稲盛さんはいいます。

精進四:生きていることに感謝する

 ユング派の心理療法家河合隼雄さんの著書『こころの処方箋』(新潮社)に、「強い者だけが感謝できる」という章があります。河合先生は京都大学の教授で、京セラは京都にありますので、おふたりは懇意にしていたと聞きます。

 さて、なぜ、河合先生が「強い者だけが感謝できる」と書くのかといいますと、心理療法の場において、「感謝できるか否か」が、その人の「強さ」のバロメータになると考えているからです。河合先生は、こう書いています。

「ある人がどの程度の強さをもっているかを前もって知っておくことが必要なときがある。そんなときに、その人が適切な感謝をする力があるかどうかは、相当に信頼できる尺度のように筆者は思っている」『こころの処方箋』(河合隼雄 新潮社)p149

 ここで「適切な感謝」と書いているところがポイントです。押し付けがましい感謝、つまり、「感謝してるのだから〜」と何か要求するような感謝は、「適切な感謝」とはいえません。それは「不適切な感謝」であり、「強い者」がすることではありません。なったのです。

 では、稲盛さんは「感謝」について、どういっているのでしょうか。

稲盛和夫 精進の言葉

「どんな些細なことに対しても感謝をする心は、すべてに優先する大切なものであり、「ありがとうございます」という言葉は、大きな力をもっています。この言葉は、自分自身を気持ちのよいすばらしい境地へと導いてくれるとともに、それを聞いた周囲の人々をもやさしいよい気持ちにする万能薬なのです。私も、「ありがとうございます」という言葉を、ずっといいつづけてきました」

『六つの精進』(稲盛和夫 サンマーク出版)p14-15

 稲盛さんは、幼い頃にあるお坊さんから「なんまん、なんまん、ありがとう」というように諭され、それ以来、この言葉を大切にし、繰り返し唱えつづけてきました。京セラはグローバル企業です。経営トップとして海外で教会に立ち寄った時にも、「なんまん、なんまん、ありがとう」を唱えていたそうです。

 それぐらい人生において、感謝すること、「ありがとうございます」と口にすることを稲盛さんは大切にしていたのです。よって、「生きていることに感謝する」の教えが生まれてきます。

まっつん
まっつん

「生きていることに感謝する」は、とても根本的なもので、日々できる感謝です。「感謝できることあれば、感謝します」と考えていると、感謝の機会も少なくなります。ですが、「生きていること」「生かされていること」に感謝するのならば、生きている限り、毎日、毎日、感謝することできます。

 まわりの人を心地よくする「感謝」は「良い思い」です。「良い思いは良い実を結び、悪い思いは悪い実を結ぶ」のであれば、こういえますね。

 感謝できることがあるから感謝するのではなく、感謝するからこそ感謝したくなることが起きてくる。

 河合先生のいう「強い者だけが感謝できる」を真理とするなら、日々、感謝することによって心を磨き「強い者」になれるといえます。「生かされていることに感謝」をし、心を強くして、たくましく人生を歩んでいきましょう。

精進五:善行、利他行を積む

 「利他」は、稲盛さんの「座右の銘」といえる言葉です。さまざまな著書で稲盛さんは「利他」の大切さを説いてきました。例えば『成功の要諦』(致知出版社)では、こういっています。

『成功の要諦』(稲盛和夫 致知出版社)
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稲盛和夫
稲盛和夫

 世のため人のために尽くすことによって、自分の運命を変えていくことができます。自分だけよければいい、という利己の心を離れて、他人の幸せを願う利他の心になる。そうすれば自分の人生が豊かになり、幸運に恵まれる

『成功の要諦』(稲盛和夫 致知出版社) p114

 『六つの精進』(サンマーク出版)の中では、「善行・利他」に関してて「小善」と「大善」を比較して話を進みます。例として「お金の貸し借り」について、多くのページがさかれています。

 あるとき、社員の父親が「お金を貸してほしい」と、稲盛さんの自宅を訪ねてきました。事情を聞くと稲盛さんは、「お父さん、私がお金を貸すことはあなたのためにななりません。いまどれだけ困っておられるのかは知りませんが、それはできません。お父さんは現在の苦境を真正面から受け止めて、耐えていかなければなりません」(p81)と、断りました。

まっつん
まっつん

困っている人にお金を貸すのは、善行であり利他であるはずです。しかし、「小善」と「大善」の尺度で見た時に、すぐにお金を貸することは「小善」となるかもしれませんが、本当にその人のためになる「大善」になるのかと問うと、そうとはいえません。

 「苦境を真正面から受け止め耐えることを学ぶように」導くことが「大善」といえます。

 稲盛さんの判断は正しく、この時の社員は、後に京セラの幹部となって活躍したそうです。

稲盛和夫 精進の言葉

「立派な人生を送るためにも、また立派な経営を続けていくためにも、真の善行、利他行を積むということに努めてください。」

『六つの精進』(稲盛和夫 サンマーク出版)p81

 

精進六:感性的な悩みをしない

 反省はしても後悔はしない。

 そんな言葉がありますが、過去の失敗など過ぎた出来事をくよくよと考え続けることは「心」によくありません。「マインド・ワンダリング」(mind wandring)という言葉があります。

まっつん
まっつん

 マインドは「心」で、ワインダリングは「さまよう」という意味です。そこで「マインド・ワンダリング」とは、今すべきことに集中できず、くよくよとあれこれ考え続けて、心がさまよっている状態です。

 例えば、仕事で失敗して上司にひどく怒られたことを、帰りの電車や家に帰ってきて、「あんな言い方ないじゃないか」「なんなんだ、あれでも上司か」「だったら、お前がやってみろよ」などと考え続けてしまうと、その度に「ストレスホルモン」が分泌されてしまうのです。

 過剰にストレスホルモンが分泌されると、自律神経が乱れ、心身のバランスが崩れていってしまいます。だから、稲盛さんは、「感性的な悩みをしない」と説くわけです。

稲盛和夫 精進の言葉

すんだことに対して深い反省はしても、感情や感性のレベルで心労を重ねてはなりません。理性で物事を考え、新たな思いと新たな行動に、ただちに移るべきです。そうすることが人生をすばらしいものにしていくと、私は信じています」

『六つの精進』(稲盛和夫 サンマーク出版)p81

 そういう稲盛さんは、京セラで不祥事があった時には、たいへんな苦労を味わいました。「厚生省の許可をとらずにファインセラミック製の膝関節を売って金儲けしている」とマスコミに叩かれたことがあるのです。稲盛さんが、テレビカメラの前で頭をさげる姿が、連日、ニュース映像となって流れました。

 心を痛めた稲盛さんは、臨済宗妙心寺派円福寺の西片老師を訪ねました。西片老師は、稲盛さんに対して、こう言葉をかけました。

「ひどい目にあったということは、あなたが過去につくった罪、穢れ、つまり業が結果として出てきたということで、そのときに業は消え去っていくのです」(p97)

 この言葉を聞いた稲盛さんは、すぐには納得できなかったものの、家に帰って救われる思いがしたそうです。そこで稲盛さんは、こういっています。

稲盛和夫
稲盛和夫

災難にあったとき、それは自分が過去に犯した罪、穢れ、業つまりカルマが結果となって出てきたのだと考えるのです。命までとられるわけではなく、その程度ですんだのであれば、むしろお祝いをしなければならない。そういうふうに思い、すっきりとそのことを忘れ、新しい人生に向かって力強く、希望を燃やして生きていく。そのことがすばらしい人生を生きていくために必要なのです。

『六つの精進』(稲盛和夫 サンマーク出版) p99

 とても辛く苦しい目にあうと、そこには「救い」がないように感じられます。しかし、辛く苦しい経験を通して「罪、穢れ」が少しでも消えるのだとしたら、それは「救い」になります。

書籍『六つの精進』(稲盛和夫 サンマーク出版)の表紙画像
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 「救い」があるのならば、「救いなどまったくない」と感じている時よりも、少しは早く、過去を断ち切って忘れることができます。「感性的な悩み」をせずにすみます。

 稲盛さんがいうように、「感性的な悩み」はほどほどにして、忘れてよいことはさっさと忘れて、新しい人生に向かって力強く、希望を燃やして生きていきましょう。

 

(文:松山 淳


稲盛和夫 略歴

 1932年(昭和7年)鹿児島県(鹿児島市薬師町)生まれ。1948年(昭和23年)鹿児島市高等学校第三部に進学。1951年(昭和26年)鹿児島大学工学部に入学。1955年大学卒業後、碍子メーカー松風工業(京都)に就職する。1958年、上司と衝突し松風工業を退社。

1959年(昭和34年)、京都セラミック株式会社(現京セラ)を創業。1984年、電気通信事業の自由化にともないNTTに対抗するため第二電電企画を設立。2000年10月に他会社と合併し、KDDIを設立する。
 2010年2月、破綻した日本航空(JAL)の再生のため会長に就任。2年7ヶ月で再上場を果たし、再生に成功する。「経営の神様」と呼ばれる。

 経営塾「盛和塾」の塾長として数多くの経営者を育成する(1983年〜2019年)。

 2022年8月24日に永眠。享年90歳。

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精神(精神的無意識)の3つの働き〈フランクル心理学〉 https://www.earthship-c.com/frankl-psychology/three-functions-of-mind/ Wed, 10 Jan 2024 23:55:00 +0000 https://www.earthship-c.com/?p=15787

 ロゴセラピー(Logotherapy)を提唱したヴィクトール・E・フランクル(Viktor Emil Frankl 1905-1997)は、「無意識」に関して独自の見解を展開した。フランクルは「身体」「心理」「精神」と ... ]]>

 ロゴセラピー(Logotherapy)を提唱したヴィクトール・E・フランクル(Viktor Emil Frankl 1905-1997)は、「無意識」に関して独自の見解を展開した。フランクルは「身体」「心理」「精神」という3つの概念に分けて考える。深層心理学でいう「無意識」を「精神」と呼び区別した。「精神」を「精神的無意識」とも呼んだ。

 フロイトが考えた「無意識」は、衝動的で「心の病」の原因になる。それとは異なり、フランクルは「無意識」そのものが、自律的に動き人間らしい決断すると考えた。「無意識には、衝動的ではない人間らしさを志向する理性的かつ主体的な心の働きがある」とした。

 フランクルは、精神の働きとして「芸術的インスピレーション」「愛」「良心」の3点をあげる。本稿では、フランクルの考える「精神」(精神的無意識)が「具体的にどのような働きをするのか」について解説していく。

フランクルの考えた精神(精神的無意識)

 フランクルは、フロイトやユングが考えてきた「無意識」を「精神」(精神的無意識)と名付けて、フロイトの考える「無意識」とは、違う側面を強調しました。「決断する無意識」とも、フランクルはいいます。

 ここで若干わかりにいくのが、「精神」という言葉ですね。フランクルのいう「精神」は単に「心」を意味するのではなく、「自律的に動き、人間らしい決断する心の働き」というポジティブな意味合いと深い内容が含まれます。

 下の図のようにフランクルは、「身体」「心理」「無意識」(精神的無意識)の3つに分けて考えます。フランクルに言わせると、この「無意識」(精神的無意識)が、「人間らしい働き」をするから、心の病を癒すことが可能になるのです。

フランクル心理学「身体」「心理」「精神」のイメージ図

フランクルは、自身が考え出した「ロゴセラピー」のことを、こう表現しています。

「精神的なものからの心理療法」

 クライエントが癒えていくプロセスにおいて、「精神」(精神的無意識)の果たす役割が大きいわけです。「無意識」に、自己を越えた世界とつながる人間らしい「精神的もの」があると考えます

 「心理主義」とフロイト、アドラー、ユングの心理学を批判したフランクルは、精神の働きを重視しました。著書『死と愛』(みすず書房)の中にある言葉です。

『死と愛』(みすず書房)の表紙画像
『死と愛』(みすず書房)
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フランクルの言葉

 心理療法はその精神分析としての細かい技法においては心理的なものの意識化に努める。それに対してロゴテラピーは精神的なものの意識化に努力する。

『死と愛』(V・E・フランクル[著] 霜山徳爾[訳] みすず書房)p32

 「意識化」とは、心理療法の現場でなされるクライアントの「心の働き」です。「意識化」されることで、心が癒されていきます。

精神分析の「意識化」とは。

 例えば、幼い頃に両親から暴力を受けていた人がいたとします。ですが、大人になってからそのことをすっかり忘れて生きていました。その人が、原因不明の「ひどい頭痛」で精神分析家のもとを訪れます。

 暴力が実際にあったのに思い出せないのであれば、無意識に暴力を受けた記憶が隠されていると考えます。これが「トラウマ」ですね。無意識で「トラウマ」が悪さをして「ひどい頭痛」が引き起こされているのです。本人はもちろん無意識のことですから、わかりません。だから原因不明となるのです。

まっつん
まっつん

フロイト初期の精神分析では、対話や催眠によって、無意識に隠されている過去の出来事を思い出していきます。この「思い出す」ことが「意識化」です。「意識化」がうまくいけば、無意識にあったトラウマがとり除かれます。無くなれば、もう悪さをしません。

 これでひどい頭痛が癒やされたなら、やはり無意識にあった過去の記憶(トラウマ)が「原因」だったということになります。こうして「心の病」が癒されると考えたのが、フロイトの精神分析です。

精神的なものの「意識化」とは。

 フランクルは、フロイトの「心理的なものの意識化」に対して、「精神的ものの意識化」といっています。フランクルは、「精神」(精神的無意識)が、「自律的に動き、人間らしい決断をする」と考えました。 

 ロゴセラピーは、催眠ではなく主に対話によって、クライアントが「生きる意味」を発見し、精神(精神的無意識)が「人間らしい働き」「精神的なもの」を取り戻すようにサポートしていきます。この働きかけが「精神的なものの意識化」になります。その結果、クライアントの抱える苦悩や何らかの症状が癒やされていくのです。

 それでは、次に、フランクルが精神(精神的無意識)の働きとしてあげた「芸術的インスピレーシ「愛」「良心」について説明していきます。

「芸術的インスピレーション」について

 フランクルにとって精神(精神的無意識)は、創造性の源泉です。無意識の創造性を認めた点は、ユングと一緒ですね。フロイトとは異なりユングも「無意識の創造性」に着目しています。

 フランクルは、芸術家の創造性と無意識にふれて、こう書いています。

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フランクルの言葉

 精神的無意識のなかにはエートス的無意識すなわち道徳的良心とともに、いわば美的な無意識すなわち芸術的良心も宿っている(中略)芸術的創造においても再創造においても、芸術家はやはりこの意味における無意識の精神性に依存している。

『識られざる神』(V・E・フランクル[著]、佐藤利勝[訳] みすず書房)p40

 画家、写真家、小説家など、様々な芸術家たちが世界にいます。世界的に評価される芸術作品にふれると、「一体、このアイディアを、どうやって考え出したのだろう?」と、深い感動をおぼえます。

まっつん
まっつん

 長編の小説を読み終えた時など、「これだけのストーリーは、どこから生まれてくるんだ?」と、不思議で仕方ありません。その才能の豊かさに、驚くばかりです。

 天才的な芸術家たちは、凡人には理解できない何かを直感でつかまえます。理屈ではなくて、「ひらめき」です。フランクルは、それを「霊感」と表現しています。この「霊感」のある場所を、フランクルは「精神的無意識」と考えていたのです。

芸術家のスランプを克服した「反省除去」

 芸術家がスランプに陥っている時は、この「霊感」がうまく働かなくなっている状態です。

「世間にもっと評価される作品を創りたい」「もっと上手にもっと美しく音を奏でたい」と、意識主体で考え過ぎてしまうと、余計にうまく「霊感」が働くなります。

 これは、「無意識」への信頼を失い、自分のことを意識し過ぎている状態です。フランクルは、実際に、芸術家たちを立ち直らせた経験をもっています。それは「反省除去」というロゴセラピーの手法によってです。

「反省除去」は、無意識を信頼し、過度の自己観察をやめるようにクライアントを諭し、芸術家たちの「霊感」を、つまり、「精神的無意識」の「人間らしい働き」を取り戻す手法です。

 「反省除去」については、フランクル心理学の「反省除去」(脱反省)とは』に書きましたので、参考になさってください。

フランクル心理学 「反省除去」(脱反省)とは アイキャッチ画像 フランクル心理学の「反省除去」(脱反省)とは

「ひらめき」と呼ばれるものは、多くの人が経験することです。ですので、フランクルのいう「芸術的インスピレーション」は、誰にも備わっている心の働きだといえます。

それでは、つづいて2番目の「愛」についてです。

「愛」について

 宗教が日常生活に織り込まれている欧米諸国に比べて、日本で「愛」を語るのは、少し抵抗感があります。愛について、歌詞や映画や小説の中でふれることはあっても、日常会話で、友達や家族と「愛とは何か」について語ることは、まず無いことです。

 とはいいつつ、日本人が「愛」を体験していることは事実です。誰かを愛し、誰かから愛されること。それが「愛」の体験です。

抱き合うカップル「愛」のイメージ画像

 親に育てられたのも、彼女、彼氏ができるのも、結婚するのも、子どもができるのも、そして子どもを育てようと懸命になるのも、そこに「愛」があるからです。「愛」の対象は「人」だけではありません。自然、仕事、趣味など、自分以外の「何か」にも向けられます。そして「愛」は、何かを行う時の原動力でもあります。

 もし「愛」がなくなったら、人間は子孫を残すことができず、仕事に取り組む高い志も失われて、社会が壊れてしまいます。そう考えると、「愛」があるから、この世界は成立していると考えることもできます。

まっつん
まっつん

「愛」は、生まれてから、親や学校の先生に教えられて、身につけたものではありませんよね。「一目惚れ(ひとめぼれ)」を経験したことのある人なら、すぐわかるでしょう。

 心が奪われる瞬間は、意識してできるものではありません。「よし、今月は絶対、ひとめぼれするぞ!」。そう、がんばったところで「ひとめぼれ」できるものではありません。気づいたらしているのが「ひとめぼれ」です。

 そこで、フランクルの考える「精神」(精神的無意識)とは、「人が生まれもって身につけているもの」と考えると理解しやすいでしょう。ンクルは、愛について、こう書いています。

心理学者フランクルの自画像
フランクルの言葉

 愛と決断との間にはそもそもなんらかの関係があるのだろうか。もちろん、ある。なぜなら、愛においてもまた、いや愛においてはなおさらなこと、人間の存在は「決断する存在」であるのだから。実際、伴侶の選択、「愛の選択」は、それが衝動的なものによって動かされたものでない限りにおいてのみ、真の選択でありうる。

『識られざる神』(V・E・フランクル[著]、佐藤利勝[訳] みすず書房)p39

フランクルは、最初の妻である「ティリー」を、ナチスの強制収容所で失います。『夜と霧』(みすず書房)を読むと、とても深くティリーを愛していたことがわかります。

フランクルが結婚を決めた瞬間

『フランクル回想録』(V・E・フランクル[著]、山田邦男[訳] 春秋社)の表紙画像
『フランクル回想録』(春秋社)
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 その「ティリー」と結婚する「決断」をした時のことを、フランクルは、自伝『フランクル回想録』(春秋社)に書いています。ある日、フランクルが自宅でランチの準備をしていた時、睡眠薬中毒の患者のために、病院から緊急で呼び出されます。そして…、

フランクルの言葉

 二時間後、私は家に戻った。せっかくの一緒の昼食は台なしだった。私は他のみんなはもう食事を済ましたものと思っていたし、実際両親はそうしていた。

 ところが、彼女は私を待っていて、帰って来た私にかけた最初の言葉は、「ああ、やっと帰って来たの。ごはん待っていたのよ」ではなく、「手術はどうだった。患者さんの具合はどう?」だったのだ。

 この瞬間、私はこの娘を妻にしようと決めた。私から見た彼女がどうこうだから、ということではなく、まさにそれが彼女そのものだったからである。

『フランクル回想録』(V・E・フランクル[著]、山田邦男[訳] 春秋社)p115

 「ティリー」は看護婦でしたので、職業柄「患者さんの具体はどう?」と、自然と言葉が口をついたのかもしれません。ですが、フランクル自身が、この言葉に「まさにそれが彼女そのものだった」とティリーの本質を直観し、瞬間的に「愛の選択」=「結婚の決断」したのは、意識的にはできないことです。

まっつん
まっつん

「彼女がどうこう」というのが、意識的に「愛の選択」を決断することです。それに対して、フランクルがここでした決断は、瞬間的でありながら深い納得感のともなったものであり、論理を超えた心の奥深く「精神的無意識」で行われたものです。

 これこそ「決断する無意識」の働きですね。真の意味での「愛の選択」は、無意識のレベルでなされているのです。

それでは、最後、「良心」について、書いていきます。

「良心」について

「良心」とは、「良いことをする心」であり、「良いことを行う際の原動力になる心」とも言えます。「何が良いことなのか悪いことなのか」を語り出すと、本1冊になるお話しですので、ここでは、「良心」「人間にとって良いことをする心」と定義しておきます。

人の「良心」のイメージ画像。ボランティアのTシャツを着る人たち。

それでは、フランクルが、「良心」について何と言っているか、耳を傾けてみましょう。

フランクルの言葉

 (※良心という現象は)「決断する存在」としての人間存在に無条件に所属している(中略)良心と呼ばれているものが無意識の深層にまで及んでいるものであり、無意識の根底に根ざしているものであることは、事実なのである。人間の現存在における大きな、真正の(実存的に真正の)いろいろな決断は、いかなる場合にも非反省的に、またそれゆえ無意識になされるものなのだ。

『識られざる神』(V・E・フランクル[著]、佐藤利勝[訳] みすず書房)p32
※(良心という現象は)は追記

 ここでポイントとなるのは、良心が「無条件に所属している」という点です。「無条件」とは、「どんな人にも、どんな時にも」ということです。

まっつん
まっつん

男であっても、女であっても、日本人であってもアメリカ人であっても、1000 年前であっても現在でも、条件にとらわれず、「どんな人にも、どんな時にも」、人は「無意識」という場所に「良心」を持っている。そうフランクルは考えたのですね。

「良心」は本当に無意識からのものか?

 ですが、本当にそういえるでしょうか?

 この世界には、たくさんの悪人がいて、良心に反する行いをしています。道徳心を忘れ罪を犯す人は、全世界で数えたら、100人、1000人の話しではありません。

 それでも、フランクルが「良心」の存在を否定しないのは、地獄のナチスの強制収容所に投獄されて、極限状態における「人間の本性」を見続けたからです。

 強制収容所は、監視官に殴られ蹴られるの日常で、食べ物もろくに与えられない非人間的な環境です。そんな地獄のような状況に置かれたら、「良心」の出る幕などなくなってしまうのではないでしょうか。生き延びるために、誰もが自分のことだけを考えて、平気で「良心」に反する罪深い行いをするのではないかと想像してしまいます。

 ですが、フランクルは見たのです。 地獄の惨劇で、人のお手本になるような「良心」を発揮する人たちを。しかも、その数は、決して少なくなかったのです。世界的ベストセラーとなった『夜と霧』で、フランクルは、こう書いています。

『夜と霧』(みすず書房)
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フランクルの言葉

 各ブロックの囚人代表の中には優れた人物がいたが、そういう人物は彼のしっかりした勇気づける存在によって、深い広汎な道徳的影響を統率下の囚人に及ぼし得る多くの機会をもっていたのである。模範的存在であるということの直接の影響は常に言葉よりも大きいのである。

『夜と霧』(V・E・フランクル[著]、霜山 徳爾[訳] みすず書房)p32
※(良心という現象は)は追記

 フランクルは、「地獄」に「天使」を見ました。その「天使」は「たまに」ではなく、「いつも、どこか」で見かけることができました。

まっつん
まっつん

 もし、「良心」が、どんな人にも、どんな時にも、無条件に備わっているものでなければ、ナチスの強制収容所で「良心」的な人を見かけることは、なかったでしょう。

「良心」が、「精神的無意識」といわれる「無意識」の根底に根ざしているからこそ、人の道に反する行いをされても、非人間的な環境に置かれても、「良心」は押し流されず、人を模範的な存在に仕立てあげた、と考えられます。

「良心」が超越的な存在からの声を聴きとる

 フランクルは、この「良心」を、「超越的な存在からの声を聞きとる心」だと考えていました。フランクル心理学では、「人間が生きる意味をのではなく、人間は、運命から問われている存在だ」と考えます。

 生きる意味を問うのではなく、問われ、その問いに答えていくが人生である。

 フランクルは、人間を「問われ、答えていく存在」として定義します。

 では、この問いを、どこで聴きとるかというと、フランクルは、それは無意識のレベルにある「良心」だと言います。「良心」は、運命や人生や何か大いなる存在からの声を聞き取り、道徳的な人間らしい決断をしているのです。


 以上、フランクルが考える精神(精神的無意識)と、その3つの代表的な働き(「芸術的インスピレーション」「愛」「良心」)についてでした。では、フランクルの名言を最後にあげて、本論を終えます。

フランクルの言葉

 われわれは、人間がみずからの内部にそれと意識することなく天使を秘めている

『識られざる神』(V・E・フランクル[著]、佐藤利勝[訳] みすず書房)p76

(文:松山 淳


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松下幸之助10の名言 https://www.earthship-c.com/nice-word/matsushita-konosuke-10-quotes/ Tue, 09 Jan 2024 23:55:00 +0000 https://www.earthship-c.com/?p=15750

 「ウェルビーイング」(心身共に健やかな状態)や「人的資本経営」が、人事マネジメントのキーワードになっています。人材の力をいかに引き出し、育て、その価値をどこまで高めることができるかは、経営上の大きな目標にもなっています ... ]]>

松下幸之助 略歴

 松下幸之助は、松下電器産業(現パナソニック)創業者。明治27(1894)年、和歌山県に生まれる。16歳の時、大阪電灯に入社し7年間働く。同社を退社後、自宅で、妻むめのと妻の弟である井植 歳男と共に起業する。大正7(1918)年、松下電気器具製作所を創業。昭和4(1929)年、松下電器製作所に改名する。
 昭和21(1946)年、出版社の「PHP研究所」を創設。『道をひらく』『指導者の条件』『素直な心になるために』など数多くの著作を遺し、本を通しての啓蒙活動を行った。昭和54(1979)年、松下政経塾を設立。政治家の育成にも力を注ぐ。平成元(1989)年に94歳で没。「経営の神様」の異名をもつ。名経営者として世界に名を知られ、その教えに今も多くの人が耳を傾けている。

松下幸之助の名言1:人間はだれもが光る

 「ウェルビーイング」(心身共に健やかな状態)や「人的資本経営」が、人事マネジメントのキーワードになっています。人材の力をいかに引き出し、育て、その価値をどこまで高めることができるかは、経営上の大きな目標にもなっています。

まっつん
まっつん

パナソニックを1代でグローバル企業に育てあげた松氏幸之助は、人材育成においても優れていたといえます。『人を活かす経営 』(PHP文庫) の中で、松下氏は、こう述べています。

人を活かす経営 (松下幸之助 PHP文庫) の表紙画像
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松下幸之助の名言

 人間はだれもが、磨けばそれぞれに光る、さまざまなすばらしい素質をもっている。
 だから、人を育て、活かすにあたっても、まずそういう人間の本質というものをよく認識して、それぞれの人がもっているすぐれた素質が生きるような配慮をしていく。
 それがやはり、基本ではないか。

『人を活かす経営』(PHP)

 人それぞれ違う素質をもってこの世に生まれてきます。そして育った環境も人それぞれです。だから「人材の素質をいかす」ことが大事だと、誰もが理解できています。では、そのために何が必要なのでしょうか。松下氏は上の言葉に続けて、こう述べています。

松下幸之助
松下幸之助

「なによりも仕事上の知識、技能を修得させ、向上させるといったことが必要なのはいうまでもない。そうしたものがおろそかになっては、仕事をスムーズに進めていくこと自体がむずかしい」(『人を活かす経営』PHP)

 言われてみれば当然のことですね。ですが、仕事に必要な「専門知識」が、上司から部下へと継承されていないことがあります。モチベーション・マネジメントのポイントとして、次のことがよくいわれます。

目標を達成するためのスキル・ノウハウが何かを知り、それを「身につけられる」と感じられればモチベーションを維持できる。

 成果を出すことは人のやる気を高めます。しかし、成果をあげることがすぐに無理でも、仕事に必要なスキル・ノウハウが何かを知り、それを「この会社では身につけることができる」と、見通しをもてていれば、モチベーションに好影響を及ぼし続けます。

 例えば、新人A君が成果を出すのに「英会話力」が必要だとします。A君は英語が苦手です。高校生の時は、いつも赤点でした。それでも「英語」を身につければ「今以上に成果を出せる」と「わかっている」のと「わからない」では、大きな差があります。

「先の見えない霧の中を、ただ、やみくもにさまよう」のではなく、「先の見えない霧の中だけれど、ライトと地図を手に入れれば、なんとかなる」と思えていることが、大事です。

 そう考えると、松下氏がいう「仕事上の知識、技能を修得させ、向上させる」という、いってみれば当たり前のことが、改めて、人材育成には大切なことだと理解できます。

松下幸之助の名言2:熱意のある人はハシゴを考える

 昭和34年(1959年)、松下氏は「大卒定期採用者壮行会」の講演で、こう述べています。

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松下幸之助の名言

 この二階に上りたい、何とかして上がりたいという熱意のある人は、ハシゴを考えましょう。非常に熱意のある人は、どうしたら上れるのか、ということでハシゴを考える。
 この二階に上ってみたいなあ、というくらいの人ではハシゴは考えられません。

『社員稼業』(PHP)

 上の言葉は、「熱意ある願望」の大切さを説いています。「2階に上れたらいいけど、別に上れなくてもいいや」といった中途半端な「願い」では、そこに差が生まれてきます。

 この「熱意ある願望」に関する、京セラ創業者稲盛和夫氏のエピソードがありますので、ご紹介します。稲盛氏の著書『生き方』(サンマーク出版)に、その様子が書かれています。稲盛氏といえば松下幸之助亡き後、「経営の神様」と呼ばれた人ですね。

 エピソードは、稲盛氏がまだ若き日、初めて松下氏の講演を聞きに行った時のことです。講演の中で「ダム式経営」の話しになりました。

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 「ダム式経営」とは、水不足になった時にダムに水があれば困らないように、会社もいざという時に備えて、資産を十分に蓄え、余裕のある経営を目指すものです。

 この話を聞いていかがでしょうか。「それができたら苦労はないよ」「そんな当たり前のことは誰でもいえる」などと、つい否定的にとらえてしまわないでしょうか。会場もそんな雰囲気になったそうで、最後、質問がされました。

「ダム式経営ができれば、たしかに理想です。しかし現実にはそれができない。どうしたらそれができるのか、その方法を終えてくれないことには話にならないじゃないですか」

 この質問に対して、松下氏はポツリとこう答えました。

松下幸之助
松下幸之助

「そんな方法は私も知りませんのや。知りませんけども、ダムをつくろうと思わないとあきまへんなあ

 この答えに、失笑が広がります。しかし、稲盛氏は「体に電流が走るような大きな衝撃を受け」たと書いています。なぜ、それほどまで強いインパクトがあったのでしょうか。稲盛氏は、こういいます。

「ダムをつくる方法は人それぞれだから、こうしろと一律に教えられるものではない。しかし、まずダムをつくりたいと思わなくてはならない。その思いがすべての始まりなのだ。(中略)つまり、心が呼ばなければ、やり方も見えてこないし、成功も近づいてこない。だからまず強くしっかりと願望することが重要である。そうすればその思いが起点となって、最後はかならず成就する」

『生き方』(稲盛和夫 サンマーク出版)

 冒頭の松下氏の言葉に戻りましょう。

 「非常に熱意のある人は、どうしたら上れるのか、ということでハシゴを考える」とありました。ダム式経営も同じで、「まずダムをつくりたいと思わなくてはならない」わけです。

 2階に上りたいと願うから、ハシゴというアイディアが出てきます。そもそも2階に上ることを願ってない人に、ハシゴは思いつきません。

 どんな思いをもち、その思いに対して、どれだけ熱意があるのか。

 それが大切ですね。

松下幸之助の名言3:賢い人を集めてもうまくいくとは限らない

チームビルディングのイメージ画像

 「チームビルディング」

 この言葉が、日本に広く普及しました。人と人が集まっただけでは「チーム」とはいえず、それは単なる「集団」「グループ」です。「チーム」とは、メンバー同士の相乗効果から、個々の能力の総和を越えたものが引き出されてくる人の集まりだといえます。

まっつん
まっつん

「うちは、まだまだチームになっていない」。日本代表チームやプロスポーツのチームを率いる監督たちが、よくそういいます。

 日本人は、「以心伝心」を無意識のうちに行おうとする精神文化をもっています。「以心伝心」にはメリットもありますが、やはりデメリットがあります。デメリットは「言葉にすること」=「言語化」が後回しになり、コミュニケーションに対して受け身になることです。「日本人ははっきり言わないので、何を考えているかわからない」と、欧米諸国の人から批判されます。

 では、「以心伝心」のメリットは何でしょうか。「以心伝心」のメリットといえる最たる例は「阿吽の呼吸」です。「以心伝心」は否定的な意味合いにとられることもありますが、「阿吽の呼吸」と聞けば、優れたコミュニケーション手法としてポジティブな印象があります。

 言葉にせずともわかりあえる。サッカー、ラグビー、バスケットなど、試合中、優れたチームプレーが生まれる時、そこに言葉を越えた「阿吽の呼吸」の世界があります。言わずとも相手が何を求めているかが瞬時にわかり、それに答えようと個々の選手が自ら動ける。最高のプレーが生まれる瞬間です。

 「阿吽の呼吸」は、「知能指数」(IQ=Intelligence Quotient)というより、「心の知能指数」(EQ=Emotional Intelligence Quotient)の問題です。「知能が高いか低いか」「頭がいいか悪いか」ではなく、「相手の立場から考え、感じられる力」が「阿吽の呼吸」には求められます。

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 ですから、ビジネスにおけるチームビルディングでも、「知能指数が高くて賢い人を集めればうまくいく」というわけではありません。賢い人にこだわるよりも、「阿吽の呼吸」が生まれる「人と人の組み合わせ」が大切です。

 松下幸之助氏は、『指導者の条件』(PHP)で、こう述べています。

松下幸之助の名言

 立派な人、賢い人ばかり集めたからといって必ずしも物事がうまくいくとは限らない。反対に平凡な人たちでも組み合わせよろしきを得れば、非常に成果があがる。
 そうした人の組み合わせの妙というものを指導者は知らなくてはならないと思う。

『指導者の条件』(PHP)

 「賢い人」を集めようとするよりも、チームの何たるかを知り、「組み合わせの妙」によってチーム力を高められる「心のしなやかな人材」を集めた方が、結果的に、成果に結びついていきます。

松下幸之助の名言4:長所も短所もその人の持ち味

 人には長所もあれば短所もあります。長所が多ければいいなと思いますが、そうとも言い切れません。なぜなら、長所と短所は「表裏一体」の関係になっているからです。

 長所と思っていたことが、短所になり、短所となっていたことが長所にもなる。それが人間というものです。

神経質は、丁寧さに。いい加減は、大らかさに。 しつこさは、あきらめない心に。優柔不断は、しなやかさに 。臆病さは、用意周到さに。長所と短所は表裏一体。短所が長所をつくっている。だから嘆くことはないよ、自分のダメなところを。
 短所は長所に。人は短所があるから長所が輝き、もっと強くなれる。

 神経質は、丁寧さに。いい加減は、大らかさに。 しつこさは、あきらめない心に。優柔不断は、しなやかさに 。臆病さは、用意周到さに。長所と短所は表裏一体。短所が長所をつくっています。

 だから嘆くことはありません、自分のダメなところを…。短所は長所になります。人は短所があるから長所が輝き、もっと強くなれます。

 松下幸之助氏は、こういっています。

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松下幸之助の名言

 長所だ、短所だといっても、それは大きな目で見れば、その人の持ち味、あるいは運命ともいえるものでね、絶対なものではない。それをどう見るかが大切なところなのでしょうね。

『人生談義』(PHP)

 「私ほ短所なんてなければいい」と強く願い、もし、神様がその人の短所を全てとってしまったら、その人の長所が同時に消えてしまうでしょう。

 だから、人を見る大きな目が大切ですね。大きな目で見て、大目に見れば、長所と短所が折り合わさって、その人の「持ち味」になっていることがわかります。

 「持ち味」とは「個性」ともいえます。長所と短所の関係性をよく見つめて、自分の「個性」を大切にしましょう。

松下幸之助の名言5:結局、悩みはひとつ。

 人間が一度に考えらるのはひとつです。人には意識と無意識があります。無意識は自分では自覚できないことなので、どれだけ気づこうと思っても気づけません。ですので、自分は悩んでいると気づくのは意識の領域のことです。

 この意識の領域では、常に考えていることは、ひとつです。そうです、ひとつだけです。

 それが人間の心の構造となっています。

 もちろん私たちは無意識の領域をもっていますから、自分で「あーだ、こーだ」と悩みながら、同時に、他のさまざまなコトを考えています。とはいっても、無意識の動きは意識することはできないのですから、その時に悩むことはやはり「ひとつ」なのです。

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 松下氏もこういっています。

松下幸之助の名言

 私の悩みは多い。悩むことは百も千もある。
 しかし、千の悩みがあっても百の悩みがあっても、
 結局その悩みは一つである

『人を活かす経営』(PHP)

 松下氏が、長い人生経験を経て、悩みを常に持ちつづけてきたけれど、結局のところ、それは「ひとつ」だと気づいたのは、悩むときは、ひとつのことしか悩めないという厳然たる事実からでした。

 町工場から始めて世界のパナソニックを作った人ですので、それはそれは、悩みは尽きなかったでしょう。この言葉が出てきた章で、松下氏は「悩み」そのものを肯定しています。

 悩むのは結局ひととつだし、また、悩むことがあるから、自分が向上していくし、悩むたびに知恵がつくのだから悩むことも必要なことだと、肯定します。

 悩みは、運命が出す人に出す宿題です。

 「その人に乗り越えられるからこそ、神様は宿題を出す」とよくいいます。その宿題に人は悩まされるわけですが、悩みがあって、人は成長していくのですから、ひとつひとつ乗り越えていきましょう。

松下幸之助の名言6:一人前の大人というもの

 リーダーシップは100年に及ぶ研究成果があり、さまざま学術的な理論があります。「SL理論」「PM理論」「サーバントリーダーシップ」「オーセンティック・リーダーシップ」など。

まっつん
まっつん

いろいろとあるのはいいのですが、リーダーシップを発揮する側の人間からすると、「結局、どれが正解なの?」といいたくなります。理論があり過ぎて、逆に、リーダーシップがわからなくなってしまうのです。

 研究家の間でも、しばしば「リーダーシップは、研究すればするほど、さらにわからなくなる」と、いわれるほどです。そこで、松下幸之助氏の言葉です。

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松下幸之助の名言

 もし一緒に歩いている友人が、途中で何かにつまずいて転んだというようなことがあったら、だれもがその友人が起きあがることに手を貸す。
 そういう行動がごく自然にとれるのが、一人前の大人というものである。

『人を活かす経営』(PHP)

 リーダーとは「一人前の大人」です。そして「一人前の大人」としての行動をとっていくことがリーダーシップです。

 こう考えると、むずかしい理論が、とてもシンプルになります。

 ニュースとなり世間を騒がせる企業の不祥事の数々は、「一人前の大人」としての行動をとれないことが原因です。企業の不祥事は後を断ちません。「死ね」と部下を罵倒するリーダーの所業には、首を傾げざるをえません。とてもシンプルに「一人前の大人であれば、しないこと」といえます。

「リーダーとは何か」を考えることは、「一人前の大人とは何か」を考えることです。「リーダーシップとはどんな行動か」を問うことは、「一人前の大人であればどんな行動をとるのか」を問うことです。

 そんな人間学の視点と取り入れることで、リーダーシップはシンプルになり学びやすくなります。

松下幸之助の名言7:私心にとらわれない

 人には生まれ持った「欲」があります。「欲」は本能的なものであり、生存本能が強く働けば、命を守るために、他人より自分を優先するのが人です。この傾向が強くなると何事も、他人より自分のためと「私心」が強くなっていきます。

 「私心」というと否定的な印象がありますが、私心なくして、人は生きていけません。私心があって、自分を活かそうという成長欲も出てきますし、自分を守る術も身につけていきます。

 ですが、人が社会で他者と共に生きる存在である限り、私心が強くなると、うまくいかなくことが多くなります。

「自分だけよければいい」

 そんな考え方は、自分を小さな箱にとじ込め、自己の可能性や人生そのものを小さなものにしてしまいます。松下氏は、こんな言葉を残しています。

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松下幸之助の名言

 自分のやっていることは正しいのだとか、自分はこういう使命に立っているのだからこれをやるのだ、もしうまくいかなくてもそれはしかたがない、というような心境が大切だと思う。
 そしてそのことは私心にとらわれない、ということに通じると思う。

『決断の経営 』(PHP)

 「私心」とは、自分への執着であり、「自己執着」のことです。自己執着は、人の目を曇らせ「使命」(この人生でなすべき正しいこと)から人を遠ざけます。

まっつん
まっつん

もちろん、自分のしていることが正しくても、使命だからといって必ずしも、うまくいくわけではありません。使命だからこそ試練となって、逆にうまくいかないことも人生にはあります。

 「私心」にとらわれ自己執着が強くなっていると、「どうしても自分だけが、こんな目にあうのだ。あの人が悪い、この人が悪い」と、何もかも他のせいにする「他責思考」が強くなってしまいます。

 うまくいかな時に、使命の正しさを信じられると、「他責思考」から「自責思考」となって、「今、うまくいかないのは、自分に何か原因があるのかもしれないし、まだ時機をえていないだけなのかもしれない」と、冷静になれます。それが結局は「私心にとらわれない」マインドセットを育んでいくわけです。

 自分のためだけでなく、世のため人のためにベストを尽くしてるか。

 時々、自問自答してみましょう。

松下幸之助の名言8:過ちにどう対処するか

バットを構えるイチロー(マリナーズ時代、2008年6月25日)
6/25/08 Seattle Mariners @ New York Mets. Ichiro Suzuki performs his batting ritual.OlympianX, Andrew Klein

 イチローに、こんな言葉がありました。

 「結果がでないとき、どういう自分でいられるか。決してあきらめない姿勢が、何かを生み出すきっかけをつくる」(『夢をつかむイチロー262のメッセージ』(ぴあ)

 数々の記録を打ち立て、天才と呼ばれたイチローにもスランプはありました。特に現役時代の終盤は、成績不振に苦しみ、試合に出場することすらできませんでした。天才と呼ばれた人にも、「失敗」といえる時期は訪れたのです。

 松下氏は「過ち」について、こう述べています。

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松下幸之助の名言

 大切なのは、過ちをおかしたときに、これにどのように対処するということだと思います。
 この処し方いかんによって、人間としてのほんとうの値うちが決まるといっても決して過言ではないと思うのです。

『社員稼業』(PHP)

 人は誰もが失敗をし、過ちを犯すものです。その時、大切なことは、イチローがいうように、その苦難に対して「どういった自分」となり、「どう対処するか」に尽きます。

 成功している時よりも、失敗している時に、その人の本性が出るものです。

 だから失敗した時に、自分の「人間としてのほんとうの値うちが決まる」と思い、底力を発揮し自分のほんとうの値打ちを高めましょう。

松下幸之助の名言9:「できるはずだ。どうすればできるか」と考える

 「できない理由」

 これは、不思議なもので、ドンドンでてきます。予算がないから、人手が足りないから、優秀な人材がいないから、政治が悪いから、国が悪いから、世の中がおかしいから…。いい出したらキリがありません。

 「できない理由」をひたすらいいあう非建設的な会議を、「建設的な会議」だと勘違いしていると、もったいないです。時間を浪費することになります。

 もちろん、無謀なことには歯止めをかけなければいけませんので、「できない理由」は、それはそれとして大事です。

 でも、「できない理由」を並べることが習慣化され風土になってしまうと、組織に沈滞ムードが漂うことになります。なぜなら、「できない理由」は新たな挑戦を遠ざけて、同じことの繰り返しを「よし」とするからです。同じことの繰り返しでは、時代にキャッチアップできず市場から、時代から取り残されてしまいます。

 松下幸之助氏もこう述べています。

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松下幸之助の名言

 やはり事業でもなんでも「できない」と考えてしまえばそれで終わりである。
 「できるはずだ。どうすればできるか」というように考えていってこそ、困難なこと、一見不可能のようなこともできるようになる。

『決断の経営 』(PHP)

「できない理由」ではなくて、「どうすればできるか」と問い「できる理由」を探していくのが大切ですね。

「できない理由」を探し出す名人になるのではなく、「できる理由」を発見する達人になりましょう。

 

松下幸之助の名言10:幸・不幸の両面があるということが、結局は幸福

 「禍福はあざなえる縄のごとし」
 「災い転じて幸となる」
 「幸福は不幸の顔してやってくる」

 いずれもの言葉も、逆境にある人を励ます世の真理です。

 松下氏は、父の事業が失敗し、少年時代はとても貧乏でした。おまけに、からだ病弱でした。そして小学校しか卒業できませんでした。世界企業パナソニックを一代で作り上げた名経営者ですが、何度も逆境に陥っています。特に第二次世界大戦後、GHQによって財閥解体の対象となった時は、自分のつくった会社を取り上げられそうになったので、人生最大の逆境だったといえます。

 長い人生において数多くの禍福を味わった松下氏は、こう述べています。

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松下幸之助の名言

 幸・不幸の両面があるということが、結局は幸福なのかもしれません。不幸な姿を一瞬でも味わうことによって、初めて幸福のありがたさを知ることができるからです。
 これが、すべて幸福の連続だとしたら、そこからは、何ら、幸福感は生まれてこないでしょう。

『人生談義』(PHP)

 確かに、その通りですね。幸福なことばかり続いたら、幸福が当たり前になって、幸福であることに「ありがた味」を感じることができなくなります。感謝の念を持てなくなります。

 「ありがたい」の反対が「当たり前」です。

 人生には、辛いことと幸せなこと、この二つがあって、人生に「ありがた味」をもたらしてくれるのです。「あ〜ありがたい」と感じる時、私たちは幸福の中にあるのです。

 だから、不幸にあっても、、今の不幸は、次の幸福で深い「ありがた味」を感じるために必要な意味のある時だと覚悟を定めて、未来に向けて歩んでいきましょう。

(文:松山 淳


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無意識の力を信頼する〈フランクル心理学〉 https://www.earthship-c.com/frankl-psychology/trust-in-unconscious-power/ Fri, 22 Dec 2023 20:55:00 +0000 https://www.earthship-c.com/?p=15640

 「ロゴセラピー」(Logotherapy)を生み出したヴィクトール・E・フランクル(Viktor Emil Frankl 1905-1997)は、世界三大心理学者(フロイト・ユング・アドラー)とは異なり、ユニ ... ]]>

 「ロゴセラピー」(Logotherapy)を生み出したヴィクトール・E・フランクル(Viktor Emil Frankl 1905-1997)は、世界三大心理学者(フロイト・ユング・アドラー)とは異なり、ユニークな無意識に対する考え方を提唱した。

 フロイト、ユングの深層心理学では、意識と無意識を層構造でとらえる。ユングは無意識をさらに個人的無意識と集合的無意識に分類した。これに対してフランクルは、「身体」「心理」「精神」の3つの概念を並列させ、深層心理学でいう無意識を「精神」と呼んだ。

心理学者フランクルの自画像

 フランクルは世界三大心理学者の提唱する理論は心理主義と批判した。心理主義では、「心の中」(内界)を起点にして理論が生まれてくる。フロイトは無意識に「病」の原因があると考え、ユングは無意識を創造性の源であると考えた。いずれにしても、「心の中」に着目し内界を軸に理論が展開される。

 フランクルは、自己を超越した何かからの呼びかけに答えようとする「意味への意志」があるとした。「心の中」ではなく、「心の外」である「外界」からの働きかけを重視し、理論を展開した。

 フロイト、ユングを心理主義と批判したため、フランクルは無意識を否定した心理学者という印象がある。しかし、「精神」という言葉でフランクルは無意識について独自の見解を展開している。

 本稿では、フランクルの無意識の考えを含む「心理」「精神」の概念を説明しながら、論を展開していく。

フランクルの考えた心の構造

 フランクル心理学は、思想であって心理学ではない。そんな批判があります。フランクルは、医師として「逆説志向」「反省除去」という心理療法によって実際に、患者を治療していたわけですから、その批判は的外れです。

 そう批判されてしまうひとつの要因に「心の構造」の難解さがあげられます。フランクル心理学の基本となる「心の構造」は、日本語にした時に、余計に難しくなってしまっています。この皮肉のため、フランクル心理学では、「心の構造」をとりあげにくのだと思います。

 まず深層心理学で考える心の構造をおさえていきます。

深層心理学での心の基本構造

 フロイトやユングの深層心理学では、下の図のように、心を「意識」「無意識」にわけて考えます。私たちの心には、「意識できる部分」(意識)と、「意識できない部分」(無意識)がある。とてもシンプルです。

意識と無意識の図

 「今、自分の右手に意識を向けてください。」

 そう言われたら、心が右手へと移動します。その移動した心が、ここでいう「意識」です。と同時に、今の「意識」とは異なる部分が、私たちの中にあって常に働いています。それが「無意識」です。

まっつん
まっつん

 当たり前の話ですが、意識することができないからこそ「無意識」なわけです。「無意識」があるということは、普段の私たちの意識では、自覚することのできない心の働きを誰もが持っているということになります。

 さて、ではフランクルは心の中をどう考えたのでしょうか。

フランクルが考えた「心の構造」

 フランクルは、「身体」「心理」「精神」という3つの要素を考え出して、「心の構造」を整理しました。

フランクル心理学「身体」「心理」「精神」のイメージ図

 身体は「からだ」のことですので、これは、すぐわかります。次にくる「心理」と「精神」を見た時に、「それって同じじゃないの?」と混乱してしまいます。私たちが日常会話で、「心理」と「精神」といったら、ほぼ同じ意味で使いますよね。ここが、つまづくところです。

 では、この「つまづき石」をとるために、2つの違いについて説明していきます。

「心理」と「精神」の違い

心理とは何か?

フランクルがいう「心理」は、心理的現象を感じとる場所です。心理的現象とは「心の反応」のことです。

自然の中で癒される女性の写真

 例えば、「先生に叱られてムカついた」「ディズニーランド行って、めっちゃ楽しかった」「久しぶりに、自然の中で、癒されたわ〜」など、ある出来事があった時に自然と起きる「心の反応」が、心理的現象です。

 嫌いな虫を見たら逃げたくなります。美しい景色を見たら感動します。

まっつん
まっつん

 現実の出来事という刺激に対して心が反応し、人はいろいろな感情が自然とわいてきます。それを感じるのが「心」ですね。その自然と感じる部分またはその働きを、フランクルは「心理」といっています。

 では、この「心理」に対して「精神」とは何でしょうか。

「精神」とは何か?

「精神」とは、「無意識レベルでの主体的な人間らしい心の働き」のことです。フランクルは「精神的無意識」ともいっています。ここでポイントになる言葉は2つあります。「人間らしい」「主体的」です。まず、「主体的」をフックにして説明を進めていきます。

 先ほど、「心理」を説明したところで、「自然と起きる」を太字にしました。「主体的」「自然と起きる」では、反対の考え方になりますね。

 そういえば、Aさんが自分の意志で選択し決断して〜を行うことです。反対に「自然と起きる」だと、自分の意志の関わりは少なくなり、受け身の状態となります。それは受動的な心の動きといえます。

「精神」→「主体的」
「心理」→「受動的」

 この「主体的」「受動的」が、「精神」「心理」の大きな違いになります。ですが、ここで疑問がわいてきます。

 「精神のある場所が無意識だとしたら、どうして主体的になれるの?決断するとか選択するとかって、意識的に行うことでしょ。無意識にできないよね?」

 ホント、その通りです。ここが混乱するのです。では、この混乱をおさめるために、まず、深層心理学における無意識との違いについて説明していきましょう。

無意識には理性的かつ主体的な働きがある

フロイトの「無意識」は、「意識」に衝動的に強く作用するものです。衝動的とは、意志や理性に反して心が突き動かされる状態です。

衝動買いをした女性のイメージ写真
Aさん
Aさん

 「昨日、けっこう高かったんだけど、つい、このワンピース衝動買いしちゃったの」

 そういったら、「買うつもりはなかったんだけど、欲求に理性が負けて、つい、買ってしまった」という状況ですね。

まっつん
まっつん

 深層心理学の「無意識」には、人の心を突き動かす衝動的な「欲求」という側面があります。「欲求」は、お腹がすいたり、眠たくなったりで、それは自然と起きてくるものです。「欲求」は、自分の意志理性ではとめられない時があります。

 衝動的な欲求は「自然と起きる」のですから、これは、フランクルの「心の構造」で考えると「心理」に近いものです。

 「衝動買い」をしたら、お小遣いが足りなくなったり、せっかく買った服がタンスの肥やしになったりします。「お店では似合うと思ったんだけど、家に帰って着たら全然、似合ってなかった」と、後悔することが衝動買いにはよくあります。これは、欲求に理性が負けている「人間らしい」行いとはいえない心の動きです。

「衝動的無意識」「精神的無意識」

 そこで、フランクルは、フロイトの無意識を「衝動的無意識」と名付けて、自身の理論である「精神」の部分を「精神的無意識」と呼んで、対比させました。

・深層心理学ー「衝動的無意識」(理性に反する働きもする)
・フランクル心理学ー「精神的無意識」(主体的・理性的に働く)

 つまり、フロイトが無意識を「衝動的で理性を負かしてしまう働きがある」としたのに対して、フランクルは、無意識には、主体的で理性的で自律的な「人間らしい」心の働きがあると考えたのです。

 つまり、フランクルのいう主体的とは、人が意識的にする主体的な判断ではなく、無意識そのものが主体的に行う心の働きのことをいっているわけです。

フランクルの考える無意識

無意識には、衝動的ではない人間らしさを志向する理性的かつ主体的な心の働きがある。

 この無意識の考え方は、フランクル心理学ならではの独自の見解になります。私たちの知らないところ(無意識)で、「心」が人間らしい決断や選択をするのです。フランクルは「決断する無意識」といっています。であれば、私たちのもつ「心」は、頼もしい味方となりますね。

無意識は人間らしい決断をする

 さて、「人間らしい」という言葉が繰り返されています。「人間らしさ」が、2つの目のポイントとなる無意識の特性です。もし、無意識が「人間らしい」働きをするのであれば、それを信頼することで、「心」は健全化していくはずです。

 例えば、広場に行くと、なぜか「心臓が止まるのではないか」という恐怖に襲われるようになった人がいたとします。これは、その人の本来の姿ではありませんね。その人らしくない状態です。

心理ー精神拮抗作用

 この自然とこみあげてくる衝動的な恐怖は、出来事(広場にいる)に対する自然と起きる「心の反応」ですので、フランクルは「心理」次元の問題ととらえます。もし、その恐怖が習慣化すると、外に出られなくなる可能性が出てきます。

 「心理」次元の問題に対して、「精神」(精神的無意識)は、「人間らしい」選択・決断をします。ですので、自然とわき起こってくる「恐れ」に対抗し、「精神」は「広場にいてOK」という選択・決断をするように促すのだと、フランクルは考えました。

 衝動的な「心理」の働きに対して、「精神」には抗(あらが)う作用があります。この作用をフランクルは、「心理ー精神拮抗作用」と呼びました。この「心理ー精神拮抗作用」があるから、フランクル心理学の心理療法である「逆説志向」「反省除去」が成立するわけですね。

不安や緊張を軽くする方法「逆説思考」のアイキャッチ画像 不安や緊張を軽くする方法「逆説志向」 フランクル心理学 「反省除去」(脱反省)とは アイキャッチ画像 フランクル心理学の「反省除去」(脱反省)とは

もっと無意識の力を信頼しよう!

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 「スランプを克服する方法(反省除去)」の記事で、スランプに陥ったバイオリニストの事例をあげました。あまりに意識的に努力をしすぎた結果、そのバイオリニストは、自分の本来持っている力を発揮できなくなったのです。

「反省除去」とは、過剰に自分へ向く意識を取り除き、無意識の働きに委ねることで、心の障害を取り除こうとする療法です。つまり、「反省除去」は、先ほどの「心理ー精神拮抗作用」を活用しているわけです。フランクルはこう書いています。

フランクルの言葉


 彼のなかに蔵されている無意識のものが彼の意識にくらべてどんなに「より音楽的」であえるかを繰り返し繰り返し彼にきづかせてやることにより、この患者のために無意識への信頼を取り戻してやるということがなされねばならなかった。

 事実、このようにして行われた治療の結果、本質的に無意識的(再)創造の過程が過度の意識作用の阻害的な影響から解放されて、無意識の有する芸術的「創造力」のいわば抑制解除がなされたのである。

『識られざる神』【旧版】(V・E・フランクル[著]、佐藤利勝[訳] みすず書房)p41

 上の文章でフランクルが言いたいことを簡潔に述べれば、「もっと無意識の力を信頼しましょう」ということですね。

 フランクルは、「精神的無意識」の作用として、「芸術的インスピレーション」「愛」「良心」の3つをあげてます。「芸術的インスピレーション」を私たちが持っているのであれば、「無意識の力」をもっと信頼してよいことになります。

フランクル心理学「身体」「心理」「精神」のイメージ概念図

 図にあるように、心身の奥の無意識のレベルにある「精神」は、人間らしい力を発揮できるように私たちを導く力です。

 もっと、無意識の力を信頼して人間らしさを発揮していきましょう。

(文:松山 淳


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人格の発達について(ユング心理学) https://www.earthship-c.com/jung-psychology/personality-development/ Thu, 21 Dec 2023 11:34:20 +0000 https://www.earthship-c.com/?p=15534

 人格の発達とは、「意識」と「無意識」が相互に作用し、より高次の全体性を目指しながら、生涯を通してなされる心の統合作業である。ユング心理学では、意識と無意識は補償しあう関係にあると考える。意識が一面的になり、過剰な偏(か ... ]]>

 人格の発達とは、「意識」と「無意識」が相互に作用し、より高次の全体性を目指しながら、生涯を通してなされる心の統合作業である。ユング心理学では、意識と無意識は補償しあう関係にあると考える。意識が一面的になり、過剰な偏(かたよ)りをみせる時、その偏りを正しバランスを取り戻そうとする働きが、無意識から起きてくる。この無意識からの働きかけと日々の多様な人生経験を通して、人は心を成熟させ人格を発達させていく。

 心理学的類型論(タイプ論)を提唱したユングは、「タイプとは発達の偏りである」(『タイプ論』みすず書房p 551)という。例えば、外向タイプとは、「内向」に比べて「外向」が発達していることだ。それは、「内向」ではなく「外向」という心的態度に偏った結果、もたらされる人格の特徴である。つまり人が、人格を発達させていくことは、常に「偏(かたよ)り」があることを意味する。「偏りなくして発達なし」といえる。

ユング画像
心理学者C.Gユング
(Carl Gustav Jung)

 長い人生を通して、性格タイプの偏りが適度に保たれ、現実に適応できていればよい。しかし、往々にして人はタイプの偏りに対して無自覚で、その結果、人格の「過剰な偏り」が発生し、現実世界を生きていくうえで、時に様々な問題を抱え込むことになる。

 この「過剰な偏り」に起因する問題に人が取り組む時、無意識は意識に「夢」を通してメッセージを送り、その人の「生き方」に調和をもたらそうと働きつづける。無意識からのメッセージを理解し受け入れることができれば、時間がかかり苦悩することは多いが、人は「生き方」を更新できる。この「心の更新」がなされる時、そこに人格の発達がある。

 本稿では、人格の発達について、ユング心理学の観点から「心理学的類型論(タイプ論)」と「夢分析」の知識をおりまぜながら解説していく。

意識と無意識の補償作用があって人格の発達がある

 ユング心理学では、心を3つの層でとらえます。「意識」「個人的無意識」「集合的無意識」です。

まっつん
まっつん

 「私は、こんな性格で、こんな人」。そう考える自分は、「意識」の領域で心が働いた結果の「セルフ・イメージ」です。「意識」のエリアで考える自分は「普段の自分」ともいえますね。

 「意識」に対して、ユングは2つの「無意識」のエリアがあるとしました。

補償作用とは?

 ひとつ目の「個人的無意識」は、「意識」の領域から取り払われ、忘れ去られた「心の要素」の蓄積している領域です。ふたつ目の「集合的無意識」は、「人類に共通する心のパターン」=「元型」が生み出されてくる場です。「元型」は、ユングの考え出したコンセプトです。「元型」は夢を通して、強い感情の揺れをともなう鮮烈な印象を人に与えます。

意識と無識の補償作用のイメージ図

 さて、上の図にある通り、意識と無意識は補償作用を通して、心のバランスを保とうとします。目が覚めている時には、意識と無意識に「壁」のようなものがあって、無意識の要素が意識の領域に一気に流れ込むことはないと考えます。

 しかし、眠りについた時には、この「壁」に浸透性が生まれて、無意識から何らかの「イメージ」が意識のエリアへと入り込んできます。意識に流入してきたイメージを、目を覚ました時に覚えているのが「夢」です。

 ユングは夢に対して「目的論」の立場をとっています。何らかの目的があるから人は夢をみると、考えました。夢の目的のひとつが、意識と無意識の補償作用です。補償作用を通して、心は人格のバランスを保とうとします。つまり、偏ってしまった心に、調和をとり戻すために人は夢をみるのです。

 人格にバランスがもたらされるのであれば、それは心の成熟であり、人格の発達が促されているといえます。

ある天狗社員の夢

 例えば、ある高い業績をあげた新入社員がいたとします。この新人が「自分の力」だけで優秀な成績をおさめたと勘違いをし、「天狗」になっています。実際は、多くの人たちが支えてくれたのに…、です。

 職場の人たちは、「入社した時にはもっと謙虚だったのに、あの新人さん、最近、天狗になってるね!」と陰口をささやいています。鼻高々の天狗ですから、もちろん、ここに「人格の偏り」がみられます。

 さて、そんな天狗社員が、夜、こんな夢をみたとします。

「翼を広げ高い空を独りで気持ちよく飛んでいる。すると強い風が吹いてきて、顔面から地面に叩きつけられる。鼻がぺしゃんこになって、強い痛みに苦しみ、その場にうずくまる」。

 「痛いっ!」と声をあげて目を覚ましました。夢のメッセージはあまりにシンプルで、「あなた天狗になってるよ、そろそろ自分で気づいて、態度を改めなさいよ!」ですね。

 彼は夢の意味を考え、「これは、何かの警告だから、もう少し謙虚になったほうがいいな」と、その日から態度を改めました。そんな単純な話はなかなかありませんが、もし、天狗社員が「夢」という「無意識からのメッセージ」を通して謙虚な社員に戻ることができたら、これぞ意識と無意識の補償作用であり、人格の発達がなされたといえる出来事です。

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 さて、ユングは人が夢をみる目的を「こころの自己調整システム」として、こう書いています。

ユングの言葉

「こころとは自己調整を行うシステムであり、体という生がそうするのと同じようにしてバランスをとっています。行き過ぎた過程に対しては、それが何であれ直ちに、そして確実に補償が始まります。この補償を抜きにしては、正常な新陳代謝も正常な心もありえません。」

『ユング 夢分析論』(C.G.ユング みすず書房)P6

 つまり、人は、「こころの自己調整」を行うために夢を見ているというわけです。

 「こころの自己調整システム」がありながらも、人はなかなか変わることはできません。なぜなら、夢(無意識)は時にあまりにも難解で、夢からのメッセージをうまく理解できなくて、ついつい無視してしまうことが多いからです。すると、夢からの生きるためのヒントを上手に人格の発達に活用できません。

まっつん
まっつん

 せっかく、「こころの自己調整システム」が、日頃から働きつづけているのですから、無意識の声に耳を傾け、意識と無意識の補償作用を信頼し、日々、人格の発達に対して意識的になりたいものですね。

 さて、つづいて「心理学的類型論(タイプ論)」の観点から、人格の発達についてお話ししていきます。

劣等機能も人格の発達を促す心の資産

 ユングは20年にわたる臨床経験と研究から人の性格に関する理論で心理学的類型論(タイプ論)を生み出しました。その詳細は、1921年、スイスで刊行された『心理学的類型(Psychplogical Type)』に書かれてあります。日本版は、『タイプ論』(みすず書房)です。

 

『タイプ論』(みすず書房)
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主要機能と劣等機能の関係

 ユングは、「一般的態度」として2つの態度「外向・内向」を、また、「心理機能」として、4つの機能「感覚・直観・思考・感情」を考えだしました。そして、人によって4つの心理機能のいずれかが、他の機能に比べて優先的に発達する「主要機能」(優越機能)を設定し、外向・内向と組みわせて、8つのタイプを設定します。

 8つのタイプは、「外向思考」「外向感情」「外向感覚」「外向直感」「内向思考」「内向感情」「内向感覚」「内向直感」です。 

一般的態度
外向内向
心理機能感覚外向感覚内向感覚
直観外向直観内向直観
思考外向思考内向思考
感情外向感情内向感情

 人格の発達においてポイントになるのが、「主要機能」(優越機能)に対する「劣等機能」の存在です。性格が形づくられていく時、最も、優越して分化(意識化)され発達していくのが「主要機能」(優越機能)です次に「補助機能」があり、最も未分化のままになっていて、主要機能に比べると相対的に成熟していないのが「劣等機能」です。

まっつん
まっつん

「主要機能」が、「最も使い慣れている心」だとすれば、「劣等機能」は、4つの心理機能のうち、「最も使い慣れていなくて、最も扱いにくい心」といえますね。

 

『ユング心理学概説4 個性化の過程』(創元社)
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 以下のイメージ図は、ユングの信頼するC.Aマイヤーが書いた『ユング心理学概説4 個性化の過程』(創元社)の中にあったものです。この図ですと、主要機能が「思考」である「思考タイプ」で、補助機能が「直観」です。すると劣等機能は、主要機能の反対になるので、「感情」が劣等機能となります。

『ユング心理学概説4 個性化の過程』(創元社)p67
掲載図5をもとに作成

 上の図において、各心理機能に、その色を選択した理由について、マイヤーはこう書いています。

「思考の青は思考の世界の冷たさに対応している。感情の赤は血のような暖かみとみなされる。感覚の緑はわれわれの世界の主要な色であり、したがって「現実機能」を表す。直観の黄色は、この機能自体のような困惑のままである」

『ユング心理学概説4 個性化の過程』(創元社)p67

発達の順番

 さて、上の図に「αβγδ」の文字と矢印の曲線が描かれています。これは、4つの心理機能における発達の順番を意味しています。つまり、補助機能が直観である「思考タイプ」の場合、「α思考→β直観→γ感覚→δ感情」の順に発達していく傾向があるということです。あくまで傾向ですので、100%必ずそうなる、というものではありません。

 矢印の通り、劣等機能の順番は一番最後となっています。これは劣等機能が未分化になりがちであることを意味します。分化とは、「心の要素が無意識から区別されて意識化され発達していくこと」です。つまり、劣等機能は、多くのケースで、主要機能や補助機能に比べると未発達の状態になるといえます。

まっつん
まっつん

 ですので、人生において劣等機能は私たちを悩ます存在になりがちです。一方で、その存在なくして「さらなる人格の発達」はない、ともいえるのです。

 ユングは、『タイプ論』(みすず書房)の中で、劣等機能について、こう書いています。

ユングの言葉

「まさしく劣等機能こそが、機能の分化によって消えかかっていた生命を生き返らせるのである」

『タイプ論』(訳 林義道 みすず書房)p284

 なぜ、劣等機能が、「生命を生き返らせる」のでしょうか。

 なぜなら、意識と無意識は相互作用を起こし心を成熟していくものであり、劣等機能も相互作用を起こす対象となりうるからです。劣等機能も、私たちの心に存在している人格を発達させるための大切な「心の資産」です。

 図の「思考タイプ」の例であれば、相互作用ですから、「α思考 + β直観 + γ感覚 + δ感情」の足し算ではありません。「α思考 × β直観 × γ感覚 × δ感情」の掛け算です。仮に各心理機能に数値をふってみて、「α思考100 × β直観70 × γ感覚50 × δ感情30」とした時、4つを全部かけ合わせれば「10,500,000」となります。劣等機能を無視すると、「350,000」にとどまってしまいます。

対立がエネルギーを生む

 また、劣等機能は「生命を生き返らせる力」になる理由として「対立」という概念が考えられます。ユングは「対立によってエネルギーが生まれる」と考えた心理学者です。主要機能と劣等機能は、対立関係にある。劣等機能なくして、主要機能は対立関係をつくることができません。よって、劣等機能は「生命を生き返らせる力」といえるのです。

 ユングは、対立とエネルギーについて、こう書いています。

『エッセンシャル・ユング』(アンソニー・ストー 創元社)の表紙画像
『エッセンシャル・ユング』(創元社)
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ユングの言葉

対立するものの緊張のないところにエネルギーは生じない。それゆえ、意識の態度にたいして対立するものを発見することが必要である」

「あらゆる意識は、おそらくそれと気づかないうちに無意識内に対立するものを求めるのである。対立するものがなければ、意識は抗いようもなく停滞、渋滞、硬直化へと向かう。人生は対立するものの閃光によってのみ生まれるのである」

『エッセンシャル・ユング』(創元社)p175

 ユングのタイプ論にある「外向↔︎内向」「思考↔︎感情」「感覚↔︎直観」は、相反する概念が組み合わせであり、「対立」する関係にあります。ライバルと対立することでお互いに切磋琢磨し成長していけるように、ユング心理学にとって、対立は、人格の発達の深く関係する概念となります。

劣等機能の発達が人格を高める

 下の図では、円の上の領域が「意識」の領域です。下に行いくほど「無意識」の領域です。「劣等機能」は無意識の領域にあって、意識の領域にある主要機能と対立してます。「意識」の領域に近いものほど、分化され意識化され発達しています。無意識の領域にあるものは未分化の状態と考え、心の機能が未発達にあると考えます。

主要機能と劣等機能のイメージ図
『ユング心理学入門』(河合隼雄 培風館)
P59掲載「図3」を参考に作成

 ユングにいわせれば、「意識」は停滞、渋滞、硬直化をしないように、「無意識」のうちに対立を求めています。対立がエネルギーを生むのはいいのですが、現実問題として劣等機能に意識的に向き合うことは、かなりの「産みの苦しみ」を味わうことになります。そう簡単なことではありません。

まっつん
まっつん

 これを反転して考えると、私たちが人生のさまざまな場面で、「産みの苦しみ」を味わっている時、それは劣等機能の発達に取り組んでいる時期でもある、という解釈が成り立ちます。

 

『ユング心理学入門』(河合隼雄 培風館)の表紙画像
『ユング心理学入門』(河合隼雄 培風館)
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 人は、精神的、身体的、経済的に、さまざまな苦悩を味わいます。

 そんな時、自分の運命を呪い、「なんでこんなことになってしまったんだ」と、人生を否定しがちです。しかし、それらの辛い日々を乗り越えた時、「あの苦しい経験があったから今の自分がある」と、懐かしく過去の苦悩を肯定的にふりかえることができます。否定的な体験を肯定できるようになることは、人格の発達にほかなりません。

 タイプ論の知識によって、自分の劣等機能が何であるかを知っておくことは人格の発達に有利に働きます。ですが、それを知らずとも、私たちは苦悩を通して人格の発達を促され、「より高次の段階へと高められている」と知っておけばよいのでしょう。

 なぜなら、意識的、無意識的にさまざまな人生を経験を通して、人格の発達は成されていくものだからです。

人格の発達と夢のパターンと個性化の過程

 ユングとユングの弟子たちによってユング心理学をまとめた『人間と象徴(下)』(河出書房新社)に、「ユングは非常に多くの人を観察し、その夢を研究すること(彼は、少なくとも8万の夢を解釈したと見積もっている)」とあります。

 「少なくとも8万」とありますので、実際は、8万以上なのでしょう。

個性化の過程とは

 数多くの夢を分析したユングは、夢の流れに「パターン」があることを見出しました。『人間と象徴(下)』(河出書房新社)で、「個性化の過程」をテーマにして筆を進めたフォン・フランツは、次のように書いています。

『人間と象徴(下)』(河出書房新社)
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「すべての夢が程度の差はあれ、夢をみた当人の人生に関係しているのみならず、夢は心理的要素のひとつの大きい組織のすべての部分を成していることを見いだした。彼は、また全体として夢が、ひとつの配列やパターンにしたがうように見えることを見いだした。そのパターンをユングは、“個性化の過程”と呼んでいる。」

『人間と象徴(下)』(河出書房新社)p6

 上の記述に似た内容を、ユングの高弟C.Aマイヤーが書いた『ユング心理学概説4 個性化の過程』(創元社)に見つけることができます。

「人が意識して夢の内容を気にかけて、それに対する態度をはっきりさせると(これはたとえば分析の場合がそうである)、夢の内部に多かれ少なかれ時間的に順序正しい経過が生じ、それがさらに意識の連続的な発展に影響を及ぼす、ということである。こうしてその経過は、プロセス、ユングによれば個性化のプロセス、という性格をおびることになる。」

『ユング心理学概説4 個性化の過程』(創元社)p89

 「個性化の過程(プロセス)」という言葉が、2つの文章の中にあるのがわかります。「個性化」(individuation)は、ユング心理学の重要概念です。ユングは、「個性化」について、こういっています。

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ユングの名言

「個性化とは、前へ進みすぎた若さに溢れた意識が後ろへ取り残された古老の無意識といかにしてふたたび結合できるかという、今日的大問題への答えとしての、個人の全体化のことである。」

『個性化とマンダラ』(C.G.ユング みすず書房)p143

 ユング心理学は、「人の個性化をサポートしている心理学である」ともいえます。そのサポート法として、主に夢分析を行います。

 ユングの言葉を借りれば、「夢」には「後へ取り残された古老の無意識」が含まれまています。また、「夢」には、「前へ進みすぎた若さに溢れた意識」が抱える課題がイメージ化されています。

まっつん
まっつん

 「前へ進みすぎた」とは、「意識の偏り」と考えられますね。「古老の無意識」「偏った若き意識」が、補償し合い、統合していくことで、個人の全体化が図られます。個人の全体化とは、その人が目指すべき完成形(全体)へと、より成長していくことです。

 つまり、「個性化」とは、ますますのその人が、「その人本来の自分」になっていくことであり、それは同時に、人格が発達していくことでもあります。

夢に登場するものたち

 さて、「個性化」が行われていくプロセスで、夢のなかにパターンが現れていきます。ユングは、いくつものパターンを概念化していますが、その中の代表的なものが、「影(シャドー)」「ペルソナ」「アニマ・アニムス」「自己(セルフ)」です。これらの夢に現れてくる夢の心的イメージをユングは「元型」(アーキタイプ:Archetype)といっています。

ユング心理学の心の全体像

「影(シャドー)」:自分の生きられなかった半面の姿。性格的に対立する存在。男性の夢には男性として、女性の夢には女性として登場することが多い。
「ペルソナ」:その語源は「仮面」。外に向けている自分の「顔」といえるもの。夢では主に衣服に関連することが多い。
「アニマ・アニムス」:その人の魂がイメージ化したもの。男性の夢には女性として、女性の夢には男性として登場することが多い。
「自己(セルフ)」:「意識」の領域の中心が「自我(エゴ)」であり、「心の全体」の中心が「自己(セルフ)」。自己(セルフ)は、その人の本質であり、「個性化の過程」は、自己(セルフ)を目指す心の旅でもある。

 「元型」の詳細については、コラム「元型とは何か」に書きましたので、参考になさってください。

 夢に登場してくるものは、もちろん、元型だけで説明はつきません。元型はあくまでパターンのひとつ過ぎません。夢は複雑怪奇で、どれひとつとして同じものはありません。何を意味しているのか、まるでわからないものもあります。わからないものがあった時、わからないままにしておき、次の夢がどのように展開していくかに気を配ればいいのです。

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 ユングは、「夢を解釈する人に対して、あまり急いで解釈しないように、大きな声でこう呼びかけてやりたいくらいなのです。「とにかく理解しようとはしないよう」と。」と、(『ユング 夢分析論』みすず書房p16)書いています。

まっつん
まっつん

 ユングでも、わからない夢はたくさんあったのです。あせって理解して、「わかったつもり」になるより、「わからないまま」の状態に耐え抜いて、より深い答えに至ることのほうが、人格の発達にとっては大切です。

 さて、そろそろ本稿も終わりに近づいています。

 ここで、特に強調しておきたいことは、「夢や心の中を観察することは大事ですが、そればかりでは人格の発達はなされない」ということです。現実の世界を生き、「嬉しいこと、楽しいこと、悲しいこと、苦しいこと」、さまざまな体験をすることで、人は、人格を発達させていくのです。

 その時、心のなかの動きに意識的になっていることは、必ず、何かの助けになります。

 著書『自我と無意識』(第三文明社)の中で、ユングはこう書いています。

『自我と無意識』(C.G.ユング 第三文明社)
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ユングの名言

「自らの無意識的な自己を実現する道を歩む者は、必然的に個人的無意識の内容を意識にとりいれ、それによって、人格は大きさを増すのである」

『自我と無意識』(C.G.ユング 第三文明社)p34

 人格の発達とは「個性化のプロセス」と重なります。

 人格が大きさを増す時、つまり、人格が発達していくために、無意識の大切さに気づいていくことです。このことを忘れたくありません。

(文:松山 淳


【参考文献】
『タイプ論』(訳:林義道 みすず書房)
『ユング心理学概説4 個性化の過程』(監訳:河合隼雄 創元社)
『エッセンシャル・ユング』(訳:菅野 信夫ほか 創元社)
『人間と象徴(下)』(監訳:河合隼雄 河出書房新社)
『個性化とマンダラ』(訳:林義道 みすず書房)
『ユング 夢分析論』(訳:横山 博ほか みすず書房)
『自我と無意識』(訳:松代 洋一ほか 第三文明社)


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タイプ論 8つのタイプついて(ユング心理学) https://www.earthship-c.com/jung-psychology/8-types/ Thu, 07 Dec 2023 23:55:00 +0000 https://www.earthship-c.com/?p=15403

 ユングは20年にわたる臨床経験と研究からタイプ論(心理学的類型論)を生み出した。1921年、スイスで出版された『心理学的類型(Psychplogical Types)』に詳しく書かれてある。ユングのタイプ論では、「一般 ... ]]>

 ユングは20年にわたる臨床経験と研究からタイプ論(心理学的類型論)を生み出した。1921年、スイスで出版された『心理学的類型(Psychplogical Types)』に詳しく書かれてある。ユングのタイプ論では、「一般的態度」(外向・内向)「心理機能」(感覚・直観・思考・感情)を組み合わせて、8つのタイプとなる。

 8つのタイプは、「外向思考」「外向感情」「外向感覚」「外向直感」「内向思考」「内向感情」「内向感覚」「内向直感」である。

一般的態度
外向内向
心理機能感覚外向感覚内向感覚
直観外向直観内向直観
思考外向思考内向思考
感情外向感情内向感情

 「一般的態度」(外向・内向)「心理機能」(感覚・直観・思考・感情)が、どのような「心のメカニズム」なのかについては、「タイプ論 外向/内向 感覚/直観 思考/感情について」にまとめた。

 本稿では主に「8つのタイプ」の特徴について述べていく。その際、参考文献から文を選択し、箇条書きをしていく。参考文献は次の通りである。(以下、敬称略)

【参考文献】
『タイプ論』(訳 林義道 みすず書房)
『ユング心理学概説4 個性化の過程』(C.Aマイヤー 創元社)
『ユングのタイプ論―フォン・フランツによる劣等機能/ヒルマンによる感情機能』(F.フランツ、J.ヒルマン 創元社)
『ユング心理学入門』(河合隼雄 培風館)
『心のしくみを探る―ユング心理学入門〈2〉 』(林義道 PHP 電子書籍)

 まず、タイプ分類のキーとなる「主要機能」(優越機能)「劣等機能」について説明し、その後に、「8つのタイプ」の特徴について述べていく。「8つのタイプ」は、❶「外向思考」→❷「外向感情」❸「外向感覚」❹「外向直感」❺「内向思考」❻「内向感情」❼「内向感覚」❽「内向直感」の順で説明していく。

主要機能と劣等機能とは

 「8つのタイプ」の説明に入る前に、「主要機能」(優越機能)「劣等機能」について述べていきます。この2つの機能の定義があって「8つのタイプ」が生まれてきます。

 ユングは、「主要機能」(優越機能)に関連して、こう書いています。

『タイプ論』(みすず書房)
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ユングの言葉

優越機能が最も意識化され、意識の制御や意識的な意図に従っているのに対して、未分化な機能はどれもあまり意識的でなく、その一部は無意識的であり、意識の自由になることがほとんどない。優越機能がつねに意識的な人格を表しその意図・その意志・その行為・を反映するのに対して、未分化な機能はその人にとって降ってわいたように現れるのである」

『タイプ論』(訳 林義道 みすず書房)p366

 例えば、「外向」が「内向」よりも優越しているタイプは「外向タイプ」です。「外向タイプ」の人も、もちろん「内向」することがあります。そこで「外向タイプ」は、「外向」が「内向」よりも意識化されていて、「内向」の働きが「外向」に比べたら「未分化」になっているのだ、と考えます。

タイプとは「分化」「意識化」の結果

まっつん
まっつん

 「分化」とは生物学でよく使われる用語ですが、ここでは「心の要素が無意識から区別されて意識化され発達していく過程とその程度」を意味します。

 赤ちゃんの心は「無意識」の状態です。成長するにつれて「無意識」から「意識」「分化」してきて「自我」が生み出されてきます。「自我」が生まれることで、「私」(自分)という存在を意識できるようになります。「ものごころがついた」といわれる状態ですね。

赤ちゃんのイメージ写真

 ですので、赤ちゃんの時は、「意識が完全に未分化になっている」と表現できますね。「未分化」とは、意識化がされておらず発達していない状態と、その程度のことです。

 ユングのタイプ論(心理学的類型論)では、2つの「一般的態度」(外向↔内向)と4つの「心の機能」(思考↔感情・感覚↔直観)を組み合わせて「8つのタイプ」が生み出されてきます。 

 2つの「心的態度」(外向↔︎内向)のうちどちらかが、4つの「心の機能」(思考↔感情・感覚↔直観)のうちいずれかが、優越して分化し発達し、その人の「タイプ」をつくりあげていきます。それぞれのタイプが生まれるのは、「分化」「意識化」の結果だといえます。

まっつん
まっつん

 タイプがつくられていく時、最も、優越して分化(意識化)され発達していくのが「主要機能」(優越機能)となります。反対に、最も未分化のままになっているのが「劣等機能」です。

 そこで、「優越機能」「劣等機能」は次のように定義できます。

主要(優越)機能とは、そのタイプで最も分化(意識化)されている機能のこと。
劣等機能とは、そのタイプで最も未分化の(意識化されていない)機能のこと。

 ユングは、劣等機能を定義する箇所で「心の発達」とからめて、こう書いています。

ユング画像
心理学者C.Gユング
(Carl Gustav Jung)
ユングの言葉

「私は劣等機能を分化過程において取り残された機能と理解する。すなわち経験によると、自らの心的機能を同時にすべて発達させることは、ーすべての条件が整うものではないのでーほとんど不可能である。人間は生まれつき最も得意とする機能、あるいは自らが社会的に成功するために最も有効な手段となるような機能をまっさきに一番よく発達させることを余儀なくさせられる」

『タイプ論』(訳 林義道 みすず書房)p484-485

主要機能と劣等機能の関係図

 下の図は、「4つの心理機能」で、主要機能(優越機能)劣等機能を表した図です。円の上の領域が「意識」の領域で、下に行けばいくほど「無意識」の領域となります。「意識」の領域に近いものほど、分化され意識化されていて、無意識の領域にあるものは未分化の状態と考えます。

主要機能と劣等機能のイメージ図
『ユング心理学入門』(河合隼雄 培風館)
P59掲載「図3」を参考に作成

 上の図の例だと、「直観機能」が主要機能(優越機能)となっている「直観タイプ」ですね。8つのタイプの枠組みで考えると、これに「外向」「内向」のどちらかが組み合わさりますので、「外向直観タイプ」か「内向直観タイプ」ともいえます。

 4つの心理機能は、次の通り「対」になって分類されています。

〈4つの心理機能〉
 :感覚↔直観(知覚機能/非合理機能)
 :思考↔感情(判断機能/合理機能)

 感覚と直観は「知覚機能」で対なり、思考と感情は「判断機能」で対になります。

 図の例だと「直観」が「主要機能」(優越機能)になっていますので、「劣等機能」は、その対となる「感覚」になります。もし、「思考」が「主要機能」(優越機能)」になるなら「感情」が「劣等機能」になります。これがタイプ論のルールです。

全てが同時に発達することはない

 ユングが「心的機能を同時にすべて発達させることはほとんど不可能である」と書く通り、全ての心理機能が同時に発達することではありません。何らかの事情がなければ、優越機能から先に分化され発達していきます。そう考えるのが、ユングのタイプ論です。

まっつん
まっつん

 また「人間は生まれつき最も得意とする機能」とありますので、優越機能がどれになるかは、生まれつき決まっているとユングは考えています。

 ただその後に、「社会的に成功するために最も有効な手段となるような機能をまっさきに一番よく発達させる」と書いています。つまり、生まれた後の環境によって、優越機能より他の機能が先に、分化・意識化されていく可能性があるということです。

 例えば、「外向タイプ」の両親のもとに生まれた「内向タイプ」の子が、幼い頃から「内向」することを否定され、両親から外向することを過度に求めらるような場合です。このケースだと、「内向タイプ」のこの子は、両親との関係を成功させるために最も有効な手段が、つまり親から叱られず傷つけられないための手段が、「内向」より「外向」になるので、「外向」をまっさきに一番よく発達させる可能性があるというわけです。

 この例のように、「生まれた後の生育環境がどのようであるか」も影響しますし、2つの「一般的態度」(外向↔内向)と4つの「心の機能」(思考↔感情・感覚↔直観)は、相互作用しながら性格タイプは形にづくられていきますので、実際は、とても複雑なものになるのです。

タイプ論とは人間理解のための「心の羅針盤」

 本に書かれた「タイプの特徴」は、あくまでも、典型的な例のひとつに過ぎませんので、タイプの知識で「人を決めつけない」ことが大切です。

 あのユングでも「ある人がどのタイプに入っているのかを明らかにすることはしばしばきわめてむずかしく、それが自分自身のことになるととくにむずかしいのである」(『タイプ論』みすず書房p10)といっているほどです。

まっつん
まっつん

 例えば、同じタイプの人が10人、集まったとします。その時「本当に同じタイプですか?」といいたくなるほど、自分とは違うタイプに見えることが、実際にはあるわけです。

 ユングのタイプ論の知識は、自己理解し他者理解し、人間を理解するための「心の羅針盤」です。性格を理解するための指針として活用するものであって、人の性格を「決めつける」ための知識ではないことを、忘れないでおきましょう。

 ユングは「彼らが求めている真理は、彼らの視野を狭くするものではなく広くするような真理、暗くするのではなく明るくするような真理です」(『黄金の華の秘密』人文書院)といっています。人のタイプを「決めつける」ことは、人の視野を狭め、暗くする考え方です。その点に関しては、「タイプ論の目的と経緯」に書きましたので、参考になさってください。

 さて、「優越機能」と「劣等機能」のパートは、これぐらいにしまして、では次に、「8つのタイプ」の特徴について、述べていきます。

「8つのタイプ」について

 ここから冒頭にあげた参考文献から、8つのタイプに関する記述をご紹介していきます。最後に引用した文からキーワードをピックアップします。参考文献は次のものです。(以下、敬称略)

【参考文献】
(ユング)は、『タイプ論』(訳 林義道 みすず書房)から。
(マイヤー)は、『ユング心理学概説4 個性化の過程』(C.Aマイヤー 創元社)から。
(フランツ)は、『ユングのタイプ論―フォン・フランツによる劣等機能/ヒルマンによる感情機能』(F.フランツ、J.ヒルマン 創元社)から。
(河合)は、『ユング心理学入門』(河合隼雄 培風館)から。
(林)は、『心のしくみを探る―ユング心理学入門〈2〉 』(林義道 PHP 電子書籍)から。

 C.Aマイヤーは、ユングが最も信頼していたといわれるユング研究所の初代所長です。
 フランツ(マリー=ルイズ・フォン・フランツ)は、ユングと30年以上、共に研究を重ねた女性です。
 河合隼雄は、日本におけるユング心理学の第一人者です。
 林義道は、ユング研究家であり数多くのユングの著書を翻訳しています。『タイプ論』(みすず書房)も林による翻訳です。

 

まっつん
まっつん

 ここから書いてあることは、ユングあるいはユング心理学に精通した専門家たちが数多くの言葉を費やした詳細な説明の「一部分」に過ぎません。詳しくは上の参考文献にあたってください。

 タイプ論の知識で「タイプを決めつける」ことはせず、人間理解を深め、建設的な人間関係を育くむための「心の羅針盤」としてご活用していきましょう。

 では、❶「外向思考」→❷「外向感情」❸「外向感覚」❹「外向直感」❺「内向思考」❻「内向感情」❼「内向感覚」❽「内向直感」の順番で書いていきます。

❶外向思考タイプ

「外向的な思考は純粋に具象的な事実に則った思考である必要はまったくなく、純粋な理念に則った思考であっても、理念を用いて思考するさいに外から借りてきた度合いが強いことが、すなわち伝統・教育・学歴によって伝達されたものであることが証明されさえすれば、それも外向的思考である」(ユング p367-368)

「古典的な外向的思考タイプにとっては、すべてが知的な判断にかかっている。その際彼は、外的対象から導き出された公式ないし原理に従っている。この原理があらゆる事柄を結びつけ、ついには一つの法則にまで至る。しかしそこで、それは誰ににとってもあてはまるものとして説明される」(マイヤー p35)

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「外向的思考タイプは、明確な立場を打ち出したり、こう言い切ることで秩序を確立する。「私が言うことは、言葉通りの意味であり言外の意味はない」。彼らは、明確な秩序を外的状況に持ち込む。商談の場では「基礎的な真実を突き止めてから、どうやって取りかかるかを考えねばならない」などと述べる」(フランツ p69-70)

「外向的思考型のひとは、自分の生活を知性の与える結論に従わせようと努めている。そして、その考えの方向づけは客観的な事実によってなされる。このようなひとが内的なこと、哲学や宗教を問題にしているときも、結局は周囲のひとびとの考えを基にしたり、取り入れたりしている場合が多い」(河合 p50)

「こういう人はたいてい公式をもっている。その公式は自分が作ったものではなく、外から来た公式である。(中略)これは外向的思考型の思考様式で、外から与えられた公式をそのまま信じていて、世の中はその通りになると思っている」(林)

公式が十分な幅をもったものである場合には、このタイプは改革者として、すなわち不正を公然と糾弾し人々の良心を洗い浄る者とか、重大な変革を訴えるものとして、社会生活にきわめて有益な役割を演じる」(ユング p373)

【外向思考タイプのキーワード】
知的な判断、公式、原理、法則、秩序、知性、客観的な事実、公式、外から来た、外から与えられた、改革者、変革

❷外向感情タイプ

「たとえば私(※外向感情タイプの人)が「美しい」とか「よい」といった述語を用いなければと感じる場合、それは私(※外向感情タイプの人)主観的な感情からその客体を「美しい」とか「よい」と思うからではなく、「美しい」とか「よい」と言う方がその場にふさわしいからであり、しかもこのその場にふさわしいとは、反対の判断を下すと皆の感情の場を何らかの形で乱すことなるという意味である」(ユング p381-382 ※外向感情タイプの人は追記)

「この人たちの集合的に正しい諸価値は、ちょうど快適な雰囲気を作り出す。同じ理由から、彼らはいつも快活で人をひきつけ親切であり、調和のとれた社交性を生み出す」(マイヤー p37)

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「外向的感情タイプの特徴は、主として外界の客体を評価したり、それと適切な関係を結んだりすることで適応していく点にある。それゆえ、このタイプはたやすく友達を作り、人への思い込みもほとんどない。友人の肯定的・否定的側面を的確に評価することもできる」(フランツ p78)

「外向的感情型のひとは、自分の気持ちに従ってそのまま生きているが、それは環境の要求するところと非常に一致しているので、スームスに行動してゆくことができる。ともかく、皆が「よい」と思い「すばらしい」と思うことは、このひとにとってもそうなのである」(河合 p52)

「外向感情型の人というのは、感情の持ち方やエネルギーが外に向いている。「みんなと仲良くしよう」「みんなに気に入られよう」と、まわりのみんなに合わせるのである。みんなが「今日はいい天気ね。すがすがしいね」と言うと、「まあ、ほんとにすばらしい、いい天気ね」と言う。そして、みんな気持ちを巧みにリードしていって、「今日はいい天気ですね。だからハイキングに行きましょうよ」というふうに、気持ちよくまわりに働きかけるのである」(林)

【外向感情タイプのキーワード】
主観的感情、その場にふさわしい、皆の感情、快適な雰囲気、調和、適切な関係、環境おん要求、皆が「よい」、みんなに合わせる、気持ちを巧みにリード、気持ちよくまわりに働きかける

❸外向感覚タイプ

「彼の動機はつねに、客体を感じとろう感覚を得よう、そしてできれば享楽を得ようというのである。彼はけっして無愛想な人間ではなく、反対に彼はしばしば人に好感を与える生き生きとした享楽能力を持っており、陽気な仲間であったり、品のよい趣味人であったりする」(ユング p392)

「外向感覚タイプは、いつも明日に対して今日を守ることになる。しかし明日が来れば、再び新しい明日に対抗する。当然のこととして、くり返しつねに与えられた新しい状況に合わせるのである。その際、問題性は自動的に消滅する」(マイヤー p30)

「外向的感覚タイプは、才能や得意とする機能が感覚に向き、外界の客体と具体的・実際的に関わるといった人である。こういった人は、何一つ見逃すことなく、あらゆるものに嗅覚を働かせており、入るなり部屋に何人いるのかを見て取る。何某夫人はそこにいて、どんな服を着ていたか、後々まで覚えていたりする」(フランツ p43)

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「外向的感覚型のひとは、まさにリアリストそのものである。客観的事実を、事実そのままに受け取って、その経験を集積してゆく。これに思考や感情の助けがあまり加わらぬときは、このひとは気楽な、そのとその場の現実の享受者となる」(河合 p54)

「「外向的感覚型」というのは、外からの刺激をそのまま受け取るタイプである。外からの刺激というのは、たとば見たものをそのまま受け取って、記憶にとどめる。また食べ物を口にしたとき、「これはどんな味だな」というのを感じ取るのである」(林)

【外向感覚タイプのキーワード】
客体を感じとろう感覚を得よう享楽を得よう、新しい状況に合わせる、外界の客体と具体的・実際的に関わるリアリスト、事実そのままに受け取って、経験を集積、外からの刺激をそのまま受け取る

❹外向直観タイプ

「直観型の人が向かうのは、皆に認められるうような現実価値を見つけられる方角ではけっしてなく、つねに、可能性が依存する方角である。(中略)彼(※外向直観タイプ)はつねに新しい可能性を追い求めているため、安定した状況の中では息がつまりそうに思えるのである。彼はたしかに新しい対象や方法を手に入れるときは懸命に、時には異常なほど熱狂することもあるが、いったんその広がりが確定してもはやそれ以上の著しい発展が望まれないとなると、たちまち愛着をなくし、見たこともないようなふりをして冷たく見捨ててしまう」(ユング p392 ※外向直観タイプは追記)

「外向的直観人は、萌芽的なものや将来の見込みに対して見事なを働かせる。純粋に静的なものやただの存在は、彼らをほとんど窒息させてしまう」(マイヤー p39)

「直観は、事態の背景に潜んでいる、未だ目には見えない未来の可能性なり将来性なりを直観する能力なのだ。外向的直観タイプは、この能力を外界に応用するため、身近な外界がこの先どう移ろってゆくかを推測する能力に抜きん出ている」(フランツ p56)

『ユングのタイプ論』(著者 フォンフランツ 創元社)
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「外向的直観型のひとは、外的な物に対して、すべてのひとが認めている現実の価値ではなく、可能性を求めて行動する。(中略)この直観が思考や感情による判断によって補助されていないときは、この型のひとは、種はまくが、収穫を得られないひとになる危険性が高い」(河合 p56)

「「外向的直観型」というのは、外的なことがらについて、将来のことや物事の本質が見えてしまう人のことをいう。こういう人は、「これから世の中はどういうふうに動いていくだろうか」「何が値上がりするだろうか」「どんな商品が売れるだろうか」というのがパッと分かってしまう」(林)

【外向直観タイプのキーワード】
新しい可能性、新しい対象や方法、将来の見込み、勘、未来の可能性、未来の可能性、この先どう移ろってゆくかを推測する、可能性を求めて行動する、種はまくが収穫を得られない、将来のことや物事の本質

❺内向思考タイプ

「この思考は主体の中で始まり主体に戻るのである。したがってこの思考は新しい事実を提示するという点では主として間接的な価値かしかもっていない、とういうのはこれ(※内向思考)がまず第一に伝えるのは新しい見解であって、新しい事実に関する情報はほとんど伝えないからである。これは問題提起や理論を生み出し、展望や洞察を開くが、しかし事実に対しては冷淡な態度を示す」(ユング p392 ※内向思考は追記

「内向的思考人は、新しい事実というよりは、新しい見方を生み出す。事実はせいぜいのところ、説明として利用されるにすぎない。(中略)あらゆる場合に彼は本質を主張し、ことばにすることを好まない。」(マイヤー p48)

「内向的思考型の生活は、観念に支配されており、その際この観念は、(中略)「主体要因」から生じている、といってよい。しかし外向的な人とは逆に、この観念は応用されることがなく、他人とかかわったり気に入られようとすることもない。」(マイヤー p49)

「内向的思考型のひとは、新しい「事実」についての知識よりは、新しい「見解」を見出すことを得意とする。(中略)この種の人の思考の深さ、ときにまったく独創的な体系として輝きを発するが、また、ひとによってはまったく伝達不能のひとりよがりに堕してしまうこともある」(河合 p51)

「「内向的思考型」だが、これは心の中に基準を持っていて、理想や理念、あるいは道徳律という形をとっている。自分の中に基準があるから、それに従って自分の行動をいろいろと律したり、学問を導き出したりするのである。その典型例がカントである。カントは、「自分の心の中にある道徳律、これこそがいちばんすばらしいんだ。これは神の与えてくれたものであって、これに従っていればいいんだ」と、とても分かりやすい言葉を残している。」(林)

【内向思考タイプのキーワード】
思考は主体の中で始まり主体に戻る、新しい見解、問題提起や理論、展望や洞察、新しい見方、本質、観念、思考の深さ、独創的な体系、ひとりよがり、心の中に基準、理想や理念

❻内向感情タイプ

「真の動機はほとんどの場合隠されたままとなる。外に対しては協調的な控え目な態度好ましい落ち着いた物腰共感的に相手に合わせる態度・を示し、他人にあれこれ命令や影響を与えたり、他人に働きかけて変えようとするところがまったくない。こうした外見が際立ってくると、無関心で冷たいという軽い疑いをかけられてしまい、さらにこの疑いはひととの幸不幸などどうでもよいと思っているのではというところまで増幅することもある」(ユング p419)

「あらゆる熱狂に対しても好意的中立の態度をとる。彼らは激情を卑しむ「静かな水」である。(中略)彼の感情は拡張的でなく集中的である。人知れず親切で親しみ深く、そのために目立たないままでいる。この型には個人的な献身を伴う善行者が含まれる。」(マイヤー p30)

「彼らには高度に分化した価値尺度があるが、それを表に出すことはない。自分の内部で影響を受けているのである。内向的感情タイプの活躍の場となるのは、表舞台ではないものの「これこそ本物だ」と、彼らの内向的感情が声を上げるような、意義深く重要な出来事が生じているところである。(中略)価値基準を定めることで一般にポジティブな影響を周囲に及ぼす」(フランツ p43)

「内向的感情型の人は「静かな水は深い」という言葉がいちばんぴったりであると、ユングはいう。外から見ると控え目で、不親切、無感動のように見られるひとが、深い同情や、細やかな感情をもっていることがわかり、ひとを驚かすときがある。 (中略)もし自分の感情を表現し、伝えられるグループがあると、そのなかでは暖かい親切なひととして、不変の友情を楽しむことができる」(河合 p53)

「「他人と対立することを恐れて、無感情を装っている」のが特徴で、近寄りがたく、不可解で、冷たいという印象を与えてしまうことも多い。表情をなるべく出さないようにしているから、あまり笑ったり怒ったりしない。まわりの人には「この人、何を考えているんだろう。何を感じて生きているんだろう」と思われることもあるが、深く付き合ってみると、すばらしい感情生活をもっていたり、深く感ずる能力をもっていたり、人の感情をよく理解していたりする。」(林)

【内向思考タイプのキーワード】
 協調的な控え目な態度、共感的に相手に合わせる態度、ポジティブな影響を周囲に及ぼす、「静かな水は深い」、外から見ると控え目で不親切無感動のよう、暖かい親切なひと、他人と対立することを恐れ、深く感ずる能力、人の感情をよく理解

❼内向感覚タイプ

「内向的感覚とは物質界の表面よりはむしろその背景を捉えるものである。これが決定的なものとして感じ取るのは客体の現実ではなく主観的要因の現実、すなわちその全体をもって鏡のように心を映し出してくれる根源的なイメージである」(ユング p392)

「内向的感覚タイプでは、外的対象に代わって主体的な感覚が関与する(主体要因)。こうして主体は、客体において自分自身を経験する。彼にとって、すべての力点がこの主体的反応におかれる。(中略)同じ対象をまったく違う芸術家、たとえば印象派、表現派、シュールレアリストに描かせれば、この事情をいっそう具合的に理解することができる」(マイヤー p43-44)

「内向的感覚タイプは、あたかも高感度の写真感光紙のようなものであるということだった。誰かが部屋に入るとすると、内向的感覚タイプは、入る様子や、髪型や顔の表情、服装や歩く所作に注意が行き届くのだ。こうした諸々は、内向的感覚タイプに正確無比に記銘される。どんな些細なことも取り入れられるのだ。印象は客体から主体に向かう。」(フランツ p52)

「皆が美しい花畑と見るものが、このひとには恐ろしい燃え上がる火に見え、小さい一つの目の中に、広い海の深淵をのぞいたりする。そして、これらのひとは、その見たものを適切に表現することがむずかしいので、そのままにしておいて、一般には他人に従って生きている場合が多い」(河合 p54)

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「内向的感覚型というのは、外から刺激を受けると、それを自分の中で勝手に作り替えるという特徴がある。たとえば背の高いビルがあれば、それを自分の中のイメージに合わせて作り替えて、「巨大な怪人が立っている」というふうに見てしまう。」(林)

【内向感覚タイプのキーワード】
 主観的要因の現実、主体的な感覚が関与、正確無比に記銘、些細なことも取り入れられる自分の中で勝手に作り替える

❼内向直観タイプ

「内向的な構えにおける直観は、無意識の諸要素と呼んでもよいような、内的客体に向けられている。すわなちこの内的客体は、たしかに物質的な現実ではなく心的な現実であるが、意識に対して外的客体とまったく同じような関係をもっているのである。内的客体は直観的知覚に対して事物の主観的イメージの形で現れるが、この主観的イメージは外的経験の中に見出されるものではなく、無意識の・結局は集合的無意識の・内容をなしている」(ユング p430)

「彼らは薄明の高みに住んで、将来の心像を予見している。その際彼らは、現実や伝統を容赦なく無視することができる。しばしば彼らは革命家、改革者、指導者である」(マイヤー p57)

「内向的直観タイプは、外向的直観タイプと同じく、未来を嗅ぎわけたり、まだ見ぬ未来の可能性をずばりと言い当てたり、虫の知らせを感じることができたりする。(中略)内向直観タイプは、集合的無意識でじわじわ進行している過程や、元型的に変化していることに気づきを得て、社会に伝達するとでも言えようか」(フランツ p61)

「自分の内界のなかに可能性を求めて、心像の世界を歩きまわっているひと」(河合 p54)

「内面のイメージがインスピレーションのように」(林)

「この種の人間は、豊かで活気に満ちた世界やそこからあふれ出て人をうっとりさせるような生気が、外界だけでなく内面にも存在するという事実の、生き証人である。(中略)こうした構えをもった人間はそれなりに文化の促進者であり、教育者である。彼らは自らの生き方を通して、口で語る以上のことを教えてくれる」(ユング p436)

【内向感覚タイプのキーワード】
 直観は、無意識の諸要素、心的な現実主観的イメージ将来の心像を予見現実や伝統を無視、未来の可能性虫の知らせ内界のなかに可能性を求めてインスピレーション口で語る以上のことを教えてくれる

最後に…。

 ユングは『タイプ論』(訳 林義道 みすず書房)の中で、8タイプの説明を終えた箇所で、「私は以上の説明によって、これらのタイプが《実際に》このままの純粋な形でしばしば姿を現すかのような印象を与えることがけっしてないようにと願っている」(p735)と書いています。また、説明してきた内容は「極端に際立たせて」(p735)ともいっています。

 つまり、「現実には、タイプの説明が当てはまることもあるかもしれなけれど、必ずしも、そうではない」ということです。それはそうですよね。 「一般的態度」(外向・内向)「心理機能」(感覚・直観・思考・感情)を、私たちは全部もっていて、それらが複雑にからみいながら、人の性格タイプはつくりあげていくわけですから…。

 人の性格は、とても複雑で豊かなものです。

まっつん
まっつん

 タイプの説明が「正しい、間違っている」「あっている、あっていない」「当てはまる、当てはまらない」といった「診断」すための知識としてではなく、互いを理解し尊重するための「心の羅針盤」として活用していきたいものですね。

 ユングの論は、今から100年近く前のものです。性格タイプに関する研究も進んでいます。いろいろな観点がありますので、ここで述べたことをきっかけに、人間理解の視野を広げていきましょう。

よりよい人間関係のイメージ・イラスト

 それでは最後に『タイプ論』でユングが意図したことの書かれた箇所を紹介して、本稿を終えます。

「この基礎的な著書において著者(ユング)意図しているのは、心の構造や機能のあり方には一定の諸タイプがあることを明らかにし、それによって自分自身のためにも仲間のためにも人間理解を深めることである」

『タイプ論』(訳 林義道 みすず書房)p6
※(ユング)は加筆

【参考文献】
『タイプ論』(訳 林義道 みすず書房)
『ユング心理学概説4 個性化の過程』(C.Aマイヤー 創元社)
『ユングのタイプ論―フォン・フランツによる劣等機能/ヒルマンによる感情機能』(F.フランツ、J.ヒルマン 創元社)
『ユング心理学入門』(河合隼雄 培風館)
『心のしくみを探る―ユング心理学入門〈2〉 』(林義道 PHP 電子書籍)

 

(文:松山 淳


【ユングのタイプ論 関連記事】


《MBTI受講者実績:1,546名》

 国際的性格検査MBTI®を使用しての自己分析セッションです。MBTI®は、世界三大心理学者のひとりC.Gユングの理論がベースになっており、世界の企業が人材育成のために導入しています。その人の「生まれ持った性格」を浮きぼりにするのが特徴です。自分本来の「強み」を知ることができ、心理学の理論をもとに自己理解を深めることができます。

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タイプ論 外向/内向 感覚/直観 思考/感情について(ユング心理学) https://www.earthship-c.com/jung-psychology/attitudes-mental-types/ Mon, 04 Dec 2023 23:55:00 +0000 https://www.earthship-c.com/?p=15250

 ユングのタイプ論(心理学的類型論)は、2つの「一般的態度」(外向・内向)と4つの「心理機能」(感覚・直観・思考・感情)から構成される。  ユングは4つの「心理機能」のうちのいずれかが、他に比べて優先的に使われる傾向があ ... ]]>

 ユングタイプ論(心理学的類型論)は、2つの「一般的態度」(外向・内向)と4つの「心理機能」(感覚・直観・思考・感情)から構成される。

 ユングは4つの「心理機能」のうちのいずれかが、他に比べて優先的に使われる傾向があるとした。最も優先される機能を「優越機能」(主機能)という。ユングは20年にわたる臨床経験と研究からタイプ論を生み出した。

 1921年、スイスで刊行された『心理学的類型(Psychplogical Types)』に詳細が述べられている。日本での訳本は、『タイプ論』(訳 林義道 みすず書房)と『心理学的類型』(訳 高橋義孝/森川俊夫 人文書院)の2つがある。

 タイプ論がどんな経緯で生まれてきたのかは、『タイプ論の目的と経緯』で述べた。本稿では、ユングの考え出した「一般的態度」「心理機能」について「心のメカニズム」という観点を軸に解説していく。

 まず、タイプ論が「心のメカニズム」であることを述べ、次に「一般的態度」(外向↔︎内向)について解説し、「そもそもタイプとは何か」に関して考察を深め、最後に「心理機能」(感覚・直観・思考・感情)について説明していく。

タイプ論は「心のメカニズム」のこと

 「性格タイプ」と聞くと、ついつい私たちは、「〇〇タイプはこんな人」「◯◯タイプでは、こうする」と、ある性格タイプから表に現れてくる「性格の特徴」に、とらわれがちです。

 ですが、ユングのタイプ論を理解しようとする時、「性格タイプの特徴」ではなく、「どんなパターンで心が働いているのか」という「心のメカニズム」の観点からから考えていくと理解が深まります。「心のメカニズム」という視点をキープして説明を進めていきます。

 ユングも「内向と外向はけっして性格ではなくメカニズムなのであり、そのメカニズムはいわば任意のスイッチを入れたり切ったりできるものである」と『タイプ論』(みすず書房p549)で書いています。

『タイプ論』(みすず書房)
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 もちろん、ユングは『タイプ論』(みすず書房)の中で、「性格の特徴」を説明しています。その具体例もあげています。では「性格の特徴」にとらわれることの何がいけないでしょう。2つ理由があります。

 ひとつ目の理由は、タイプに関する「性格の特徴」を読んで分かったつもりになると、人間への理解が浅いままに終わってしまうからです。人の性格はとても複雑で奥深いものであり、1冊の本で説明しきれるようなものではありません。

 ふたつ目の理由は、性格タイプの知識で人を決めつけ、人の可能性を奪う危険があるからです。「あの人は◯◯タイプだから、できないんだよ」といった「決めつけ」は、人の心を傷つけ、未来の可能性を小さなものにしてしまいます。

 それでは、ひとつ目の理由から、もう少し詳しく説明していきます。

人の性格は言葉では説明しきれないほど複雑

 あるタイプの人がどんな態度をとり、どんな行動を実際にとるのかは、個人よってかなり差があります。

まっつん
まっつん

 例えば、同じ「◯◯タイプ」の人が、10人集まっている場面を想像してみてください。

 まず顔や体格が違うでしょう。声の高さ低さも、どんな風に話すかも、きっと違います。性格的に明るそうな人もいれば、暗そうな人もいるでしょう。「優しそうだな」と思える人もいれば、「この人、きつそうだな」と感じられる人もいるでしょう。よくしゃべる人も、あまりしゃべらない人も…。

 人の性格は複雑です。「〇〇タイプは、〜な特徴をもっている」という記述は、あくまでも「ある傾向」をいっている過ぎません。「必ずそうだ」というわけではないのです。

 ですので、「タイプの特徴」の説明は、あくまでその性格タイプの一側面を表しているだけに過ぎません。そのまま「そのタイプの人は誰もがそうだ」と断定的に受け取ってしまうと、複雑な人間の性格をあまりにも単純化してとらえてしうことになり、人間理解が浅いものになります。

まっつん
まっつん

タイプ論とは、その人の性格に関する「ある傾向」ことですので、「タイプの特徴」に関する説明には、過度にとらわれないようにしましょう。

タイプで人を決めつけない

 「あの人には無理よ、だって〇〇タイプだもん」

 そんな風に、「性格タイプの特徴」に関する知識が増えてくると、ついつい「決めつけ」をしがちです。能力と性格タイプを結びつけた「決めつけ」は、タイプ論の誤った理解のしかたです。「できないかもしれないし、できるかもしれない」。それが人というものです。

「このタイプの人は、確かによくこうするけど、いつでもそうするとは限らない」

 そんな「断定しない姿勢」が、タイプ論を理解する時には求められます。「決めつけない」ということです。「決めつけない」ことがタイプ論への理解を深めますし、人の可能性を尊重することになります。

 ユングも『タイプ論』(みすず書房)の「序論」で、性格の複雑さと難しさについて述べています。

ユング画像
心理学者C.Gユング
(Carl Gustav Jung)
ユングの言葉

「ある人がどのタイプに入っているのかを明らかにすることはしばしばきわめてむずかしく、それが自分自身のことになるととくにむずかしいのである」

「人間の心理反応はきわめて複雑であるから、私の説明能力をもってしては、それを見事に描ききることなどとうてい及びつかないことであろう。やむえず私は、観察されたたくさんの事例から抽出したいくつかの原理を説明するにとどめざるをえない」

『タイプ論』(訳 林義道 みすず書房)p10-11

 タイプ論を作り上げたユングでも、「人の性格は複雑で、タイプを明らかにすることは難しい」といっています。この観点は、人間の性格タイプを理解していく時に、決して忘れたくないものですね。

ユングも性格特徴の記述に関して謙虚だった

 さて、上のユングの文章に「原理」とあります。「原理」「 事物・事象が依拠する根本法則。基本法則」(デジタル大辞泉小学館)のことです。

まっつん
まっつん

 ユングは「人の性格はあまりに複雑なので、その基本法則の説明にとどめて」いました。世界三大心理学者のひとりユングでも、「性格の特徴」に関する説明に、謙虚な姿勢を見せていたのです。

 それほど人の性格とは奥深く、なかなかわからないものです。このユングの謙虚さを知っておくことで、「性格タイプの特徴」に過度にとらわれず、「あの人には無理よ、だって〇〇タイプだもん」といった、性格タイプの知識で簡単に人を「決めつける過ち」から遠ざかることができます。

 さて、話を最初に戻しましょう。いいたかったことは、「性格タイプの特徴」ばかりに目を奪われることなく、「どんなパターンで心が働いているのか」という「心のメカニズム」の視点を忘れないでおくことでした。

 それでは、ユングの考えた「心のメカニズム」である、2つの「一般的態度」と4つの「心理機能」へと話を進めていきましょう。

ユングのタイプ論〈全体像〉

 まずユングのタイプ論でいわれる「一般的態度」「心の機能」と、その組み合わせから考え出された「8つのタイプ」について、全体像を把握しておきます。下の表がそれです。

一般的態度
外向内向
心理
機能
非合理
機能
知覚
機能
感覚外向
感覚
内向
感覚
直観外向
直観
内向
直観
合理
機能
判断
機能
思考外向
思考
内向
思考
感情外向
感情
内向
感情

 「一般的態度」として「外向↔︎内向」の2つがあります。
 「心理機能」として「感覚↔直観」「思考↔感情」の4つがあります。

 「感覚↔直観」知覚機能であり非合理機能となります。
 「思考↔感情」は、判断機能であり合理機能となります。

一般的態度〉内向↔外向
〈心理機能〉
 :感覚↔直観(知覚機能/非合理機能)
 :思考↔感情(判断機能/合理機能)

 それでは、まず「一般的態度」である「内向・外向」から説明してきます。

〈一般的態度〉外向↔︎内向について

一般的態度とは何か?

 「外向・内向」の考え方は、「一般的態度」という言葉でくくられています。この「一般的態度」について、ユングは次のように書いています。『心理学的類型Ⅱ』(人文書院)の翻訳がわかりやすいので、そちらから引用します。

『心理学的類型Ⅱ』(人文書院)
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ユングの論

「私は関心の方向、すなわちリビドー運動の方向によって区別される前者を一般的態度類型と呼び、後者をそれに対して機能類型と呼びたい。」

『心理学的類型Ⅱ』(人文書院)p72

 上の文にある通り、ユングのいう「一般的態度」とは、「関心の方向」であり「リビドー運動の方向」を意味します。「リビドー」とは、「心のエネルギー」のことです。

 「機能類型」とは、4つの心理機能(感覚↔直観、思考↔感情)のことです。

 つまり「一般的態度」とは「関心の方向」「心のエネルギーの方向」についての考え方となります。

「外向・内向」とは

 例えば、あなたが仕事(勉強)をしていて、机の上にあるスマホに、ふと「関心が向いた」とします。あなたのリビドー(心のエネルギー)は、スマホに向けられたのです。スマホは、自分の「外の世界」にありますので、その時あなたは「外向」したことになります。

 スマホを手にしたあなたは、アルバムのアプリを開き、写真をながめ始めました。ある1枚の写真を目にした瞬間に、昔のことが鮮明に思い出されてきました。目を閉じ、思い出にひたります。あなたは思い出の世界で、昔の仲間と語りあい楽しく笑っています。次から次に、昔の様々な場面が思い出されてきました。

まっつん
まっつん

 あなたの「関心」は、「思い出」という自分の「内の世界」に向いています。次から次に思い出が展開されるのは、「心のエネルギー」が「思い出の世界」に向けて流れ続けるからです。この時「関心」「内の世界」に向いているので、これが「内向」です。

 ユングは『タイプ論』(みすず書房)のなかで、タイプ論に関連する概念を「定義」する章を設けて、多くのページを割いています。その「定義」の章にある「外向↔︎内向」の説明を引用します。

ユングの論

【外向】
外向とはリビドーが外へ向かうことを意味する。私はこの概念によって主体が公然と客体に関係していること・すなわち主体の関心が積極的に客体に向けられている状態・を表す」(p461)

【内向】
内向とはリビドーが内へ向かうことである。これは主体が客体に対して消極的な関係を持っていること表わしている。関心が客体に向かわずに、客体から主体に引き戻されるのである」(p475)

『タイプ論』(訳 林義道 みすず書房)

 「主体」「客体」というと、なんだかわかりにくくなりますね。「主体」とは、私(自分)のことです。「客体」とは、自分の「外の世界」にあるヒト・モノ・コト(他人・物・出来事など)と考えてみてください。

 先ほどの例でいえば、スマホが「客体」です。ふとスマホ(客体)に関心が向いたのですから、リビドー(心のエネルギー )が「外へ向かう」ことになったので、これが「外向」です。

内向と外向のイメージ写真

 そして、スマホの「写真」(客体)を見て、「思い出」という「内の世界」にひたり始めました。「客体」(写真)から「主体」(私/自分)に引き戻されて、リビドー(心のエネルギー)が「内へ向かう」ことになったので、これが「内向」です。

「外向・内向」のイメージ図

 ユングと30年以上、共に研究を重ねた女性にマリー=ルイズ・フォン・フランツ(Marie-Louise von Franz 1915-1998)がいます。フランツはユングのタイプ論に関する論を発表していて、日本では『ユングのタイプ論―フォン・フランツによる劣等機能/ヒルマンによる感情機能』(創元社)で読むことができます。

『ユングのタイプ論』(著者 フォンフランツ 創元社)
『ユングのタイプ論』(創元社)
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 この著でフランツは図を使い、「外向↔︎内向」の態度の違いを次のように表現しています。

外向内向のイメージ図
『ユングのタイプ論』(創元社)p11掲載図1を参考に作成
(主体)(客体)は追記

 上の図の矢印が、ユングのいう「関心」「リビドー」(心のエネルギー)の方向です。外向タイプは、主体よりも外の世界に存在する「客体」に関心が向く傾向があります。反対に、内向タイプは、客体より主体(自我=私)に関心が向く傾向があります。

 「内向↔︎外向」とは、「関心」「リビドー」(心のエネルギー)の方向性の違いであることを、ここでおさえておきましょう。

そもそも「タイプ」とは何か?

 さて、「内向タイプ」「外向タイプ」という「タイプの違い」が出てきました。ここで「4機能」(感覚・直観・思考・感情」の説明に入る前に、ちょっと寄り道をして、「そもそもタイプとは何なのか?」について考えていきます。

 まず、「内向↔︎外向」に関して、前段であげたユングの言葉に文章を追加して紹介します。

ユングの論

「内向と外向はけっして性格ではなくメカニズムなのであり、そのメカニズムはいわば任意のスイッチを入れたり切ったりできるものである。このメカニズムが習慣的に支配することによってのみ、それに対応した性格が発達する。たしかに偏りはある種の先天的素質に基づいているが、その素質はいつも絶対に決定的なものとは限らないのである。」

『タイプ論』(訳 林義道 みすず書房p308

 ユングのタイプ論を理解しようとする時、「素質はいつも絶対に決定的なものとは限らない」のですから、なおさら「心のメカニズム」という視点が大切になりますね。

タイプとは「心の習慣」のこと

 さて、上の文章で大切なのは、「メカニズムが習慣的に支配することによってのみ、それに対応した性格が発達する」です。ここでいう「習慣的に支配され発達している性格」が、ユングのいう「心理学的タイプ(類型)」を意味します。

 「習慣」とは、「長い間繰り返し行ううちに、そうするのがきまりのようになったこと」(デジタル大辞泉 小学館)ですね。

 ですので、ユングのいう「心理学的タイプ(類型)」とは、「内向↔︎外向 / 感覚↔︎直観 / 思考↔︎感情」の対となる「心のメカニズム」のうち、どちらかを優先して繰り返し使っていて「そうするのがきまりのようになっている心のパターン」のことです。

 そこで、「外向タイプ」「内向タイプ」の説明を次のようにできます。

 「内向」よりも「外向」を「きまりのように」(習慣的に)使っている人は、「外向タイプ」
 「外向」よりも「内向」を「きまりのように」(習慣的に)使っている人は、「内向タイプ」

 「心理学的タイプ(類型)」とは、その人の慣れている「心のパターン」のことであり、「心の習慣」といういい方もできますね。

人は外向もすれば内向もする

 ここで忘れてならないのは、「内向↔︎外向」という対になっている「心の態度」を、人は両方とも使っているという点です。

まっつん
まっつん

 浅い理解になってしまうと、外向タイプの人は「いつでも外向」していて、内向タイプの人は「いつでも内向」していると、誤ってとらえてしまうことがあります。

 そんなことはありませんね。外向タイプの人も「内向」することはありますし、反対に、内向タイプの人も「外向」することはあります。ユングは、「対となる心のメカニズムを人は両方とも使う」ことついて、こう述べています。

ユングの論

「自然のなりゆきとして、一方のメカニズムが優位に立つことになる。そして何らかの事情でこの状態が慢性化すると、そこからタイプが、すなわち習慣となった構え(態度)が生まれるのである。そうなると一方のメカニズムが持続的に支配することになるが、そうかといって他方のメカニズム完全に押さえつけることはできない。(中略)あるタイプの構え(態度)とはつねに一方のメカニズムの相対的な優位を意味しているにすぎない

『タイプ論』(訳 林義道 みすず書房)p13
※上の文で構え(態度)としています。『タイプ論』(みすず書房)では「一般的態度」の「態度」の部分の訳が「構え」となっています。本稿では「態度」の訳を選んでいるので、(態度)を追記しています。

 「外向」が他方のメカニズムである「内向」を押さえつけて、100%外向するだけのタイプ(人)になることはありません。「内向」が「外向」のメカニズムを完全に押さえつけることもありえません。

あるタイプの構え(態度)とはつねに一方のメカニズムの相対的な優位を意味しているにすぎない」。

 上の文は、この後の「心理機能」(感覚↔︎直観 / 思考↔︎感情)の説明にも当てはまってきます。「相対的に優位」とは、2つを比較した時に、どちらかが優位になっているということです。

 「内向↔︎外向 / 感覚↔︎直観 / 思考↔︎感情」の対になっている「態度/機能」のどちらかを、人はより優位に使っています。優位になることが「心の習慣」になっていて、それが、その人の「性格」をつくりあげていきます。

 そこで、自分のタイプはどれなんだろうと考えていく時には、「対」となっている「態度/機能」の「いつも、どちらを優位に使っているかな?」「日常生活の中で、どちらを習慣のように優先的に使っているだろう?」と、自問自答してみるとよいでしょう。

 ユングの共同研究者であるフランツ博士は、さらにわかりやすく、こうアドバイスしてくれています。

『ユングのタイプ論』(著者 フォンフランツ 創元社)
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 自分のタイプが何かを知りたければ、何が最も重大であるかと考えるよりもむしろ、「私がいつも当たり前のようにしているのはどのようなことだろうか」と自分に問うてみることである。

『ユングのタイプ論―フォン・フランツによる劣等機能/ヒルマンによる感情機能』(フォン・フランツ、J・ヒルマン 創元社)p34

 「当たり前のようにしている」とは、その「心のメカニズム」(態度/機能)が、相対的に優位に働き、習慣的になっていることです。

 外向と内向で、どっちが今の自分にとって「重大か?」「必要か?」と考えるのではなくて、日頃から「当たり前のようにしている」のが「内向なのか?」「外向なのか?」と考えてみるのです。

 フランツの言葉をかりれば、「当たり前のようにしている」ことの中に、その人の「タイプが現れている」といえます。つまり、そもそもユングのいう「心理学的タイプ」とは、あなたが「当たり前のようにしている心のメカニズム」ともいえますね。

 それでは、「そもそもタイプとは何か?」の寄り道を終えまして、本線に戻り、次から、ユングの考えた「心理機能」(感覚↔︎直観 / 思考↔︎感情)について述べていきます。

〈心理機能〉 感覚↔︎直観 / 思考↔︎感情について

4つの心理機能

 4つの心理機能(感覚↔︎直観 / 思考↔︎感情)の説明を始めるにあたって、まず、ユングが、4つの心理機能をコンパクトに述べている文が『タイプ論』(みすず書房)にあるので、ご紹介します。わかりやすくするため、部分的に箇条書きのかたちをとります。

ユングの論

基本機能として、感覚・思考・感情・直観を挙げることができる。私は

感覚という概念の中に感覚器官にするすべての知覚を含めたい。また、
思考は知的認識と論理的推論の機能、
感情は主観的な価値判断の機能、
直観は無意識的過程の知覚ないし無意識内容の知覚を指すもの

と理解する。

『タイプ論』(訳 林義道 みすず書房)p551

 以上が「心理機能」についてのユングの説明です。

〈心理機能〉
 :感覚↔︎直観(知覚機能/非合理機能)
 :思考↔︎感情(判断機能/合理機能)

 さて、ユングは上にある通り、感覚↔︎直観「知覚機能」かつ「非合理機能」としました。思考↔︎感情「判断機能」でかつ「合理機能」としました。ところで、この「知覚」「判断」「合理」「非合理」とは何を意味しているのでしょう。

「知覚機能ー非合理機能」「判断機能ー合理機能」とは

 「知覚機能」とは、「知覚する心の機能」ですから、「情報を取り入れる心の働き」です。人は五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)を使ったり、ある可能性がふとひらめいたり・イメージが浮かんだりして、情報を取り入れることができます。

 五感による情報を取り入れは「感覚機能」の主な働きです。ある可能性に関しての「ひらめき・イメージ」による情報の取り入れは「直観機能」の役割です。

 この知覚機能をユングは「非合理機能」としました。では、ユングは何をもってして「非合理」と「合理」とを分けているのでしょかうか。

 その答えは「理性」です。合理的か非合理的かの判断基準を、ユングは「理性」を軸にしています。

 『心理学的類型Ⅱ』(人文書院)にて、ユングはこう述べています。

ユングの論

合理的なものとは理性的なものであり、理性にかなっているものである」(p220)
理性の法則とは、平均的で「正しい」態度、適応した態度を特徴づけるとともにこれを規制する法則である。これらの法則と合致するすべては合理的であり、これらの法則と一致しないすべては非合理的である」(p221)

『心理学的類型Ⅱ』(人文書院)

合理的か非合理的かは理性が基準

 判断機能とは、まさに漢字の通りで、知覚機能を使って取り入れた情報をもとにして「判断する心の働き」です。この判断は、その人の「理性の法則」に基づいて行われて、その人にとっての「平均的で正しい、ふさわしい態度」をもたらします。

 感情機能は、自分の価値に基づく主観的な判断であり、思考機能は、論理的で客観的な判断です。「思考↔︎感情」機能を使って何かを判断する際に、人は「熟慮」することがあるので、ユングは「思考↔︎感情」を「合理機能」だとします。

まっつん
まっつん

「熟慮」とは、よく考えをめぐらせることですね。「よく考えること」は理性的な行いです。理性的とは合理的なのことです。ゆえにユングは「思考↔︎感情」機能を「合理機能」とするのです。

 これに対して、情報を取り入れる「感覚↔︎直観」機能に「理性」は求められません。

 目で何かを見たり(感覚)、何かがパッと突然ひらめたり(直観)するのに、「よく考える」必要はありません。「五感」「ひらめき」による情報の取り入れは、「理性の法則」という枠組みの外側で行われる心の働き(機能)です。そこでユングは、「感覚↔︎直観」を「非合理機能」としたわけです。

心理機能は、「理性」を基準にして、合理機能と非合理機能にわけられます。

ユングの心理機能の説明

 さて、最初にあげた心理機能に関する説明は、やや言葉がかたくて、わかりにくさがあります。もう少し、やさしく説明しているのが、次の2つの文です。

ユングの論

感覚は現実に存在するものを確認する。
思考は存在するものが意味することを認識できるようにしてくれるし、
感情はそれがいかなる価値をもっているかを、そして最後に
直観は今そこに存在するものに潜んでいる、どこから来て今後どなるのかという可能性を示してくれる(p576)


感覚活動は基本的に何かが存在することを、
思考はそれが何を意味するか、
感情はそれにいかなる価値があるかを確認し、そして、
直観はそれがどこから来てどこへ行くのかを予想し予感する。(p588)

『タイプ論』(訳 林義道 みすず書房)

 いかがでしょう。4つの心理機能について3つのユングの文章を紹介しました。

 次に、4つの心理機能をひとつひとつ整理していきます。具体例があるとわかりやすいので、具体例をあげて説明していきます。

感覚↔︎直観 / 思考↔︎感情の具体例

ユングは弟子たちに4つの心理機能をこう説明した

 ユングの側近と呼ばれ、ユングがとても信頼していた存在にC.Aマイヤー(Carl Alfred Meier 1905 – 1995)がいます。マイヤーの著『ユング心理学概説-3 意識』(創元社)に、心理機能の具体例をみつけました。

『ユング心理学概説3 意識』の表紙画像
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 マイヤーいわく、4つの心理機能について「ユングはこれを、時折とても楽しんで、次のように説明していた」(p139)そうです。

現前の対象について、
感覚は、たとえば次ようなデータを伝える。それは赤い、輝いている、キラキラ光る、匂う、決まった形がある。
思考は、この対象を、赤ワインを満たしたグラスだ、と認識させる
感情は、この組み合わせを喜ばしいものとし、あるいは禁酒家の場合は嫌まわしい「毒」とする。
直観は、それに、それが1967年物のポンマールで主人役の友人XYのクリスマスプレゼントかもしれぬ、と思わせる。

『ユング心理学概説3 意識』(創元社)p139

赤いワインのイメージ写真

 ここから4つの心理機能にについて、ユングとマイヤーの言葉を参考にしながら、まとめていきます。

 読み進むにあたって、ここから書いてあることは、「ユングが説明したことの『全て』ではなく、あくまで『一部』を取り上げているに過ぎない」という点を、ぜひ、心にとめておいてください。

 それでは、マイヤーの具体例にそって感覚→思考→感情→直観の順番で説明していきます。

感覚機能(それがどんなぐあいか)

 ユングは感覚機能について「感覚とは何よりもまず五感による感覚、すなわち感覚器官や「身体感覚」(運動感覚や脈拍感覚など)による知覚である」(『タイプ論』創元社 p458)と書いています。

 グラスに赤ワインが注がれていて「赤い、輝いている、キラキラ光る」は目で見た視覚情報であり、赤ワインのかぐわしい「匂い」がしたら嗅覚情報です。この赤ワインを実際に飲んでみて、どんな味かを感じるのは味覚ですね。

まっつん
まっつん

 どっしりとした重めのワインか、さらっとしたライトな味わないなのか、舌でワインを味わい、その時、「どんな味か?」に関する情報をえたら、これが五感による感覚機能の働きです。

 感覚機能とは、五感や身体感覚を使って情報を取り入れる心の働き(機能)です。

 さて、つづいて思考機能です。

思考機能(それが何であるか)

 ユングは思考を「知的認識と論理的推論の機能」(p551)とし「存在するものが意味することを認識できるようにしてくれる」(p576)と書いていました。

「意味」は、「沈黙は賛成を意味する」のように、「表現・行為が、ある内容を示すこと」(デジタル大辞泉 小学館)となり、「内容」を表す言葉にもなります。つまり、「それがどんな内容なのか」「それがそもそも何であるか」の問いに、知的・論理的な推論を通して筋道の通った判断をもたらすのが思考機能です。

 赤ワインの満たされたグラスを見て、その人のもっている知識を基準にして、確かに「赤ワインを満たしたグラスだ」と認識をしたら、「それがそもそも何であるか」を分析し、論理的に正しい結論を出したことになります。

 

『心のしくみを探る』(PHP)の表紙画像
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 『タイプ論』(みすず書房)を翻訳した、林義道は『心のしくみを探るユング心理学入門II』(PHP)の中で、思考機能をシンプルに、こう定義しています。

「このことは論理的に見て正しいか正しくないか」という判断をする機能である。合理的に見て首尾一貫しているかどうかということを判断する」

『心のしくみを探るユング心理学入門II』(PHP)

 この説明はわかりすいですね。では、つづいて感情機能です。

感情機能(それは私にとってどうであるか)

 ユングは感情機能を「その内容に対して受け容れるか拒むか(「快」か「不快」か)という意味で、一定の価値を付与する活動である。」(『タイプ論』創元社 p462)と書いています。

まっつん
まっつん

 「感情機能」は、その人に価値を与える心の活動(働き)であり、「それにいかなる価値があるか」「それは私にとってどうであるか」を判断する心の働きです。

 よく誤解されているのが、「感情的に判断することが、ユングのタイプ論でいう感情機能だ」という見方です。これは違います。

 感情機能とは、喜怒哀楽などの「情緒」を使って感情的になって判断する「心の働き」ではありません。

 ですので「感情タイプは、すぐ感情的になる人」でもありませんので、注意していきましょう。

 受け入れるのか、受け入れないのか。「快」か「不快」か。人の価値観・思いに基づいて判断する「心のメカニズム」を、ユングは「感情機能」としたのです。

 「酒は百薬の長である」「酒は人生を華やかにする」と、お酒を肯定的に「受け入れる」価値観を持っている人であれば、ワインは「喜ばしいもの」として「受け入れる」判断になるでしょう。

 しかし、「酒は人生を狂わす」「酒は百害あって一利なし」と、お酒を頭から否定し、まったく「受け入れない」価値観の禁酒家であれば、グラスに注がれた赤ワインは「嫌まわしい毒」と判断されてしまうでしょう。

 価値観に基づく判断は、本人にとって「理性」の枠組みで行われるので、ユングは感情機能を合理機能としたのです。

『ユングのタイプ論』(著者 フォンフランツ 創元社)
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 ユング研究所で主任を務めたこともあるユング派J・ヒルマン(James Hillman 1926-2011)は、『ユングのタイプ論』(創元社)の中で、感情機能について、次のように書いています。

 原始的な水準の感情機能は、主にイエスとノー、好きか嫌いか、受容か拒否かの反応をする。(中略)こうした価値体系とそれによる判断は、論理的ではないが、合理的ではある。

『ユングのタイプ論―フォン・フランツによる劣等機能/ヒルマンによる感情機能』(フォン・フランツ、J・ヒルマン 創元社)p155

 感情機能が合理機能と呼ばれることに、どうしても違和感がある場合、ヒルマンの「論理的ではないが、合理的ではある」の言葉で、腹落ちするかもしれません。

 思考機能は、論理的な「心のメカニズム」です。感情機能は、価値・思いに基づく「判断」の「心のメカニズム」です。喜怒哀楽に任せて感情的に判断する機能ではないので、その点を誤解しないようにしましょう。

 それでは最後に、直観機能です。

直観機能(それはどうありうるか)

 ユングは「直観は主として無意識的な過程である」(『タイプ論』p394)とし「直観はより大きな可能性を捉えようとする、なぜなら予感が最もうまく働くのは、まさに可能性の直覚によるからである」(p395)と書いています。

 直感機能は、知覚機能です。情報を取り入れる心の働きです。

まっつん
まっつん

「それはどうありうるか」「それはどうなりうるのか」。さまざまな可能性を洞察して、情報を取りれてくるのが、直感機能の働きのひとつです。

 ここでポイントとなるのが、「直観」という漢字です。「直感」(inspiration)ではなく「直観」(intuition)です。

 「直感」(inspiration)は、いわゆる「ひらめき」「勘」と呼ばれるもので、感覚的に瞬時に結論に至ることです。
 「直観」(intuition)は、考える過程をはぶいて、ものごとの本質を見抜いたり、見通したりすることです。「洞察」が類似語です。

 つまり、ユングの定義する「直観機能」は、「単なる直感(inspiration)だけではない」と…、それがここで言いたいことです。

直観機能のイメージ・イラスト

 ただ、「直観」が働き、何かを見抜いたり見通したりして「わかったー!」と答えが出る時の感じ、あるいは、「きっとこうなるに違いない」と、未来の可能性を「予感」する時の感じは、私たちが一般的にいう「ひらめき」「勘」と重なるものがあります。

 ですので、ユングの「直観機能」は、「直感」を含めての「心のメカニズム」だと理解するとわかりやすいでしょう。

 マイヤーズの「直観」の例では、「それが1967年物のポンマールで主人役の友人XYのクリスマスプレゼントかもしれぬ、と思わせる」と、ありました。

 本に「ポンマール」と確かに書かれてあるのですが、これは「ポマール」のことでしょう。「ポマール」は、フランスにあるワインの産地として有名な地域です。

赤ワインのイメージ写真

 赤ワインの注がれたグラスを見て、これは「1967年物のポマール」「友人XYのクリスマスプレゼントかもしれぬ」と「思わせる」のが直観機能の働きです。

まっつん
まっつん

 でもよく考えたら、実際には「ポマール産のワイン」でも「クリスマスプレゼント」ではないかもしれません。他の人は、「1970年物のボルドーで、誕生日プレゼント」と、思いつくかもするかもしれません。

 直感機能は、このワインは「どうありうるか」という「可能性」を知覚していきます。ユングは、「直観はつねに外的生活からの出口と新しい可能性を追い求めている」(『タイプ論』p396)と書いています。 

 さまざまな可能性をとらえていこうとするのがユングのいう「直観」という「心のメカニズム」です。

 また、直観機能の働きについて、ユングはこうもいいます。

「直観は主として無意識的な過程であるため、その本質を意識的に理解することはきわめてむずかしい」(『タイプ論』p394)

 「そうか!これは、そういうことだったのか!」

 そんな風に、何かを見抜いた時、何かがわかった時…、「どうしてそう思うの?」と質問されて、「だって、そう思うから、そう思うんだよ」と、言葉を返したことがないでしょうか。「そう思うから、そう思うんだよ」としか答えようがない…。これが非合理的ということです。

 知覚機能は非合理機能でしたね。非合理的な直観による知覚プロセスを、意識的に理解することは、とてもむずかしいのです。直観の働きは、「なぜそうひらめくのか」について説明しようがありません。説明しようとすると、無理に後から言葉を付け加えている感じがします。

 「なぜか、わからないんだけど、わかった!」

 空から降ってくるかのように、内なる世界から湧き出てくるかのように、非合理的に情報の取り入れられてくるのが、「直観機能」というものです。

心理機能の河合隼雄の例

ユングの論

基本機能として、感覚・思考・感情・直観を挙げることができる。私は

感覚という概念の中に感覚器官にするすべての知覚を含めたい。また、
思考は知的認識と論理的推論の機能、
感情は主観的な価値判断の機能、
直観は無意識的過程の知覚ないし無意識内容の知覚を指すもの

と理解する。

『タイプ論』(訳 林義道 みすず書房)p551

 さて、4つの心理機能について説明してきました。説明に入る前に書いた通り、以上は、ユングの説明の「一部」であることを忘れないでくださいね。

『ユング心理学入門』(河合隼雄 培風館)の表紙画像
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 では、最後に、ユング派河合隼雄の4つの心理機能の例がありますので、そちらを紹介して本稿を終えます。

ひとつの灰皿を見ても、
これが瀬戸物という部類に属すること、そして、その属性のわれやすさなどについて考える思考機能
その灰皿が感じがいいとか悪いとかを決める感情機能
その灰皿の形や色などを適確に把握する感覚機能
あるいは灰皿を見たとたん、幾何の縁に関する問題の解答を思いつくような、そのものの属性を超えた可能性をもたらす直観機能

これらはおのおの独立の機能であって、ある個人が、これらのうちのどれかに頼ることが多い場合、それぞれ、思考型とか感情型とかであると考える。

『ユング心理学入門』(河合隼雄 培風館)p47-48

最後に…。

 本稿では、2つの「一般的態度」(外向・内向)と4つの「心理機能」(感覚・直観・思考・感情)について説明してきました。「◯◯タイプの人の特徴」に関することは控えて、「心のメカニズム」に焦点をあわせて書いてきました。これら「心のメカニズム」から生まれる「8つのタイプ」については、次のコラムで述べています。

 ユング心理学の基本的な知識なしに、原書『タイプ論』(みすず書房)をいきなり読むと、挫折する可能性が高いです。専門家でなければ、『ユング心理学入門』(河合隼雄 培風館)にある知識で十分だと思います。

 河合先生は、とてもわかりやすい文章を書く人として有名です。日本人の読者を前提に書いていますので、原書に比べたら、圧倒的にわかりやすいです。

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 ユングが書いた『心理学的類型(Psychplogical Types)』は抽象度が高く、具体例が少なく理解するのに、とても骨が折れます。また、ユングは医師(精神科医)として「病」と関連させながら論を進めていくので、「性格タイプ」の話題ではありますが、やはり専門家向けです。

まっつん
まっつん

 最後に…、「あの人は◯◯タイプだから、無理だよ」といった、タイプの知識を使っての「決めつけ」は、くれぐれもしないようにしましょう。人の可能性はとても豊かなものなのですから…。

 

(文:松山 淳


【ユングのタイプ論 関連記事】


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タイプ論の目的と経緯(ユング心理学) https://www.earthship-c.com/jung-psychology/psychological-types-purpose-background/ Tue, 28 Nov 2023 23:38:00 +0000 https://www.earthship-c.com/?p=15132

 ユングは20年にわたる臨床経験と研究からタイプ論を生み出した。1921年、スイスで刊行された『心理学的類型(Psychplogical Type)』に詳細が述べられている。  ユングがタイプ論を生み出した目的は、「自己 ... ]]>

 ユングは20年にわたる臨床経験と研究からタイプ論を生み出した。1921年、スイスで刊行された『心理学的類型(Psychplogical Type)』に詳細が述べられている。

 ユングがタイプ論を生み出した目的は、「自己理解・他者理解・人間理解」を深め「よりよい人間関係」を育んでいくためである。また、そのための「心の羅針盤」(Compass)となる知識を、一般の人に提供することである。人をタイプに分類することが、タイプ論の目的ではない。

 『心理学的類型(Psychological Type)』は、日本において2つの訳本がある。『タイプ論』(訳 林義道 みすず書房)と『心理学的類型』(訳 高橋義孝/森川俊夫 人文書院)である。

 現在、ユングのタイプ論をもとにしたアセスメントツールが開発され、それに多くの人がふれている。ただ、ユングが、どういった経緯で、どんな目的で、タイプ論を生み出したのかは、あまり知られていない。そこで、タイプ論の「目的」とその「経緯」について、本稿では解説していく。

ユングのタイプ論は性格タイプを分類するために生まれたのではない

 『タイプ論』(訳 林義道 みすず書房)に、ユングの「まえがき」があります。ユングは「専門医師たちの経験を狭い専門分野から広い世界を持ち出して、教養ある素人が専門分野の経験を利用できるようにしたい」(p5)と書いています。

『タイプ論』(みすず書房)
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 ユングの願いは、一般の人々でもタイプ論の知識を活用できるようになることでした。「編者序言」のページでは、「タイプ論」の意図が明確に述べられています。

「この基礎的な著書において著者(ユング)意図しているのは、心の構造や機能のあり方には一定の諸タイプがあることを明らかにし、それによって自分自身のためにも仲間のためにも人間理解を深めることである」

『タイプ論』(訳 林義道 みすず書房)p6
※(ユング)は加筆

タイプ論の知識は「心の羅針盤」

「自分自身のためにも仲間のためにも人間理解を深めること

まっつん
まっつん

これが、ユングの意図といっていますね。「意図」とは、「おもわく、めざすこと」です。ですので、タイプの知識を通して、自分を理解し、他者のことも理解し、人間理解を深めることが「ユングのめざしたこと」です。

 ところが、どうでしょう。タイプ論と聞くと、「じゃあ私は◯◯タイプ」「あの人は◯◯タイプじゃない?」と、タイプを「決める」ことに意識が向きがちです。

Aさん
Aさん

「私は◯◯タイプで、あなたは〇〇タイプね、あの人は〇〇タイプじゃない?」

 この考え方だと、タイプの「決定」が目的になっています。ユングが意図したことは、そうではありません。タイプを「決める」ことは「目的」ではなく、人間理解を深める「手段」に過ぎないのです。

 タイプ論のゴールとは、「自己理解・他者理解・人間理解」を深め「よりよい人間関係」を育んでいくことです。そのゴールにたどりつくための「心の羅針盤」(Compass)となるものが、タイプ論の知識です。

 ユングは、論文『心理学的タイプ論』(『南ドイツ月報』1936年2月号に初出)で、タイプ論の目的を、こう書いています。

ユング画像
心理学者C.Gユング
(Carl Gustav Jung)
ユングの論

「心理的タイプ論は、人間をいくつかの範疇に分けるという、それ自体としてたいして意味のないことを目的とするものではなく、むしろ心的経験素材を方法論をもって研究し整理できるようにしてくれる批判的な心理学を意味する」

『タイプ論』(訳 林義道 みすず書房)p590
※(ユング)は加筆

 ユングは、「タイプに人を分類することは、たいして意味のないことだよ」と言っています。

 タイプ論の目的は「タイプ分類ではない」

 ユングは「彼らが求めている真理は、彼らの視野を狭くするものではなく広くするような真理、暗くするのではなく明るくするような真理です」(『黄金の華の秘密』人文書院)と書いています。人のタイプを「ただ分類」したり「ただ決める」ことは、人の視野を狭め、暗くする考え方です。

 この視点はとても大切なことで、日本の心理臨床家たちも強調しています。

タイプを決めることがタイプ論のゴールではない

『ユング心理学入門』(河合隼雄 培風館)の表紙画像
『ユング心理学入門』(河合隼雄 培風館)
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 ユング派の河合隼雄は、『ユング心理学入門』(培風館)の中で、こう書いています。

タイプを分けることは、ある個人の人格に接近するための方向づけを与える座標軸の設定であり、個人を分類するための分類箱を設定するものではないことを強調したい」

『ユング心理学入門』(河合隼雄 培風館)p38

 また、「中公クラシックス」シリーズとして出版された『ユング 心理学的類型』(訳吉村博次 中央公論新社)では、心理療法家の河合俊雄が「解説」で、こう述べています。

『ユング 心理学的類型』(中央公論新社)
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「ユングの『心理学的類型』は決して人間を様々なタイプに分類することを目指したものではなくて、こころの中の様々な対立するものを示し、意識的に生きてこなかった側面が統合されていく可能性を描いたものなのである」

『ユング 心理学的類型』(訳吉村博次 中央公論新社)

 よく考えてみれば、いくつかのタイプで人を分類するなんて、そもそも無理がありますね。

 ちなみに、『ユング 心理学的類型』(訳吉村博次 中央公論新社)は、ユングの 『心理学的類型(Psychological Type)』の全訳ではなく、部分的に翻訳されたものとなります。 『タイプ論』(訳 林義道 みすず書房)が600ページを越えるのに対して、『ユング 心理学的類型』(訳吉村博次 中央公論新社)は、200ページほどです。

タイプを「できない理由」にしない

 さて、タイプ論の目的は、タイプの決定ではないことを、確認しました。とはいっても、人は「このタイプだから、こうなんだよね」と、自分や他人を「決めつける」ことが、よくあります。この「決めつけ」の生まれてくることが、タイプ論のデメリットであり、ユングがあやぶんでいたことです。

 性格タイプとは、あくまでも「性格の型」であり、ある「傾向」や「可能性」を示しているに過ぎません。ですから、「〇〇タイプの人は、必ずこう行動する」とか「私は〇〇タイプだから、絶対、これができないんだよね」といった、性格タイプで人を100%断定するようなとらえ方は、「ユングが望んだことではない」と、いい切れるのです。

 「〇〇タイプだから、これができない、ぜったい無理!」

 そんな風に、タイプの知識で、「できない理由」を作り上げてしまうのは、人の可能性を奪う考え方です。「タイプ」と「できない理由」を組み合わせると、論理的に正しく聞こえてきます。

 「私は〜ができません。なぜならば、〇〇タイプだからです」。

 こうした人に「正しさ」を感じさるロジックは、心に「癖」をつくり出します。この「心の癖」は、つまり「逃げ癖」ですね。少し辛かったり、苦しかったりすると、「無理だよ、だって〇〇タイプだもん」などと、タイプを理由にして言い訳が始まります。

 これは、人の可能性を閉ざしてしまう、とても寂しくて悲しいタイプ論の活用法です。

まっつん
まっつん

「できないかもしれない。でも、できるかもしれない」。それが人であり、人生です。本来、人の性格は、タイプで、その全てを説明できるほど、単純ではありませんし、浅いものではありません。人の性格はとても複雑ですし、人の可能性はもっと深く、豊かなものです。

 1921年『心理学的類型(Psychological Type)』を発表した後、ユングはタイプ論について、それ以上、論を深めようとしませんでした。集合的無意識や錬金術など、その他の分野に興味がうつっていったからだと、よく指摘されます。

 ただもしかすると、将来的に、「人をタイプで決めつける」という危うい事態になることを、ユングはある程度、見通していたのかもしれません。「私は◯◯タイプで、あなたは〇〇タイプね」といった風に、まるで手軽な「占い」のようになってしまうことを…。

 すると、タイプ論について語れば語るほど、ますます本来の目的からずれていく可能性が高まってしまいます。だから、それ以上、語ることをやめてしまったのではないでしょうか。

 タイプ論でユングが何を目指したのか。その意図を、まずはしっかりと理解しておくことが大切ですね。

「この基礎的な著書において著者(ユング)意図しているのは、心の構造や機能のあり方には一定の諸タイプがあることを明らかにし、それによって自分自身のためにも仲間のためにも人間理解を深めることである」

『タイプ論』(訳 林義道 みすず書房)p6
※(ユング)は加筆

 前段で紹介した上の文章の続きは、こうです。

 「タイプ間の対立は、宗教上の争いや学問・文化・世界観の角逐において、また人間関係の中で、いかなる場合にも必ず重要な役割を演じている」(p6)。

タイプ論は争いをおさめる知恵袋

 「角逐」とは「争うこと」です。ユングは軍に従事していたこともあります。ユングが生きた時代(1875〜1961)は、日本の年号でというと「明治」「大正」「昭和」です。ユングは、2度の世界大戦を体験した世代です。人間同士の「争い」に、心理学者として、強い関心を抱いていました。

 第一次世界大戦が1914年〜1918年です。著書『心理学的類型(Psychological Type)』の発表が、1921年です。時間を巻き戻して、最初に、ユングが性格タイプに関する論を発表したのは、1913年(ミュンヘンの精神分析学会での講演)とされています。この講演内容は、補論として『タイプ論』(みすず書房)に収録されています。

 タイプ論の考えを発展させ、深めていった時期は、第一次世界大戦と重なっているのです。

 「争い」と「性格タイプ」の知識を結びつけた文章が、『タイプ論』(みすず書房)にあります。

ユングの論

「人間は自分とは異なる立場を理解したり認めたりすることがほとんどできないものだということは、私が臨床の場で何度もいやというほど、思い知らされている事実である。(中略)たしかに争いはつねに人間の悲喜劇につきまとうものであるが、(中略)見解の相違を調停するための基盤になりうるのは、私の確信するところによれば、さまざまなタイプの構えを認めること、それも単にさまざまなタイプが存在するというだけでなく、誰もが自らのタイプにある程度囚われているため他人の立場を十分に理解することができなことを認めることである」

『タイプ論』(訳 林義道 みすず書房)p524

 上の文章から「争い」をおさめるための2つの教訓を導き出せます。

さまざまな性格タイプがあり、その違いを、互いに認めあおう。(みんな違って、みんないい。)
❷自分自身も、相手と同じように、あるタイプとして生きていることを自覚しよう。

 この言葉は、争いをおさめるための教訓であり、よい人間関係を築くための知恵であり、そして、「何のためにタイプ論を生み出したのか?」、その問いに対する答えにもなるものです。

 もう1度、確認しておきましょう。

 タイプ論の目的は、「自己理解・他者理解・人間理解」を深め「よりよい人間関係」を育んでいくことです。そのゴールにたどりつくための「心の羅針盤」(Compass)となるものが、タイプ論の知識です。

まっつん
まっつん

タイプ論の目的に関するユングの考えは、他にもあります。ここでは基本的なところだけおさえて…、では次に、「そもそも、どんな考えからタイプ論が生み出されてきたのか?」、タイプ論が生まれた経緯について、述べていきます。

どうやってタイプ論は生まれたのか?

 ユングがタイプ論を生み出していった経緯には、大きく3つあるとされています。1つ目は「言語連想検査」の結果です。2つ目は、「なぜ、フロイトとアドラーの理論が違うのか」を考えたことです。そして3つ目は、ユングが設立した「心理クラブ」での交流です。

  1. 「言語連想検査」の結果
  2. 「なぜ、フロイトとアドラーの理論が違うのか」を考えて
  3. 「心理クラブ」での交流

それでは、1つ目から順番に説明していきます。

❶「言語連想検査」の結果から

 ユングの初期の研究として有名なのが「言語連想実験」です。この実験に関する著作は1906年に発表されています。ユングが31 歳になる年です。「言語連想実験」で、ユングは、今でいう「コンプレックス」の研究に取りくみました。

「言語連想実験」とは、ある言葉をクライアントに投げかけて、思いつく言葉を返してもらうものです。 例えば、「頭」と聞いて、パッとどんな言葉が思い浮かびますか。連想して答えてみてください。「緑」では、どうでしょう。次に「水」では…。こんな調子で、クライアントに100個の言葉に対して、連想する言葉を答えてもらいます。以下は、その一部です。

1. 頭11. 机21. インキ
2. 緑12.尋ねる22. 怒り
3. 水13. 村23. 針
4. 歌う14. 冷たい24. 泳ぐ
5. 死15. 茎25. 旅行
6. 長い16. 踊る26. 青い
7. 船17. 海27.ランプ
8.支払う18.病気28. 犯す
9. 窓19. 誇り29. パン
10. 親切な20. 炊く30. 金持ち
ユング連想検査の刺激語
『ユング心理学入門』(河合隼雄 培風館)p66の表を元に作成

 ユングが「言語連想実験」をした時、反応はクラアントによって様々でした。ある言葉では、すぐに言葉が返ってきますが、ある言葉になると、必要以上に長く説明したり、あるいは、連想する言葉が全く出てこなかったりしました。実験は、2回行います。すると1回目と2回目で、連想する言葉が違うこともありました。

まっつん
まっつん

連想するだけです。とても簡単なことに思えます。ですが、言葉がつまってしまったり、出てこなかったりします。なぜ、そうなるのか、本人はわかりません。簡単に思えることが、訳もわからず難しくなってしまうなら、心のどこかに、真犯人がいそうです。

 この真犯人は、普段の自分では意識することのできない「無意識」の領域にいて、「意識」に働きかけてくるのだとユングは考えました。その働きかけてくる真犯人を、ユングは「感情によって色づけられた複合体(feeling-toned-complex)」としました。これが私たちが今でいう「コンプレックス」のことです。

 この実験を繰り返していく中で、ユングは、連想される言葉に、あるパターンがあることに気づいていきました。『ユングのタイプ論に関する研究』(佐藤淳一 創元社)には、「言語連想実験」からの着想について、こう書かれています。

『ユングのタイプ論に関する研究』
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「この言語連想の実験を通して、正常者において内的な連想をする人たちと外的な連想をする人たちがいることが分かった。前者は感情を伴った主観的な反応をするタイプで、後者は非個人的なトーンで客観的な反応をするタイプであった」

『ユングのタイプ論に関する研究』(佐藤淳一 創元社)p13

 さらに、この実験を「早発性痴呆」(統合失調症)と「ヒステリー」の患者に対して行っていくと、連想言語に違いが見られました。早発性痴呆(統合失調症)の患者は「内向」に、ヒステリー患者は「外向」に分類できる反応を示したのです。

 この実験は、「タイプ論」の「原点」といえるユングの臨床体験です。

❷「なぜ、フロイトとアドラーの理論が違うのか」を考えて

「言語連想検査」で成果をあげたユングは、フロイトの理論を知り「無意識」について興味を深めていきます。1907年、フロイトとユングが初めて会った時、13時間も話し続けたといわれています。ふたりは絆を深め、ユングはフロイトが設立した「国際精神分析学会」の初代会長にまでなっています。

 ところが、フロイトの心理学理論に違和感を覚えた始めたユングは、フロイトと距離をとるようになっていきます。ユングは1913年に発表した『リビドーの変容と象徴』で、「無意識」に関してフロイトとは異なる見解を示しました。ふたりの決別は決定的なものになりました。

 その後ユングは、本人が「方向性喪失の状態」と呼ぶ、精神的な危機を迎えます。時に、幻覚が見えるようになり、この状態が1912 年〜1917頃まで続いたといっています。第一次世界大戦の勃発を予知するような「海が血に染まるビジョン」が見えたこともあります。

まっつん
まっつん

先ほど、タイプ論の考えを深めた時期が、第一次世界大戦(1914年〜1918年)に重なると書きましたが、ユングの「精神的危機」の時期とも重なっています。

 ユングは「方向性喪失の状態」で、フロイトともアドラーとも違う、独自の心理学を確立する必要に迫られていました。そんな背景があり、ユングはフロイトとアドラーの心理学が、「なぜ、対立するのか?」について考えていったのです。

 フロイトの共同研究者ともいえるアルフレッド・アドラーも、理論の違いからフロイトとの関係が悪化します。最終的に、フロイトはアドラーを協会から追い出してしまいます。なぜ、フロイトとアドラーは対立したのか。その理論の対立を、「タイプの違い」としてユングはとらえました。

 ユングにいわせると、フロイトの心理学は「外向型」で、アドラーの心理学は「内向型」となります。

ユングの論

 フロイトの心理学が共鳴している基調は客体において快楽を求める遠心的衝動だが、これに対してアドラーの心理学の基調は主体に向かう、すなわち主体が力をもち生の抑圧的な暴力から解放される「優越状態」に向かう、求心的な衝動である。

『タイプ論』(訳 林義道 みすず書房)p541

フロイトとアドラーの違い

フロイトは、催眠や対話によって「トラウマとなった出来事」を意識化することで、クライアントを治癒しようとします。この「外との世界」との関係を重視している点が、「外向」ということです。

 アドラーは「内の世界」(心の中)を重視します。人は誰もが幼い頃に「劣等感」をもちます。劣等である自分を克服することを目的に「権力への意志」が育まれていきます。この「劣等感」「権力への意志」を重視するのがアドラーで、「劣等感」「意志」とは「内の世界」(心の中)のことです。ですので、アドラーの心理学は「内向型」と、ユングは分類します。

 ふたりの対立について、ユングは「外向 VS. 内向」という「タイプの対立」と考え、性格タイプに関する考えを深めていきました。

❸「心理クラブ」での交流

 ユングは1912 年に「心理学クラブ」を設立しました。「心理学クラブ」は、ユングの分析を受けた一般の人と、心理の専門家からなる集まりの場でした。ポイントは、健康な人たちが集まっていたことです。

まっつん
まっつん

 ユングは、この健康な人たちとの交流を通して、タイプ論に関する考えを深めていきました。ユングが「外向・内向」に、4つの「心の機能」(思考・感情・感覚・直観)を加えていったのは、「心理学クラブ」での人間観察が大きな役割を果たしたとされています。

 特に「直感」機能のヒントは、心理学クラブに参加していたマリア・モルツァーからのものであることを、ユングは明言しています。

  1. 「言語連想検査」の結果
  2. 「なぜ、フロイトとアドラーの理論が違うのか」を考えて
  3. 「心理クラブ」での交流

 以上、3つの観点から、タイプ論が生み出された経緯について説明してきました。いずれにしても、長い臨床経験と人生経験があって、タイプ論が生まれたことは確かなことです。ユングは「はじめに」で、こう述べています。

ユングの論

 本書は臨床心理学の分野における、ほぼ20年にわたる研究の成果である。このアイディアは、一方で精神科および神経科における臨床やあらゆる階層の人々とのつき合いによって得られた無数の印象や経験から、他方では友人や反対者との私の個人的な討論から、そして最後に私自身の心理的特質の批判から、しだいに生まれてきたものである。

『タイプ論』(訳 林義道 みすず書房)p541

 タイプ論は、決して、ユングの単なる「思いつき」で生まれたものではありません。20年にわたる臨床経験から生み出されたアカデミックな観点が保証された理論です。

(文:松山 淳



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リーチ・マイケル(ラグビー日本代表)の名言 https://www.earthship-c.com/nice-word/michael-leitch-quotes/ Thu, 28 Sep 2023 23:38:00 +0000 https://www.earthship-c.com/?p=14909

 リーチ・マイケル(Michael Leitch)は、トップリーグ「東芝ブレイブルーパス」所属するラグビー選手。ニュージーランド人の父とフィジー人の母のもと、1988年10月7日、ニュージーランドにて生をうける。  5歳 ... ]]>

 リーチ・マイケル(Michael Leitch)は、トップリーグ「東芝ブレイブルーパス」所属するラグビー選手。ニュージーランド人の父とフィジー人の母のもと、1988年10月7日、ニュージーランドにて生をうける。

 5歳からラグビーを始めた。2011年W杯から2023年W杯まで4大会連続で日本代表選手として出場を果たす。また、2014年から2021年まで日本代表の主将(キャプテン)を務めた。キャップ数(日本代表として試合した回数)は、81(2023年9月15日現在)。

 母国ニュージーランド・クライストチャーチのセント・ビーズ・カレッジから、2004年の時、北海道にある札幌山の手高等学校に留学生として入学した。15歳であった。当初は1ヶ月の短期留学の予定だったが、高校卒業後、東海大学に進学し、大学卒業後は「東芝ブレイブルーパス」に入団し、日本に住み続けることになった。日本人女性と結婚し、2013年には日本国籍を取得している。

 初キャップ(日本代表での初試合)は、東海大学2年生の時。2008年のアメリカ戦(11/16)である。2011年ラグビーW杯(ニュージーランド大会)では日本代表に選ばれ、母国ニュージーランド代表「オールブラックス」と対戦するも、7-83で大敗する。

リーチ・マイケル

 2015年W杯(イングランド大会)では、エディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)のもと、日本代表キャプテンとなった。世界の強豪南アフリカを破り、その勝利は「スポーツ史上最大の番狂わせ」と呼ばれ世界を驚かせた。

 2019年W杯(日本大会)では、エディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)が指揮官となった。この時も主将となり、予選プールにて格上のアイルランド、スコットランドに勝利。ロシア、サモアも退け、予選を全勝で通過する。決勝ラウンド1回戦で南アフリカに敗退したものの、ラグビー日本代表のベスト8進出は初となった。

 2023年W杯(フランス大会)で、リーチ選手は、チリ戦(9/10)、サモア戦(9/29)でトライを決めている。主将は、姫野和樹選手が務める。

 日本代表主将を2大会(W杯)連続で務め、長きにわたりラグビー日本代表を支えてきたリーチ・マイケル選手の胸に響く名言を紹介する。 

リーチ・マイケルの名言❶:優勝できる可能性はゼロじゃない。

 2019年W杯で、予選で全勝し日本を熱狂させたラグビー日本代表チームです。その時、リーチ選手の体調は、決してベストではありませんでした。『Number』(1080 文藝春秋社)のインタビューで、「体調は60%くらいでした」と話しています。

 予選のロシア戦で多くのミスを犯して、アイルランド戦は先発出場とはなりませんでした。ところが前半30分から出場すると、それまでの不調が嘘のような活躍を見せて、当時、世界ランキング2位だったアイルランドに勝利をしたのです。

『Number』(文藝春秋社)
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  日本W杯(2019)の頃に比べると、2023年シーズンのほうが調子がいいといいます。主将は後輩に譲り、選手に集中できているのも何らか作用があるかもしれません。

 そのリーチ選手は、2023年W杯(フランス大会)を前にして、こう語っています。

リーチ・マイケルの名言

 大事なのは自信をもつこと。このチームはW杯で大物に勝つのが得意。優勝できる可能性はゼロじゃない。だからそれを信じる。

『Number』(1080 文藝春秋社)

 2019年W杯で、リーチ選手は「優勝」を目指すべきだと考えていました。そのことをジェイミー・ジョセフHCに話すと、「まずはベスト8を目標にする」と、受け入れてもらえませんでした。

 実際、ベスト8の目標を達成してしまったことが、決勝ラウンドでの南アフリカ戦の敗退に、影響があったのではないかとリーチ選手は考えています。無意識レベルで、「もう目標は達成したのだから…」と、120%の力を出すこにブレーキがかかった可能性は否めません。

 それもあって、2023年W杯では、リーチ選手は「優勝」の言葉を口にしています。

 どんな時も可能性はゼロではありません。

リーチ・マイケルの名言❷:ワールドクラスの準備

 2019年、雑誌『Wedge』が創刊30周年を記念して、「新時代に挑む30人」を選びインタビューしていました。リーチー選手は、30人の中に選ばれ誌面を飾りました。

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 記者の「強大な相手に挑むために一番必要なことはなに?」という質問に、リーチ選手は「自信」と答えました。それに続く言葉が次のものです。

リーチ・マイケルの名言

「その自信を作るためは準備をしっかり行うことです。それもワールドクラスの準備であり、世界一のオールブラックスを上回る準備をすることです」

ラグビー・リーチ主将「重圧があるから最高の準備ができる」『Wedge online』(2019/5/22)

 準備をしっかりすると、試合本番に向けて安心できます。
 その安心感が「自信」というものです。
 準備が不足すると、不安が強くなります。

 その不安感が「自信不足」です。

 自信を生み出す「準備」ができるのは、プレシャーを感じるからです。リーチ選手は、プレッシャーと準備の関係について、こう述べています。

リーチ・マイケルの名言

 「プレッシャーが大きければ、それだけパワーにもなるし準備のための原動力になります。グラウンドに立ったときには「準備はすべてやり切った」と言えるほどの準備を積み重ねて、あとは戦うだけという気持ちで臨むだけです。

ラグビー・リーチ主将「重圧があるから最高の準備ができる」『Wedge online』(2019/5/22)

 プレッシャーがあると、人は、危機感を覚えます。

 危機感があることで、「準備」を重視するマインドが生まれます。人は、「これではまずい」と感じるから、まずい事態にならないように準備をします。プレッシャーは決してネガティブなものではなく、人を高みへと導く力にもなるのです。 

 「準備」なきところに「自信」なし。「自信」あるところに「準備」あり。

 リーチ選手を見習い、私たちもできる限り準備をしっかりして、望む未来を手に入れましょう。

リーチ・マイケルの名言❸:絆やチームの愛情がないと

 2023年1月、スポーツ報知にリーチ選手の単独インタビュー記事が掲載されました。

 2023年W杯に向けての日本代表の活動が開始されるのが6月で、W杯(フランス大会)開催は9月です。準備期間としては、3ヶ月となります。

 このインタビューで、「お互いをもっと知れば絆は深まる。試合でロッカーを出る時、(登録の)23人と試合に出ていないメンバーのことをどれだけ思いやれるか、感情を作れるかが鍵になる」といっています。

 「感情が鍵とは?」

 この質問に対しての答えが次の言葉です。 

リーチ・マイケルの名言

「戦術をいくら磨いても本気の強さは出せない。絆やチームの愛情がないと。

リーチ・マイケル、自身4度目の大舞台へ「最強の日本代表を作りたい」…ラグビーW杯9月開幕(スポーツ報知 2023/1/2)

 スポーツでは度々、格上の相手を倒す番狂わせが起きます。

 2015年W杯で、南アフリカを倒した試合も、そのひとつです。実力では明らかに上でも、何かが作用して、格下のチームが格上のチームに勝ってしまうのです。

 その何かの作用が、リーチ選手のいう「感情」といえます。

 リーチ選手は上の言葉に続けて、「言うのは簡単だけど難しい。19年はよくできた。何をやっても勝てる自信があった。日本はクールな人が多くてパッション(情熱)をあまり表に出すのが苦手。引き出す努力をしないと」といいます。

 格上の相手に勝つための「感情」とは、つまり「パッション」(情熱)のことです。

 クールヘッド・ホットハート
(Cool head.Hot heart)
 頭は冷静に、心は熱く。

 自分のすることに対して、いかに情熱を持てるか。その熱量が、勝負を決めます。

リーチ・マイケルの名言❹:理想はコーチのいないチーム。

 2023年ラグビーW杯で日本代表の指揮官はエディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)です。2019年日本開催のW杯に続けて2大会連続で日本代表を率いています。その前のHCが、エディー・ジョーンズです。

エディー・ジョーンズ(Eddie Jones)
エディー・ジョーンズ(Eddie Jones)

 エディー・ジョーンズHC以前のラグビー日本代表は、「世界で勝てない」と言われていました。選手たちも「世界で勝つのは難しい」と考えていました。その考え方をひっくり返したのがエディーHCです。実際、2015年W杯で「南アフリカ」に勝利する奇跡を起こしました。

エディー監督
エディー監督

「チームに「ジャパン・ウェイ」という日本独自のやり方を植え付けました。これは、ほかの国には真似できない「日本人らしさ」を、徹底的に活かしたものです。そこにはプレースタイルやトレーニング方法だけでなく、努力の仕方、マインドセット(心構え)など、精神的なものを多く含まれています」

『ハードワーク 勝つためのマインドセッティング』(エディー・ジョーンズ 講談社)p3

 「植え付けました」。

 この言葉に象徴されるように、「エディー流」のチームづくりは、「マネジメント」(管理)が基軸になっていました。エディーHCの植え付けることを、選手が受け入れていくスタイルです。それは悪い言い方をすれば、「受け身になっている」とも言えます。

 ジェイミー・ジョセフHCは違いました。大枠は決めても、選手に決めさせる、つまり選手の意思、自律性を尊重するスタイルをとりました。

ジョセフHC
ジョセフHC

もっと選手の側から率先して動きを考えることを求めたい。みずからをプロデュース、みずからをオーガナイズできれば、さらにチームは強くなります。

『Number』 929号(文藝春秋)p22

『Number』 986号(文藝春秋)
『Number』 986号(文藝春秋)
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 ふたりのHC(ヘッドコーチ)のもとでキャプテンを務めたリーチ選手は、チームづくりの違いに困惑した時期もありつつも、ジェイミーHCのチームづくりに順応していきました。それを象徴する言葉が、次のものです。

リーチ・マイケルの名言

「理想はコーチのいないチーム。コーチに何も言われなくても自分たちで決められるチームです。試合ではHCの指示をいちいち待っていられない。自分たちで考えて解決しないといけない。」

『Number』 986号(文藝春秋)p22

 ラグビーでは試合が始まったら、監督(HC:ヘッドコーチ)の指示をいちいち聞いていられません。選手が一瞬一瞬で判断してゲームを進めていきます。

 理想はコーチのいないチーム。

 その理想に向かって、リーチ選手は、キャプテンを姫野和樹選手に譲りつつも、献身的なプレーを見せて、日本代表チームのお手本になっています。

リーチ・マイケルの名言❺:ボールを置いただけだった

 2023年ラグビーW杯(フランス大会)、日本代表の第3戦(9/29)はサモアが相手でした。日本代表チームは、前半からトライを重ね、後半に入って【25-8】まで点差を広げていきました。しかし終盤、続けてトライを許し、最終的には【28-22】でギリギリの勝利となりました。後半だけの点数を見ると【8-14】で、日本は負けています。

 そんなギリギリの試合で、前半、リーチ選手は、チームを勢いづけるトライを決めました。

 レメキ選手が右サイドを突破し、タックルで倒されてラックができました。ハーフが素早く左展開して、中央よりやや左サイド付近でラックができ、そこからさらに左展開して、スタンドオフの松田選手がラインに並ぶ2人の味方選手を飛ばしてパスを放ちします。左ライン、ぎりぎりに立っていたのがリーチ選手です。

 松田選手の放物線を描く飛ばしパスは、リーチ選手の手におさまります。そのままゴールラインに向かって走り、リーチ選手がトライ。展開につぐ展開でチームの連携プレーの活かされた日本代表らしいトライです。

 サモア戦の後のインタビューで、リーチ選手は、このトライについてユニークな言葉を残しています。 

リーチ・マイケルの名言

「ギリギリでしたけど、結果的に勝ててよかったです。(トライシーンは)チームワークのトライで、(自分は)ボールを置いただけでした。

JAPN RUGBY公式サイト ラグビーワールドカップ2023フランス大会 日本代表 サモア代表戦試合後コメント

 リーチ選手の人間性のにじむ言葉です。個の力だけでは決してトライは生まれません。チームワークがあってこそ、トライは生まれます。チームファーストの精神を深く理解しているからこそ出てくる言葉です。

 2019年流行語ともなった「One Team」から2023年は変わり、日本代表チームのスローガンは「Our Team」です。

「ボールを置いただけした」

 「Our Team」の精神を象徴する名言です!

 


2023ラグビーW杯 日本代表戦スケジュール

・9/10 ⚪🇯🇵日本42 V.S チリ12
・9/18 ⚫🇯🇵日本12 V.S イングランド34
・9/29 ⚪🇯🇵日本28 V.S サモア22
・10/8 ⚫🇯🇵日本27 V.S アルゼンチン39

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ジェイミー・ジョセフの名言 https://www.earthship-c.com/nice-word/james-joseph-quotes/ Wed, 13 Sep 2023 20:55:00 +0000 https://www.earthship-c.com/?p=14884

 ジェイミー・ジョセフ(James Joseph)は、2023年開催のラグビー・ワールドカップ(フランス開催)にて、男子日本代表を率いるヘッドコーチ(HC)である。2019年開催のラグビーW杯(日本開催)に続いての就任と ... ]]>

 ジェイミー・ジョセフ(James Joseph)は、2023年開催のラグビー・ワールドカップ(フランス開催)にて、男子日本代表を率いるヘッドコーチ(HC)である。2019年開催のラグビーW杯(日本開催)に続いての就任となった。

 2019年W杯(日本開催)では、「One Team」(ワンチーム)のスローガンを掲げた。予選ラウンドでは、ロシア、サモア、アイルランド、スコットランドに全勝し、初のベスト8進出となった。

 ジェイミー・ジョセフは、ニュージランド出身。ニュージランド代表チーム「オールブラックス」にも選出されたこともある。1995年第3回W杯(南アフリカ開催)で、準優勝したメンバーのひとり。

ジェイミー・ジョセフHC(ヘッド・コーチ)Jamie Joseph
ジェイミー・ジョセフHC(ヘッド・コーチ)
Jamie Joseph

 日本社会人リーグの「サニックス」(宗像サニックスブルースは2022年で活動休止)に所属し、2000年までプレーを続けた。1999年には、平尾誠二監督のもと、日本代表の選手としてウェールズで開催された第4回W杯に出場。日本代表のキャップ数(日本代表試合出場回数)は、9キャップ。

 現役引退後、2003年からラグビー指導者として活動を始める。2011年、ニュージーランドのラグビーチームである「ハイランダーズ」のHC(ヘッドーコーチ)に就任。2015年、スーパーラグビーで優勝を果たす。

 世界の強豪南アフリカを撃破した2015年W杯(イギリス開催)で日本代表を率いたエディー・ジョーンズHCが退任すると、2016年、ジェイミー・ジョセフが日本代表ヘッドコーチに就任。2019年、2023年W杯と2期続けて、ヘッドコーチとして活動している。

 過去のインタビュー記事などから、ジェイミー・ジョセフHCの記憶に残る名言を紹介する。 

ジェイミー・ジョセフの名言❶:絆を深めることが成功の秘訣です

 2019年W杯(日本開催)でのスローガンは、「ONE TEAM」でした。その年、流行語大賞に選ばれました。2023年W杯は、「OUR TEAM」がスローガンです。

ラグビー男子日本代表ヘッドコーチ ジェイミー・ジョセフ

「OUR TEAM」は、2022年9/13、日本代表合宿の場で発表されました。稲垣選手は、「ワンチームは、一つになるという意味合いだったけど、スタンダードを上げ、さらに独自のチームを作り上げていくという意味合いが強い」と述べました。

 当時の主将坂手淳史選手は、「全員が責任を持って、役割をやり続ける。やり合わさると、自分たちのチームになる」(サンスポweb版 2022/9/14)と語りました。

 この時、「絆」「勇気」「導く」を信念にすることも話されました。

 フランスW杯(2023)開幕前、ジョセフHCは、日本テレビのインタビューで、「絆」について語っていました。 

ジェイミー・ジョセフの名言

 絆とはお互いなくてはならないという意味だと理解しています。様々な文化から強みを引き出し絆を深めることが成功の秘訣です

『日テレスポーツ公式』( 2023.9.7)

 「絆」

まっつん
まっつん

 2011年東日本大震災が発生した年、「今年の漢字」第1位として清水寺で発表されました。絆が深まることで、ひとりでは不可能なことも、可能になります。

 ジェイミーHCは、「絆」を「お互いなくてはならない」という意味と解釈しています。人はひとりでは生きられません。自分が生きるためには、他人の存在が必要不可欠です。そのことが腹落ちした時、「絆」が生まれ、チームとして、より強くなっていくのです。

ジェイミー・ジョセフの名言❷:選手に自信を与えなくてはならない。

 前エディー・ジョーンズHCは、「世界では勝てない」と言われていた日本代表チームを世界レベルに引き上げました。南アフリカに対する勝利(2015イギリスW杯)は、多くのラグビーファンの記憶に残るものになりました。その勝利は「スポーツ史上最大の番狂わせ」とも呼ばれました。

 エディーHCのチームづくりのベースには、徹底した「マネジメント」(管理)がありました。練習や試合での詳細な指示はもちろんですが、ホテルでの服装までエディー前HCは厳しく注意しました。

 エディーHCからジェイミーHCとなり、チームの雰囲気は変わりました。当時の主将リーチ・マイケルは、こう語っていました。

 エディージャパンのスタンダードと、ジェイミーのそれとは違って、たとえばホテル内の服や靴についてもすごく厳しかった。ジェイミーはそうじゃなくて、〝もうちょっとゆったりして練習できる環境を作りたい〟と。
 僕は最初(エディー)同じくらい厳しくやりたかったけど、柔軟性を持って、コミュニケーションをとりながらやってきた。(byリーチ・マイケル)

『ラグビーマガジン 2019年11 月号』(ベースボール・マガジン社)p10

 エディー流の「管理」に対して、ジェイミーHCは選手の「自主性・主体性」を重視しました。自分で考え、自分で動ける選手を育もうと、「もうちょっとゆったりして練習できる環境を作りたい」とリーチ選手に言ったわけです。

『Number』 929号(文藝春秋)
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 つまり、ジェイミーHCは、管理を徹底する指示命令型のリーダーシップ・スタイルをとるのではなく、大枠は決めるけれど、細かいところは選手たち自身で決めさせる支援型のリーダーシップを発揮していったのです。

 それを象徴する言葉が次のものです。

ジェイミー・ジョセフの名言

 ヘッドコーチの重要な仕事とは、選手が信じることのできる環境を創造することです。選手に自信を与えなくてはならない。それが私の務めです。

『Number』 929号(文藝春秋)

 「もうちょっとゆったりして練習できる環境を作りたい」という言葉があったものの、日本代表合宿での練習の厳しさはエディーHC以上といわれています。

 それがジェミー・ジョセフHCの考える「選手が信じることのできる環境の創造」であり、「選手に自信を与える」ことなのです。

ジェイミー・ジョセフの名言❸:人間として成長して欲しい。

 ジェイミーじ・ジョセフHCは、2002年に現役を引退しました。その後、ニュージランドに帰国しています。指導者となり、コーチとして様々なチームでキャリアを積みました。そして、2011年、「スーパーラグビー」(現スーパーラグビー・パシフィック)におけるニュージランドの強豪チーム「ハイランダーズ」のHC(ヘッドーコーチ)に就任します。

 「スーパーラグビー」(SR)とは、「ニュージーランド」「オーストラリア」「南アフリカ共和国」「アルゼンチン」など、ラグビー強豪国のチームが参加するラグビー・リーグです。

 余談ですが、かつて日本も2016年〜2020年まで「サンウルブズ」というチーム名で、スパーラグビーに参加していました。スーパーラグビーの主催団体であるSANZAARから、リーグ除外が発表され、残留の交渉をしたものの条件が合わず「サンウルブズ」は活動休止となりました。

 ラグビー王国ニュージーランドには、当時、「ハイランダーズ」をはじめ「クルセーダーズ」「ハリケーンズ」など計5つのチームがありました。(2023年時点、6チームで構成)

 「ハイランダーズ」は、ジョセフHCの就任した時、無名の選手が多く弱小チームでした。そのチームをわずか4シーズンで優勝へ導いたのがジョセフHC です。

 ところが、優勝までのプロセスにおいてジョセフHCは、苦い経験をしています。

 2013年、チームが強くなり、実績をあげ始めると、オールブラックスに選ばれるスター選手を加入させました。ところが、そのスター選手たちは試合で個人プレーに走り、チームは14位と低迷してしまうのです。

 スター選手たちは「フォア・ザ・チームの精神」に欠けていました。ジェイミーHCは、チームにマイナスの影響を及ぼすスター選手に辞めてもらうという苦渋の決断をします。その後、無名でありながらも「フォア・ザ・チームの精神」を持つ選手を補強・抜擢し、チームカルチャーを変えていきました。

 そして、2015年、スーパーラグビーで優勝を果たすのです。

 優勝までのプロセスで、「フォア・ザ・チームの精神」の持ち主としてチームカルチャーを変える軸となった選手がアーロン・スミス(2011年加入)です。ニュージーランド代表「オールブラックス」になり、世界最高峰のハーフと呼ばれている選手です。ちなみに、アーロン選手は「トヨタヴェルブリッツ」に加入することが、2023.3月に発表されました。

まっつん
まっつん

 どれだけ選手個々に実力があっても、チーム・スポーツは、個の実力だけでは勝てません。ラグビーは特にそうです。個の実力が掛け算されて、チームの実力となります。その掛け算の役目を果たすのが「フォア・ザ・チームの精神」です。個々の選手にチームのために尽くす精神がなければ、チームは強くなりません。

 ハイランダーズ時代の苦い経験があったからというわけではないでしょうが、ジェイミーHCは、こんな言葉を残していました。 

ジェイミー・ジョセフの名言

「チームカルチャーというのも私のコーチング理念の大きな部分を占めます。

ラグビー選手としてだけではなく、人間として成長して欲しい。

 これまでも私はここに熱意を持ってやってきました。 1人よがりではなく、チームが進む方向に自分を合わせて、 真剣に取り組むところと楽しむ部分の バランスが優れている選手を求めています」

「ラグビー日本代表「“名将”ジェイミー・ジョセフってどんな人?」 指揮官を知る“3つのキーワード”」
(『文春オンライン』 ラグビージャーナリスト村上 晃一)

 プロ・スポーツ選手が現役時代を過ごすのは、短いものです。怪我で引退を余儀なくされると、選手によっては数年というケースもあります。現役時代より、その先の第2の人生のほうが長いのです。

 だから、指導者の多くが、選手としての成長を祈りつつ、人間としての成長を祈るわけですね。

 選手の人間としての成長を願うのが、人間として成長した指導者の姿といえます。

ジェイミー・ジョセフの名言❹:日本が大好きで愛している

 2019年日本W杯にて、世界の強豪アイルランド、スコットランドを破り、初のベスト8進出を果たしました。大会終了後も熱狂は続き、メディアは連日、ラグビー日本代表のニュースをお茶の間に届けました。

 そんな中、次のヘッドコーチは誰になるのかも話題となっていました。ジェミーHCの続投が期待される中、ニュージーランドラグビー協会が2019年11月6日、次期ヘッドコーチの候補として26名の名を挙げました。その中に、ジェイミー・ジョセフの名がありました。(AFP)

 「ジェイミーHCは、オールブラックスの指揮官になるかも…!?」

 その不安が払拭されたのは、わずか12日後のことで、日本ラグビーフットボール協会は、11月18日、ジェイミーHCの契約更新を発表しました。続投が決まったのです。

 日本W杯(2019)が終わった後、ニュージランドに帰国していたジェイミーHCは、年が明けた2020年1月、来日にして記者会見を開きました。

 その場で、続投を決めた理由について語っっています。

ジェイミー・ジョセフの名言

 「決断は難しいものではなかった。悩みもあったが、私と家族の課題で。悩みはありはしたが、長い目で考えた。理由はシンプルに2つ。日本が大好きで愛している。そして仕事を続ける責任がある。これまでのように強化、発展させていかないと思ったからだ」

『日刊スポーツ』(2020 1/29)

 日本人よりも日本のことを愛している。

 そう感じさせる海外出身の指揮官がいます。2023年沖縄でも開催されたFIBAバスケットボールW杯を率いたトム・ホーバス監督もそのひとりです。前ラグビー日本代表HCのエディー・ジョーンズの母親は日系2世で、夫人は日本人で、日本のことをよく学んでいました。

 日本に長くいると感じられない「日本のよさ」「日本人の強み」を発見し言語化し、その力を引き出してくれます。海外で育った人だから、その言葉には説得力があります。

日本が大好きで愛している。

 日本人が学びたい「認める力」といえます。

ジェイミー・ジョセフの名言❺:私はわかっている。君たちは準備ができていることを。

 2023年ラグビーW杯(フランス)で主将を務める姫野和樹選手が、処女作『姫野ノート「弱さ」と闘う53の言葉』(飛鳥新社)を出版しました(2023/8/4)。この本の中で、2019年ラグビーW杯のミーティングで、ジェイミー監督が読み上げた詩についてふれています。

『姫野ノート「弱さ」と闘う53の言葉』(飛鳥新社)
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ジェイミー・ジョセフの名言

No one thinks we can win.
No one thinks we can even come close.
No one knows how hard you’ve worked.
No one knows what sacrifices you have all made.
You know we are ready.
I know you are ready now.

誰も勝てると思っていない。
接戦になるとさえ、誰も思っていない。
君たちがどれだけ積み重ねてきたかは、誰も知らない。
君たちがどれだけの犠牲を払ってきたのかも、誰も知らない。
だが君たちは知っているはずだ。
我々が準備できていることを。
私はわかっている。
君たちは準備ができていることを。

『姫野ノート「弱さ」と闘う53の言葉』(飛鳥新社)

 この詩は、『耳を傾けるのはノイズではなく「自分の声」』という章で紹介されていました。

 アスリートには様々なノイズが届けられます。負けた時の誹謗中傷はその代表例です。SNSが広く普及した現代では、世間からのノイズは鋭さを増していて、選手たちのメンタルに大きく影響し、成績を左右することがあります。

 姫野選手は、「流石にSNSを禁止にまではしないが、合宿中や大会期間中はテレビのスポーツ番組や新聞、ウェブニュースはまず見ない。」と書いています。そして、ジェミーHCの詩を紹介した後に、こんな言葉を記しています。

そう。自分がやってきたことは、自分にしかわからない。これはスポーツだけではなく、何でもそうだ。何も知らない外野の声よりも自分自身の声、自分たちの声を信じるという、ごくごく当たり前のことをするだけでいい。そう意識を変えることは、きっと誰でもできるはずだ。

『姫野ノート「弱さ」と闘う53の言葉』(飛鳥新社)

 まさにその通りですね。最後の最後、信じるのは自分たちの声です。

 共に練習を重ね、共に血のにじむ努力をした、自分たちの声=「Our Team」の「声」が最も信頼できる耳を傾けるべき「声」です。


2023ラグビーW杯 日本代表戦

・9/10 ⚪🇯🇵日本42 V.S チリ12
・9/18 ⚫🇯🇵日本12 V.S イングランド34
・9/29 ⚪🇯🇵日本28 V.S サモア22
・10/8 🇯🇵日本 V.S アルゼンチン

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姫野和樹選手の名言 https://www.earthship-c.com/nice-word/kazuki-himeno-rugby-quotes/ Tue, 12 Sep 2023 23:55:00 +0000 https://www.earthship-c.com/?p=14828

 「ラグビーワールドカップ2023フランス大会」で、日本代表選手をまとめる主将は、姫野和樹(トヨタヴェルブリッツ)だ。愛知県名古屋市の生まれ。ラグビーを始めたのは中学生時代(御田中学校)。春日丘高等学校に進学し、全国大会 ... ]]>

 「ラグビーワールドカップ2023フランス大会」で、日本代表選手をまとめる主将は、姫野和樹(トヨタヴェルブリッツ)だ。愛知県名古屋市の生まれ。ラグビーを始めたのは中学生時代(御田中学校)。春日丘高等学校に進学し、全国大会(花園)に出場している。高校生の時に、高校日本代表にあわせ、U20セブンズ日本代表にも選出される。

 2013年、帝京大学に入学。帝京大学の全国大学選手権9連覇のうちV5からV8に貢献する。大学卒業後、トヨタヴェルブリッツに入団。1年目に主将に就任している。

 2017年11月、オーストラリア戦で、日本代表に選ばれ初キャップを獲得する。ラグビーワールドカップ2023フランス大会登録メンバーに選出された段階(8月28日付)で、キャップ数(日本代表試合出場回数)は、29。

 フランスW杯、9/10に行われたチリ戦では、怪我のため欠場する。9/18イングランド戦、9/29サモア戦では先発出場。両試合で、姫野選手の代名詞といえる「ジャッカル」(ラック時に立ったまま敵選手のボールを奪うプレー)を決めた。サモア戦ではトライも決めている。

 姫野主将は、ラグビーを含め、日々の様々なことをノートに書く習慣の持ち主である。そのノートをまとめた『姫野ノート 「弱さ」と闘う53の言葉』(飛鳥新社)が2023年8月に発売された。

 著書『姫野ノート』に加え、これまでのインタビュー記事などから、姫野選手の心に響く名言を紹介する。 

姫野和樹の名言❶:リーダーシップは情熱と愛情

姫野和樹選手の画像
姫野和樹 選手

 帝京大学時代、姫野和樹選手は、キャプテンではありませんでした。それが、社会人チームであるトヨタヴェルブリッツに入団したところ、1年目からキャプテンを任されました。

 2023年7月に行われたオールブラックスVX戦の第2戦で、坂手淳史選手とともに共同代表を務めました。日本代表ヘッドーコーチ(HC)のジェイミー・ジョセフHCは、「キャプテンはまず、チームのベストプレーヤーでなければいけない。自分のプレーでリードして、周りの選手に勇気を与えていく。姫野はその素質を持っている」(Number 2023.8.15)といっています。

 姫野選手は、生まれ持ったリーダとしての資質が備わっているようです。そんな姫野選手が、リーダーシップについてふれた言葉が、次のものです。

姫野和樹の名言

「僕が思っているリーダーシップは情熱と愛情。これが自分のリーダーシップだと思うし、それはチームに伝染する。チームに火が付けば、それは大きな炎になる。僕は火付け役として、情熱をグラウンドの中で表現し続けることができたと思う」

『「これが自分のリーダーシップ」 ラグビー日本代表の気になるキャプテン人事…姫野和樹をHCが絶賛した理由「姫野はその素質を持っている」』(Number 2023.8.15)

 「火付け役」

 この言葉を聞いて、上杉鷹山のことが思い出されます。上杉鷹山は江戸時代に、財政危機に瀕していた米沢藩を改革し立て直した人です。第35第ジョン・F・ケネディ大統領が来日した際に、尊敬する日本人として上杉鷹山の名をあげたのは、有名なエピソードです。

上杉鷹山

『ケネディ大統領が最も尊敬した日本人上杉鷹山』 (童門冬二 いきいきネット株式会社)の中で、著者である歴史小説家の童門冬二さんは、上杉鷹山のセリフとして、こう書いています。

 火種は新しい火をおこす。その新しい火はさらに新しい火をおこす。その繰り返しが、この国でも出来ないだろうか、そう思った。そして、その火種は誰であろう、お前たちだと気がついたのだ。(中略)まずお前たちが火種になってくれ。そしてお前たちの胸に燃えているその火を、どうか心ある藩士の胸に移してほしい。

『ケネディ大統領が最も尊敬した日本人上杉鷹山』 (童門冬二 いきいきネット株式会社)

 リーダーは火付け役になる。

 自分で付けた火を他の選手に灯し、その火がまた他の選手に灯され、そしてチームが燃える集団となって格上の相手を倒すことができます。

 上杉鷹山に有名な言葉がありました。

なせばなる。なさねばならぬ何事も。ならぬは人のなさぬなりけり」(上杉鷹山)

 上杉鷹山が藩主として米沢に赴いた時には、土地は荒れ人々は他藩に去り、立て直すのはとても不可能に思えました。その不可能を可能にしたのが、「なせばなる」の精神です。

 姫野選手も上杉鷹山のようにリーダーとして「火付け役」となり、「なせばなる」の精神で、フランスW杯でも、ジャイアントキリング(格上の相手を倒すこと)を成し遂げてもらたいものです。

姫野和樹の名言❷:本当の自分を知っていれば、ブレずに進める。

 2023年8月、姫野選手の処女作となる『姫野ノート 「弱さ」と闘う53の言葉』(飛鳥新社)が発売されました。

『姫野ノート「弱さ」と闘う53の言葉』(飛鳥新社)
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 姫野選手は社会人になってから、ノートに書くことを習慣にしたそうです。ノートには立派なことばかり書くのではなく、悩みや愚痴をふくめて思うままに書いているといいます。

  ノートをつけている理由について「自分という人間を知るため、より深く理解するためだ」と姫野選手は書き、これに関連する言葉として、次のものがあります。

姫野和樹の名言

本当の自分を知っていれば、「僕はこういう考え方だから、じゃあ次はこうしよう」「ちょっと嫌だけど、こうすべきだよな」と自分の行動の精度を上げることができるし、迷ったり壁にぶつかったりした時でもブレずに進むことができる。

『姫野ノート「弱さ」と闘う53の言葉』(飛鳥新社)

  昨今、マインドフルネスの流れからセルフ・アウェアネス(自己認識)への注目が高まっています。「思考」「感情」「欲求」「強み・弱み」「価値観」「他者からの評価」など、自分自身を構成する様々な要素への認識(自覚)がセルフ・アウェアネス(自己認識)を作り上げていきます。

 自分のことを掘り下げ、どこまで認識(自覚)できているか。

 これがセルフ・アウェアネス(自己認識)です。

 セルフ・アウェアネスを高める代表的な手法が、日々の行い・思いを、自由に書き出すことです。シンプルな手法ながら心理的に効果があります。書く瞑想ともいわれる「ジャーナリング」(頭に浮かんだことを自由に書きだす手法)は、自己理解を深める手法としてセルフマネジメントの一環として、多くの人が実践しています。

 WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)を率いた栗山英樹監督も長年ノートをつけている人物として有名ですね。その内容をまとめた『栗山ノート』(光文社)は、WBCでの優勝をきっかけベストセラーとなっています。

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 姫野選手がトップアスリートとして自分をつくりあげていくプロセスで、「ノートに書き自己を深く知る」という習慣があったことは注目に値します。

姫野和樹の名言❸:未来はいくらでも書き変えることができる。

 姫野選手は点差の開いた試合になった時、メンバーに「スコアボードは見るな」と言うそうです。なぜなら、「過去は変えられないからだ」と…。同じ理由で、審判の判定に対しても、「思い切った割り切り」の大切さを述べています。

 テレビで様々なスポーツを見ていて、明らかに「誤審」と思われるジャッジがあります。現在は、映像で確認するシステムを多くのスポーツ競技が認められて、「誤審」がくつがえることもあります。

 フランスW杯(2023)の日本対チリ戦で、後半15分に途中出場したワーナー・ディアンズが、試合終了間際にインゴールへ飛び込みました。主審は、すぐにトライを認める笛を吹きませんでした。映像で確認するTMO(テレビジョン・マッチ・オフィシャル Television Match Official)によってトライが認定されました。

 昨今、ラグビーでは反則への厳罰化が進み、危険なタックルに対してレッドカードが出され、一発退場となります。イエローカードでは、10分間、グランドの外に出て、また戻って来られます。ですが、退場(レッドカード)となると、残りの選手だけで戦わなくてはなりません。ひとり退場したら14人で、ふたり退場したら13人で、です。これは勝敗を大きく左右します。

まっつん
まっつん

 ラグビーで故意に反則を犯すことは少なく、納得のいかないことも多いのが、イエローカード、レッドカードです。ですが、一度、決定してしまった判定に対して、どれだけレフリー(審判)に文句を言っても、変わることはありません。 

 まさに過去は変えられないです。

 変えられない過去にとらわれて試合中にメンタルを崩すより、今できることに集中してメンタル維持することのほうが、大事です。それが、姫野選手の哲学です。

 『姫野ノート 「弱さ」と闘う53の言葉』(飛鳥新社)にて、姫野選手は「今できることの大切さ」を繰り返し述べています。

姫野和樹の名言

 限られた時間の中で、自分の意識とエナジーをどこに費やすべきなのか。それを探して、そこだけにフォーカスすることのほうがずっと大切だ。

『姫野ノート「弱さ」と闘う53の言葉』(飛鳥新社)

 そうして、「過去のできないこと」(審判の決定をくつがえすこと)にフォーカスして、心を乱すより、「今ここからできること」にフォーカスすることが大切ですね。

 過去は変えられませんが、今を変えれば、未来が変わっていきます。

姫野和樹の名言

 過去と同じように未来も、直接自分の力が及ぶものではないけれど、ただ、未来が過去と違うところが1つだけある。今、目の前にある局面、次のプレーに全力で自分の影響を及ぼし続けていくことで、未来はいくらでも書き変えることができる。

『姫野ノート「弱さ」と闘う53の言葉』(飛鳥新社)

 日本W杯(2019)の時、それまでのアイルランド戦の戦績は0勝でした。日本は一度もアイルランドに勝ったことがなかったのです。日本W杯時点で、アイルランドは世界ランキング2位でした。

 過去にこだわれば勝利は難しいとなりますが、過去へのこだわりをやめれば、勝利を信じるメンタリティが生まれてきます。実際に、予選プールでアイルランドにも勝利し、全勝で、日本は決勝ラウンドに進出しました。

 過去にとらわれない。未来はいくらでも変えられる。

 姫野主将からの応援メッセージです。

姫野和樹の名言❹:思い詰めたり、考えたりして、チームを助けたい

  2017年、帝京大学卒業後、トヨタヴェルブリッツに入団すると、1年目から主将(キャプテン)として活躍しました。この時の副主将は、入社15年目の北川選手でした。企業組織でいえば、新入社員がいきなり取締役になるような抜擢人事です。

 抜擢の意図について、トヨタヴェルブリッツのヘッドコーチ(HC)は、「彼はテイキョウ・ユニバーシティーで4年間、ずっと優勝しています。負けを知らぬ人間がキャプテンを務めるのです」(『Number』1080 9/21 文藝春秋社)と答えています。トヨタはその前年度で8位でしたので、選手たちを奮起させる意味合いもあったのです。

『Number』(文藝春秋社)
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 その姫野選手は、フランスW杯で主将に任命されて、記者会見で、こう答えていました。

姫野和樹の名言

 自分という人間は責任を感じやすい。思い詰めたり、考えたりして、チームを助けたい、自分の仕事以上のことをやりたいと思ってしまう

『Sports Graphic Number』(1080 9/21 文藝春秋社)

 「責任を感じやすい」のは、リーダーに求められる資質のひとつです。「責任感」をもつからこそ、それがメンバーに伝わり、リーダーについていこうと思います。

 そして姫野選手の「チームを助けたい」という言葉が印象的です。

まっつん
まっつん

 「チームをひっぱる」とか「チームをまとめる」と、自分のパワーを中心にするのではなく、「助けたい」を支援型のスタイルを表現しています。リーダーシップ理論に、サーバント・リーダーシップがあります。これは「奉仕型リーダーシップ」「支援型リーダーシップ」と訳されるものです。

 サッカー日本代表の森保一監督やWBC日本代表の栗山英樹監督は、サーバント・リーダーシップを発揮するリーダーと考えられます。

思い詰めたり、考えたりして、チームを助けたい

 姫野選手の人柄から滲み出る謙虚な姿勢が本物だからこそ、私たちの胸をうつ言葉です。

姫野和樹の名言❺:弱さと向き合って受け入れるから、強くなれる。

 どんな人も、人として「強み」と「弱み」を持っているものです。人は強い時もあれば、弱くなる時もあります。時々、プライドが邪魔して、人の目が気になって、自分の「弱さ」を認められなくなる時があります。

 その「弱さ」について、姫野選手の考え方が『姫野ノート』では語られていました。

『姫野ノート「弱さ」と闘う53の言葉』(飛鳥新社)
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 シーズン中の禁酒を守れなかったり、街中で困っている人がいたのにスルーしてしまったりすることがあったそうで、自分の弱さを告白しています。グランドで見せる世界一流のラグビー選手とわたりあう果敢なプレーからは、想像できません。

 人の弱さについて、姫野選手は、こう書いています。

姫野和樹の名言

 むしろ僕は誰かの弱みを理解できる人間でありたいし、そういう社会であって欲しい。弱さを許容されない世の中は、何か違う。自分の弱さを正直にさらけだすことは、負けでもなんでもない。自分の弱さを認められない人のほうが、すでに負けている。

『姫野ノート「弱さ」と闘う53の言葉』(飛鳥新社)

 「自分の弱さを認められない人がすでに負けている」であれば、「自分の弱さを認めることができる人は、自分に勝っている」ことになります。

 自分への勝利とは、自己成長をも意味します。強さと弱さ。その双方を受け入れることで人は成長していけます。姫野選手は、こうも書きます。

姫野和樹の名言

 大切なのは、自分の弱さから目を逸らさないこと。自分の弱さとしっかり向き合うこと。

 弱さと向き合って受け入れるから、強くなれる。

『姫野ノート「弱さ」と闘う53の言葉』(飛鳥新社)

 「弱さ」があることは、何も恥ずかしいことではありませんね。人として「弱さ」があることは、ある意味、当たり前のことです。

 大切なことは、「強く」なるために、自分の「弱さ」を受けること。

 「長所は短所なり、短所は長所になる」

 昔から、よくそう言います。自分の「弱さ」と向き合って、姫野選手を見習い、さらに「強く」なっていきましょう。

姫野和樹の名言❻:レガシー、文化、目標、夢は次に受け継がれていく

 2023年、10月8日、決勝トーナメント進出をかけてラグビー日本代表は、南米の強豪アルゼンチンと激突した。世界ランキングでは、日本が12位で、アルゼンチンは9位(日本戦終了後、10/9時点で8位に)。格上の相手でした。

 多くの観客が見守る中、前半を1点差で終えました。しかし、後半になると、実力差がところどころに見られ、甘いタックルからトライを許し、27-39のスコアで、日本代表は敗戦となりました。決勝トーナメント進出とはなりませんでした。

 フランス大会で主将だった姫野選手は、試合後のインタビューで、こう述べました。

姫野和樹の名言

「チームのみんなを誇りに思います。ここにくるまで全員でたくさんの努力をしてきましたし、今日も最高の努力をしてくれた仲間に感謝したいです。結果が出なくて残念ですけど、ここまで選手が頑張れたのはファンの皆さんのおかげです。今回エベレストの頂上に桜を咲かすことはできませんでしたが、自分たちのレガシー、文化、目標、夢は次に受け継がれていくと思います。まだまだ日本のラグビーは強くなれると信じています」

ラグビーワールドカップ2023フランス大会 日本代表 アルゼンチン代表戦試合後コメント by 日本ラグビーフットボール協会

 キャプテンらしい大局を見ている言葉です。

 負けを悔いつつも、未来に目は向けられています。それを象徴する言葉が、「自分たちのレガシー、文化、目標、夢は次に受け継がれていくと思います。まだまだ日本のラグビーは強くなれると信じています」です。

 姫野選手の世代も、先輩たちから「レガシー、文化、目標、夢」を引き継ぎ、W杯で躍動しました。年齢的には、次のW杯に出場できる可能性は、十分に高いのが姫野選手です。

 次のラグビーW杯は2017年、オーストラリアで開催です。姫野選手とともに、さらに成長したラグビー日本代表の姿に期待します。


2023ラグビーW杯 日本代表戦

・9/10 ⚪🇯🇵日本42 V.S チリ12
・9/18 ⚫🇯🇵日本12 V.S イングランド34
・9/29 ⚪🇯🇵日本28 V.S サモア22
・10/8 ⚫🇯🇵日本27 V.S アルゼンチン39

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ラグビー男子日本代表(フランスW杯)の名言 https://www.earthship-c.com/nice-word/quotes-from-the-japanese-rugby-team/ Sun, 10 Sep 2023 23:55:00 +0000 https://www.earthship-c.com/?p=14771

 2023年9月〜10月、フランスにおいて「ラグビーワールドカップ2023フランス大会」が開催される。  2019年大会(日本開催)の各プールの上位3チーム(合計12チーム)は、2023年大会(フランス開催)にてシード権 ... ]]>

 2023年9月〜10月、フランスにおいて「ラグビーワールドカップ2023フランス大会」が開催される。

 2019年大会(日本開催)の各プールの上位3チーム(合計12チーム)は、2023年大会(フランス開催)にてシード権が与えられ、予選を戦わずとも出場できることになった。日本代表は、2019年大会、予選プールで全勝しているためシード権を獲得してのW杯出場となる。

 ヘッド・コーチ(HC)は、2019年大会と同じくジェイミー・ジョセフ氏。主将は姫野和樹(トヨタヴェルブリッツ)。登録メンバーは33名。ワールドカップ初選出のメンバーは19名となった。

 2015年大会(イングランド)で南アフリカを撃破した奇跡の勝利を知るリーチ・マイケルや稲垣啓太などのベテラン勢に、キャップ数(日本代表戦出場回数)の少ない若手選手が融合して、いかにチーム力を発揮できるか、W杯での活躍に多くの人が期待を寄せている。

 9/10に行われたチリ戦では、先制トライを許しものの、その後6トライを重ね、42対12のスコアで白星スタートとなった。9/18イングランド戦は、前半、五分五分の戦いを見せたものの、格上のイングランドを相手にトライを奪われ、惜敗。9/29サモア戦は、先取点をとった後は、終始リードを続けた。サモア選手のレッドカード退場があり、敵が14人になったものの、後半は6点差まで詰め寄られ、28-22で、何とか逃げ切る形となった。

 予選プールの最終戦(10/8)はアルゼンチンが相手で、格上との勝負になった。前半は1点差(14-15)で終えるものの、後半は、フォワードのパワーで上回るアルゼンチンに優位に試合を運ばれ、日本代表は黒星となった。決勝トーナメント進出とはならなかった。

2023ラグビーW杯 日本代表戦

・9/10 ⚪🇯🇵日本42 V.S チリ12
・9/18 ⚫🇯🇵日本12 V.S イングランド34
・9/29 ⚪🇯🇵日本28 V.S サモア22
・10/8 ⚫🇯🇵日本27 V.S アルゼンチン39

 フランス大会(2023年)で多くの人を感動させた、ジョセフ監督をはじめ、ラグビー日本代表選手(姫野和樹主将、リーチ・マイケル、稲垣啓太、堀江翔太)の記憶に残る名言を紹介していく。

ジェイミー・ジョセフHCの名言:人間として成長して欲しい。

 ジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)は、ニュージランド出身の元ラグビー選手です。ニュージランド代表チーム「オールブラックス」にも選出されています。

ジェイミー・ジョセフHC(ヘッド・コーチ)Jamie Joseph
ジェイミー・ジョセフHC(ヘッド・コーチ)
Jamie Joseph

 1995年南アフリカで第3回W杯が開催されました。この時、「オールブラックス」は準優勝しています。ジョセフ監督は、この時のメンバーでした。

 その後、日本に来て、西日本社会人リーグの「サニックス」(現・宗像サニックスブルース)に所属し、2000年までプレーをしました。1999年には、平尾誠二監督(元日本代表選手)のもと、ウェールズで開催された第4回W杯に日本代表として出場しています。日本代表には9回選出されています。

 ジョセフ監督は、日本代表選手でもあったので、日本と深い縁のある人といえます。

 南アフリカに奇跡の勝利をおさめたエディー・ジョーンズ監督の後任が誰かになるのかと注目が集まる中、2016年にラグビー日本代表監督に就任しまたのがジョセフ監督です。

 日本で開催された第19回ラグビーW杯(2019)では、「ONE TEAM」のスローガンを掲げ、世界の強豪アイルランド、スコットランドにも勝利し、予選プールを全勝で通過し、決勝トーナメントへ進出しました。決勝トーナメントでは、1回戦で南アフリカに負けたもののベスト8進出は初のことです。

 第19回W杯が終わった後、契約を更新し、W杯2大会連続でラグビー男子日本代表ヘッドコーチ(HC)を務めています。

 そのジェミーHCは、2022年に『Number』でのインタビューでこう語っています。

ジェイミー・ジョセフ監督の名言

 自分が代表の一員としてプレーするということは、先祖や家族、そして自分が育った山や川、そうした要素を代表していることになります。自分のルーツ、故郷を知ることは、ひとりではなく、いろいろな人の思いを背負って戦っていることになり、それは人間としての強さにつながります

「決してガードを下げてはいけない」ラグビー日本代表はオールブラックスに付け込む隙はある? ジェイミー・ジョセフが語る“4年ぶりの決戦”」(Number Web 2022/10/28)

 現在の日本代表には多くの外国籍の選手がいます。日本国籍を取得していなくても日本代表になれるのがラグビーです。

まっつん
まっつん

 2019年7月、宮崎合宿の時には、「ダイバーシティ」(人材の多様性)を大切にするため、「グローカル」が合言葉になっていました。「グローカル」とは「グローバル」と「ローカル」を組み合わせた言葉です。

 日本という「国」を理解するために、日本国歌の歌詞に登場する「さざれ石」をチームメンバーで見学しに行きました。代表となる「国」(ローカル)のルーツを確認することで、ジョセフ監督は、チームとして、そして、人間としての「強さ」を選手たちにもたらそうと考えていました。

 その根底には、ジョセフHCの指導哲学があります。ジョセフHCは、こんな言葉を残しています。  

ジェイミー・ジョセフ監督の名言

 ラグビー選手としてだけではなく、人間として成長して欲しい。

『文春オンライン』「ラグビー日本代表「“名将”ジェイミー・ジョセフってどんな人?」 指揮官を知る“3つのキーワード”」
(ラグビージャーナリスト村上 晃一

 人としての成長なくして、技術の成長なし。

 スポーツ界に限らず、武道の世界でもよく言われることです。

 ジョセフHCの指導のもと、2023フランスW杯でも、数多くの日本代表選手たちが人間として成長していくことでしょう。

姫野和樹の名言:本当の自分を知っていれば、ブレない

 2023年フランスW杯での主将(キャプテン)は、姫野和樹選手(29歳)です。姫野選手は、愛知県名古屋市の生まれです。幼い頃、その家庭環境は、経済的にとても厳しいものでした。

姫野和樹選手
姫野和樹

 中学生の時にラグビーを始めました。高校時代は、高校日本代表にあわせ、U20セブンズ日本代表にも選出されています。大学は、ラグビーの強豪帝京大学です。帝京大学は全国大学選手権9連覇をしています。V5からV8に貢献したのが姫野選手です。

 9/8の時点で発表されたチリ戦の登録メンバー23人の内、6人が帝京大学出身の選手でした。姫野選手を含め、中村亮土(32)、流大(30)、坂手淳史(30)、松田力也(29)、堀江翔太(37)です。姫野選手は、ケガのためチリ戦の直前で、登録は抹消されていました。

 余談ですが、姫野選手は帝京大学時代は、主将でありませんでした。帝京大学の卒業後、リーグワン・トヨタヴェルブリッツに入り、主将に就任したのです。2019年W杯(日本開催)では、「ジャッカル」(ラック時に立ったまま敵チームのボールを奪おうとするプレー)を知らしめる活躍をみせ、強いインパクを残しました。

 その姫野選手は、ノートをつけることを習慣にしています。そのノート習慣をまとめたのが、『姫野ノート 「弱さ」と闘う53の言葉』(飛鳥新社)です。

 ノートをつけている理由について、姫野選手は「自分という人間を知るため、より深く理解するためだ」といいます。

『姫野ノート「弱さ」と闘う53の言葉』(飛鳥新社)
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 そして、『姫野ノート』(飛鳥新社)の「はじめに」では、こんな言葉を記しています。 

姫野和樹の名言

本当の自分を知っていれば、「僕はこういう考え方だから、じゃあ次はこうしよう」「ちょっと嫌だけど、こうすべきだよな」と自分の行動の精度を上げることができるし、迷ったり壁にぶつかったりした時でもブレずに進むことができる。

『姫野ノート「弱さ」と闘う53の言葉』(飛鳥新社)

 中国の古典「孫子の兵法」にも、「彼を知り、己を知れば百戦殆からず」とあります。敵のことを知るのはもちろん、自分のこともよく理解すること、その大切さを伝える言葉です。

まっつん
まっつん

 書くことを通して人は、通常の意識では気づくことのできない「思い」「感情」に気づくことができます。立派なことを書こうとするのではなく、思うことをどんどん書いていけばいいのです。これには、ストレスを解消する効果もあります。

 姫野選手も「僕はこのノートに、悩みや苦しみ、泣き言や欲望まで書いてしまう。(中略)すると書きなぐった言葉の中から、「弱い自分」が見えてくる。「本当の自分」が見えてくる」(『姫野ノート』)と記しています。

 思うことをとにかく何でもいいから書く。

 この手法は、書く瞑想とも呼ばれる「ジャーナリング」という名で知られています。

姫野和樹の名言

自分と向き合うこと、自分を知ることの大切さは、アスリートも、学生も、社会人も、男性も、女性も、一切変わらないものだ。

『姫野ノート「弱さ」と闘う53の言葉』(飛鳥新社)

 姫野選手が発揮するリーダーシップの裏には、「ノートに書き自己を深く知る」という手法が存在してたのです。そして、姫野選手は自身のリーダーシップについて、こう表現しています。

姫野和樹の名言

僕が思っているリーダーシップは情熱と愛情。これが自分のリーダーシップだと思うし、それはチームに伝染する。チームに火が付けば、それは大きな炎になる。僕は火付け役として、情熱をグラウンドの中で表現し続けることができたと思う

『「これが自分のリーダーシップ」 ラグビー日本代表の気になるキャプテン人事…姫野和樹をHCが絶賛した理由「姫野はその素質を持っている」』(Number)

 フランスW杯にて、姫野選手の「火付け役」となるリーダーシップを存分に見たいものです。

リーチ・マイケルの名言:絆やチームの愛情がないと

 リーチ・マイケル(Michael  LEITCH)選手は、1988年、ニュージーランド・クライストチャーチで生まれました。2004年、ニュージランドから日本の高校(札幌山の手高等学校)に留学します。

リーチ・マイケル

 卒業後、東海大へ進学して、大学時代に日本代表に選出されています。2011年に現在の東芝ブレイブルーパス東京に入団し、W杯は2011年から2023年までの4大会で、連続出場を果たしています。南アフリカを撃破したイギリスW杯(2015)と初のベスト8進出を果たした日本W杯(2019)では、主将を務めました。

 2023年1月、フランスW杯に向けてのインタビューで、リーチ選手こう語っていました。

リーチ・マイケルの名言

「戦術をいくら磨いても本気の強さは出せない。絆やチームの愛情がないと。言うのは簡単だけど難しい。19年はよくできた。何をやっても勝てる自信があった。日本はクールな人が多くてパッション(情熱)をあまり表に出すのが苦手。引き出す努力をしないと」

リーチ・マイケル、自身4度目の大舞台へ「最強の日本代表を作りたい」…ラグビーW杯9月開幕(スポーツ報知 2023/1/2)

  戦術をどれだけ磨いても、それを実際にするのは人間です。人間はパッション(情熱)によって、想像以上の力を出せるものです。そのためには、選手の自主性を重んじるチームづくりが欠かせません。

 日本代表のキャプテン時代に、リーチ選手は、その自主性に関することで、こんな言葉を残しています。

『Number』 986号(文藝春秋)
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リーチ・マイケルの名言

「理想はコーチのいないチーム。コーチに何も言われなくても自分たちで決められるチームです。試合ではHCの指示をいちいち待っていられない。自分たちで考えて解決しないといけない。」

『Number』 986号(文藝春秋)p22

 2015年イギリスW杯で、「スポーツ史上最大の番狂わせ」と言われた南アフリカ戦の勝利は、エディー・ジョーンズHCの指示とは違い、グラウンド上で、選手たちが自分たちで決めてボールを回した結果、生まれたトライであり、大逆転劇でした。

 エディー・ジョーンズHCからジェイミー・ジョセフHCの体制になってから日本代表の雰囲気は、より選手の自主性を重んじる雰囲気に変化したと、リーチ選手もいっています。

 その成果が、フランス大会でも実を結ぶことでしょう。

稲垣啓太の名言:“自分中心主義”でありながらも“チームファースト”

 「笑わない男」

 日本W杯(2019)の活躍で、この異名とともに、数多くのメディアに登場し、ラグビーファン以外の人々にも知られる存在となりました。

稲垣啓太選手の画像
稲垣啓太

 稲垣選手は、1990年、新潟県生まれです。中学時代までは野球部に所属していましたが、兄の影響で、地元のクラブチーム(新潟市ジュニアラグビースクール)でラグビーを始めました。

 新潟工業高校卒業した後、関東学院大学ラグビー部に入ります。大学4年の時に主将を務めましたが、1部リーグから2部に降格するという挫折を味わいました。

 稲垣選手が、リーダー論を語っている言葉が『Esquire』のインタビュー記事にあります。

 稲垣選手は、若い頃は、とても「自分中心主義」な人間だったそうです。ですが、「ラグビーというチームスポーツに身を置いている以上、“チームファースト”というマインドは常に抱いています」と、チームのことを最優先に考えるマインドセットについてもふれています。

 そこでリーダー論です。

稲垣啓太の名言

 自分の中にしっかりとリーダーとしての自覚を落とし込まなければ、発言に対して説得力のないものになってしまうでしょう。だからこそ、役割をしっかり遂行できる自分でいなければいけない…そういう意味では“自分中心主義”でありながらも“チームファースト”である、その両方を自分の中で融合しているといった感じでしょうか。

ラグビー日本代表 稲垣啓太『主体的なチームプレイヤーでいるために…』(Number Web 2023/9/3)

 リーダーシップ理論でも、矛盾する人格を統合することの大切が、よくいわれます。

 どんな人も、稲垣選手のように、自分の中に矛盾する人格を持っているものです。「自分のため」と「みんなのため」。その2つのバランスをとることで、効果的なリーダーシップが発揮されるのです。

 その稲垣選手が、『Number』のインタビューで語っている「モチベーション論」も参考になります。 

稲垣啓太の名言

 結果的に試合で負けることもありますけど、そしたら自分の準備が足りなかったんだな、と。次の機会に相手を打ちのめすまで、また準備して、鍛えて、蓄えて、を繰り返すだけです。もう、負けたらクソみたいな気分ですけどね。でもそれは落ち込むとかじゃなくて、腹が立つって感じなんです。そこからすぐに、いったい何が足りなかったのか? と冷静に考え始めるんです。

 つまり、いいことがあっても大喜びせず、結果が出なかった時でも落ち込まず、そうやってひたすら成長を繰り返してきたわけですよね。

「パリ五輪出場決定」でも河村勇輝が感情を爆発させないワケは?…バスケW杯で世界が注目“身長172cmの司令塔”の見据える先(Number Web 2023/9/3)

 稲垣選手は、この後に、「モチベーションなんて関係ない、来たるべきその時に向けて今やっている行動だけがすべてなんだ」といっています。

 モチベーションがあるからできる。モチベーションがないからできない。

 そんな風に、自分の行動を「モチベーション」に結びつけていると、「やるべきこと」をやらない自分になっていってしまいます。自信も同じです。

 モチベーションがあることより、自信があることより、やるべきことやることが、何より大事です。

堀江翔太の名言:良い練習をしなければ良い試合もできない。

 フランス大会での日本代表におけるベテラン勢といえばリーチ・マイケルの顔がすぐ浮かびますが、次に浮かぶのが、堀江翔太選手です。トレードマークといえるドレッドヘアは、強い印象を与えます。堀江選手もリーチ選手と同じく、4大会連続でのW杯出場となりました。

堀江翔太

 堀江選手は、1986年大阪府生まれで、 大阪府立島本高等学校のラグビー部で名を知られるようになります。『高校日本代表になるよりもオール大阪になる方が難しい』といわれた当時、堀江選手はオール大阪に選ばれました。

 大学は帝京大学に進学し4年生の時に、主将を務めています。大学卒業後、三洋電機ワイルドナイツ(現:埼玉パナソニックワイルドナイツ)に入団し、2014年は、主将としてチームを率いて、ジャパンラグビートップリーグと日本選手権で優勝をはたしています。

 2022年「ジャパンラグビー リーグワン」JAPAN RUGBY LEAGUE ONE)が始まりました。2022年、初代王者となったのが、堀江選手が所属する埼玉パナソニックワイルドナイツでした。堀江選手は、MVPを受賞しています。

 2023年シーズンに向けてのインタビューで、堀江選手は、こう語っています。

堀江翔太の名言

 一戦一戦、目の前の試合に勝って、勝利を積み重ねていきたいです。その先に連覇が見えてくると思うので。チームに対しては、謙虚と感謝を忘れずにラグビーをすること、天狗にならないことを態度で示したい

堀江翔太「謙虚と感謝を忘れず、天狗にならない」――「ジャパンラグビー リーグワン2022-23」(TVガイドweb 2022/11/20)

 謙虚と感謝を忘れることで、練習がおろそかになり、結果の出なくなることがあります。トップアスリートちが、スランプに陥る要因は様々ですが、謙虚と感謝を失うことは、そのひとつです。

 「謙虚さ」と「感謝の心」があることで、「選手として、今プレーできているのは、自分のひとりの力ではない、本当にありがたい」と思え、練習にもより一層、力が入るものです。

 堀江選手は、「練習」に関する、こんな印象深い言葉も残しています。

堀江翔太の名言

 良い練習をしなければ良い試合もできない。日々成長していきたいです。そして、日本代表もチームとして成長しなければいけない。

「連覇は考えず、日々成長を続けたい」 リーグワン初代MVP・堀江翔太選手インタビュー(J SPORT 2022/12/14)

 フランス大会に向けて、堀江選手を含めて、日本代表の選手たちは、良い練習を積み重ねてきたことでしょう。

 フランスW杯では、決勝トーナメント進出とはなりませんでしたが、チリとサモアには勝利し、負けた試合でも、多くの人を感動させる「良い試合」を見せてくれました。

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バスケットボール男子日本代表(AKATSUKI JAPAN)の名言 https://www.earthship-c.com/nice-word/akatsuki-japan-quotes/ Wed, 06 Sep 2023 23:38:00 +0000 https://www.earthship-c.com/?p=14726

 トム・ホーバス監督(ヘッドコーチ)は、1967年生まれで、アメリカ出身の元NBA選手です。NBAでの出場機会は少なく、そのキャリアのほとんどは日本リーグです。トヨタ自動車ペイサーズ(現:アルバルク東京)時代には、4年連 ... ]]>

2023W杯 バスケットボール男子日本代表(AKATSUKI JAPAN)

 2023年8-9月、日本、フィリピン、インドネシアにて、第19回FIBAバスケットボール・ワールドカップが開催された。男子日本代表はトム・ホーバス監督のもと、国内組、海外組を合わせ12名が選出された。キャプテンは、富樫 勇樹選手。

🇯🇵監督(ヘッドーコーチ)】

トム・ウェイン・ホーバス(Thomas Wayne Hovasse)アメリカ出身

🇯🇵選手12名】

2 富樫 勇樹 (PG / 167cm / 千葉ジェッツ)
5 河村 勇輝 (PG / 172cm / 横浜ビー・コルセアーズ)
6 比江島 慎 (SG / 191cm / 宇都宮ブレックス)
12 渡邊 雄太 (SF / 206cm / フェニックス・サンズ)
18 馬場 雄大 (SG / 195cm / -)
19 西田 優大 (SG / 190cm / シーホース三河)
24 ジョシュ・ホーキンソン (C・PF / 208cm / サンロッカーズ渋谷)
30 富永 啓生 (SG / 188cm / ネブラスカ大学)
31 原 修太 (SF / 187cm / 千葉ジェッツ)
75 井上 宗一郎 (PF / 201cm / 越谷アルファーズ)
91 吉井 裕鷹 (SF / 196cm / アルバルク東京)
99 川真田 紘也 (C / 204cm / 滋賀レイクス)

 3勝2敗でアジア1位となり、パリ五輪の出場権を獲得した。自力での五輪出場は、76年モントリオール大会以来48年ぶりの快挙である。国際大会で欧州勢(フィンランド)に勝利したのは初めて。日本バスケットの歴史を塗りかえる大会となった。

【第19回バスケW杯 日本代表男子 戦績(3勝2敗)】
 ・8/25 ⚫🇯🇵日本63点 V.S 🇩🇪ドイツ81点
 ・8/27 ⚪🇯🇵日本98点 V.S 🇫🇮フィンランド88点
 ・8/29 ⚫🇯🇵日本89点 V.S 🇦🇺オーストラリア109点
 ・8/25 ⚪🇯🇵日本63点 V.S ベネズエラ81点 
 ・8/25 ⚪🇯🇵日本80点 V.S 🇨🇻カーボベルデ71点

 日本に大きな勇気をもたらした男子日本代表の監督、選手たちの記憶に残る言葉を紹介する。

トム・ホーバス監督の名言:全員がMVP

 トム・ホーバス監督(ヘッドコーチ)は、1967年生まれで、アメリカ出身の元NBA選手です。NBAでの出場機会は少なく、そのキャリアのほとんどは日本リーグです。トヨタ自動車ペイサーズ(現:アルバルク東京)時代には、4年連続で得点王になっています。

 2017年からバスケットボール女子日本代表の監督(ヘッドコーチ)に就任しました。東京オリンピック(2020年)では、決勝に進出し、強豪アメリカに敗北したものの銀メダルに輝きます。2021年、バスケットボール男子日本代表の監督(ヘッドコーチ)に就任します。

WhikipediaよりUser:STB-1

 2023年に開催された第19回FIBAバスケットボール・ワールドカップでは、決勝ラウンドへ進めなかったものの、アジア1位となりパリ五輪の切符を手にしました。

 試合中のハーフタイムなどで声を荒げて選手に檄を飛ばす顔や姿を見ると、「鬼軍曹型」の怖いリーダーをイメージさせます。しかし、選手を「信じる」(belive)ことがホーバス監督の「哲学」であり、仏のような温かい心の持ち主でもあります。

 「鬼」と「仏」の両立していることが、トム・ホーバス監督ならではのリーダーシップスタイルといえます。

 女子日本代表を率いて東京オリンピックで銀メダルを獲得した後、2021年に、トム・ホーバス監督は、元ラグビー日本代表監督(ヘッドコーチ)のエディー・ジョーンズと対談をしています。

その対談の中でも、次の通り、「信じる」ことについてふれていました。

トム・ホーバス監督の名言

 オリンピックでうれしかったのは、何人かの選手が「私が自分自身を信じるよりも、トムがより私を信じてくれた」と言ってくれた時でした。

『Number Web』(2021エディージョーンズとの対談
初出:Sports Graphic Number1038号(2021年10月21日発売)
『鬼コーチ対談 エディー・ジョーンズ×トム・ホーバス「日本人よ、“悪魔”を解き放て!」』より

 トム・ホーバス監督の「信じる哲学」については、W杯(2023)に出場した渡邊雄太選手も、記者会見やインタビューで度々、口にしていました。

まっつん
まっつん

 監督のいない場面でも選手たちが、口にするのですから、それだけトム・ホーバス監督の「信じる哲学」が、口先だけに終わらず、選手たちの心に届いているといえます。

 2023年のW杯が終了した後、沖縄で日本代表選手たちが集合しての記者会見が行われました。その席で、トム・ホーバス監督は、次の言葉を国しました。

トム・ホーバス監督の名言

「本当にやりました。長い間一生懸命に練習して、このメンバーと一緒にプレーすることができて感謝します。最高です。全員がMVPです。

『9/3男子バスケ日本代表記者会見』(9/4NHK首都圏ナビ)より

 アジア1位。五輪の切符を48年ぶりに自力で獲得した歴史的快挙があってこそ口にできる言葉です。

 「全員がMVPです。」 

 ホーバス監督の心に、「鬼」だけでなく「仏」が宿っていることを確かに証明する名言です。

富樫勇樹の名言:もっと上を目指す

 2023年W杯での主将(キャプテン)は、富樫勇樹選手でした。Bリーグの千葉ジェッツではキャプテンを務めるものの、本人は「キャプテンの柄ではない」と、マスコミのインタビューで口にしています。

「自分は“すごくリーダーシップがある”ほうではないと思います。一応キャプテンとして何シーズンかやらせてもらっていますけど、いわゆるキャプテンの仕事をしているわけではありません。コートの中で気づいたこと、自分が思ったことを発しているだけです」

『「リーダー向きではない」と自認する富樫勇樹』(Sport Navi 2023/5/18)より

 ホーバス監督は、冨樫選手が「自分はキャプテン向きではない」と自己認識していることを承知で、冨樫選手を日本代表チームのキャプテンに任命しました。

 冨樫選手の父「富樫英樹」さんは、第19回FIBAW杯(2023)で活躍する息子の姿を見て、こう口にしています。

「よく声を出し続けてるなと。あんな子じゃないのにね。親とすればトムさんとかスタッフに感謝ですよね。キャプテンの柄じゃないのに、キャプテンにしてくれたというのは人間として成長できたという感じはしますね」 

『バスケW杯 富樫勇樹選手の活躍に父親や後輩たちは…「我々に分からない代表キャプテンの重圧」』(テレビ新潟 2023/9/4)より

 冨樫選手は新潟県出身です。いわゆるバスケットボール・エリートで、中学時代に全国制覇を成し遂げ、高校はアメリカに留学(モントローズ・クリスチャン高校)しています。NBA選手を輩出しているバスケの名門校です。

 高校を卒業すると、日本に帰国し、秋田ノーザンハピネッツに入団し活躍しました。2014年にNBAに挑戦し、レジェンズに入団します。約1年間、海外プレーした後、2015年9月千葉ジェッツに入団し、今に至ります。

 父親から「あんな子じゃないのにね」と言われ、本人もキャプテン向きではないと自認しつつも、FIBAW杯前のインタビューではリーダーシップをとることを名言している。

「世界と戦うチームを作っていくうえでのリーダーシップはとっていかなければいけないと思っています。プレー面では、ポイントガードとしてドリブルで相手のディフェンス網を切り裂いて、自分でレイアップシュートを打つか、パスを出してシューターを生かすポジションなので、スピード感あふれるプレーを見ていただけたらうれしいですね」

『富樫勇樹が考えるバスケ男子日本代表の課題 自身は「リーダーシップはとっていかなければいけない」』(Sportiva 2023/8/19)より

 「自分はリーダー向きではない」と思っていてもいいのです。そう思いつつも、リーダーとして「やるべきことをやる」のがリーダーというものです。

 地位が人をつくる。

 そんな言葉があります。任されたポジションを必死に取り組んで行く内に、いつの間にか成長しているのが人間というものです。

 冨樫選手は、W杯前に「個人としての思いもありますが、日本の男子バスケの未来のためにも、ワールドカップで勝って、来年のパリオリンピックの出場権を何としても手にしたいと思っています」(Sportiva 2023/8/19)と語っていました。

 そして、ホーバス監督のもと、その言葉を実現することができました。W杯終了後のインタビューで冨樫選手は次の言葉を述べています。

富樫勇樹の名言

「まだまだこれからで、日本のバスケットが目指すところは、ここではないと思います。もっと上を目指していけるように頑張ります」

『BASKET COUNT』(2023.9.3)

 夢を手にした冨樫選手は、さらなる高みに意識を向けています。

渡邊雄太の名言:みんなが成長して戻ってこられたら

 FIBAW杯でふたりの日本人NBA選手の参加が期待されていました。ひとりは八村類選手で、もうひとりは渡邊雄太選手です。八村類選手は日本代表に選出されながら自身のキャリアを考えW杯への参加を辞退しました。バスケットファンにとって、ショックの大きいニュースでした。

 それに並ぶインパクトのあったニュースが、渡邊雄太選手の日本代表引退宣言です。パリ五輪の切符を手にすることができなければ日本代表を引退する、と名言したのです。

 この発言について、渡邊雄太選手は、『 Number Web』で、こう語っていました。

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渡邊雄太の名言

「内々で話しているだけだったらうやむやになって、結局、『じゃ、次もお願いします』みたいになることだってあると思う。公にすることによって、全員の逃げ道をなくしたみたいな感じは、正直あります」

<独占告白>渡邊雄太に聞いた”代表引退宣言”の覚悟「本気ですか?」「本気です」ホーバスHCのメッセージに返信しなかった理由とは(Number Web 2023/8/23)

 退路を断つ。

 人が覚悟を定める時にするひとつの手法です。この宣言は渡邉選手が考える以上に、チーム結束させる力になっていたようです。

渡邊雄太の名言

「NBAでも、自分を崖っ縁に追い込んだ時にうまくことが運び出して、いい結果が生まれてきた。今回も逃げ場を失えば、逆にうまくいくと思った。そんな感じで公で言わせてもらった部分もあった」

【バスケ・渡邊雄太】代表引退を覚悟! 自らを追い込んだ理由(GOETHE 2023/9/14)

 河村勇輝選手は、W杯(2023)フィンラインド戦で18点差をひっくり返して勝利した試合の後、「雄太さん、まだ引退させませんよ」と話しかけたといいます。

 国際大会で欧州勢に初めて勝利したフィンラインド戦では、河村勇輝(PG/横浜ビー・コルセアーズ)、富永啓生(SG/ネブラスカ大)が覚醒し、大活躍を果たしました。

 フィンランド戦で、唯一のNBA選手として期待された渡邉選手は、前の試合(ドイツ戦)の疲れのためか、ディフェンスに力を削がれたためか、シュートは2得点に終わりました。しかし、チームの大黒柱には、メンバーの精神面を支える大切な役割があります。

 3ポイントシュートを得意とする富永啓生(SG/ネブラスカ大)選手は、オーストラリア戦で厳しいマークにあい10本放った3Pシュートの成功率は0%でした。

 この時、渡邉選手は、富永選手にアドバイスをしました。富永選手が、「報道ステーション」(「報道ステーション」2023年9月6日放送分)でのインタビューで答えています。

「オーストラリア戦は、人生でないぐらいスリーポイントが入らない試合でした。それこそ雄太さんがオーストラリア戦の後、カリー選手がスリーポイント10分の0をたたいた試合があって、その次の試合でNBA記録を塗り替えたっていうのがあって。『それがカーボベルデ戦で起こるぞ』って、ずっと言ってくれてて」(富永選手)

『バスケ日本代表・富永啓生 大活躍の裏に“渡邊雄太の言葉” 攻守プレーに進化』(テレ朝News 2023/9/6)

 富永選手にアドバイスしたことが現実になりました。第5戦カーボベルデ戦で、富永選手の3Pシュートの成功率は驚異の75%(6本/8本)となったのです。

まっつん
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 活躍するか否かではなく、その人がコートに立っているだけで、「何とかなる」とメンバーに思わせるのが、大黒柱です。渡邉選手は、現役のNBA選手という実績を背景に、W杯前から、この大黒柱の役割を果たし続けました。

 その役割を果たす原動力となったのが、「日本代表引退宣言」だったかもしれません。FIBAW杯(2023)終了後、渡邉選手は、こう語っていました。 

渡邊雄太の名言

「このメンバーで、ずっとまだまだバスケをやっていたい。でも、パリに行くことができて、まだまだこのメンバーで一緒にバスケができるので。一旦、それぞれのチームでがんばって、またパリでみんなが成長して戻ってこられたらと思います

『渡邊雄太「このメンバーで、ずっとバスケをやっていたい」感動を与えてくれたホーバスジャパンの「旅」はまだ終わらない』(Sportiva 2023/9/3)

退路を断った渡邉選手進む道は閉ざされることなく、パリ・オリンピックへと開かれていきました。

「それぞれのチームでがんばって、またパリでみんなが成長して戻ってこられたらと思います」

 大黒柱の放ったこの言葉もまた、パリ五輪に向けて、選手たちのモチベーションを維持し高めるものとして、メンバーに影響し続けることでしょう。

河村勇輝の名言:気持ちを強く持って戦っていければやれる!

 FIBAW杯(2023)で、パリ五輪出場を決め試合はカーボベルデ戦でした。

 試合終了直前、勝利を確信してゆっくりとドリブルしていたのは、日本代表で最年少22歳の河村勇輝選手(PG/横浜ビー・コルセアーズ)でした。試合終了を告げるブザーが鳴ると、河村選手は真っ先に、渡邊雄太選手のもとに駆けよって、ボールを渡しました。

 ウィニングボールを渡邊選手に渡したことについて、河村選手は、こう語っています。

河村勇輝の名言

雄太さんはトムさんの体制の前から、ずっと日本代表を引っ張ってきた先輩なので。やはり、最後のウイニングボールは雄太さんに渡したかったんですけど、僕は相手コートに入ってしまっていて(ルールがあるため)そこからは後ろには戻れないという(笑)。あのとき雄太さんは(感極まって)下を向いてしまっていたので。ブザーが鳴ってから渡しに行こうと考えていました」

「パリ五輪出場決定」でも河村勇輝が感情を爆発させないワケは?…バスケW杯で世界が注目“身長172cmの司令塔”の見据える先(Number Web 2023/9/3)

 この河村選手の言葉から、一流アスリートによく見られる「利他の精神」をつかみ取ることができます。

 「利他」とは、「自分のため」になることだけをしようとするのではなく、他者のことを思い、「他者のため」になることを率先してしようとすることです。

『成功の要諦』(稲盛和夫 致知出版社)
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 「経営の神様」と呼ばれた京セラ創業者「稲盛和夫」氏は、利他の心を座右の銘としていました。稲盛氏は、著書『成功の要諦』(致知出版社)で、こう書いています。

稲盛和夫
稲盛和夫

「世のため人のために尽くすことによって、自分の運命を変えていくことができます。自分だけよければいい、という利己の心を離れて、他人の幸せを願う利他の心になる。そうすれば自分の人生が豊かになり、幸運に恵まれる」

『成功の要諦』(稲盛和夫 致知出版社) p114

 カーボベルデ戦の最後、河村選手は、選択肢のひとつとして、ウィニングボールを自分のものにすることもできました。しかし、河村選手は、試合が終わる直前に「他者」(渡邊雄太選手)に思いを寄せていたのです。

 河村選手が、試合の始まりでコートに入る時に、深くお辞儀するシーンがメディアで何度かクローズアップされました。アスリートは常に「心技体」のレベルアップを求められます。基本となるのが「心」の部分です。

 河村選手は山口県出身です。バスケの名門「福岡第一高校」に進学し、全国大会で2連覇を果たしています。バスケの名門校ですので、礼儀に対する指導は厳しいものがあったでしょう。

 河村選手の「深いお辞儀」、そして渡邊選手にウィニングボールを渡す行いに、彼の磨かれ抜かれた「心」を感じずにはいられません。

 河村選手が「利他の心」の持ち主があることの証となる言葉があります。それが FIBAW杯(2023)を終えての言葉です。 

河村勇輝の名言

『気持ちを強く持って戦っていければやれる!』

ということを証明できた……かどうかわからないですけど。小さな子供たちが1人でも多く、『僕もバスケットを始めたいな』とか、日本のみなさんが生きる糧にしてくれればいいかなとは思っていたので。まずは勝利という結果で恩返しすることができて良かったなと思います」

「パリ五輪出場決定」でも河村勇輝が感情を爆発させないワケは?…バスケW杯で世界が注目“身長172cmの司令塔”の見据える先(Number Web 2023/9/3)

 河村選手は、自分の勝利を誇るのではなく、「小さな子どもたち」「日本のみなさん」のことを気にかけています。これぞまさに「自分」より「他者」を思う「利他の心」です。

 「心技体」。3のバランスのとれた一流アスリートの証となる河村選手の名言です。 

富永啓生の名言:日本代表を強くできる一つのピースになる。

 FIBAW杯(2023)の日本代表チームで、最も強いインパクトを与えた選手といえば、富永啓生選手ではないでしょうか。彼の放つ3ポイントシュートは、チームの勝敗を左右してきました。

まっつん
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 パリ五輪の自力出場を決めたカーボベルデ戦での富永啓生選手の3ポイント成果効率は驚異の75%(8本中6本:計22得点)でした。75%だけでも驚くべき数字ですが、6本連続で3ポイントシュートを決めているのです。

 米国ネブラスカ大の地元紙「ノース・プラット・テレグラフ」も富永選手の活躍を「ケイセイ・トミナガが1つも外さない完璧なシュートの前半でFIBAワールドカップで輝く」と記事にしました。

 富永選手の父親は、元バスケットボール日本代表の「富永啓之」氏です。バスケットボール界のサラブレッドといえる富永選手は、愛知県名古屋市の出身です。

 桜丘高等学校(愛知県豊橋市)時代には、第71回全国高等学校バスケットボール選手権大会(2018 ウインターカップ)に出場し、河村勇輝選手(福岡第一)と対戦しています。この時は、河村選手率いる福岡第一に敗れています。

 富永選手と河村選手の仲の良さが、よくメディアで報じられています。ふたり2001年生まれで同い年です。

 富永選手は高校卒業後、アメリカのレンジャー・カレッジに進学し、その後、現在のネブラスカ大に編入しています。今後、NBA選手になれるのか、スポーツ界が注目しています。

 ディープスリーと呼ばれる深いポジションから放つシュートが富永選手の得意技です。ところが、第3戦のオーストラリア戦では、本人が「人生でないぐらいスリーポイントが入らない試合でした」というほど、3Pシュートが決まらなかった。10本3Pシュートを打つものの1本も入りませんでした。徹底的にマークされたのです。

 それでもオースラリア戦で富永選手は、8得点しています。

富永啓生の名言

 スリーポイントが入らなかったときに、何ができるのって話になってくると思うので。2ポイントで得点を重ねて盛り上げたり

『バスケ日本代表・富永啓生 大活躍の裏に“渡邊雄太の言葉” 攻守プレーに進化』(テレ朝News 2023/9/6)

 自分の「強み」を消された時に、どうするか。何らかの打開策を持っていることが大切です。

 富永選手は3ポイントを打たせてもらえないならと、逆に、中に切り込んでいって2ポイントシュートで得点を重ねチームに貢献しました。

 練習が大事。そして、試合を重ねていくことでアスリートは進化していくものです。

富永啓生の名言

 個人としても成長して日本に戻ってきたときに、日本代表を強くできる一つのピースになる。

『バスケ日本代表・富永啓生 大活躍の裏に“渡邊雄太の言葉” 攻守プレーに進化』(テレ朝News 2023/9/6)

得点パターンのレーパートリーを増やし進化した富永選手は、バリ五輪で、また、私たちを驚かせてくれるでしょう。

(文:松山 淳


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V・E・フランクルの名言〈10選〉 https://www.earthship-c.com/frankl-psychology/10-quotes/ Wed, 26 Apr 2023 23:55:00 +0000 https://www.earthship-c.com/?p=14223

 ヴィクトール・E・フランクル(Viktor Emil Frankl 1905-1997)は、20世紀最大の悲劇といわれるナチスの強制収容所から生還した心理学者です。世界三大心理学といえば「フロイト」「ユング」 ... ]]>

 ヴィクトール・E・フランクル(Viktor Emil Frankl 1905-1997)は、20世紀最大の悲劇といわれるナチスの強制収容所から生還した心理学者です。世界三大心理学といえば「フロイト」「ユング」「アドラー」であり、この3人に次ぐ「第4の巨頭」がフランクルです。

 「生きる意味」に着目する「ロゴセラピー」(Logotherapy)の創始者であり、ナチスの強制収容所を生き延びた体験からフランクル心理学は「逆境の心理学」とも呼ばれます。「ロゴ」とは「意味」のことです。「ロゴセラピー」は、「意味による治療」(therapy through meaning)、「意味による癒し」(healing through meaning)といえます。

 フランクル心理学は読書療法に適していると言われます。なぜなら、心理学者の本は、とかく専門家向けのものが多いのですが、フランクルが書いた『夜と霧』(みすず書房)『それでも人生にイエスと言う』(春秋社)などは、一般の人が読んでも勇気づけられる本になっているからです。

 そこで、フランクルの書いた本の中から、名言といえる言葉をピックアップし、紹介していきます。

フランクルの名言1:癒しの力は、意味の中にある

 フランクルは、人間には意味を求める根源的な心の働きがあると考えました。その根源的な心の働きを「意味への意志」(will to meaning)と名づけました。人間とは、人生に「生きる意味」を求める存在なのです。

『〈生きる意味〉を求めて』(V・E・フランクル[著]、諸富祥彦[監訳] 春秋社)の表紙画像
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 「この辛く苦しい状況にも意味がある」

 そう感じられるならば、人は、その辛い状況に耐えられると考えました。反対に、「意味がない」と感じてしまうと、心の力がなくなり、生きる力が弱いものになっていってしまうというのです。

 そこで、フランクルは

フランクルの名言

悲劇に直面していても、幸せな人はいる。
苦しみにもかかわらず存在する意味ゆえに。
癒しの力は、意味の中にこそあるのです。

『〈生きる意味〉を求めて』(V・E・フランクル[著]、諸富祥彦[監訳] 春秋社)

 経済的に豊かで、社会的に地位もある、いわゆる「成功者」と呼ばれる人が、「生きる意味」の欠落感から深く苦悩してしまうことがあります。社会的に成功しても、人生が虚しく意味のないものに思えて、死にたくなってしまうのです。

まっつん
まっつん

 全ての人がそうなるわけではありません。ですが、生きる意味のなさ、虚しさに悩む人が存在するのは事実です。時に人は、それほどまでに「生きる意味」を希求するものなのです。

 フランクルは、「生きる意味」に苦悩する人と対話を重ね、救い続けた人です。

 どんな時にも人生には意味がある。どんな苦しい時にも、そこに「生きる意味」は必ずある。

 そう苦悩する人々を勇気づけたのです。 

フランクルの名言2:使命が人を強くする

 名著『夜と霧』(みすず書房)は邦題であり、原題は、「強制収容所におけるある心理学者の体験」です。「夜と霧」とは、ユダヤ人狩りのナチスの作戦名から来ています。夜、霧のようにユダヤ人一家が連れ去れいなくなっていたのです。

 ナチスの強制収容所は人間の尊厳を全て奪われるような場所です。地獄の体験を通して、フランクルは発見しました。いつ死んでおかしくない過酷な状況にありながらも、それによく耐えた人とそうでない人との違いです。

『意味による癒し』 (V・E・フランクル 春秋社)の表紙画像
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 フランクルは、その違いを次のように記しています。

フランクルの名言

「ナチスの強制収容所で証明されたことですが(さらに後に日本と朝鮮でもアメリカの精神科医たちによって確認されたことですが)、満たすべき使命が自分を待っていることを知っている人ほど、その状況に容易に耐えることができたのです」

『意味による癒し』(ヴィクトール・フランクル[著]、山田邦男 [監訳] 春秋社)

 フランクルは、強制収容所に連行される時、ロゴセラピーに関する原稿をコートの裏地に縫い付け隠し持っていました。しかし、収容所に到着した時に、身ぐるみ剥がされ奪われてしまいました。

 フランクルは、地獄の日々で、奪われた原稿を書き直します。いつかこの原稿を出版することが彼の「使命」でした。

 発疹チフスにかかり高熱にうなされ寝込んだ時にも思いついたことをメモしました。使命まつわる仕事をしたことで、死に至る発疹チフスにも打ち克つことができたと、フランクルはいっています。

 使命があるとは、希望があることです。

 フランクルのいう、「どんな時にも人生には意味がある」が真実なら、こう言えます。

「どんな時にも人生には希望がある」

フランクルの名言3:人間が本当に必要としているものは

 フランクルは、原稿の再生に必死に取り組み、発疹チフスという死の山を乗り越えました。この経験から、心の健康のために、ある程度の緊張状態が必要だと説きます。

 ストレスと聞くと、健康を害するネガティブなイメージがありますが、適度なストレスは、人の心に張りを与えます。上司があまりに甘いと、チームに緊張感がなくなり、結果的に士気が下がって、よくない結果となります。

まっつん
まっつん

 スポーツチームの練習でも、選手たちに緊張感がないと思わぬケガにつながります。毎日、毎日、常に緊張していたら疲れてしまいますが、緊張感があることで人は何かを成し遂げられるものです。 

 フランクルは「使命」をもつことの大切さを説きました。使命を持ったからといって幸運に恵まれるわけではありません。高い志を掲げ使命にそって行動しようとすれば、不条理な現実で壁にぶつかり、むしろ悩み苦しむことの方が多いです。それが現実です。

 つまり、使命を果たそうと行動すること、人生を緊張状態に置くことでもあります。そこでフランクルはいいます。

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フランクルの名言

人間が本当に必要としているものは緊張のない状態ではなく、彼にふさわしい目標のために努力し苦闘することなのです。彼が必要としているのは、是が非でも緊張を解除するということではなく、彼によって充足されることを待っている可能的意味の呼びかけなのです」

『意味による癒し』(ヴィクトール・フランクル[著]、山田邦男 [監訳] 春秋社)

 「可能的意味の呼びかけ」とは、運命から問いかけです。

 「この運命は、私に何をせよと求めているのだろう?」

 この問いかけへの答えとは、自分が「今すべきこと」です。

 「今すべきこと」を 緊張感をもって行うことで、心に張りが生まれ、人は強くなれるのです。

フランクルの名言4:最善を尽くしているか?

 ある日、ひとりの青年がフランクルのもとを訪れました。「生きる意味がない」ということについてフランクルと議論になります。青年は言いました。

「あなたはなんとでもいえますよ。あなたは現に、相談所を創設されたし、人々を手助けしたり、立ち直らせたりしている。私はといえば……。私をどういう人間だとお思いですか。私の職業をなんだとお思いですか。一介の洋服屋の店員ですよ。私はどうしたらいいんですか。私は、どうすれば人生を意味あるものにできるんですか」

『それでも人生にイエスと言う』(V・E・フランクル[著]、山田邦男 松田美佳[訳] 春秋社)

 青年の口調について何も書かれてありませんが、言葉から察するにかなり怒っている様子です。

 上にある「相談所」とは、フランクルが24歳の時に創設した「青年相談所」のことでしょう。悩める若者たちを対象に匿名で相談を受けられる場所です。ヨーロッパの6都市に設立されています。

 青年からするとフランクルは、偉大なことを成し遂げた成功者です。だから「生きる意味がある」といえるのであって、ただの洋服屋の店員である人間では、人生を意味あるものにできるはずがない、と憤慨しているのです。

 これに対するフランクルの答えが次の言葉です。

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フランクルの名言

「なにをして暮らしているか、どんな職業についているかは結局どうでもよいことで、むしろ重要なことは、自分の持ち場、自分の活動範囲においてどれほど最善を尽くしているかだけだということです。」

『それでも人生にイエスと言う』(V・E・フランクル[著]、山田邦男 松田美佳[訳] 春秋社)

 どんな立派な会社に勤めていても、仕事を好きになれず、手抜きばかりしているような人であったら、「生きる意味」を実感することは難しいでしょう。

 反対に、世に知られない小さな会社で働いても、仕事が好きで、常にベストを尽くそうと、イキイキと働いているならば、その人の人生には「生きる意味」で満ちているでしょう。

 フランクルは、どんな時にも「最善を尽くすこと」をすすめます。

 なぜならば、最善を尽くすことによって、知らずのうちに「生きる意味」は満たされていくからです。

フランクルの名言5:名もなき人の生き方が偉大

 フランクルは「名もなき人」の生き方、その存在をとても大切にしていました。なぜなら、フランクル心理学は、彼のもとを訪れる「名もなき人」との対話から生み出されたものだからです。

 「名もなき人」の存在なくして、フランクル心理学はないといえます。

 市井でささやかに暮らす名もなき人々の全力を尽くす献身的な働きが、この世界の宝です。名もなき人々の良心に基づく高貴な働きが、この世界を確かに前進させています。

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 フランクルは「名もなき人々」について、『死と愛』(みすず書房)の中に、次の言葉を残しています。

フランクルの名言

「職業と家庭が与える具体的な使命を実際に果たしている一人の単純な人間は、その「ささやかな」生活にもかかわらず、数百万人の人々の運命をペンの一走りで決定できても、その決定において良心なき「偉大な」政治家よりも偉大であり高貴なのである

『死と愛』(V・E・フランクル みすず書房)

 鎌倉期の僧侶最澄の「山家学生式」に、こんな言葉がありました。

 「一隅を照らす、此れ、則ち、国宝なり」。

まっつん
まっつん

 一隅とは、今現在、自分の与えられた場所のことです。あなたの与えられた場とは、どこでしょう。人によって、それは職場であり、学校であり、家庭であるでしょう。

 その与えられた場において、最善を尽くして自身が輝き、その場にいる人たちを明るく照らせば、それが国宝といえるほど価値あることです。国を越え時を越え、真理の存在を感じさせてくれる言葉です。

 どんな会社に勤めているか、どんな仕事をしているかではなく、どんな姿勢で仕事をしているか。

 それが大切です。仕事に臨むその姿勢によって、どんな仕事をしていても人生に意味は満ちてきます。

フランクルの名言6:この世の中もひどくはない

 自殺する決意をした女性がフランクルに電話をかけてきました。深夜、午前三時です。

 フランクルは彼女と話し合いました。自殺をやめるように説得し、翌朝、自分に会いにくる約束をとりつけます。現れた女性は、フランクルにいいます。

 「先生、もし先生が夜おっしゃった議論のひとつでも、私に何らかの効果を与えたと思われるなら、それは誤解というものです。もし、私が感銘をうけたとすれば、それはただひとつ、寝ているところをたたき起こした私に、怒って怒鳴りつけるどころか、しっかり三十分も辛抱強く話しを聞いて、説得してくれたひとがいるということです。そんなことがあるのなら、もしかしたら本当に人生に、生きつづけることに、もう一度チャンスを与えてもいいじゃないかと思ったのです」※3

『フランクル回想録』(V・E・フランクル[著]、山田邦男[訳] 春秋社)

 彼女は、フランクルが話した内容によって、自殺をやめたわかではなかったのです。

 夜中の3時にもかかならず突然の電話に出て、話してを聞いたフランクルの存在そのものに胸を打たれ、自殺の決意をとりさげたのです。

 フランクルに、こんな言葉があります。

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フランクルの名言

命をささげるような人たちがいるうちは、この世の中もひどくはないのです。
この世の中にそういう人たちがいるうちは、生きる意味があるのです。

『それでも人生にイエスと言う』(V・E・フランクル[著]、山田邦男 松田美佳[訳] 春秋社)

 フランクルの存在を通して、自殺を決意した女性は、「愛」を体験したのです。

 自殺を決意するということは、自分の生きるこの世界に絶望したからであり、それは「愛される」ことの少ない「生きがい」のない人生だったのでしょう。

まっつん
まっつん

  しかし、フランクルと言葉を交わした30分は、胸を打たれる「愛される時間」となりました。だから彼女は、自らに生きるチャンスを与えることができたのです。

 フランクルの「愛」とは、「人間愛」と表現できます。

「人間愛」は言葉を超越し、他者の心を癒します。そして、時に命をも救います。

 このエピソードはフランクル自身にとっても大きな意味のある体験であり、彼の立場からすると「人を愛した」体験といえます。「人を愛する」「人から愛される」体験を通して、人生は意味で満たされ「生きがい」を感じられるようになるのです。

フランクルの名言7:言葉よりも大きなもの

 フランクルが囚われたナチスの強制収容所は、死が隣り合わせの絶望的な場所でした。ナチスの衛兵から日常的に暴力をふるわれる、次から次へと人が亡くなっていきます。

 フランクルは、ついさっきまで話していた人が、外で亡くなっているのを発見する、という経験をしています。

 強制収容所は、希望を持つことが極めて困難な場所。ですので、誰もが自己中心的になり道徳感を失っていくのは当然と考えられます。

まっつん
まっつん

 しかし、フランクルが見た光景は違っていました。人に優しい言葉をかけたり、自らパンを分け与えたりする人たちがいました。倫理観を失わない模範になる人たちが存在したのです。しかも、その数は決して少なくなかったのです。

 『夜と霧』(みすず書房)で、フランクルはこう書いています。

『夜と霧』(みすず書房 霜山徳爾 訳)の表紙画像
『夜と霧』(みすず書房)
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フランクルの名言

「たとえば各ブロックの囚人代表の中には優れた人物がいたが、そういう人物は彼のしっかりした勇気づける存在によって、深い広汎な道徳的影響を統率下の囚人に及ぼし得る多くの機会をもっていたのである。

模範的存在であるということの直接の影響は常に言葉よりも大きいのである

『夜と霧』(V・E・フランクル みすず書房)

 言葉を超える影響力は、「その人がその場で、どんな態度をとるか」にかかっています。

 そこで、フランクルは強く主張します。

 どんな状況に置かれても、どのような態度をとるのか、その決断は本人にかかっており、どんな決断をするのか、そこには常に自由があり、その決断の自由は、死の直前まで人間から決して奪うことはできない。

与えられた場で、自分は、今、どんな態度をとっているだろうか?

そう自問自答し、自己を律し続けることは、模範的な生き方へとつながっていきます。 

フランクルの名言8:苦悩は人間の業績

 アメリカの大学生が、フランクルに手紙を書いてきました。手紙にはこう記されていました。

「ぼくは学位をもち、ぜいたくな車を所有し、金銭的にも独立しており、またぼくの力に余るほどのセックスや信望も思いのままです。ぼくにわからないのはただ、すべてのものがどのような意味をもつべきかということだけです」

『生きがい喪失の悩み』(V・E・フランクル[著]、中村友太郎 [訳] 講談社)

 この大学生は、学歴はよく、お金もあり、女性に好かれ、人望まであります。一体、何が不満なのでしょう。

 しかし、彼は苦悩しています。人生に生きる意味がない、と苦しんでいます。

 人は、経済的に「満たされない」から苦悩します。でも、「満たされた」としても苦悩するのです。

 「生きる意味」があるかないかなど、他の動物は考えもしません、には見られない特徴です。この苦悩とは、人間に特有の悩みといえます。

 そこでフランクルは、「ホモ・パティエンス」(Homo Patience)という言葉をつくりました。「ホモ」は「人間」という意味であり、「パティエンス」は、「苦悩に耐える」です。

 

『〈生きる意味〉を求めて』(V・E・フランクル[著]、諸富祥彦[監訳] 春秋社)の表紙画像
『〈生きる意味〉を求めて』(春秋社)
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フランクルの名言

苦悩する人は、苦しむ術を知る人、自分の苦しみからさえも、人間的偉業を創り上げる手立てを知っている人である

『〈生きる意味〉を求めて』(V・E・フランクル[著]、諸富祥彦[監訳] 春秋社)

 人間とは苦悩する存在であり、同時に、苦悩に耐える存在。

 苦悩に意味を見い出し、耐え、その苦悩を通して成長していく存在。

 苦しみ悩むことは、とかくネガティブにとらえられます。しかしそれは、苦悩の一面に過ぎません。人は苦悩を通して、精神的にも肉体的にも成長していくことができます。

 苦悩するからこそ、達することのできる高い境地があり、その高い境地には、苦悩なくしてたどり着くができません。

 私たちは、「ホモ・パティエンス」(Homo Patience)だからこそ、生涯を通して、高みを目指して成長していくことができるのです。  

フランクルの名言9:人生は人間に絶望しない

  ナチスの強制収容所で人は希望を失っていました。希望を失い、絶望をしていく人が、共通して口にする言葉がありました。

 「私はもはや人生から期待すべき何ものも持っていないのだ」

『夜と霧』(V・E・フランクル みすず書房)

 人生に期待することが何もない。地獄のような状況ですから、当然の感覚といえます。

 フランクルは、強制収容所でも、絶望した人を救い続けました。その考え方が、次の言葉に凝縮されています。

『夜と霧』(みすず書房 霜山徳爾 訳)の表紙画像
『夜と霧』(みすず書房)
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フランクルの名言

「ここで必要なのは生命の意味についての問いの観点変更なのである。すなわち人生から何をわれわれはまだ何を期待できるかが問題なのではなくて、むしろ人生が何をわれわれから期待しているかが問題なのである。そのことをわれわれは学ばねばならず、また絶望している人間に教えなければならないのである」

『夜と霧』(V・E・フランクル みすず書房)

ここに人生観のコペルニクス的転回があります。

 人生から期待できることを問うのではなく、人生が期待していることを問うのです。

まっつん
まっつん

 自分を中心にして人生を眺めるのではなく、人生を中心にして自分を眺めるのです。つまり、人生から何を与えてもらうかではなく、人生に何を与えることができるか、です。

 絶望とは、「私の願い」「私の期待」が裏切られている状況です。ですから、私を中心として「願い」「期待」を考えれば考えるほど、それは不可能に感じられて辛くなるばかりです。

 そこで、問いを反転します。「私」を中心に問うのではなく、人生を中心にして問うのです。「人生が私に願っていること」「人生が私に期待していること」を考えます。人生からの願い、期待されていることを考え出し、それを行うのです。

 フランクルは、「人間とはいつでも問われ、期待さている存在」だと考えました。

 「期待されている」とするならば、そこに希望があります。期待されているのだから、「今やるべき」ことが、そこにあります。その「今やるべき」ことを通して、運命を切り開いていくのです。

 人間は人生に絶望しても、人生は人間に絶望しないのです。

フランクルの名言10:人の「最善の形」を信じる

 フランクルは、自身が作り出した心理学「ロゴ・セラピー」を「高層心理学(height psychology)」と表現することがあります。

 フランクルは心理学者の「第4の巨頭」と呼ばれます。それ以前に世界三大心理学者の「フロイト」「ユング」「アドラー」がいます。彼らの心理学は心の深層を対象とするため「深層心理学(depth psychology)」と呼ばれます。この概念に対峙する考え方が「高層心理学」です。

 心の深層を目指すのではなく、人としての「最善の形」を目指すのが「高層心理学」です。フランクルは、次の言葉をのこしています。

 

『〈生きる意味〉を求めて』(V・E・フランクル[著]、諸富祥彦[監訳] 春秋社)の表紙画像
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フランクルの名言

私たちが人間の潜在力を最善の形で引き出そうとするなら、その潜在力の「最善の形」が実際に存在しているということ、そしてそれを現実のものにできるということを、私たちはまず信じなければならない。

『〈生きる意味〉を求めて』(V・E・フランクル[著]、諸富祥彦[監訳] 春秋社)

「深層心理学」に対する「高層心理学」は、人間の高い境地を求めていく側面があるため、「そんなのただの理想論だ」と批判されます。

「人は人生に意味を求めるというが、そんな高尚な人に会ったことないし、自分も生きる意味なんて考え方ことがない」

「世の中を見渡せば、欲まみれの人間ばかりじゃないか。生きる意味があるとかないとか、そんなのどうでもいいじゃん。楽して儲けて、食べて飲んで寝て、人生ハッピーならそれでいいじゃん」

 現実世界を眺めた時、フランクル心理学に感じる違和感は、あって当然です。人間を過大に評価し、過度に理想化しようとしていると、フランクルは批判され続けました。

 人間が「意味への意志」を持ち、高みを志向することへの批判に対しフランクルは、飛行機が行う「斜め飛行」の例えで反論を試みます。

「斜め飛行」とは、風による機体の流れを計算に入れた飛行方法です。

 例えば、大阪から東京に飛ぶ時、強い北風が吹くとします。方角は東になるので、北風が吹くと南東に流されます。それでは目的地の東京には辿り着けません。そこで、飛行機は北東に向けて飛びます。すると東に向かう状態を維持できます。地図で見ると、上から風が吹き飛行機は下方に流されますが、上方に向かおうとすることで正しい航路となるのです。

 フランクルは、人間には常にこの「北風」のような人を下方へ押しやる、つまり、人間を堕落させる力が働いているのだとします。

「自分の中の、より高い欲求や目標を含んだ、高いレベルで自分自身を見る経験がない限り、人間もまた、その人が本来持っていたであろうレベルより低い所に落ち着いてしまうのである」

『〈生きる意味〉を求めて』(V・E・フランクル[著]、諸富祥彦[監訳] 春秋社)

 人は天使にもなれば、悪魔にもなります。

 フランクルは、ナチスの強制収容所で嫌というほど人間の醜い面を見てきました。人間が悪魔になる「最悪の形」を知っています。だからこそ、上方(人としての高い境地)を目指そうとする意志を持って人生航路を進まなければならないと、フランクルは声を大にするのです。

 「最善の形」を目指そうとする生き方に「生きる意味」が宿ります。

まっつん
まっつん

 悪魔のようなひどい人間がいるのは事実です。でも、模範となる天使のような人がいるのも事実です。誰もが「最善の形」を心に眠らせています。

 この世界は良いことばかりではありませんが、決して、悪いことばかりではありません。

 「最善の形」が開花する可能性に目を向ける生き方が、私たちの心を強くしてくれます。

(文:松山 淳


フランクル心理学オンラインセミナー

 世界的ベストセラー『夜と霧』の著者であり、ナチスの強制収容所を生き延びた心理学者フランクル。彼の教えは、今なお人生に苦悩する人を救い続けています。フランクル心理学のエッセンスを「7つの教え」にまとめてお伝えいたします。

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次世代リーダー研修 プログラム/目的/費用:プレイヤーからリーダーへ https://www.earthship-c.com/training/next-leader-training/ Mon, 13 Feb 2023 23:55:00 +0000 https://www.earthship-c.com/?p=3333

 次世代リーダーとしておさえておきたいベーシックな知識(セルフ・アウェアネス、リーダーシップ、チーム・ビルディング、マインドフルネス)をバランスよく習得する基本的な研修です。本研修の目的は、講義とワークを繰り返すプログラ ... ]]>

 次世代リーダーとしておさえておきたいベーシックな知識(セルフ・アウェアネス、リーダーシップ、チーム・ビルディング、マインドフルネス)をバランスよく習得する基本的な研修です。本研修の目的は、講義とワークを繰り返すプログラム構成で、リーダーとしてのマインドセットを身につけることです。

次世代リーダー研修

研修のコンテンツの図「セルフ・アウェアネス」「リーダーシップ」「チームビルディング」「マインドフルネス」

 また、第2の目的は、メンタルが強くなる「心理的柔軟性」(Psychological flexibility「メタ認知能力」を高めることです。自己を客観視する「メタ認知能力」は、レジリエンスを高めメンタルを安定させる効果があります。「心理的柔軟性」「メタ認知能力」を高める具体的なスキルは、マインドフルネス瞑想です。よって、本研修では、マインドフルネス瞑想に取り組みます。

 研修の基本方針として「ポジティブ・アプローチ」の立場をとります。「ダメ」なところに焦点を当てて、改善させようとするのが「ネガティブ・アプローチ」であれば、「ポジティブ・アプローチ」は、人材の「よい」ところをクローズアップし、互いに認め合うことで人材力を高めようとする手法です。

講師 松山淳
講師 松山淳

 このサイトの内容をまとめた次世代リーダー研修資料(PDF)をご用意しております。本ページの最後にダウンロードボタンがあります。研修開催をご検討の皆さま、どうぞ自由にダウンロードされてください。

次世代リーダー研修の資料画像

セルフ・アウェアネス

 セルフ・アウェアネス(自己認識)とは、自分に意識を向けた自己理解のプロセスと結果です。セルフ・アウェアネスは、自己を客観的に見られるメタ認知能力と深い関わりがあり、リーダーには求められる資質です。

 本研修では、性格検査エゴグラム(TEG:東京大学医学部開発)を使用し、自身の性格を明らかにします。その後、「強み」をシートに記入し、グループワークの場で、他者からフィードバックをもらいます。

リーダーシップ

 リーダーシップに関する基本的な理論を講義形式でお伝えします。「PM理論」「SL理論」「サーバント・リーダーシップ」など、リーダーシップ研究の歴史的な流れをおさえて解説していきます。

 グループ・ワークでは、90個の「リーダーとして大切にしたい言葉」の中から、特に大切だと思うものを、まず個人で5つに絞ります。その後、グループ・ディスカッションを行い、3つの言葉を選び出し、グループ発表します。

チームビルディング

 「強いチームはどうつくられるのか」「どんなリーダーがチームに求められるのか」。この観点からチームビルディングに関する研究論文を紹介し、基本的な理論とあわせながら講義します。

 その後、「フラフープ落とし」「ブレスト」「マシュマロタワー」など、チームビルディングにおける基本的なワークを行い、チーム形成を体験的に理解していきます。

マインドフルネス

 昨今、メンタルタフネスを養うためにリーダーの必須スキルとなっている「マインドフルネス瞑想」に取り組みます。マインドフルネスとは、『「今・ここ」この瞬間の自分に気づき、思いやりに満ちている心の状態』を意味します。

 今、世界中のビジネス・リーダーたちが、自己を客観視するメタ認知能力を高めるスキルとして「マインドフルネス瞑想」を、日々、実践しています。


次世代リーダー研修 プログラム内容と費用〈例(10:00-18:00)

 次世代リーダー研修では、講義とグループ・ワークを中心にプログラムを構成します。主要なコンテンツは次の5つになります。

  1. セルフ・アウェアネス:性格検査によって自身の強みを把握
  2. リーダーシップ:PM理論など基本的知識を習得しグループ・ワーク
  3. チームビルディング:チームビルディング理論を学びグループ・ワーク
  4. マインドフルネス:メタ認知能力を高めるマインドフルネス瞑想を行う
  5. フィロソフィー:「リーダーの哲学 3か条」を文章化し、個人発表

 最終的なゴール(目的)は、「リーダーの哲学」(行動指針)を文章化し、プレゼンテーションすることです。皆の前で話し言語化することで、マインドセットの変容を導きます。

対 象:次世代リーダー層(主任、係長など20代〜40代)
受講者数:10名〜30名程度
研修費
 ・講師料:200,000円(税抜)
 ・エゴグラム質問紙代:300円(税抜)×人数分
 ・エゴグラム解説資料:300円(税抜)×人数分
  ※宿泊交通費は別途。

午前(AM)

10:00
イントロ(40分)

 講師自己紹介/研修概要説明/アイスブレイク

 【チーム名を決めよう!】
 アイランド形式で机を配置し、ひとつのグループを「チーム」とみます。御社の「らしさ」「強み」についてグループ・ディスカッションを行い、その内容を反映させてチームに名前をつける。決定した内容は全員の前で、グループ発表する。

10:40
セルフ・アウェアネス(40分)

 まずセルフ・アウェアネス(自己認識能力)に関する講義を行う。セルフ・アウェアネスを高めるには、「内面的自己認識」(internal self-awareness)「外面的自己認識」(external self-awareness)の双方を意識する。その後、性格検査エゴグラム(東大式TEG3)を受検し結果を導き出す。

東大式エゴグラムの画像
11:20
ストレンス・ダイアローグ(40分)

 「内面的自己認識」は、「自分が自分をどのように見ているかの認識」である。「外面的自己認識」は、「他人が自分をどのように見ているかの認識」である。セルフ・アウェアネスを高めるポイントは、他人からフィードバックをもらうことにある。

 そこで、性格検査エゴグラム(東大式TEG3)からわかる自身の「強み」をシートに記入し、その後、グループ内で個人発表をし、メンバーからフィードバックをもらう。

12:00
昼休み(60分)

各自、ランチタイム、休憩

午後(PM)

13:00
リーダーシップ(90分)

「PM理論」「SL理論」「サーバント・リーダーシップ」など、リーダーシップの基本的知識の講義を行なった後に、個人ワークとグループワークを行う。
【ワーク】90のキーワードからリーダーにとって大切だと思う言葉を、まず個人に5つに絞り、その後、グループ・ディスカッションをし3つに絞り込む。チームとして最も大切だと思う3つの言葉を全員の前でグループ発表。

14:30
チームビルディング(90分)

チームビルディングに関する講義の後に、「マシュマロ・チャレンジ」「ブレスト」などのグループ・ワークに取り組む。

16:00
マインドフルネス(60分)

マインドフルネスに関する基本的知識の講義の後に、3つの瞑想に取り組む。

17:00
「リーダーの哲学」発表(50分)

「リーダーの哲学3か条」をシートに記入し、グループ内で発表。受講者が10名程度あれば、全員の前で発表する。

17:50
質疑応答・まとめ(10分)
18:00
研修終了

研修講師《松山 淳》略歴

研修講師/心理カウンセラー/瞑想指導者
早稲田大学LRC(Life Redesign College)講師

研修講師松山淳 自画像
松山淳 (JUN MATSUYAMA)

 1968年東京都生まれ 成城大学文芸学部卒業後、JR東海エージェンシー(広告代理店)に勤務。退社後、アースシップ・コンサルティング設立。
 世界三大心理学のひとりC.Gユングの性格類型論をベースに開発された性格検査MBTI®︎の資格を保有し、大手から中小企業まで官民問わず多様な組織で研修を行う。
 産業能率大学(経営学部・情報マネジメント学部)にて3年間、兼任講師を務める。ナチュラル・メディテーション・ジャパン主宰し瞑想を指導している。研修・講演、個人セッション、執筆などを通して活動中。

◆日本MBTI協会認定MBTIユーザー (Japan APT 正会員)
◆日本メンタルヘルス協会認定「基礎カウンセラー」

(適格請求書発行事業者:T4810105985140)

プロフィール詳細

松山淳著作

『君が生きる意味』(ダイヤモンド社)
『「機動戦士ガンダム」が教えてくれた新世代リーダーシップ』(SBクリエイティブ)
『バカと笑われるリーダーが最後に勝つ トリックスター・リーダーシップ』(ソフトバンク新書)
『真のリーダーに導く7通の手紙』(青春出版社
『「上司」という仕事のつとめ方』(実務教育出版)

松山淳著作の表紙画像

研修実績

アマゾンジャパン / HONDA / パナソニック / 楽天 / 日本通運 / クラレ /レノボ・ジャパン / NECフィールディング / 日本臨床工学会(特別講演)/ 埼玉県庁病院局(看護師向け研修)/ 秋田県病院協会 看護管理研究部会 / 国立熊本大学(体育会本部)/コロプラ/杉並区役所/トリンプ・インターナショナル・ジャパン/カブドットコム証券/サザビー・リーグ/市光工業/ヒロセ/東広島青年会議所(JC)/高崎青年会議所(JC)/経済人コー円卓会議事務局/三鱗印刷/東京商工会議所 / 国立大学(管理職職員向け) / 地方自治体/財団法人海外産業人材育成協会(ベトナム人経営者対象)/三井住建道路 / 大成ロテック /コープ静岡/茨城県信用組合/ヒロセ・タイランド(バンコク) ほか多数


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講師 松山淳
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 お打ち合わせが必要であれば、オンライン(Zoom)でも対応しておりますので、気軽に声をかけてください。どうぞよろしくお願いいたします。

 🔸メール:jmatsu@earthship-c.com
 🔸お電話:03-6456-4341

 アースシップ・コンサルティング 代表 松山 淳

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ドラッカーの言葉に学ぶ仕事の大切なこと https://www.earthship-c.com/nice-word/importance-of-work-in-drucker-words/ Sun, 05 Feb 2023 23:38:00 +0000 https://www.earthship-c.com/?p=13492

 経営学者ピーター・ドラッカーの言葉に「マネジメントとは、人間の心、すなわちよかれ悪しかれ人間の本質に関わるものである」がある。仕事をするのに「人間の心」に配慮するのは大切なことだ。  ドラッカーは経営学者と呼ばれるが、 ... ]]>

 経営学者ピーター・ドラッカーの言葉に「マネジメントとは、人間の心、すなわちよかれ悪しかれ人間の本質に関わるものである」がある。仕事をするのに「人間の心」に配慮するのは大切なことだ。

 ドラッカーは経営学者と呼ばれるが、本人は、「社会生態学者」(social ecologist)と名乗っていた。経営(マネジメント)だけが研究対象ではなかった。そのためか、ドラッカーの論には、人間臭さが漂う。

 ドラッカーの論は、「マネジメント論」でありつつ「仕事論」、そして「人間論」でもある。仕事をする上でだけでなく、人生における大切なことをも学びとれる。

 そのため、ドラッカーの著作には、マネジメントを行う者だけでなく、広く一般の人が読んでもためになる「仕事の教訓」「人生の教訓」が散りばめられている。

 本コラムでは、『プロフェッショナルの条件』『経営者の条件』『未来を支配するもの』など、ドラッカーの代表的な著作にある言葉をもとに「仕事における大切なこと」を考えていく。

ドラッカーの言葉1:完全を求めてい

プロフェッショナル条件』(ダイヤモンド社)
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ドラッカーの言葉

「私は、神々しか見ていなくとも、完全を求めていかなければならないとうことをそのとき以来、肝に銘じている。」

『プロフェッショナルの条件』(ダイヤモンド社)

 ドラッカーは、ハンブルク大学の学生時代、ギリシャの彫刻家「フェイディアス」の物語を読んだそうです。

 フェイディアスはアテネのパンテオンの屋根に建つ彫像を完成させました。彫像の背中にも技を凝らしました。フェイディアスの精神性の高い行いに対して、アテネの会計官は、「誰にも見えない背中まで彫るとは何事か」と、支払いを拒絶しました。

 これに対して「フェイディアス」は、

 「そんなことはない。神々が見ている」

と、応酬したそうです。

 この物語は、ドラッカーを成長させた「7つの体験」の1つです。ドラッカーは数多くの成功者と話をしてきました。その成功者の多くが、フェイディアスと同じ考え方をもち、その考え方を大切にしているといいます。

「お天道様が見ている」

 日本には、そんな言葉がありますね。

 仕事をする時に、「誰も見ないからいいや」ではなく「誰も見ないからこそ工夫をこらす」

 そうした考えたを持つ人に天は味方するのでしょう。

ドラッカーの言葉2:誰もがエグゼクティブ

ドラッカーの言葉

「今日の組織では、自らの知識あるいは地位のゆえに、組織の活動や業績に実質的な貢献をなすべき知識労働者は、すべてエグゼクティブである。」

『プロフェッショナルの条件』(ダイヤモンド社)

 「エグゼクティブ」(Executive)

 この言葉は「エクセキュート」(Execute)から派生したものです。「エクセキュート」(Execute)を辞書で引くと、「実行する」「達成する」「遂行する」などの意味があります。

 「エクセキュート」には、ただ「達成する」「遂行する」ではなく、「とことんやり抜く」というニュアンスがあります。

まっつん
まっつん

 ビジネスで「エグゼクティブ」(Executive)といえば上級管理職のことを指し、部長や社長の組織で高い地位にいる人のことを意味します。ただ、地位や役職ではなく、「とことんやり抜く人」と考えたら、働く者、誰もが「エグゼクティブ」(Executive)といえます。

 ドラッカーがいうように、仕事をする人にとって「すべてエグゼクティブ」と考えることが大切です。

ドラッカーの言葉3:日本は長年アウトサイダー

『Harvard Business Review』(ダイヤモンド社)
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ドラッカーの名言

「日本は長年アウトサイダーでした。私もアウトサイダーだったからわかるのですが、それゆえ、他者を忖度(そんたく)し、理解する能力に優れています」

『Harvard Business Review』(ダイヤモンド社)

 忖度(そんたく)

この言葉は、政治がらみの問題があって、ずいぶんとネガティブなイメージになってしまいました。

「忖度」とは、「他人の心をあれこれとおしはかること」です。

 ドラッカーは日本企業の研究に熱心でした。日本企業の研究は同時に、日本人を洞察することでもありました。日本人には、言語を超えるコミュニケーションの取り方があります。いわゆる「阿吽の呼吸」です。

 夫「あれどこにおいた?」
 妻「あれはあそこよ」
 私「あ~あそこね」

 上の会話を他人が聞いたら、「あれ」「あそこ」が何を指しているのか、さっぱりわかりません。日本人は自然とこんな会話をしているものです。

 「あれ」「それ」で会話が成立している人に、「なんでそれで通じるのですか?」と聞いたら、どう答えるでしょう。おそらく、「理由なんてありませんよ。ただ、わかるんです」なんて答えが返ってくるのではないでしょうか。

 上司「あの件はどうなった?」
 部下「あの件は、連絡済みです」
 上司「じゃあ例の件は?」
 部下「例の件は、処理してあります」
 上司「そうか、ありがとう」

 こういった会話が上司と部下の間に発生する時があり、その実際例を私は目の前で見たことがあります。

まっつん
まっつん

 これは上司が凄いというより、部下が偉いですね。もちろん、私たちは言葉を持っているわけですから、言葉の省エネは、誤解を生むこともあるので、注意しなくてはなりませんね。「あの件」「例の件」が違っていたら、あとあと問題となります。

 なぜ、ドラッカーは、自分のことを「アウトサイダー」というのでしょう。恐らく、ユダヤ人かつ移民だからです。ドラッカーは、オーストリア・ウィーンで生まれたドイツ系ユダヤ人です。1939年にアメリカへ移住し、その後、アメリカに住み続けました。

 米国では白人が本流であり、ユダヤ人は宗教的理由からも「アウトサイダー」として差別を受け続けました。キリスト教とユダヤ教の対立です。

 日本をアウトサイダーと考えるのは、古くは中国が本流で、現在は欧米諸国が本流だからです。世界第2位の経済発展を遂げたものの、アジアの小国として本流になりきれない「アウトサイダー」が日本です。

 「アウトサイダー」は、本流から攻撃にさらされるため、生き残るために本流(他者)を忖度しなければなりません。本流が、何を考えどう動くかを予測して先回りして手を打つのです。それを本流(他者)に聞かずしてできたから、生き残れてきたのです。

 だから、ドラッカーは、アウトサイダーが他者を忖度(そんたく)し、理解する能力に優れています、というのです。

まっつん
まっつん

 政治がらみの問題があったために、「忖度」のネガティブな面が固定観念化していますが、「忖度する力」のポジティブな面にも目を向けたいものです。

 「忖度する力」は、アウトサイダー日本人の「強み」です。

  仕事をする時、社会をよくしようとする時、「強み」としっかり認識して、有効活用していきたいですね。

ドラッカーの言葉4:組織に関する重大な間違い

『未来企業』(ダイヤモンド社)
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ドラッカーの言葉

「組織に関するもう一つの重大な間違いは、自分が達成しようとしていることは明白であり、隣の部屋の人間も当然わかっているはずだと思い込んでしまうことである。」

『未来企業』(ダイヤモンド社)

 「思い込み」

 仕事において、「思い込みは」は恐ろしいものですね。「たぶんそうだろう」と思い込んでしまうと、「確認すること」をしなくなります。

まっつん
まっつん

 人間はそもそも「楽」をしたがる動物ですので、「確認」「伝達」が面倒くさいので、それで「思い込もう」としている節があります。

 隣の部署に確認をとる時など、相手が苦手だったり嫌いだったりすると、「話すのが嫌だから」という理由で、「たぶんそうだろう」と思い込もうとするのが人間の性(サガ)です。

 隣の部屋までちょっと歩いて確認すれば問題とならないのに、少しの手間を省いたために、後々、大きな手間をかけることになるのが「思い込み」です。

 要は、コミュニケーションをとるか、とらないかですね。コミュニケーションによって、「思い込み」も「誤解」も解けていきます。

 仕事をする上で、コミュニケーションの大切さは、あまりにも当たり前になっているので、例えできていなくても、「そんな当たり前のこと今さら言うなよ」と、皮肉る風潮が組織には往々にしてあるものです。

 組織になんとなく漂う皮肉る風潮が、コミュニケーションをとることから人を遠ざけ「思い込み」を生み出します。

 当たり前のことを、繰り返し言っていくことによって、当たり前のことが当たり前のこととして実践されるようになります。

 仕事をする様々な場面において、当たり前のことを、皮肉ることなく、繰り返し言っていきましょう。

ドラッカーの言葉5:人間は聡明であり、洞察力がある。

『経営者の条件』(ダイヤモンド社)
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ドラッカーの言葉

 人間は聡明であり、洞察力がある。人間には応用力がある。すなわち人間は、不十分な情報から、あるいは情報なしでも、全体像がどのようなものでありうるかを推し量ることができる。

『経営者の条件』(ダイヤモンド社)

 かつて組織学者であり同志社大の太田肇教授の講演を聞いたことがあります。講演の内容は、「承認欲求」に関することでしたが、太田教授は、次のようなことをいっていました。

「ITはますます進化し、仕事そのものを人から奪うようなこともあるけれども、そうなればなるほど、人のひらめきのようなものをベースとした創造性が注目されてくる。人にしかできないことをできるようになることが、これからますます大切になってくる」(by 同志社大 太田肇教授)

 ドラッカーがいう「不十分な情報」から「全体像」がわかる「ひらめき」は、太田教授のいう「人にしかできないこと」ではないでしょうか。

 もちろんAIが進化し、人間を凌駕する日が来るのかもしれませんが、それでもなお「人にしかできないこと」は、あります。

 人が人を育てることです。

 育てられる過程で、親との「心のふれあい」が少ないと、大人になってから心身に何らかの問題を抱えるケースがあります。この問題はAIやロボットで解決できるものではありません。「心のふれあい」は人にしかできないことであり、その何らかの問題は、人にしか解決できないことです。

 子育ての全てをAIに任せるような愚かな未来が来ないように、ドラッカーのいう人間の聡明さ洞察力を信じたいものですね。 

ドラッカーの言葉6:顧客と会話をする

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ドラッカーの言葉

「顧客の面と向かって会って、会話をするのです。そうでなければ顧客のことも取引先のことも、自社の商品のことも、社員のことも、わかるはずないでしょう。また、どのような変化が起こっているのか起こりつつあるのかなど、知ることもありません』

『Harvard Business Review』(ダイヤモンド社)

 ドラッカーは、1980年代にトヨタ車を買ったことがあるそうです。

 すると、購入した2週間後にトヨタから「満足してますか」と電話がありました。4週間後にまた電話がありました。

 「当社の○○が一度会ってお話ししたいのですが、ご都合はいかがでしょうか?」と…。ドラッカーがOKを出したところ、尋ねてきたのは、アメリカ・トヨタの社長でした。

 社長が訪問してきた経験から、ドラッカーの奥さんは、それ以降、トヨタ車しか買おうとしなかったそうです。

 これとほぼ同じことを田原総一朗さんが、ある本で書いていました。「いろいろと車を買ってきたけど、電話をくれたのはトヨタだけだ」と。

 実際には、購買後のアフターフォローの電話は、各社しているはずですけれども、たまたま田原さんを担当した他者の人が、そうだけだったのかもしれません。

 人は購入の意志決定を、ホントに些細なことで、しかも、その後、何十年にも渡って、そうするように決めてしまうものですね。

 仕事をする時、いろいろな手段を通して、お客さまと話すことが大切ですね。

ドラッカーの言葉7:人への対し方が摩擦を減らす潤滑油

『明日のを支配するもの』(ダイヤモンド社)
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ドラッカーの言葉

「物体が接して動けば摩擦を生じることは、自然の法則である。二人の人間が接して動いても、摩擦が生じる。そのとき、人への対し方が摩擦を減らす潤滑油の役割を果たす。「お願いします」や「ありがとう」の言葉を口にすること、名前や誕生日を覚えていること、家族について尋ねることなど、簡単なことである。」

『明日を支配するもの』(ダイヤモンド社)

 なぜ、人間関係に摩擦が生じるのでしょう?

 なぜなら、人には「感情」があるからです。

 感情があるから、人は、人を嫌いになったり憎んだりして、そうしたネガティブな感情が人間関係に摩擦を生み出します。ですが、感情があるからこそ、人は摩擦を減らして、人間関係を上手に築いていくことができます。

 その摩擦を減らす方法が、ドラッカーのいう「潤滑油」です。

まっつん
まっつん

 この「潤滑油」が機能すれば、チームの生産性を高める「心理的安全性」が職場に生まれます。「心理的安全性」とは、恐れを感じることなく、言いたいことを言い合える心理状態のことです。

 「潤滑油」を実践に移すのに、難しい経営学の知識は必要ありません。

 日々のちょっとした挨拶や気づかい。
 「ありがとう」の言葉。

 たいそうなマネジメント手法や理論を振りかざすことはありません。

 「マネジメントとは、人間の本質に関わること」

ドラッカーはそういっています。

人として大切なことは何かをシンプルに考えて、実践することが、マネジメントです。

 ベストを尽くすことは、時に苦しさを伴いいます。胃の痛くなることが多いです。けれども、その辛い経験があって、自分の最高のものが引き出されてくるのです。

 ベストを尽くし、あなのベストを引き出しましょう。

ドラッカーの言葉8:マネジメントは、働く者の成長

『未来企業』(ダイヤモンド社)
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ドラッカーの言葉

「マネジメントとは、ニーズと機会の変化に応じて、組織とそこに働く者を成長させるべきものである」

『未来企業』(ダイヤモンド社)

「将(リーダー)の器以上に組織(会社)は成長しない」

 よくそういいますね。リーダーの人間的な器が大きくなれば、それに比例して組織も成長していく、というわけです。

 会社の成長。組織の成長。社員の成長。部下の成長。リーダーであれば、誰もが望むものです。そのために欠くことのできないのが、リーダー自らの成長です。

 リーダー自らの成長なくして、人と組織の成長なし。人と組織の成長なくしてリーダーの成長なし。

 「リーダー」と「人と組織」は、リンクしていスパイラル状に成長していくものです。

 他人の成長に真摯になることでこそ、自らを成長させることができます。

「将の器以上に組織は成長しない」

 慢心を戒めるために、時に、思い出したい言葉です。 

ドラッカーの言葉9:文化ではなく、行動形態の方を変える

『未来企業』(ダイヤモンド社)
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ドラッカーの言葉

「行動形態を変えようとするならば、文化を変えてはならない。文化ではなく、行動形態の方を変えなければならない。』

『未来企業』(ダイヤモンド社)

「組織文化」「企業文化」

 これらの言葉は、「組織風土」「企業風土」とも表現できます。煎じ詰めると「社風」とも…。

 「文化」「風土」「社風」は、目に見えません。目に見えませんが、確かに存在しています。

まっつん
まっつん

 「社風」が形成される時、リーダー(経営者)の影響は大きなものがあります。でも、リーダー(経営者)の力だけでは、独自の「社風」は生まれません。

 社員ひとりひとりの「行動」も、大きな影響を与えています。

「風土を変える」「文化を変える」と、「組織変革」の場で口にされます。ですが、「風土」「文化」そのものを相手にすると、つかみどこがなくて徒労に終わりがちです。言葉遊びで終わってしまいます。

 「社風」「組織文化」「企業風土」は個々の社員の「行動形態」によって生まれるものと考えて、社員の「行動」に焦点を絞っていくことが、組織変革においては大切ですね。

ドラッカーの言葉10:最も簡単な言葉で最も難解な道理を

『チェンジ・リーダーの条件』(ダイヤモンド社)
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ドラッカーの言葉

「マネジメントとは、人間の心、すなわちよかれ悪しかれ人間の本質に関わるものである

『チェンジ・リーダーの条件』(ダイヤモンド社)

 マネジメンとは人間の心に関わるものです。

 人間の心があることで、マネジメントが成立します。なぜなら、マネジメントは目標達成に向けて人に動いてもらうことを必要とするからです。

 人が動くのは、「人間の心」が動くからです。

 人は機械ではありません。命令すれば動くというものではありません。指示すれば指示通りにするわけではありません。

 「だから、人間の心はやっかいだ」

 そう否定的に考えるのも無理はありませんが、「心」があるから、予想以上の力を発揮するポジティブな側面があります。

まっつん
まっつん

 スポーツチームの試合で、弱者が強者に勝利するジャイアントキリング(番狂わせ)が起きるのは、「心の力」が結集して個々の選手の能力を超える力が生み出されるためです。

 人間の本質は、やっかいであると同時に、可能性に満ちあふれています。

 だから、マネジメントは、人間の心、人間の本質に関わるものなのです。

(文:松山 淳

P.F.ドラッカー 略歴

 1909年(明治42年)オーストリア生まれ。経営学者。「マネジメント」の発明者といわれる。1931年フランクフルト大学で博士号を取得後、1933年、イギリスへ移住し投資銀行に勤務する。1939年アメリカへ移住。処女作『経済人の終わり』を発表。1942年米国ベニントン大学の教授に就任。1950年、ニューヨーク大学(現在のスターン経営大学院)の教授となる。1971年クレアモント大学院大学教授に就任し、2003年まで務める。2005年、死去。享年95歳。 

【主な著書】『マネジメント――課題・責任・実践』(ダイヤモンド社、1974年)、『イノベーションと企業家精神――実践と原理』(ダイヤモンド社、1985年)『未来企業―生き残る組織の条件』(ダイヤモンド社、1992年)、『プロフェッショナルの条件――いかに成果をあげ、成長するか』(ダイヤモンド社、2000年)、『チェンジ・リーダーの条件――みずから変化をつくりだせ!』(ダイヤモンド社、2000年)、『マネジメント[エッセンシャル版] – 基本と原則』(ダイヤモンド社、2001年)


ドラッカーとマネジメントと真摯さ ドラッカーとマネジメントと真摯さ ]]>
ドラッカーの名言〈10選〉 https://www.earthship-c.com/nice-word/peter-drucker-quotes/ Thu, 26 Jan 2023 23:35:00 +0000 https://www.earthship-c.com/?p=13414

 「マネジメント」の発明者といわれるピーター・ドラッカー(Peter Drucker)。経営学者であり、亡くなった今も、数々の著作を通して日本のビジネスマンに大きな影響を与えている。  ドラッカーの著作は、ビジネスに役立 ... ]]>

 「マネジメント」の発明者といわれるピーター・ドラッカー(Peter Drucker)。経営学者であり、亡くなった今も、数々の著作を通して日本のビジネスマンに大きな影響を与えている。

 ドラッカーの著作は、ビジネスに役立つことはもちろんだが、「人生論」としても読むことができる。なぜなら、ドラッカーは、企業組織だけでなく人間の生きる社会全体を視野に入れて考察しているからだ。その証拠に、ドラッカー自身は、肩書きを「社会生態学者」(social ecologist)としていた。「これから社会はどうなるのか」といった未来を予見する論も多く「未来学者」(フューチャリスト)と呼ばれることもあった。

 『経営者の条件』『チェンジ・リーダーの条件』『プロフェッショナルの条件』など、数多くの著作からドラッカーの名言をピックアップし、その教えから、よりよい「人生の歩き方」を学びとりたい。

ドラッカーの名言1:必ず失敗するものは、確実なもの

『チェンジ・リーダーの条件』(ダイヤモンド社)
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ドラッカーの名言

「未来に関わる構想のうち、必ず失敗するものは、確実なもの、リスクのないもの、失敗しようがないものである。」

『チェンジ・リーダーの条件』(ダイヤモンド社)

 「迷った時は難しい道を選べ」

 よく耳にする人生の格言です。でも、難しい道はリスクが高いわけで、「失敗の確率が高い」といえます。

 では、なぜ「難しい道を選べ」というのでしょうか。

 なぜなら、成功への道とは、「逆境」が通過点になっているからです。

 誰も好き好んで「逆境」になんて陥りたくありませんね。

まっつん
まっつん

 でも、「逆境」という辛く苦しい時に、人は必死になれます。限界を越える努力をし、普段の自分では考えられないアイディアを生み出し、よりクリエイティブ(創造的)な自分になれるのです。

 上の言葉の前に、ドラッカーはこう記しています。

「未来に何かを起こすには、勇気を必要とする。努力を必要とする。信念を必要とする。その場しのぎの仕事に身を任せていたのでは、未来はつくれない。むしろ、そうであってはならない」

『チェンジ・リーダーの条件』(ダイヤモンド社)

 未来をつくるために「勇気」「努力」「信念」が欠かせません。

 この3つは、「難しい道」を選んだ時に、さらに磨かれ、人を成功へと導いてくれるのです。

ドラッカーの名言2:変化は健全なこと

『イノベーションと企業家精神 』(ダイヤモンド社) 表紙画像
『イノベーションと企業家精神 』(ダイヤモンド社)
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ドラッカーの名言

「あらゆる仕事が原理に基づいている。企業家精神もまた原理に基づく。企業家精神の原理とは変化を当然のこと、健全なこととすることである。」

『イノベーションと企業家精神 』(ダイヤモンド社)

「変化は健全なこと」

 水は流れいるからこそ、清らかです。変化しているから清らかです。変化がなくなると、濁ってきます。それが世の常です。力のある権力者が長い間、居座り独裁政権を続けると、何かと問題が起きてきます。それは歴史が証明しています。

 でも、人は変化を嫌います。変化には心理的抵抗がともないます。なぜなのでしょう。

 なぜなら、変化は、面倒が多いからです。

 変化の少ない日々のほうが、人間にとって楽です。今日と同じ明日がやってきて、その明日がまた同じ明後日となる。同じことの繰り返しは、精神的負担が少なく、楽に生きることができます。

 でも、「変化のない日々」は、楽ですけど退屈です。退屈だから人は変化を求めます。いろいろなことを変えて、人生をよりよく変えていきます。

 それに、「自分は変わらなくていい」と思っても、世界はものすごい勢いで変化しています。気づいたら、時代遅れになり、生きにくさを感じるようになってしまいますね。

 かといって、何でも変えればいいというものでもありません。

「変えるべきもの」と「変えなくていいもの」

このふたつのを整理して、バランスをとっていくことが大切です。

「変えるべき」と決断したら、ドラッカーがいうように「変化を当然のこと、健全なこと」と考え、どんどん取り組んでいきます。

まっつん
まっつん

 日本は老舗大国です。100年、200年と続く「老舗」は、「変えるべきもの」「変えなくていいもの」を上手に整理して、変化は健全と考え生き残ってきたのです。

 「変化を当然のこと、健全なこと」とする意識を大切にしたいですね。

ドラッカーの名言3:明日を知ることはできない。

『経営者の条件』(ダイヤモンド社)
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ドラッカーの名言

「人間は、いかなる肩書や地位をもとうとも、明日を知ることはできない。したがって、昨日いかに勇気があり、賢明であったとしても、その決定や行動は、今日になれば、問題あるいは危機、愚かさとなる」

『経営者の条件』(ダイヤモンド社)

「心にある慣性の法則」

 同じことを続けようとする「慣性の法則」が、人にも働いています。心の慣性の法則に従うことは、メリットもあればデメリットもあります。

 メリットは、「生きる力」を消費できることです。自転車が坂道をくだっていく時のように、力を入れずとも毎日が過ぎていきます。とても楽です。

 デメリットは、変化がなく成長もないことです。成長するためには、変化が必要です。漫然と過ごしている安全地帯から飛び出すのです。漠過ぎていく毎日に、変化を取り入れることで、人は成長していきます。

 「心の慣性法則」がもたらすデメリットを最小限に抑えるには、危機感をもつことです。

 今日の賢明さは、明日には愚かさとなる。

 そう危機感をもつことで、人は世界や時代の変化に適応していきます。

まっつん
まっつん

 どんなに優れた人でも、明日を知ることはできません。ですが、明日を知ろうとする意識をもつことはできますね。

 明日を知ろうとする前のめりの生きる姿勢が、人生を切り開いていきます。

ドラッカーの名言4:効果的なリーダーシップの基礎とは

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ドラッカーの名言

「効果的なリーダーシップの基礎とは、組織の使命を考え抜き、それを目に見える形で明確に定義し、確立することである。リーダーとは、目標を定め、優先順位を決め、基準を定め、それを維持する者である。」

『プロフェッショナルの条件』(ダイヤモンド社)

「私たちの組織は、社会にどんな価値を生み出すために存在しているのか?」

 この問いを掘り下げ答えを出すと、「組織の使命」が浮き彫りになります。この問いを「今さらながら」と思いながら、時々、メンバーで集まって話し合うのは、とても大切なことです。

 なぜなら、「平凡な問い」は、時に、「非凡な答え」を導き出すからです。

 または、「そんなの当たり前だ」と思っていた「組織の使命」を、実は、全然、理解できていないことも、よくあるからです。

 「御社の企業理念は何ですか?」

 そう問われて、スラスラと答えられる社員は、実のところ、意外に少ないものです。普段は、目の前にある「すべき仕事」に心は支配されています。ですので、売上げや利益に結びつかない「組織の使命」について語り合うことは、「時間の無駄」と考えられがちです。

「理念や使命を考えている暇があるなら、顧客のアポイントをひとつでも多くとりたい」

 そう考えるのは、成果を出さなければならないビジネスマンにとって、至極当然の思考パターンです。

 それでもなお、ドラッカーが「使命の明確化」をいうのは、「使命」への意識が、仕事へのいい意味ので緊張感を生むからです。

まっつん
まっつん

 それに、現在、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)など「企業の社会的責任」に関する考え方が広く知られた時代になっています。「御社の使命や理念は何ですか?」と問う取引先やお客様が増えています。

 その答えによって、契約や取引が中止されたり、さらに増えたりすることがあるわけですね。つまり、売上げや利益に「使命や理念」が、ダイレクトに結びつく時代になっているのです。

 効果的なリーダーシップの基礎とは、組織の使命を考え抜き、それを目に見える形で明確に定義し、確立することである。(by P.F.ドラッカー)

 明治生まれの経営学者ドラッカーのいった言葉が、令和になってなお輝きを増しています。

ドラッカーの名言5:共に働く人たちの強み

『明日のを支配するもの』(ダイヤモンド社)
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ドラッカーの名言

「共に働く人たちのところに行って、自らの強み、仕事の仕方、価値観、目標を話してみるならば、返ってくる答えは、必ず、聞いてよかった、どうしてもっと早く言ってくれなかった、である」

『明日を支配するもの』(ダイヤモンド社)

 同じ職場で机をならべていながら、私たちは、驚くほど仲間のことを知らないことがあります。テレワークが浸透すると、それがさらに進行していく可能性が高いですね。

「いやいや、そんなことはないですよ。いつも色々なことを話している」

 そういう人であっても、では、「自分のことをどこまで話しているか」と、自分をふりかえってみれば、案外、肝心なことは話していないことがあります。

まっつん
まっつん

 外向文化の米国で仕事をしたドラッカーでさえ、「共に働く人たちのところに行って、自らの強み、仕事の仕方、価値観、目標を話してみるならば」と書くのです。どんな国であっても「自己開示」は、仕事を円滑にすすめるうえでキーになっているのです。

 上の言葉の後に、こう続きます。

「しかも、それでは、あなたの強みは、仕事の仕方、価値観、目標について知っておくべきことはないかと聞くならば、ここでも、どうしてもっと早く聞いてくれなかったかである」

『明日を支配するもの』(ダイヤモンド社)

 ややジョークめいてますが、それだけコミュニケーションをとって、互いを知ることが大切だということですね。

ドラッカーの名言6:優秀なリーダーに共通する唯一無二の特徴

『経営革命大全』(日本経済新聞社)
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ドラッカーの名言

「私が出会った優秀なリーダーに共通する唯一無二の特徴は、彼らがある一つのものを持っていないということだった。彼らは『カリスマ性』をほとんど、あるいは、まったく持っていなかった」

『経営革命大全』(日本経済新聞社)

 リーダーにはカリスマ性が必要だ。

 そうよく聞きます。

 カリスマとは「神からの贈り物」を意味します。

 つまり、カリスマ性とは、生まれ持ったものです。つまり、ここでドラッカーがいっているのは、「人を魅了する天賦の才」を「カリスマ性」といっているのです。

まっつん
まっつん

 1980年代、アメリカが不況で苦しんだ時に、組織を大胆に変革する「カリマ型リーダーシップ」が尊重されました。この時代に「リーダーにはカリスマ性が必要」という固定的なイメージが生まれ、なんとなく私たちは、今もそれを共有しているのです。

 ただ、リーダーの仕事とは、多くの人から衆目を集めるカリスマ的な存在になることではありませんね。

 カリスマ性は、ひとつの手段であり、目的ではありません。

リーダーに求められるのは、目標の達成であり、仕事の成果です。

 カリスマ性がなくても、仕事の成果をあげることはできます。カリスマ性を身につける努力するより、仕事の成果に意識に向けるべきです。

 ですので、ドラッカーはわざわざいうのです。

「優秀なリーダーに共通する唯一無二の特徴はカリスマ性をもっていないことだ」と…。

ドラッカーの名言7:自らを成果をあげる存在にできるのは

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ドラッカーの名言

「自らを成果をあげる存在にできるのは、自らだけである。他の人ではない。したがって、まず果たすべき責任は、自らの最高のものを引き出すことである。」

『プロフェッショナルの条件』(ダイヤモンド社)

 ドラッカーは、次のことを強調します。

 自分の「強み」を大切にして下さい。そして、その「強み」を磨いて下さい。

でも、組織で働いていると、自分の「強み」が、一体何なのか、わからなくなることがあります。

そんな時、どうすればいいのでしょう?

答えは、シンプルで、他人に聞くことです。

 あなたと違った視点で、常に他人は、あなたのことを見ています。あなたが気づけないことに、他人は気づいています。

「私にはこれといった強みがない」

そう自分で決めつけていても、他人は違う見方をしていて、「あなたの強み」を知っているものです

「そうは言われても強みなんてないです」

そう思っても別に構いません。

なぜなら、大切なことは「自分の最高のものを引き出そうとすること」だからです。

まっつん
まっつん

 最高のものを引き出すためには、目の前にある仕事にベストを尽くすことです。そうすれば、自分の最高のものを引き出すことができます。ベストを尽くさずして、自分のベストは引き出されません。

 ベストを尽くすことは、時に苦しさを伴います。胃の痛くなることが多いです。けれども、その辛い経験があって、自分の最高のものが引き出されてくるのです。

 ベストを尽くし、あなのベストを引き出しましょう。

ドラッカーの名言8:仕事を心躍るものにするのは自分

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ドラッカーの名言

「自らの得るべきところを知るのは自分である。
 組織への貢献において、自らに高い要求を課するのも自分である。
 飽きることを自らに許さないよう、予防策を講ずるのも自分である。
 仕事を心躍るものにするのも自分である。」

『プロフェッショナルの条件』(ダイヤモンド社)

 最後の最後は、「自分」ということですね。

 人は、うまくいかないと、とかく他人のせいにしがちです。

 「あの人がいなければ、もっと自分はできるのに」
 「この会社が変われば、自分も変われるのに」
 「こんな時代じゃなければ、もっと幸せだったのに」

 自分は、常に「他」(他人、会社、社会、時代など)から影響を受けていますので、「できるか、できないか」「うまくいくか、いかないか」は、自分だけの責任ではありません。

 ただ、「いつでも他が悪くて、自分には責任がない」という生きる姿勢は、それが癖になってしまうと、人生を停滞させてしまいます。

 なぜなら、他が悪くて自分に責任がなければ、努力しなくていいことになるからです。

 努力なくして、人生に前進はありません。

まっつん
まっつん

 上のドラッカーの言葉に「自らの得るべきところ」とあります。わかるようでわかりにくい言葉です。「得る」には、「得意とする」という意味があります。ですので、「自らの得るべきところ」とは、「自らの得意とする強みを発揮すべき場所」ということと読み取れます。

あなたの強みは何ですか?
その強みを発揮する所はどこですか?
どんな仕事ですか?

 仕事を心躍るものにするのも自分です。

 最後の最後は自分なのだと覚悟を決めて、強みを見定め努力を重ねていくことが、人生に実りをもたらします。 

ドラッカーの名言9:いかに生き、いかに考えるか

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ドラッカーの名言

「技術とは、自然のものではなく、人のものである。道具についてのものではなく、人がいかに働くかについてのものである。人がいかに生き、いかに考えるかにかかわるものである。」

『経営者の条件』(ダイヤモンド社)

「仕事とは自分の作品である」

 そう考えさせられる出来事がありました。

まっつん
まっつん

 私がサラリーマン時代、あるイベントで、扇子を作る伝統工芸の職人さんを招いたことがあります。無口な方で、会場に設置された小さな場所で、来場する方々の視線を気にすることなく、ひたすら扇子を作り続けていました。

 その職人さんは、ただ単に扇子を作っているのではなく、扇子を作る技術を通して、自分の人生を表現していると思えたのです。

その職人さんが「いかに生き、いかに考えたか」は、扇子を作る瞬間、瞬間に表現されていました。

 もちろん職人さんは、そんなことは一言も口にはしませんが、人生で積み重ねてきた何かが、私にそう思わせたのでしょう。

 仕事は自分の作品である。どんな姿勢で仕事をするのか。

 決して手抜きをしない職人気質(かたぎ)を、忘れたくないですね。

ドラッカーの名言10:最も簡単な言葉で最も難解な道理を

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ドラッカーの名言

「人間には、驚くほど多様な能力がある。人間はよろず屋である。しかし、その人間の多様性を生産的に使うためには、それらの多様な能力を、一つの仕事に集中することが必要である。」

『経営者の条件』(ダイヤモンド社)

 以前、『NHKプロフェショナル』(2007年5/25放送)に、本の装丁家としてひっぱりだこの鈴木成一氏が登場していました。

 この時、とてもおもしろいと思ったのは、「無意識でデザインを見る」という行為です。

まっつん
まっつん

 鈴木氏は、なかなか答えが見出せない時、その装丁のデザイン案を机の脇において、他の仕事に「没頭」するというのです。デザイン案は脇にあるので、直接は見ていません。でも、直接は見ずとも、視界に何度も何度も入ってくるわけです。

つまり、「無意識で見ている」という表現ができます。

 しばらく脇に置いて、無意識で見て、「ふっと意識的に見た時に何を感じるのかをとても大切にしている」と鈴木氏は言っていました。そしてその感じたことをデザインに活かしていくのです。

 人間は意識的には、一度にひとつのことしか考えられません。

 でも、人の心には無意識の領域があり、無意識は常に働き続けていますので、鈴木氏のいうことは理にかなっています。

 ここで大切なことは、ひとつの仕事に没頭する、という点ですね。

 何かに極度に集中するからこそ、人の心は健全に働き、無意識を信頼することができます。

 人間には、驚くほど多様な能力がある。

 まさにドラッカーの言う通りです。 

(文:松山 淳

P.F.ドラッカー 略歴

 1909年(明治42年)オーストリア生まれ。経営学者。「マネジメント」の発明者といわれる。1931年フランクフルト大学で博士号を取得後、1933年、イギリスへ移住し投資銀行に勤務する。1939年アメリカへ移住。処女作『経済人の終わり』を発表。1942年米国ベニントン大学の教授に就任。1950年、ニューヨーク大学(現在のスターン経営大学院)の教授となる。1971年クレアモント大学院大学教授に就任し、2003年まで務める。2005年、死去。享年95歳。 

【主な著書】『マネジメント――課題・責任・実践』(ダイヤモンド社、1974年)、『イノベーションと企業家精神――実践と原理』(ダイヤモンド社、1985年)『未来企業―生き残る組織の条件』(ダイヤモンド社、1992年)、『プロフェッショナルの条件――いかに成果をあげ、成長するか』(ダイヤモンド社、2000年)、『チェンジ・リーダーの条件――みずから変化をつくりだせ!』(ダイヤモンド社、2000年)、『マネジメント[エッセンシャル版] – 基本と原則』(ダイヤモンド社、2001年)


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